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会ったことはないが

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第三章

 そしてだった、やがて龍馬は江戸まで出る様になり学問にも励む様になった、塾を追い出された話は嘘の様だった。
 この話に上士の若侍達は誰もが驚いていた。
「あの坂本の次男がか」
「学問に励んでおるのか」
「それも出来るとか」
「塾を追い出された様な奴がか」
「剣術だけでなくか」
「そちらでもか」
 こう言って口々に驚きの言葉を出していた、だが。
 板垣は冷静にだ、こう言うだけだった。
「あの塾の学問が合わなかっただけであろう」
「坂本の次男はか」
「それで追い出されたのか」
「それだけか」
「そうじゃ、むしろ自分に合った学問を見付けてな」
 そうしてと言うのだった。
「そこで頭角を表すとは見事ではないか」
「そうしたものか」
「最近武市家にも出入りしてよく書を読むというが」
「江戸でも読んでおったらしいのう」
「剣術だけでなく」
「それは凄い、あの者凄い者になるやも知れぬな」
 龍馬についてこうまで言ったのだった。
「今天下は騒がしいがな」
「うむ、何かとな」
「近頃そうじゃな」
「騒がしくなったわ」
「どうもな」
「その中であの者、土佐藩いや天下でどう動くか」
 板垣は既に先のことも考えていた、これから日本がどうなっていくのかということを。土佐藩だけでなく。
「わからぬ様になったわ」
「そこまでか」
「坂本の次男は」
「大きな者になるか」
「そんな風に思うわ」
 実際にと言うのだった、そしてだった。
 龍馬の今については当然と言った、それは龍馬も同じで。
 江戸で出会った桂小五郎、長州藩で将来を期待されている彼と共に遊んでいる時に板垣の話を出した。
「わしは上士は嫌いじゃが」
「そうだね、坂本君は」
 桂もそれは既に知っていてこう返した。
「土佐のそれは凄いらしいからね」
「それでじゃ」
「上士は嫌いでもだね」
「一人凄い奴を知っとるぜよ」
「それは誰だい?」
「板垣、昔は乾っていう名字じゃったが」
 板垣退助のことを話すのだった。
「こいつは中々以上に凄い奴じゃ」
「そんなにだね」
「そうじゃ、郷士だろうが町民だろうが農民だろうがじゃ」
 誰でもというのだ。
「広く対してのう」
「人の器が大きいのだね」
「そうじゃ、板垣っちゅうモンはな」
「土佐の上士の中でも見るものがある」
「そうした奴じゃ」
「坂本君がそう言うのならそうだろう」
 桂は龍馬のことを気に入っていて桂の器も察していたのでそれならと頷いて応えた。 
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