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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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番外編~『最強』の覚醒~

 
前書き
どうも、番外編、完結です。 

 

 
 
「…………ん……………………。」
 
冷たい空気を感じたオレは、寒くて目が覚めた。
 
「……………………夢か?」
 
そこは、雲ひとつ無い青空の広がる海の上だった。海だと思ったのは、そうじゃなきゃ説明できないほど周りに何も無かったからだ。
 
ただただ広がる水平線。
 
オレはそんな中で、艤装も着けずに海の上に座っていた。脱いだはずの服は綺麗に着ていた。
 
「…………綺麗な水だな。」
 
オレは立ち上がると、足元の水を見た。普段オレ達が戦っている海なんかとは比べ物になら無いほど綺麗な水だった。
 
水面にはオレの顔が写っていた。最近少し延びてきた黒い髪を見て、切らなきゃいけないなと思った。
 
…………いや、そうじゃねぇ。
 
「なんだよここは…………。」
 
『んー、夢の中っとこじゃね?』
 
オレは急に後ろから聞こえてきた声に驚き、勢いよく振り返った。
 
…………もっとも、驚いた理由はそれだけではなく。
 

 
 
 
 
 
 
 
『そうじゃねぇと、この状況に説明ができねぇだろ?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―聞こえてきた声が、聞き慣れていたオレの声だったからだ。
 
そいつは、オレと瓜二つの姿形をしていた。だけど、大きく違うところが二つ。
 
一つは、髪が緑色なこと。

もう一つ。
 
そいつの肌は――深海棲艦のように真っ青だった。
 
「さてと、ちょっと殺るか…………。」
 
オレはいつものように臨戦態勢に入る。なんと言うか、条件反射で。
 
『おーい。別にオレは戦う気は全くねぇぞ?』
 
『オレ』は両手を広げて戦う意思が無いことを示そうとしていた。いや、知ってるんだよお前に戦う意思が無いことは。
 
「そりゃそうだ。『オレ』なら無防備な敵が居たら容赦なくぶん殴る。これはあれだ。癖だ。」
 
オレはそう言うと、臨戦態勢を解く。
 
オレがそうしたのを見ると、『オレ』はオレに近付いてきた。
 
『んで、オレはなんでここに来たんだ?いや、なんで来れたんだ?』
 
『オレ』はわざわざ言い直してきた。
 
「まぁ、あれだ。才能があったんじゃないか?」
 
『だろうな。そうじゃねぇとここには来れねぇからな。』
 
…………あれ、『オレ』ってこんなに腹立つ奴なのか?かなりめんどくさいな『オレ』。
 
と言うか。
 
「あれか。お前はオレの中に潜んでる潜在能力的なあれじゃねぇのか?」
 
『オレ』はさっき『どうしてここに来れたんだ?』って言ってた。つまり、こいつはどっかから来たらしい。
 
いや、にわかには信じがたい話だけどさ。夢だし、なんでもありかなぁって。
 
『いや、だから知らねぇって。オレからしたら、どうして人間のお前が居るのか知らないわけだし。』
 
前言肯定。『オレ』はかなりめんどくさい奴だ。
 
こんなんだから周りから距離を取られるんだろうなぁ…………少し反省。
 
『でも、どうせ目的は一つなんだろ?』
 
『オレ』は頭を押さえているオレを無視して話し掛けてきた。
 
「…………あぁ。強くなりたい、だ。」
 
オレはそう言うとニヤリと笑った。
 
『オレ』もニヤリと笑った。
 
気が付くと、いつの間にかどんよりと黒い雲が空を半分くらい覆っていた。黒い雲は、段々とその面積を広げていた。
 
『ったく…………『最強』がこれ以上強くなってどうするんだ?そもそも、これ以上があるかすら微妙だろう?』
 
『オレ』は笑ったまま、首を傾けた。
 
「…………強くなりたい理由は知ってるだろ?」
 
『あぁ。オレだからな。』
 
だったら、それは省略だ。
 
「あと、これ以上が有るかだぁ?」
 
オレは『オレ』が後半に口にしてたことを聞き直した。
 
『おう。実際問題、『分からない』って結論が出てたじゃねぇか。』
 
「あぁ。その通りだ。」
 
オレはわざと『オレ』の言葉に被せて言った。
 
確かに他人には、オレがどれだけ強くなれるかは分からない。
 
でも。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「だがな、それはオレにも分からない。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

どこまでも強くなれるかも知れないし、なれないかもしれない。
 
「オレは、バトルジャンキーじゃねぇし、死に場所を探してる訳でもねぇ。」
 
オレが強くなりたい理由は一つ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「オレは、アイツ達を助けるために強くなりたいんだ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それが、オレが『人間』を捨てる理由。
 
