儚き想い、されど永遠の想い
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98部分:第九話 知られたものその四
第九話 知られたものその四
「英吉利には英吉利のね」
「四つの国があるというですね」
「日本は六十以上の国に分かれていたけれど」
「そして幕府と三百以上の藩に」
「英吉利は大きく分けて四つの国だったんだ」
「その国々の間の話ですか」
佐藤は頭の中でそれぞれの国を当てはめて考えていきながら主に話した。
「そうなのですか」
「これでわかったかな」
「はい、そしてイゾルデという姫がなのですね」
「ウェールズの王妃になりトリスタンはそのウェールズの騎士だった」
そうだったというのだ。
「けれど二人はそれよりも前に。イゾルデがウェールズの王妃となる前から」
「愛し合っていた」
「そう。しかしその頃は二人は共に近寄らなかった」
「しかし近寄れなくなってから」
「己を偽れなくなった。その辺りはそれぞれの書で経緯は違うけれどね」
トリスタンとイゾルデの話は複数存在しているのだ。アーサー王の物語の一つであるものもあればだ。ワーグナーが楽劇にしたものもあるのだ。ただしワーグナーは楽劇という言葉を好まなかった。
「そうしてなんだ」
「二人の世界に入ったのですね」
「そうなったんだ。そして」
「二人は死んだのですね」
「それはわかるね」
「何となくですが」
わかったと話す佐藤だった。
「そうした話の常として」
「そうだね。こうした話はどうしても」
「なってしまいます」
佐藤は困った笑顔で話すのだった。
「それが物語ですから」
「愛は死ぬことなのかな」
「いえ、死ぬことではないと思います」
「実際にはそうではないのかな」
「そうした愛もあるでしょう」
ロミオとジュリエットもだ。完全に物語ではないというのである。当然トリスタンとイゾルデもだ。現実のものもあるというのである。
「ですが。実際に愛を育むとすればです」
「幸せにならなくてはならない」
「悲恋は確かに美しいです」
それはいいというのだ。美はだ。
「ですがそれでもです」
「実際には」
「そうです。幸せな結末にならなければあまりにもです」
これが佐藤の考えだった。そうした話をしてだ。
義正はだ。こうも話した。
「ではトリスタンとイゾルデも」
「道ならぬ恋ですが」
それでもだというのだ。
「しかしそれでもです」
「道ならぬ恋になる前にだね」
「はい、成就されるべきでした」
「道ならぬものになる前に」
「そうあるべきだったのですが」
こう話していく。そしてであった。
佐藤は悲しい顔になってだ。こうしたことも述べた。
「そうなってしまったのはです」
「悲しいことだね」
「やはり愛、恋と言ってもいいですが」
「幸せになるべきですか」
「旦那様もそう思われますか?」
佐藤は己の考えを述べてからだ。あらためてだ。
義正に対してだ。こう話すのだった。
「恋愛は幸せになるべきものです」
「幸せな結末がだね」
「どうでしょうか、それで」
「君は前からそう言っているね」
義正は笑顔になってだ。佐藤のその言葉に応えて話した。
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