NEIGHBOR EATER
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EATING 5
「ねー迅、まだぁ?」
もう一時間程飛びっぱなしだ。
「しょうがないだろう、天使ちゃんがいた所と城戸さん達が居た所は市街区の端と端だったんだから」
そういう事らしい、ボーダーは市内に入ってすぐの地点に簡易拠点を設置し、そこから扇を広げるようにネイバーを殲滅していったらしい。
「城戸?さっき話してた忍田って人は?」
「忍田さんは俺の直属の上司、城戸さんはさらにその上。
忍田さんも戦闘員で拠点に戻ってる途中」
「あっそ…俺が迅を抱えて翔ぶってのは?」
「恥ずかしいからダメ」
更に歩くこと三十分、夜の闇の中に光が見えた。
ネイバーの眼の無機質で残忍な光ではなく。
人が闇夜を照らす為の温かな光。
「拠点ってあれ?」
「ああ、多分な」
「じゃぁ早く行こうよ。疲れたんだけど」
「はいはい」
拠点はテントだった。迅と同じ格好した人が焚き火にあたっていた。
「忍田さん!」
迅が背の高い男に声を掛けた。
彼が『忍田』だろうか?
「迅……その娘が例の天使か?」
空翔んでるんだから見りゃ解んだろ。
「貴方が迅の上司さんですか?」
「ああ、私が忍田だ」
「私達の街を救って頂きありがとうございます」
コレは本心だ。
学校で習った通りに御辞儀をする。
「いや、コレは我々の義務だ。礼を言われるような事ではない」
「そうですか」
すると迅が
「天使ちゃん、俺と対応違いすぎじゃないかな?」
ムカついたのでとりあえず
「フッ」
一瞬だけ視線を向けて鼻で笑ってやった。
「な!?」
「迅…お前いったい何をしたんだ?場合によっては…」
迅の上司…忍田さんから何かが溢れた。
多分、殺気って奴だとおもう。
「ご、誤解ですよ忍田さん!何もしてないですって!」
「そうなのか?」
迅が狼狽し、忍田さんが俺に尋ねる。
ん?この問答ってもしかして俺が女って前提ですすんでないか?
いや、まぁ、確かに俺は女顔だし、髪も長くなってるけどさ…酷くない?
…ここで少し悪戯心が生まれた。
「迅は…俺を崩れかけの家に無理矢理連れ込んで…」
「迅…!貴様ァ!」
「ヒィィィ!本当に違いますって!」
あぁ、楽しいなぁ
「ほら!忍田さん後ろ!笑ってる!」
おっとマズイ
「うっうっ…」
「変わり身早っ!」
「迅…往生際が悪いぞ!」
忍田さん…そろそろ落ち着こうか…ギャラリーが出来てるよ…
「おいおい、忍田さん。少し落ち着こうぜ」
お?このメガネのおっさん誰だろう?
「林道さんか、いや、迅がな」
「だぁかぁら、それが間違いなの。この娘も笑ってるよ」
ニマニマ
「……」
「……」
ニマニマ
「な?」
「あ、あぁ…すまんな、迅……」
忍田さんはとぼとぼと歩いていった。
子供に乗せられたのが悔しいのだろうか?
「おい、嬢ちゃん。あんな悪戯はダメだぜ」
「はーい…」
ていうか…
「俺、男だけど?」
「はっはっは!嬢ちゃんじゃなくて僕か、そうかそうか……え?」
この人いいノリしてるな。
「男?嘘だろう?」
「本当、ちゃんと付いてるよ」
あ、ブラックトリガーのせいで消えてたらどーしよ、まぁいいか。
「えっと…迅?」
メガネのおっさんが迅に顔を向けた
「いや、俺もてっきり女の子かと…」
「勘違いされててムカついたから忍田さんをけしかけた。
反省はしてる、スカッとした」
と言うと。
「あっはっはっはっはっは!
コレは傑作だ!災難だったな迅!」
「笑い事じゃないですよ…」
迅はかなり沈んでる。
「でさ、そこのメガネのおっさん、俺は何をすればいいの?またネイバーを狩って来ればいいの?」
「おっさん…おっさんって言われたよ…まだ29なのに…
ネイバー討伐はボーダー隊員に任せればいい。
これから城戸さん…ボーダーで一番偉い人の所に行く」
「ふぅん…その後は?」
「休んでくれて構わない、君の寝床は用意してる」
「あっそ」
「そっけないなー、俺は林道だ、君の名前はなんて言うんだい?」
なまえ…
「翼」
「ツバサか、いい名前だ。それにぴったりだな」
ぴったり…俺は自らの腰にある一対の翼を見る
物語じみている、それが運命だとでも言うように。
「もしかしたらツバサがその羽を手に入れたのは運命なのかもな」
運命…下らない
「林道さん、俺は運命を信じない。だって虚しいから」
「虚しい?」
「だって、運命なんてものが在ったら俺達はただそれに従ってるだけ。
そこに俺達の自由は無い。
そうでしょ?」
「ツバサは子供なのに難しい事を考えるんだな」
難しい事?ちがう、簡単な事だ。
「じゃぁ林道さんは、誰か大切な人が殺されても『運命だから』で片付けられるの?」
「それは無理だ…ああ、そうだな、ツバサの言うことはきっと正しい」
話していると、やがて一つのテントに着いた。
『界境防衛機関臨時司令室』とかかれた板が立て掛けてあった。
「木戸さん、入るよ」
「なんだ林道?」
「件の天使を連れて来た」
「いいだろう」
テントの中には男がいた、眼に大きな傷のある男だ。
「君がネイバーを撃退したと言う少女かね」
このヤロウ…
「木戸さん、少女じゃなくて少年です」
「そうか」
え?そんだけ?
「君のおかげで被害が少なく済んだ、その上殲滅戦も早く終わりそうだ。
感謝する」
なんて言うか…
「業務的ですね」
「ブフォァ!…く、くく…木戸さん…くく…」
何故か林道さんが爆笑し始めた。
「く、くく、つ、ツバサ、よく…ぷふっ!言った!」
バンバンと背中を叩かれる…少し痛いんだけど…
「林道…」
咎めるように林道さんの名を呼ぶが、その口調は平坦だった。
「いやぁ、すいませんね、城戸さん…くく…まさかここまではっきりと物を言える子供だとは…」
「まぁ、いい。少年。今後の事は明日話す。
今日は休んで構わない。林道、彼を案内しろ」
「はいはい、ツバサ、行くぞ」
「解った」
林道さんに付いてテントを出る。
出る間際、振り向くと木戸さんと眼が合った。
「……………ふっ」
「……?」
一瞬、木戸さんが笑ったような気がした。
テントを出る。
「いやー、城戸さんにあんなこと言うなんて…お前面白いなー」
くしゃくしゃと頭を撫でられた。
「テントは何処?」
「せっかちだなー」
このボーダーの野営地に来たとたんに疲れが襲って来たんだ。
早く寝たい。
「疲れた」
「そうだろうな…こっちだ、着いてこい」
案内されたのは小さなテントだった。
林道さんが入り口を開き中を見せる。
「ここだ、まぁ、後から一人来るがまぁ、大丈夫だろう」
中にはベッドが置いて有った
「じゃぁ、もう寝るから、お休みなさい」
「ああ、おやすみ、ツバサ」
俺は靴をぬいでベッドに入る。
途端に眠気が襲って来た。
俺の意識は深く深く、沈んで行った。
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