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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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金城零二vs幻想殺し・2

 間合いを大きく取った上条が、助走を付けながら俺に向かってくる。助走を付けてのテレフォンパンチか?それとも別の攻撃か。

「こっから先は手加減無しっスからね?死にたくなけりゃあ死ぬ気で防御して下さいよ!」

「大層な御託はいいからとっとと掛かって来やがれ、何度も言わすな小僧が」

 俺も雰囲気の変わった上条を警戒して構えを変える。両手はポケットから抜き、腰を落として僅かに前傾姿勢になる。柔道をバリバリやっていた頃から馴染んだこの構えが一番しっくり来るし、何が来ても対応しやすい。

「おおぉぉぉぉ……ホアタァァーーッ!」

「ぬおっ!?」

 助走を付けて何をしてくるかと思えば、ブ〇ース・リーばりの怪鳥声を上げながらの跳び蹴りだった。狙いは鳩尾……爪先が綺麗に滑り込んで来やがる。だがな、伊達に長年艦娘相手に格闘技教えてきた訳じゃねぇんだよ……俺も。咄嗟に爪先と鳩尾の間に両手を滑り込ませ、インパクトの衝撃を殺す。更に後ろに自分から跳ぶ事で派手に吹っ飛びはするが更に衝撃を殺してやる。それでも勢いは殺し切れずにズルズルと畳の上を滑るが、ダメージらしいダメージといえば手が痺れているのと擦れた足の裏が軽く火傷してるか?位で内部へのダメージはほぼ0と言っていい。何事も無かったように立ち上がって見せると、上条は目を見開いている。俺がダメージを負っていないのが余程驚いたらしい。俺は煙草を咥えて火を点け、フーッと紫煙を吐き出した。

「今のは流石に驚いたぜ……中々に重たい蹴りだった」

「……その割には余裕な面してんじゃねぇかよ」

 上条は悔しさを滲ませているが、俺の賞賛は本物だ。蹴りの1発や2発、その場から微動だにせずに受け止めてやるつもりでいたんだが、予想外に強い蹴りで踏ん張りが効かなかった。お陰で足の裏がヒリヒリしてんだよ、畜生が。

「化け物かよ」

「言われ馴れてる」

 俺がそう言ってニヤリと笑うと、上条が再び突っ込んできた。

「ホァタタタタタタタタ……アタァァァーーッ!」 

 お前はケンシロウか、と突っ込みを入れたくなるような奇声を上げながらの拳の連打。いや、ケンシロウの場合は人差し指での突きだから、むしろ承太郎かDIOか、それとも仗助か?そんな事を考える余裕がある位には拳の1発1発は軽い。根性キメて腹筋に力を入れていれば堪えられない攻撃じゃねぇ。

「……お前はもう、死んでいる」

 いや、死んでねぇよ。と心の中で突っ込んでおく。何なんださっきから……怪鳥声はブルース・リーのジークンドーの真似だろうし、さっきの連打と台詞は北斗真拳の悪質なパクリだし。コイツに拳法を教えた奴の趣味なのか?悪ふざけは。





「ふぅ、まぁ普通の奴なら今のでKOされててもおかしくねぇが……俺には効かんよ」

「おいおいおい、幾ら何でも効かなか過ぎだろ……」

「まぁ、鍛えてるしな」

「いやいやいやいや!そんな簡単な言葉で片付けていいレベルじゃねぇよ!?」

「散々殴ったり蹴ったりしたんだ、そろそろ攻守交代の時間だぜ?」

「まさかの無視!?」

 全く、騒がしい奴だ。俺はチラリと神棚の下に飾ってある『物』に視線を送り、位置関係を確認する。急いで近付いても2~3秒はかかる距離だ。

「遠慮なく行くぜ?卑怯とか言うなよ……なっ!」

「うぁちっ!」

 俺は咥えていた煙草を上条の顔面に向かって吹き付けた。大した攻撃にゃならないが、火の点いた煙草が顔面に向かって飛んでくれば、大概の奴は怯む。その僅かな隙を使って、俺は神棚の下へと回り込み、鞘に手を掛ける。鯉口を切り、シュラリと刀を引き抜けば、漆器のように光沢のある黒い刀身がお目見えする。明石謹製・深海鋼の刀だ。

「えっ、ちょ、刀ぁ!?」

 聞いてないよ!と言いたげな上条。

「ちゃ~んと言っといたろ?『反則は無い』ってな」

「…………あっ」

 キチンと説明したんだぞ?審判の大淀は。武器の使用も、急所攻撃も、反則にはならないってな。しかもその説明にOKまでしてる。

「まさか、卑怯とは言うまいなぁ?上条クン?」

 俺はニヤニヤと嗤いながら、右肩を刀の峰でポンポンと叩く。

「その妙な右腕、実験材料にウチの明石が欲しがっててなぁ。大根切るみてぇにスパッと落としてやっから、暴れるなよ?」

「のおおおおぉぉぉぉぉ!?」

 悲鳴を上げながら上条が道場内を走り回り始める。

「あ、コラ逃げんなって」

「あんな事言われて逃げねぇ奴なんているかあぁぁぁぁ!」

 ヤベーよ、このオッサンマジヤベーよ、その辺のヤクザとか相手になんねぇ位クレイジーだよ、とかブツブツ言いながら逃げ回る上条。いや、今のお前もヤバさでは中々のモンだぞ?




