艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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番外編~『最強』の孤独~
前書き
どうも、最近、投稿を始めた頃のような執筆ペースになってますが、私は元気です。いや、まだお腹いたいです。
「はぁ…………情けねぇ。」
結局皐月が『体調悪いの?早く休んだ方がいいよ!』と言うので、オレはあの場からさっさと退場させてもらった。あれ以上はオレもキツかったし、ちょうど良かった。
…………あー、ダメだ。マジでイライラしてきた。
仕方ねぇ。なんか憂さ晴らしするかな…………。
オレは少し立ち止まって考え、目的地を決めた。
―トレーニング室―
「…………で、なんでオレはここに来てるんだ。」
いや本当はオレ、食堂でヤケ食いしようと思ってたんだけど…………習慣って怖いなおい。
むしろ今まで気付かなかったオレにビックリだ。
あー、今日はそんな気分じゃないっての。さっさと別のとこいこーっと。
「…………ん?」
オレがその場から離れようとすると、トレーニング室の中から声が聞こえてきた。
「さてと、それじゃあ次は白兵戦の訓練とするか。」
「「「「おーっ!」」」なのです!」
そこには、暁型駆逐艦の四人に、そいつらに囲まれて満更でもなさそうな長門さんの姿があった。はいそこ。ナガモン言わない。
「さてと、本来なら見本を見せれたら一番なのだが…………相手が居ない。木曾辺りでも居れば良いんだが…………。」
…………まぁ、いつも世話になってるし、恩を返す意味も込めて助け船を出すかな。
「木曾なら、ここに居るぜぇ?」
オレはトレーニング室の扉を開けながらそう言った。
「ん、木曾。ちょうど良いところに来たな。少し手合わせしていいか?」
長門さんは、さぞ当たり前と行った感じてオレに頼んできた。まぁ、これまでの生活から考えると、オレがここに来てもおかしくは無いけどさ。
「あぁ。でもよ、白兵戦の訓練だろ?
本気で行ってもいいか?どうせケガなんてすぐに直るんだしよぉ?」
待て、なんでオレは長門さんに勝負を挑んでるんだよ。
「…………悪くはないが…………遠慮しておこう。直るといっても、そのあと暫く動けないのは厳しいからな。」
長門さんはなかなか大人の対応をしてくれた。良かったぜ。これで―。
「んだよ、ビッグセブンともあろう奴が、たかが軽巡洋艦の挑戦すら受けねぇのかぁ?」
待て、何やってんだよオレ。こんなことして、何の得になるんだよ。
憂さ晴らしって、そーゆーことじゃねぇよ。
「…………ほほう?そう言えば、木曾と真剣に戦ったことは無かったな。いい機会だ。やろうじゃないか。お前たち、外に出ておけ。巻き込みたくは無いからな。」
長門さんはそう言うと、ニヤリと笑った。
…………ちくしょう。さっきから頭ン中と行動が一致してねぇ。
オレは、これをしたいってのかよ…………仕方ねぇとは言いたくねぇけど、やるしかねぇ…………か。
それに…………どうやらオレも笑っているようだ。
どうしようもねぇ奴だ。
「さてと…………無意味かも知れないが、一応ルール確認だ。戦場はこのトレーニング室の中のみ。相手を殺したら負け。それ以外は自由…………いいな?」
「いいぜ。」
オレはそこに落ちてた空のペットボトルを拾い上げる。
「落ちた瞬間に開戦だ。それまでは動かないこと。いいな?」
「あぁ。」
オレは長門さんからの返事を聞くと、ペットボトルを上に投げた。
その瞬間、オレと長門さんは同時に動き出した。お互いに真っ直ぐに。
「なっ!?」
誰かの驚く声が聞こえたが、どこに驚く要素がある?
今のはルールでも何でもないし、破っても負けじゃねぇぞ?
