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エアツェルング・フォン・ザイン

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そのじゅうよん

「ドカーン!」

ぐちゅり…

「あ!ガァァァァァァァァ!」

ザインの全身を痛みが襲い…

バチャ!

粉々に吹き飛んだ。

ボッ!

ザインの視界が紫色に染まる。

『あ…れ?』

ザインが、自らの体に目を下ろすが、どこも砕けておらず、服も破れていなかった。

『おれ…フランドールに殺されたんじゃ…
いや…この感覚…エンドフレイムか?』

それはALOにおいて死亡した時の状態だった。

『しかしエンドフレイムはいいが復活条件を知りたい所だ…』

制限時間内に蘇生魔法もしくは蘇生アイテムを使えば復活できるが、そのアイテムを使ってくれる人間など、この場にはいない。

『そうだ、そんなことよりフランドールは!?』

「あ…あ…あぁ…あぁ!」

フランドールは握った手を見つめ、涙を流していた。

「また…まただ…また…壊した…」

その瞳は後悔と自責に染まっていた。

「もう…こわしたくない…こわしたくないのにっ!」

彼女は泣きながら叫んでいた。

「どうしてっ!どうして私っ!私が何をしたの!こんな!こんな力!」

瞳から涙流す彼女。

「もう…誰も…何も…こわしたくないのに…」

彼女は自分の能力を恨んでいた。

「この…力のせいで…」

彼女は自分の力を恐れていた。

「私が…死ねば…」

『それはいけない!それだけはいけない!』

ザインは必死に声を出そうとするが、声は出ない。

出ていても届かない。

彼女はおもむろにベッドを叩き割った。

鈍い破砕音が響き、ベッドが割れる。

フランドールは割れたベッドから角材を取り出した。

「私が死ねばいいんだ…そうすれば…お姉さまは、私に縛られなくなる…そうすれば、私のせいで死ぬ人は居なくなる…」

『だめだ!君は死んではいけない!』

フランドールは取り出した角材を、自分の胸に押し当てた。

「バイバイ、お姉さま…」

押し当てた角材を振り上げ…

『やめろ!やめろ!』

天窓から光が射し込む…

太陽の光ではない、それは月光。

夜の劵属に力を与える光…

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

ガシィッ!

彼が間一髪の所でフランドールの腕を掴む。

「ざいん…?」

「ああ、ザインだ!俺は生きている!だから死ぬな!」

「ざいん…ざいん…」

カラン…と角材がフランドールの手から落ちる。

「ああ、俺だ…」

彼がフランドールを抱きしめた。

「うぅ…ぐすっ…ざいん…生きてた…ぐすっ…」

フランドールを抱きしめる彼は確かに『守る側の者』だった。

数分後

「すぅ…すぅ…」

フランドールは泣き疲れて眠ってしまった。

彼は起こさないよう慎重にフランドールを降ろし、膝枕してやった。

「気持ちよさそうに寝てるな…」

彼の頭に、昔自分になついてくれていた双子の姿がうかぶ。

「あいつら、今頃どうしてっかなぁ…」

それを皮切りに、前世で親しかった者達の顔が浮かぶ。

「ふぁ~あ」

やがて、彼も眠りに落ちた。







side in

いつの間にか、真っ白い空間いた。


「ここは?」

キョロキョロと辺りを見回す。

「うぅん…」

「!」

後ろから声がして振り向くと、フランドールがいた。

俺は駆け寄って彼女を起こした。

「おい!起きろ!フランドール!おい!フランドール!」

「ん…んぅ…ざいん…?」

よし、起きた。

「ここは…?」

「さぁな、俺が知りてぇよ」

いや、本当に何処だよ?

キングズ・クロス駅?ここにはハリーポッターもアルバスダンブルドアもヴォルデモート卿も居ねぇよ。

「あ!」

フランドールが声をあげた。

「どうした!?」

フランドールの視線の先を追う。

そこには、黒いナニカがあった。

黒く揺らめくナニカ…

「あ…あ…あ…」

フランドールは焦点の合ってない瞳でそれを見つめていた。

「いやっ!いやっ!いやぁぁぁ!」

フランドールは崩れ落ち、胎児のように体抱えてていた。

「おい!どうした!?何があった!?アレはなんだ!」

フランドールは何も答えない。

「フランドール!フランドール!」

やがて、フランドールが口を開いた。

「にげて、ざいん…わたしが、わたしじゃなくなる前に…」

なんだと?