「だ~から、逃げんなって。手元狂っちまうだろ……がっ!」

 横一文字に刀を振るう。上条は咄嗟にしゃがんで、その斬撃を躱す。が、完全には躱しきれずにセットしたのであろうツンツン頭の毛先が切れる。

「あ、あっぶねぇ……!」

「チッ、外したか。逃げ回んなよぉ……右腕だけ切り落としたらとりあえず勘弁してやっから」

「嘘だぁ!だってさっき振り切ってたもの!上半身真っ二つコースだったもの!」

「ギャアギャア煩ぇよ。別に首落としてから右腕落としてもいいんだぞコラ」

 えぇい、面倒臭ぇ。マジでトドメ刺してから腕落としちまうか?そんな事を考えながら、上条の喉笛に向かって平突きを放つ。躱せればそれで良し、死んだらまぁ……そん時だ。すると上条は俺の予想の斜め上の行動に出た。なんと、喉笛に迫る刀を右手で鷲掴みにしやがった。刀を伝って流れてくる、赤い雫。そりゃそうだ、日本刀鷲掴みにしたら薄皮の1枚位スパッと切れる。

「なっ……!?」

 俺が驚いている間に、上条の左拳が刀の腹に迫る。その拳が当たった瞬間、鈍い音を立てて刀が折れる。

「あ゛っ!テメ、貴重な刀を……!」

「アンタ腕っぷしに相当自信があるみてぇだけどなぁ、それで自信過剰になって天狗になってりゃ世話ねぇんだよ、オッサン!」

「あ゛ぁ!?」

「まだ今まで通りに提督業続けようってんなら……まずはその、ふざけた幻想をぶち壊す!」

 そう上条に喚かれた瞬間、脳味噌の奥の方で何かが『ブチッ』と切れるような音がした……気がする。見れば、上条は右腕をフルスイングで俺の顔面に向けて振るっている。

「テメェ……調子に乗ってほざいてんのはどっちだ!このクソガキゃあ!」

 俺も被せ気味に左拳を上条の顔面に放つ。クロスカウンター気味になるかと思いきや、予想以上に上条の拳が速く、相打ちのように2人の拳が互いの顔面にめり込む。

「ぐおぉ……!」

「ぐっがぁ……!」

 均衡するかに見えたその相打ちの状態は、すぐに崩れた。体格に勝る俺が押し勝ち始めたのだ。

「沈んどけこのクソガキがあぁ!」

 俺は拳を下に打ち抜き、上条の頭もそれに逆らわずに畳に衝突。そのままピクリとも動かなくなった。

「提督!」

 上条の連れてきた艦娘達が駆け寄ろうとするが、

「触るな!……頭を打ってる。明石、医務室に運んで治療してやれ」

 と一喝すると、大人しくなって医務室に運ぶ明石を手伝い始めた。

「お疲れ様ネー、darling」

 声のした方を向くと、苦笑いを浮かべた金剛が濡れタオルをこちらに差し出していた。

「ありがとよ……おー痛て」

 冷えたタオルを上条に殴られた頬に当てると、熱を持っていた所がじんわりと冷えてきて気持ちいい。

「最後は意地の張り合いだったネ~?」

「うるせぇ、ああいうガキを見てるとムキになっちまうんだよ」

「昔の自分を見てるみたいだから?」

 ニマニマ笑うその顔と視線を合わせたくなくて、そっぽを向いて立ち上がろうとする。

「うるせぇよ……あ~頭がクラクラするわ」

 が、予想外に上条の一撃が効いていたのか、よろけてしまう。

「しょうがない人デスね……ほら、こっち来るデース」

 グイッと引き寄せられ、俺は強制的に金剛に膝枕される事になったらしい。まぁ、これはこれで気持ちいいし文句は無いんだが。

『天狗になってる、か……』

「……そうかもな」

「ン?何か言いましたカ?」

「……何でもねぇよ」

 そう言って誤魔化す為に、金剛の尻に手を伸ばす。

「ちょっと、どこ触ってるデスか?」

「どこって、尻」

「darling!時間と場所を弁えてっていつも言ってるデース!」

「あぁ!?怪我してる旦那にたまにゃあサービスしたっていいだろが!」

「そんなに元気なら看病の必要nothingネー!」

 そんな痴話喧嘩をしている俺達を遠目で見ている艦娘達は、皆笑顔に包まれていた。





 
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