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エアツェルング・フォン・ザイン

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そのにじゅうに

「博麗の巫女」

「なによ人形使い?」

「アナタ…妖怪の賢者を知らないかしら?」

「紫?最近見てないわよ」

「そう…だったら…」

「?」

「彼を…ザインを外の世界に返してあげられないかしら?」

それはフランとレミィが出ていって直ぐの会話だった。

「アリス…その話はいいっていっただろ…」

「でも…」

「どうせ俺はもう人間じゃないんだから…外の世界じゃ馴染めやしないよ」

俺はアリスに『建前上』の理由を話す。

「ちょっと待ちなさいどういう意味よ?」

霊夢は話が解らず困惑しているようだった。

「ザインは元々外の世界の人間なのよ、勿論玉藻もね」

「有り得ないわ、だって彼は妖精でしょう?」

「今はな、俺は一度死んだらしい。
人間だった最後の記憶は女の子を助けたあとにトラックに轢かれた記憶だ」

少し、重い空気が流れた。

「どうせ俺は死んだ人間だし、そもそも俺はもう外で過ごせない」

だって、時間の尺度が違い過ぎるから。

それに…いや、今はいいか。

「まぁ、だから心配しなくてもいい。
幻想郷での生活も気に入ってるしな」

「わかったわ…」

にしても八雲紫か…まだ会った事無いな…

「なぁ、八雲紫ってどんな奴なんだ?」

やっぱり胡散臭いのかな?

「一言で言うなら胡散臭い奴よ」

ふーん、やっぱりそうなのか…

「どうしてそんな事を聞くのかしら?」

「いや、幻想郷の管理者ってのが気になったのでな」

「なら会ってみる?」

は?何を言ってるんだコイツ?

「結界を少し弛めれば来るわよ」

あー…そんなの在ったな…

「それは危なくないか?博麗大結界は幻想郷の内と外を隔てるんだろ?」

「大丈夫よ、ほんの少しならね」

でもな…あ、そうだ

「なぁ博麗の巫女」

「なによザイン?」

「八雲紫を呼び出す最も効率的かつ安全かつ確実な方法が有るぞ」

「嘘臭いわね…」

と半信半疑だ。

「まぁまぁ、取り敢えず目を瞑れよ博麗の巫女」

直ぐに目を瞑る霊夢。

そんなに気になるのだろうか?

まぁ、いいか…

俺は霊夢と目線が合う高さに浮かぶ。

そしてそのまま顔を近付け…

バッ!っと目の前に扇子が開かれた。

「はい、妖怪の賢者HIT!」

横を向くと空間の亀裂から手が伸びていた。

「え?なに?」

目を瞑っていた霊夢には状況が解らないようだ。

やがて亀裂が大きくなり、そこから妖怪の賢者が出てきた。

て言うか…

「ちっさ!?妖怪の賢者ちっさ!?」

リボン付きのナイトキャップ!

フリル付きのドレスとコルセット!

まさかの香霖堂ver!

レミィといい勝負だ!