オレと長門さんはお互いに拳が届くというところまで近づくと―挨拶がありと言わんばかりに右のハイキックを相手の顔面に向けて放った。
当然、このままだとお互いの右足は空中で激突する。単純なパワーに負けるオレは、その蹴りのパワーに吹き飛ばされるだろう。
そんなこと、折り込み済みだ。
オレは繰り出した蹴りの軌道を途中で曲げ、ミドルキックへと変化される。
ゴッ!ドンッ!
二つの激突するような音が響いた。長門さんの蹴りはオレの左腕に。オレの蹴りは長門さんの左腕にそれぞれガードされていた。しかし、流石は戦艦。ガードした手が痛てぇ。
オレはすかさず、自分が放てる最速のジャブを長門さんに当てる。
最速な分威力は弱めだが、これを躱せる奴は居ない。ここからコンビで右ストレートと左ハイキックを…………。
「くっ、甘い!」
長門さんはそう言いながら、オレの左腕を捕まえてきた。やべ、これが狙いか!
さっきも言った通り、長門さんのパワーは凄い。
それこそ、握るだけで腕の骨を潰せる位に。
…………しゃーねぇー。
腕一本くれてやる。
長門さんは案の定、オレの左腕を容赦なく握り締めてきた。骨の軋む音が聞こえてくるようだ。
「くっ!」
オレは痛みに顔を歪ませながら、長門さんの腹に手のひらを当てる。
グシャ!ズンッ!
長門さんがオレの左腕を潰すのと、オレが長門さんに発勁を放ったのはほぼ同時だった。
「があぁっ!」
「ぐうっ!」
オレは痛みを殺したながら、長門さんは血を吐きながら声を出した。
この発勁は、とある人から教えてもらったオレの必殺技だ。
威力は折り紙つき、戦艦ル級を沈めれる位だ。
お互いに生身で良かった。艤装着けてたら文句なしで死んでる。でも、臓物の幾つかは潰れたはずだ。
長門さんは、オレの左腕を握ったまま後ろへ吹き飛んだ。
この隙は逃さない。オレは長門さんの腹に膝を当てる。
臓物に追い打ちをかけよう。叩くなら折れるまでって、どこぞの漫画の大王様も言ってたし。
すると、長門さんはニヤリと笑った。
「お前だけじゃないぞ?」
着地寸前、長門さんはオレの腹に右の手のひらを当ててきた。
躱そうとしたが、時すでに遅し。
オレと長門さんは長門さんを下にして地面に落ちた。オレの膝は長門さんの腹に容赦なくのし掛かった。何かを潰した感触が伝わってきた。
なかなか気持ちのよくない感覚だが、それをじっくり味わってる暇は無かった。
視界が揺れた。
腹の一部分…………長門さんの手のひらが当てられてる部分だけに、とんでもない衝撃が走った。トラックにでも轢かれたかのような衝撃だった。さっきの長門さんのように吹き飛ばされるオレ。
ただ、どうやらまだ覚えたてのようだ。相手にバレるようじゃまだまだだ。
それでも、やはり戦艦。胃と小腸を持ってかれた―だけで済めば良かった。
当然、長門さんはオレの左腕を掴んだままだ。だからオレは一緒に飛んだんだ。
だが、長門さんは寝転んだ状態だから、飛ぶことなんてできない。しかし、オレは後ろに飛んでいる。
…………恐らく、長門さんはこの左腕を引っ張ってくるだろう。そしたら、良くて左肩脱臼。悪けりゃ千切れかねない。
それを防ぐには…………。
「っ!」
オレは歯を食い縛ると、潰れた左手で長門さんの腕を掴んだ。そして、長門さんが引っ張ると同時にオレも長門さんの腕を引っ張る。
ゴキッ!
左肩から嫌な音がしたが、この際気にしない。
その勢いのままオレは長門さんの両目に向かってピースサインを作ると、そのまま落下していった。
「…………フッ。」
すると、長門さんもオレと同じようにピースサインを作った。
『目を削げるなら、それが一番手っ取り早く相手を無力化することができる。』
こう言ったのは、提督だったかな?
