| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ百三十 三日その七

「しかしですな」
「あの時は散々にやられたわ」
 歯噛みしそうなまでの顔での言葉だった。
「これ以上はないまでにな」
「やられてですな」
「命からがら逃げたわ」
「そう聞いておりまする」
「思い出す度にわしの愚かさを心に刻み込んでおるわ」
 自省にもなっているというのだ、三方ヶ原でのことは。
「その時から今に至るまでな」
「真田にはですな」
「勝っておらん、だからな」
「今度こそは」
「勝つ」
 強い決意での言葉だった。
「攻めてくればな」
「ここには天下の強者達が揃っておりまする」
 正純が神妙な顔で家康に応えてきた。
「幕府の旗本達が」
「しかも兵も多い」
「負ける筈がありませぬ」
「そうじゃ、真田が攻めてくれば」
 その時はとだ、家康は山の様に不動のものを見せて言い切った。
「わしが勝つ、よいな」
「さすれば」
 正純が応えた、だが大久保も柳生もその正純を睨んでいた。そして家康の前から下がり二人だけになった時にだ。大久保は柳生に言った。
「それがしはどうも」
「本多殿はですな」
「あの御仁の父君もです」
 二人共というのだ。
「どうにも」
「そうでありますな、それがしもです」
「柳生殿もですか」
「あの御仁はどうもです」
「好きになれませぬか」
「それがしの政は王道ですが」
 しかしとだ、柳生も本多に話す。
「本多殿のそれは邪道」
「謀ばかりですな」
「はい、ですから」 
 そうしたものだからというのだ。
「それがしは本多殿も父君も」
「好きになれませぬか」
「はい」
 そうだというのだ。
「左様です、こう思っている御仁は幕府にも多く」
「そうなのですか」
「はい、ですから」
「やがてはですか」
「何かあるかと」
 正純にとってというのだ。
「ましてあの御仁はあの様にです」
「鼻が高いですな」
「天狗の如く」
 そこまで傲慢だからだというのだ。
「上様も内心快く思っておられませぬし」
「上様は確かに」
 大久保もわかった、秀忠のその気質からだ。
「あの方は非常に律儀な方」
「これ以上はないまでに」
「それ故に人を騙す様な謀は好みませぬ」
「ですから」
「上様はやがて」
「本多殿に断を下されるでしょう」
「そうなりますか」
 大久保は柳生に鋭い顔で問い返した。
「では」
「早まらぬ様」
 大久保が正純、そしてその父の本多正信をどれだけ憎んでいるか知っている、それで忠告した言葉である。
「宜しいでしょうか」
「承知しました、実は」
「堪えられなくなっておられましたか」
「必死で抑えていますが」
 それでもと言うのだった。
「限界に達しようとしていました」
「では」
「はい、何とかです」
「時をお待ち下され」
「あ奴が天罰を受ける時を」
「ああした御仁は必ず受けます」
 天罰、それをというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