「え?アンタ誰よ?」

霊夢が不思議そうな顔で八雲紫を見ていた。

八雲紫が口を開いた。

「まったく……霊夢とキスする振りして私を呼び出すとはいい度胸ね…異世界の妖精さん?」

ボフン!と音がして八雲紫が煙に包まれた。

そして煙が晴れた後には身長175はあろうかという女性が立っていた。

八雲紫大人Verだ。

「余りに急いでた物だからこの姿になるのを忘れていたわ」

ふぅん…

「じゃぁさっきの小さいのが本当の姿か?」

「ええ、そうよ」

まじか…胡散臭い大人の女性ってイメージだったが…

「まさか妖怪の賢者があんなロリっ娘だったとは…
で、その姿は見栄か?」

「それも無くは無いけど一番は不便だからよ」

「そか………どうせバレたんだし戻せば?」

「そうね」

再び八雲紫が煙に包まれ、先の小さな姿になった。

「うーん…それでも俺より高いか…」

気にしてないよ?うん、全然気にしてないよ。

すると霊夢が八雲紫をヒョイと抱き上げた。

「なによ?」

「いつもされてた仕返し」

霊夢に抱き抱えられる八雲紫(香霖堂ver)…絵になるなー。

俺がそう思っているとアリスが八雲紫に話し掛けた。

「妖怪の賢者、少しいいかしら?」

「なに?と言っても大方の話は聞いてたわ」

「なら…ザインを外の世界に返す事は可能かしら?」

その問に、八雲紫は即答しなかった。

一分ほど考えて出た答えは…

「出来なくはないわ。でも、オススメはしないわよ」

「なぜかしら?」

「彼は確かに人間だった。だから人と妖精の境界がある。そこを弄って外の世界に放り出す事はできるわ」

外の世界に放り出す…か。

『帰す』ではなく『放り出す』と言ったという事は…わかってるんだろうなぁ…

「でも、それは返した事にはならない…そうよね異世界の妖精さん?」

あぁ、やっぱりか…

「そうさ…俺は外の世界には…正化の世には帰れない。
だって、俺は、平成を生きていた人間だからだ」

そもそも転生者だ。

先日鈴奈庵に行った時、雑誌の出版日の年号で気付いた。

この世界は、俺が生きていた世界と解離している。

「平成?」

と霊夢が尋ねる。

「昭和が終わった後の年号の候補は三つ。平成は、この世界で選ばれなかった二つの内の一つだ」

「つまり彼は幻想郷の内外ではなく、この宇宙の外の人間だったのよ。
どんな経緯でこの世界の幻想郷に来たかはしらないけどね」

八雲紫は俺の話を分かりやすく説明した。

「それにどうやら彼は別の世界の未来から来たみたいよ。
彼が時々話すエーエルオーやジージーオー、アンダーワールドというのはVRゲーム…外の世界では未だに実現していない技術よ」

まぁ、今が正化16年だからな…

平成に変えてもまだ俺が生まれてもいないし父さんと母さんも結婚してない。

「まぁ、そういう訳だ。俺は外の世界に戻るつもりは微塵もない」

嘘だ、もしも、もしも元の世界に帰れるなら、俺はそれを選ぶ。

でも、それは不可能だ。

「そう…貴方が人だった時の事を話す時、いつも悲しそうな顔をしてたのはそう言う事だったのね」

「俺…そんな顔してたか?」

「ええ」

「そか…」

「はいはい、そこ、二人だけの世界を作らない」

と霊夢の腕の中の八雲紫に言われた。

んだよ…

「別につくってねぇし」

「ふーん、貴方達毎日抱き合って寝てるのによく言うわね」

だってベッド一つしか…は?

「おい、そこのロリババァ…テメェ覗きとはいい趣味してんじゃねぇか」

「あら?証拠でもあるのかしら?」

「物的証拠は無いが…
テメェがVRMMOのタイトルを知ってる事…
俺がアリスと寝てる事を知っている事…
そしてテメェの能力…
状況証拠は十分だ」

「ふふ…貴方がそう思うならそうなのでしょうね…
貴方の中ではね」

UZEEEEEEEEE!

「よーし、博麗の巫女、そのロリババァを捕まえとけ…一発ぶん殴るからな」

「わかったわ、コイツには困らされてるもの、是非もないわ」

「ちょ、ちょっと霊夢、離しなさい」

もがく八雲紫、しかし体格で負けているので逃げられない。

「あら?御得意のスキマはどうしたのかしら?」

「霊夢!貴方封印札を発動させといてよく言うわね!?」

「さて…覚悟はいいか…ロリババァ」

拳を振り上げ、殺気を撒き散らしながら迫る。

「あ、ちょっと!待ちなさい!待って、あ!ちょっ!やめっ!」

振り上げた拳を…












「あははは!やめてー!そこ弱いのー!」

振り下ろす事はせず、おもいっきりくすぐる。

八雲紫の事だ、殴ったダメージを此方に向けるなんて造作もないだろう。

それなら、まだこっちの方が効くだろう。

「あはは!だめー!もうやめてー!」

どうだ?屈辱的だろう?

「はっはー!元気いいな妖怪の賢者!何かいいことでもあったかぁ!」

と、某妖怪退治の専門家のセリフを真似つつくすぐる。







数分後

「はぁ…はぁ…もう…だめ…」

うーん…

乱れた服。

上気した頬。

激しい呼吸。

「エロいな」

まるで事後みたいだ。

「おーい?いきてるか妖怪の賢者?」

「はぁ…はぁ…貴方…後で覚えてなさいよ…」

おー、怖い怖い。

俺はくすぐられて息も絶え絶えな八雲紫を見る。

八雲紫…博麗大結界の維持の半分を務める大妖怪。

この世界は、フィクションの中の世界だ。

でもそれを管理しているのは作者なんかじゃなく、彼女なのだ。

例え幻想郷が偽りでも。

例え幻想郷が彼女の箱庭でも。

幻想郷は俺を受け入れてくれる。

だから…

ありがとな、妖怪の賢者様。
 
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