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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第五十六話

 
前書き
どうも、押入れの中から三年物の未開封カルピスが発掘されました。どうしてこんなものが入ってたのか、どうして今まで発掘されなかったのか、どうして破裂しなかったのか。色々思いましたが取りあえず、親には内緒で闇に滅しました。 

 

 

―遊戯室―
 
 
 
 
「……………………。」
 
「……………………。」
 
「……。」
 
通夜かよ。
 
俺は明らかにテンションの低い皆を見てそんなことを思った。
 
現在、俺達の追い出し会と言う名目で、遊戯室に集まっていた。ただ、いつぞやの歓迎会のような雰囲気ではなかった。
 
なんと言うか、俺達三人との別れを惜しんでる……訳ではなく、普通にテンションが低い。
 
悲しんでる訳じゃなくて、落ち込んでる?
 
「…………なぁ、春雨。なんで皆こんなにテンション低いんだ?」
 
俺は隣にいた春雨に小声で尋ねてみた。
 
「さぁ…………でも、この人たちがお酒飲む気満々だってことは分かりますけど…………。」
 
テーブルの上に置かれた大量の酒ビンとつまみ。いやまぁ、これで飲み会じゃないって方がおかしいんだけどもさ。それには似合わないような雰囲気だ。
 
何人かはまだ包帯巻いたままだし(俺もだけど)。
 
「えー、それでは、これより夕立、春雨、千尋の追い出し会を開催する。では、三人に一言ずつ貰おう。夕立から。」
 
そんな中、長門さんは俺がここに来たときと同じように開始の挨拶をする。と言うか、これってなんか言うのか。なんにも考えてねぇよ。
 
「…………えー、私は艦娘になってからの四年間、この呉でやってましたっぽい。それで―」
 
冬華は、そんな俺の心境なんかお構いなしにスラスラと語り始める。やべぇ。並び順的に春雨の次か…………考えとかねぇと…………。
 
 
 
 
間。
 
 
 
 
 
「…………えーでは最後に千尋。」
 
「…………ふぇっ?」
 
変な声がでた。見ると、春雨が俺にマイクを渡そうとしていた。考えるあまり全く聞いてなかったのかよ俺。
 
俺はマイクを受けとると、さっきまで考えていたことを脳内でパズルのように組み立てていく。ええい、どうとでもなれ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「俺は…………ここに来て、不安しか無かった。女の子しか居ない中で上手くやってけるのか、戦えるのか、役に立つのか、いろんなことが不安だった。」
 
「でもふたを開けてみれば、そんなことなんてこと無かった。木曾や春雨に助けてもらったり、神通さんにおっかない訓練してもらったり、摩耶さんと勝負したり、不謹慎かもしれないけど、楽しかった。」
 
「そりゃあ、命がけで毎日過ごしてるからそんなことは全体の一割位だけど…………すげぇ、助けられた。だから、最後に一言だけ、皆に言いたい。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ありがとう。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―数時間後―
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「よぉ、千尋。こんなところでなにしてんだ?」
 
俺が屋上でボーッとして落下防止の柵に肘を置いていると、聞き慣れた声が聴こえてきた。
 
「…………木曾こそ、何しに来たんだ?ちなみに俺は酔っ払いに絡まれたくなくてやって来た。」
 
俺の挨拶のあと、長門さんの乾杯の音頭で一斉に飲み始めた。そのあとは、お察しの通りだ。
 
ただ…………皆、俺達にここでの思い出を残そうとしている感じだった。実際、楽しかった。
 
「オレか?何となくだよ。」
 
木曾は俺のとなりにやって来て、柵にもたれ掛かる。
 
「…………ありがとな。色々と構ってくれて。」
 
俺は木曾にこれまでの感謝を口にした。やっぱり、こいつには本当に世話になった。
 
それを帳消しにしてもいいくらい、こいつには医務室送りにされたけどな!
 
「どうってことないさ。それより、こっちこそ礼を言いたいね。」
 
珍しく、木曾の声のトーンが少し低い。
 
木曾はこちらに体を向けると――頭を下げた。
 

 
 
 
 
 
 
「オレ達を守ってくれて…………ありがとう。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………仲間を守るのは、当たり前のことだろ?」
 
俺は敢えて木曾の方を見なかった。木曾はそのまま続けた。
 
「オレはあの時、何もできなかった。日本海軍最強の軽巡洋艦とか言われてるのに…………情けねぇことに、立ち上がることすら出来なかった。」
 
それでも、と、木曾は続ける。
 
「お前は立ち上がって、オレ達を助けてくれた。本当に…………ありがとう。」
 
…………俺はそれでも前を見たまま、呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「俺は男だからさ…………女の子を守るのは当然だろ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
うわぁ、柄にもねぇこと言ったなぁおい。
 
物凄く恥ずかしいんですけどこれ。なんで自分で罰ゲームしてんだよ。
 
「…………なら、春雨を絶対に守りきって、学校に行かせねぇとな?」
 
「…………あぁ。」
 
俺と木曾はそのまま、暫くその場に立っていた。
 
…………部屋に帰ったら、荷物の整理しねぇとな。
 

 
 
 
 
 
 
 
―執務室―
 
 
 
 
 
 
「大輝さんなら、どうしますか?」
 
拓海君は僕に神妙な面持ちで尋ねてきた。僕は目の前に置かれている資料に目を遠しながら考えていた。
 
資料には、これから拓海君が着任する鎮守府――佐世保鎮守府の情報が書かれていた。
 
「前任の提督がブラックだったとはいえ…………これはひどすぎるなぁ。」
 
僕は資料を机の上に投げると、思いっきり椅子にもたれ掛かった。
 
「…………もしかして、今回春雨と千尋を選んだのは…………そーゆーことかい?」
 
僕は目の前のまだまだ成人すらしてない少年に質問してみた。僕が提督になったのは十八の時。最年少提督記録の更新だ。
 
「はい。正直、まずは佐世保の艦娘の皆に、男は害のない生物だって分からせないといけないし、それには春雨ラヴな千尋は適任ですよ。国の力で悠人とも思いましたけど、節操なしですからね…………ある意味、千尋がいて助かりましたよ。」
 
…………鬼だ。
 
「ま、取りあえずは全員の恐怖心を取り除かないとね…………苦しいかも知れないけど、頑張ってくれ。」
 
僕は拓海君にそう言うと、ふと窓の外を見た。
 
その日の月は、上弦の半月だった。
 
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。次回より佐世保鎮守府編、華麗(笑)に優雅(爆)にスタートです。あ、今回はキャラ紹介のコーナーはお休みです。

それでは、また次回。

 
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