そんなことを思いながら、長門さんの目に指を立てようとしていた。
パァンパァン!
銃声。
その音が聞こえるとほぼ同時に、オレの脇腹に焼き印が押し付けられたかのような感覚。
どうやら、誰かに撃たれたらしい。オレだけじゃない。どうやら長門さんも同じように撃たれたらしい。腕を落とす長門さん。
すぐに直るとはいえ、痛いものはいたい。オレは相手の目に指を入れることなく、長門さんの上に着地した。
そこで、意識が闇に落ちた
―二十分後 ドック―
「さてと…………あなたたち、何か言うことは?」
オレと長門さんは、ドックに入渠しながら大淀さんに説教を食らっていた。
どうやら、あまりにも怯えた暁型の奴等が、大淀さんを呼んできたらしい。んで、大淀さんは俺たちに向かって発砲と…………。
オレ達が艦娘だからこそ使える荒業だ。
「「すいませんでした…………。」」
オレと長門さんは二人して頭を下げた。流石に頭は冷えた。
「本来なら謹慎処分ですけど…………提督には伏せておきますから。さっさとケガを直して下さいね。」
ため息をつきながら大淀さんは言った。まぁ、オレは残り数分ぐらいだけどさ。流石は艦娘。深海棲艦以外の傷はすぐに直る。
「それでは。私は仕事に戻りますから。」
大淀さんはそう言うと、すたすたと行ってしまった。
残されたオレと長門さん。
先に口を開いたのは、長門さんだった。
「…………すまなかったな。」
「…………こちらこそ。」
先を越されて若干悔しい。先にケンカ吹っ掛けたのはオレなのに…………。
「それと、さっきの戦闘について質問だが。」
長門さんはそう言うと、オレの方に顔を向けてきた。
「どうして、本気を出さなかった?いや、出せなかったのか?」
チクリ。
「本気のお前なら、開幕の蹴りで軌道なんか変えずに、私の足もろともへし折ってた筈だ。」
………………。
「それに、あの速いジャブ。お前はいつも、『一撃で倒せるならそれが一番だ。』とか言ってるのに、出した手はコンビを狙った一撃。らしくなさすぎる。」
…………………………。
「もっと言えばあの発勁。お前は前にル級flagshipに使ったときは、顔面だった。明らかに外してきてる。」
何故だ?と、長門さんはオレを見てきた。
…………………………手加減もするだろ。
暁型の奴等に、あの長門が軽巡洋艦なんかにボロ負けするなんて、見せられるわけねぇだろ?
オレと長門さんには、それぐらいの差がある。
長門さんが弱いと言うわけではない。むしろ、撃沈数ではオレの次だ。
でも、そこには大きな差がある。
見せられるわけ無いだろうが。
でも、そんなこと言えるはずもなく。
「…………レ級ン時の傷が残っててな。本調子じゃねぇんだ。」
オレはそう言うと、風呂から出た。さっきの傷は、すでに直っていた。
「………………お前が何を悩んでるか知らないが――。」
長門さんはオレの去り際の背中に向かって声を投げ掛けてきた。
「悩みなら、幾らでも聞くぞ?」
ありがたい話だが、あんたにゃ話せないね。
失礼な話かもしれないが、オレより『弱い』奴に、『もっと強かくなれるのか』なんて聞いたところで、正しい答えなんて出てこない。
大抵は、自分の経験したことしか他人には教えれない。
『最強』がどれだけ強くなれるかなんて、誰にも分からない。
相談したとしても、それはただの嫌味だ。
誰にも相談できない悩みを抱えているのに、自力で解決策を見つけ出せない。
全く――。
「あぁ、そうさせて貰うさ。」
『最強』というのは、皮肉なもんだ。
後書き
読んでくれてありがとうございます。補足ですが、作中で『直す』という単語を使っていますが、あれはわざとです。彼女たちは意図して、『治す』ではなく、『直す』を使っています。
それでは、また次回。
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