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真田十勇士

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巻ノ百三十二 講和その三

「大坂城もどうなるかわからぬ」
「この城を出されますか」
「それか出るしかない有様になるわ」 
 そうした状況に追いやられてしまうというのだ。
「幕府は大坂が欲しいのじゃからな」
「そして大坂城をですな」
「だからじゃ、我等を大坂城から出す為にな」
「そうですか、では」
「我等の負けは近いやもな」 
 苦い顔で言う幸村だった、彼がこう言った瞬間に奥御殿への砲撃がはじまっていた。その砲撃は激しいが。
 大坂城の外堀すら中々越えられない、それを見て城の兵達はまた笑っていた。
「ははは、またやっておるわ」
「無駄なことをな」
「何時までやっておるのか」
「何度撃っても城まで届く筈がないわ」
「そんなことをしても無駄じゃ」
 こう言って笑っていた、しかし。
 そのうちの一発がだった、追い風に乗って。
 そうして奥御殿の真ん中に落ちた、それに茶々の側に仕えていた女中達が数人吹き飛ばされてしまった。
 砲が屋根と壊した音と侍女達の泣き叫ぶ声を聞いてだった、茶々は瞬時にだった。
 血相を変えてだ、大蔵局に叫んだ。
「修理、修理を呼ぶのじゃ!」
「戦のことで、ですか」
「そうじゃ、話があるわ」
 蒼白になった顔で言うのだった。
「だからじゃ」
「すぐにですな」
「ここに呼ぶのじゃ」
 こう言ってすぐに大野を呼んで彼にも叫んだ。
「修理、講和じゃ」
「講和ですか」
「ここまで砲の弾が届いたのじゃぞ」
「はい、そのお話は今聞きまして」
 それでと答える大野だった。
「今からこちらにと思っていました」
「そうであったか」
「そこで母上から人が来まして」
「それで来たのじゃな」
「そうです、それでなのですか」
「妾はもう耐えられぬわ」
 蒼白になったその顔での言葉だった。
「だからじゃ」
「講和ですか」
「そうじゃ、講和じゃ」
 何度も言う茶々だった。
「よいな」
「そうですか、ですが」
「もう我慢出来ぬわ」
 あくまでこう言う茶々だった。
「だかじゃ、よいな」
「では」 
 大野は即答しなかった、流石に己の一存で講和なぞ出来ないと思ってだ。それですぐに諸将を集めてだった。
 この話をするとだ、諸将は皆こう言った。
「今講和なぞなりませぬぞ」
「とんでもない話です」
「その様なことをしてはなりませぬ」
「断じてです」
「戦です」
「その様なことは論外です」
「しかしじゃ、茶々様が言っておられるのじゃ」
 苦い顔で返す大野だった。
「だからな」
「どうしようもない」
「そう言われるのですか」
「事実上の総大将である茶々様が講和と言っておられる」
「だから」
「そうじゃ」
「しかしですぞ」
 治房が声を荒わげさせて兄に言ってきた。
「諸将、そして兵達の多くはです」
「元は大坂の者達ではないというのじゃな」
「皆この城に豊臣を慕い集まってきております」
 だからだというのだ。
「ここで講和をしてはなりませぬ」
「戦じゃな」
「左様、ここで講和なぞしては」
「それがしもそう思いまする」
 治胤も言ってきた、弟達は二人共兄に言うのだった。 
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