儚き想い、されど永遠の想い
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62部分:第六話 幕開けその六
第六話 幕開けその六
ピアノの演奏会に出るのだった。ドレスを着てそのうえでだ。友人達と共にコンサートの会場に来た。そこは欧風のロビーのある場所だった。
シャングリラや絨毯、そうしたものを見てだ。麻実子が楽しそうに述べた。
「本格的ですね」
「何か。仏蘭西に来た様な」
喜久子もここで言う。二人もドレスである。
「そんな感じがしますね」
「そうですね。特に」
麻実子は足元を見た。その絨毯をだ。
絨毯はビロードで赤と紅、それに黒やダークブラウンでだ。複雑なアラベスク模様をそこに見せていた。その絨毯を見て話すのだった。
「この絨毯は」
「仏蘭西のものでしょうか」
「そうかも知れませんね、これは」
「波斯かも知れませんし」
この国の名前も出た。
「どちらにしろかなりのものですね」
「それは確かですね」
「かつてはこうした絨毯は」
麻実子はまだその絨毯を見ている。そのうえでの言葉だった。
「中々手に入らなかったのでしたね」
「そうらしいですね。あまりにも高価なものだったので」
「それが今ではこうして」
「広く大きく使われるものになりましたね」
「そしてです」
麻実子は今度は上を見上げた。そうしてガラスの、豪奢なデザインのヤングリラを見た。それは電灯のだ。新しいシャングリラだった。
そのシャングリラも見てだ。彼女は話すのだった。
「あのシャングリラも」
「あれもですね」
「見事ですね」
笑みを浮かべてだ。そのうえでの言葉だった。
「ただ。シャングリラというだけでなく」
「あそこまで立派なものはですね」
「ついこの前まではですね」
「夢の様な話だったと聞いています」
「時代は変わったのですね」
喜久子もだ。笑みを浮かべて言うのだった。
「こうしたものについても」
「はい。絨毯とシャングリラ」
その時代の変わったことのだ。ここでの象徴だった。
「そしてピアノですか」
「日本にいながら欧州にいる様ですね」
「波蘭の音楽家の音楽を聴いて」
「では。これからです」
「聴きましょう」
こう話してだ。二人はいそいそとした感じで会場の中に入ろうとする。しかしだ。
真理はだ。その歩みは遅かった。そうしてだ。
ロビーの中を見回していた。壁は黒くそれがシャングリラに照らされている。シャングリラの光は淡いオレンジでだ。それでロビーの中を見せていたのだ。
その光を見てだ。彼女はそこにいたのだ。
ロビーにはタキシードの紳士や彼女達と同じドレスの淑女もいる。彼等の中にだ。無意識のうちに今脳裏にある相手を探していた。
だがその彼女にだ。二人が声をかけるのだった。
「あの、真理さん」
「どうかされたのですか?」
「はい?」
二人の言葉にだ。ふと気付いてだった。
二人に顔を向けてだ。こう言うのだった。
「あの、何か」
「いえ、何かとは」
「今からですけれど」
その彼女にだ。こう言う二人だった。
「演奏会がです」
「はじまりますが」
「そうでしたね」
言われてだ。そのことを思い出したように言う真理だった。
そのうえでだ。真理はこんなことも言った。
「それではですね」
「はい、それではです」
「今から行きましょう」
「わかりました」
静かに頷く真理だった。そうしてだ。
まだロビーの中を見回りながらだ。彼女はコンサート会場に入ったのだった。
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