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蒼穹のカンヘル

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十六枚目

「母さん!母さん!」

リゼヴィムの凶弾、それは母さんを貫いた。

胸に大穴を開け、動かない母さん。

「リバース!リバース!何でだ!何で発動しない!」

俺は必死にリバースを発動しようとするが全く発動しない。

『篝、リバースは生者にしか作用しない』

セルピヌスのその言葉は俺に母さんの死を突き付ける。

「ざけんな!テメェは『カンヘル』だろうが!
『創造の龍』だろ!人一人の命くらい救って見せろよ!」

『不可能だ。否、魂が肉体に有るからまだ不可能ではない』

「だったらやれよ!」

『今の篝では不可能だ。命を与えるのは、神の所業だ』

「だったら!俺の体をくれてやる!
俺が龍になればできる筈だろう!?」

イッセー…未だこの世界では神器を発動していない少年。

彼は思い人を救うためにその体を差し出した。

「それなら!できるだろ!さぁ!やれ!」

『確かにそれならば創造の権能を…反魂法をお前に与える事も可能だ。
だが、よいのか?それはお前の人としての時を止める…人として死ぬ事になるぞ』

人としての時?死?知ったことか!

「構わん!やれ!」

『いいだろう、篝、お前の体の半分を…人間としての体が対価だ…』

その言葉と共に体が変容していった。

まず内側から変わっていった。

腹の中がぐちゃぐちゃになりそうな痛みだった。

そして額に三本角が、腰から尾が生えてきた。

「はぁ…はぁ…ぐっ!」

背中から三対六枚の羽が生えた。

二対の堕天使の羽と一対の巨大な龍の羽。

四肢が鎧を纏ったかのように鱗に覆われる。

最後に、過剰なエネルギーが耀くエンジェルハイロゥと化した。

白銀の尾と角と翼と鱗…その異形が…俺だ。

「これで…いけるんだよな?セルピヌス?」

『ああ、いけるとも……』

「母さん、いま、助けるよ」

母さんの体にカンヘルを押し付ける。

「【リライブ】」

カンヘルの宝玉から緑色の閃光が放たれた。

そして宝玉から光の珠が現れ、母さんに吸い込まれていった。

母さんの胸の穴が塞がった。

「かがり…?」

「母さん!」

俺は母さんに抱き付いた。

「よかった…母さんが…死ななくて…このために、俺は…」

今まで…生きてきたんだ…!

「篝!後ろ!」

ヴァーリの叫び声、それと同時に魔力弾が飛んできた。

「ウォール…」

俺の背部に時空の歪みが発生した。

リゼヴィムの魔力弾は歪みに呑まれ消滅した。

「母さん、姉さん、ヴァーリ…奴を…リゼヴィムを…ぶっ飛ばして来るよ」

「篝…大丈夫なのですか?」

「解らないけど…心配しないで、姉さん」

俺は姉さんにそう言い残し。

今一度リゼヴィムと相対する。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!感動のシーンですねぇー!僕ちゃん感動して涙が出そうだよーん!」

「おい…リゼヴィム」

「なにかなー?僕ぅ?」

六枚の翼を筒にし魔力を包む。

「アクセル…失せろ」

圧縮、強化した力を解放する。

弾けた力に圧され…

「ぐぼぁ!」

リゼヴィムの土手っ腹に拳を叩き込む。

「あ…がぁ…!お…ま…え…なぜ…神器を…」

「リゼヴィム!お前は神器無効化を信頼しすぎだ…なっ!」

今度はもう一方の手で抜き手を放った。

肉が裂ける感触…

鎧のような腕がリゼヴィムの胸を貫いた。

グチュリ…と奴の心臓を握り潰す。

「あ…ぐ…あ"あ"あ"!」

次の瞬時、リゼヴィムから莫大な魔力が放出された。

「ぐぅ!」

それに弾き飛ばされたが、なんとか空中で体勢を立て直した。

ごくり…

何かを飲み込む音がした…

「やっぱり…フェニックスの涙は効くな…」

「チッ…何本持ってやがんだ…」

リゼヴィムの胸の傷がどんどん塞がっていく。

「こっちは肉体を差し出したってのに…」

『あの小瓶の中身が何であろうと、喪われた命は戻せんぞ』

わかってるっつーの…

「やってくれたなこのガキィィィィィ!」

リゼヴィムは滅茶苦茶に魔力弾をばらまき始めた。

マズイ!

母さん達とリゼヴィムの直線上に入り、ウォールを展開する。

リゼヴィムの攻撃は数十秒に達した…何て魔力量だ…これが最上級悪魔…

「はぁはぁ…死ね!」

リゼヴィムはどこかから取り出したロングソードを構え突っ込んで来た。

「アポート!」

右手に、カンヘルが召喚される。

ガキィィィィン!!

激しい音と共にロングソードとカンヘルが激突した。

「お前…体を龍に差し出しやがったな…!」

「ああ…お前をぶっ飛ばためになぁ!」

鍔迫り合いの中、俺は雷光を呼び出した。

ピッシャァァァン!

「チッ…!」

リゼヴィムは舌打ちをして後退した。

「喰らえ!リゼヴィム!」

俺は先と同じ…聖水の氷の粒を作り出しリゼヴィムに放った。

リゼヴィムは避けるがそれを追うように聖氷弾をばらまき続ける。

「あぁ…もう…うざってぇんだよ!」

リゼヴィムが巨大な魔方陣を展開した。

クー・リ・アンセよりも巨大な陣だ。

辺りから、魔力が陣に集まっていった。

陣はだんだんとその輝きを増していき…

「消し飛んじゃいな!」

リゼヴィムの言葉と共に太陽よりも眩しい光が放たれた。

その威力はここら一体を文字通り消し飛ばせるものだった。

「ワーム!」

それを時空の歪みに飲み込ませる為に大規模なワームを展開しようとした。

その時…

背後に…境内に二つの魔方陣が現れた。
 
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