真田十勇士
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巻ノ百三十 三日その七
「しかしですな」
「あの時は散々にやられたわ」
歯噛みしそうなまでの顔での言葉だった。
「これ以上はないまでにな」
「やられてですな」
「命からがら逃げたわ」
「そう聞いておりまする」
「思い出す度にわしの愚かさを心に刻み込んでおるわ」
自省にもなっているというのだ、三方ヶ原でのことは。
「その時から今に至るまでな」
「真田にはですな」
「勝っておらん、だからな」
「今度こそは」
「勝つ」
強い決意での言葉だった。
「攻めてくればな」
「ここには天下の強者達が揃っておりまする」
正純が神妙な顔で家康に応えてきた。
「幕府の旗本達が」
「しかも兵も多い」
「負ける筈がありませぬ」
「そうじゃ、真田が攻めてくれば」
その時はとだ、家康は山の様に不動のものを見せて言い切った。
「わしが勝つ、よいな」
「さすれば」
正純が応えた、だが大久保も柳生もその正純を睨んでいた。そして家康の前から下がり二人だけになった時にだ。大久保は柳生に言った。
「それがしはどうも」
「本多殿はですな」
「あの御仁の父君もです」
二人共というのだ。
「どうにも」
「そうでありますな、それがしもです」
「柳生殿もですか」
「あの御仁はどうもです」
「好きになれませぬか」
「それがしの政は王道ですが」
しかしとだ、柳生も本多に話す。
「本多殿のそれは邪道」
「謀ばかりですな」
「はい、ですから」
そうしたものだからというのだ。
「それがしは本多殿も父君も」
「好きになれませぬか」
「はい」
そうだというのだ。
「左様です、こう思っている御仁は幕府にも多く」
「そうなのですか」
「はい、ですから」
「やがてはですか」
「何かあるかと」
正純にとってというのだ。
「ましてあの御仁はあの様にです」
「鼻が高いですな」
「天狗の如く」
そこまで傲慢だからだというのだ。
「上様も内心快く思っておられませぬし」
「上様は確かに」
大久保もわかった、秀忠のその気質からだ。
「あの方は非常に律儀な方」
「これ以上はないまでに」
「それ故に人を騙す様な謀は好みませぬ」
「ですから」
「上様はやがて」
「本多殿に断を下されるでしょう」
「そうなりますか」
大久保は柳生に鋭い顔で問い返した。
「では」
「早まらぬ様」
大久保が正純、そしてその父の本多正信をどれだけ憎んでいるか知っている、それで忠告した言葉である。
「宜しいでしょうか」
「承知しました、実は」
「堪えられなくなっておられましたか」
「必死で抑えていますが」
それでもと言うのだった。
「限界に達しようとしていました」
「では」
「はい、何とかです」
「時をお待ち下され」
「あ奴が天罰を受ける時を」
「ああした御仁は必ず受けます」
天罰、それをというのだ。
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