「アレはわたし、わたしの半身…わたしの力」

あれが、フランドールの能力?

「もう、いや、もう、誰も、何も、こわしたくないの。
でもあの黒いのが、私が壊せって言うの」

アレは…狂気?

「私は、逆らえないの、だから、逃げて、私がわたしじゃなくなる前に…!」

そうか…そうか…

「甘ったれんじゃねぇ!」

俺はフランドールの襟掴み、締め上げた。

「逆らえない!?ああ、そうだろうな!逆らえないだろうよ!」

だって…

「お前怯えてるんだもんな!」

そんな心じゃぁ…勝てない。

「フランドール!アレはお前だろう!だったら御して見せろよ!」

フランドールが反論する

「無理だよっ!ザインに何がわかるのよっ!」

「ああ!わからねぇよ!でもな!お前が自分自身を怖がってるのはわかるんだよ!」

心の闇と向き合うのは確かに恐ろしい。

だけど、心の闇とは、心に空いた大穴とは、その人の希望の源でもある。

「だって!あの力は全てを壊しちゃうの!」

「受け入れろよ!アレはお前だろうが!お前がお前を否定するなよ!」

自己否定、自己批判ではなく自己否定。

読んで字のごとく自らを否定する行為。

自らを殺す行為。

「お前以外に!誰がお前を肯定するんだよ!
お前に否定されたお前は!自分自身に否定されたお前はどうなるんだよ!」

「あの力は全部壊しちゃうんだ!それをどう肯定するのさ!?」

「受け入れろ!それが自分だと受け入れろよ!」

「!」

「闇を受け入れろ!抱き抱えろ!そしてお前が光になれ!そうすれば!どこから見ても影も闇もない!」

「うけ…いれ…る…」

「そうだ!闇に呑まれるな!闇を呑み込め!」

「わたし…が…光…に…」

「やってみろ…お前なら、できる」

フランドールを降ろす。

彼女は闇に近付いた。

「私を…受け入れる…」

彼女は闇を、抱き抱える。

「私を肯定…する…」

やがて、フランドールの抱えていた闇にヒビが入って行った。

最後にガシャンと音を発てて弾けとんだ。

そこから、もう一人、フランドールが現れた。

「あなたが…わたし?」

「そう、わたしはあなた」

「わたしは…あなた…」

フランドールはもう一人と互いに手を合わせる。

「今まで、ずっと否定してきた。
こんなわたしをあなたは許してくれる?」

「わたしはあなた、あなたは私。だから、許すわ」

「ありがとう……私」

その言葉をトリガーに、二人はまばゆい光に包まれた。

目の眩むような眩い光。

だけど、暖かい光だ。

光が収まると、そこには、フランドールが一人で立っていた。

「ザイン…ありがとう」

彼女は振り返り、そう言った。

「俺は何もしていない。自分自身を受け入れたのは、お前だ、フランドール」

彼女駆け寄って来て、俺に抱きついた。

「っとと…危ないじゃないか」

「えへへー…ザイン…ありがとう…」

「全部、お前がやった事さ…」

数分後、俺はフランドールの頭を撫でていた。

「ねぇ…ザイン…」

「どうした?フランドール?」

「私の事…フランって呼んで?」

ふむ…それくらいならば。

「ああ、わかった。フラン」

「えへへー。私も、ザインの事、お兄様って読んでいい?」

うぐっ!

「あ、ああ、かまわんぞ、フラン、好きに呼ぶといい」

とか言ってるがすごくドキドキしている。

「ねぇ…お兄様…」

「な、なんだフラン?」

「眠くなってきたの…」

「ああ、いいよ」

再び、フランドールに膝枕をしてあげる。

「お兄様の膝枕…とても安心するの…」

「それは良かった」

ぽふぽふと頭をなでる。

「お兄様…」

「ん?」

「おやすみなさい…」

「ああ、おやすみ、フラン」

フランが眠りについた刹那。

白い世界が崩れ落ちた。














「ん?ああ…さっきまで…フランのアストラル・サイドに居たのか…」

フランを膝枕した状態で目が覚めた。

「今日は疲れただろう…ゆっくり寝るといい…」

「おにぃさまぁ…むにゃむにゃ…」

「ふふっ…」

かわいいな。

あぁ、よかった…

彼女が死ななくて。

彼女が力を受け入れられて…

ん?なにかしら忘れてるような…

まぁいいか。

一人の少女が自分を受け入れた。

それだけで、十分だ。
 
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