既に人間で無い奴があれだけの覚悟をもって、人間であろうとしてるんだ。
 
人間のオレがのうのうと人間であるわけにはいかねぇ。
 
元々、何をしようともしてなかった、しょーもない人生だったんだ。今さら惜しくない。
 
『…………くっくっく…………はははっ…………いやぁ、流石だな。』
 
「どういたしまして。」
 
『オレ』は一頻り笑うと、改まってこちらを見た。
 
『さてと、これから長い付き合いになるかも知れねぇが、よろしく頼むぜ?』
 
「おう。力を貸してくれ。」
 
オレがそう答えると、『オレ』は再び笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『精々、抗えばいいさ。』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―執務室―
 

 
 
「…………結局、木曾は一人だったんだよ。」
 
大輝は吐き捨てるように呟いた。椅子に深く腰掛けたまま、いつもなら話しながらしている事務作業にすら手を付けてなかった。
 
そうとう、木曾の事について堪えていたようだ。
 
「…………えぇ。」
 
さっき、私たちは明石に任せて工廠を後にした。恐らく、明日の朝には改造が終わってるだろう。
 
…………その時、木曾は人間じゃなくなる。
 
「誰も追い付けなかったし、寄り添えなかった。木曾自身も、誰も近寄らせなかった。結果として、更に木曾を一人にしてしまうことになった。」
 
大輝は机の上に置いてあった書類を握り締めた。その書類は、木曾の改二への改造の報告書だった。
 
…………後で作り直さないと。
 
「もちろん僕は、誰も死なせたくない。でも、艦娘をやめたあとに普通の生活にも戻してあげたい。」
 
それは、大輝がずっと言ってきたことだ。
 
「でも、どっちも取るってのはかなり難しい。そう考えたとき、僕は『死なせない』を選んだ。」
 
「…………えぇ。」
 
それが、木曾の改造を進めた理由。
 
かなり、悩んだ筈だ。
 
その証拠に、木曾の改二への改造が実装されたとき、大輝は物凄く複雑な顔をしていた。
 
「でも、これは戦争なんだ。『死なせない』なんてできるはずがない。なんなら、木曾自身が死ぬかもしれない。それなのに、僕はそれを選んだ。」
 
大輝はそこでため息をつくと、天井を見上げた。
 
「僕は――最低だ。」
 
…………木曾が言ったことの方が正しい。組織のトップが構成員のレベルアップを図らないのは愚策だ。だから、今回の大輝の決断は、はた目から見たら正しい。
 
でも、大輝はいい上司だった。
 
部下の退社後のアフターケアまで考えていた。
 
だから、誰も大輝を責めさせない。
 
「…………大丈夫。私は知ってるから。」
 
その苦悩も、決断も、後悔も。全部知ってる。
 
「…………知ってるから。」
 
「……あぁ。」
 
私は、大輝の頭を撫でてみた。
 
大輝は、何も言わなかった。
 
お互いに、何も言わなかった。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―数ヵ月後―
 
 
 
 
 
『緊急!緊急!金剛、榛名、龍驤、木曾、神通、時雨の六名は至急工廠まで!佐世保鎮守府より救援要請!沖ノ鳥島海域より、敵艦隊に包囲!佐世保鎮守府の艦娘の保護と敵艦隊の撃退が目的!繰り返す!…………』
 
オレは海の上でその放送を聞いた。佐世保か。千尋達ん所か。アイツが居るのに救援要請ってことは、相当やべーんだろう。
 
「さてと、行くか。」
 
オレは工廠に向かおうとして、ふと海面を見た。
 
 
 
 
 
 
 
 
海面に写っているオレは、あの日から緑に染まった髪をしていた。
 

 
 
 
 
 
 
 
「…………人外の証か。」
 
オレはボソッとそう言うと、マントを翻して工廠へ向けて移動し始めた。
 

 
―工廠―
 
 
 
 
「木曾、到着した。訓練してたから艤装は装備済みだ。」
 
オレが工廠へ入ると、既に全員揃っていた。
 
「よし、それじゃあ補給だけ済ませるね!」
 
明石さんはそう言うと、オレの艤装をいじり始めた。
 
「木曾、なんか余裕そうだね。」
 
艤装を装備し終えた時雨が、話し掛けてきた。
 
「…………別に。」
 
オレは簡潔に済ませると、皆が装備を終わらせたことを確認した。
 
「それじゃあ、行ってらっしゃい。絶対、生きて帰ってきてくれ。」
 
提督は、それだけしか言わなかった。オレに任せるって事だろう。
 
「あぁ。」
 
オレはそう言うと、工廠から出て海へ飛び降りた。他の連中もオレに続く。
 
オレは軽く息を吸うと、いつもの口上を言った。
 
あの口上は旗艦が言うものだが、最近はずっとオレが言ってる。それに誰も何も言わない。
 
だから、オレも気にせず言う。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
「お前ら、暁の水平線に勝利を刻むぞ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。

彼女の判断は決して間違いではないと、僕は思ってます。だって、それらは全て他人のためだから。

彼女は暫く作品には表立って登場しませんが、その内また登場します。一つ言えるのは、その時まで彼女は孤独であり続けると言うことです。えぇ、『その時までは』。

次回から、本編――千尋の方のお話に戻ります。彼が新天地で何をするのか、お楽しみにしていただけると幸いです。

それでは、また次回。 
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