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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その26

波の国の複合任務を終えて、まだまだひよっこの部下達と別れたカカシは、視線で告げられた通り、火影の前に舞い戻っていた。

「お待たせしました。三代目。まだ、何か」

ナルトの行動を逐一報告するようにと言われているが、報告書には、何もあげてはいなかった。
ただ、ナルトが初潮を迎え、それを切っ掛けにサクラと和解した事だけは記載したが。
それと、戦闘中に偶然、ナルトの影分身を基に、九尾の分身が顕現したことも。
そしてその顛末は、カカシが封印する前にチャクラを使い果たし、空に消えたとした。

私情の混じった忍びにあるまじき隠蔽工作だ。
それは理解している。
だが、全てを里に報告する気には到底なれない。
それ故の、穴のある報告をあげたのだ。

三代目ならば、その不審点に気付いて、こうしてカカシを呼びつけるとわかっていたから。

「うむ…。時にカカシよ。ナルトの様子はどうじゃ」
「ナルトですか」

この質問にどう答えた物かとカカシは悩む。
三代目火影猿飛ヒルゼンは、確かにナルトを可愛がっている。
気にかけてはいるだろう。
けれど、親身になっているとは言い難かった。
何故なら、ヒルゼンは悩みつつも、火影としての立場を崩してまで、ナルトに肩入れは出来ないのだから。

そして、その隙を突くように、ナルトに対してそれをしたのはうちはだった。
うちは一族の長、うちはフガクの妻うちはミコトと、うずまきクシナとの親交を盾に、四代目の一人娘に対する里の扱いを声高く糾弾し、一族に養子として迎え入れると里に申し出てきた。
その頃にはナルトはうちはミコトにすっかり懐き、母とも慕っているようで、フガク一家もすっかりナルトに情を移し、ナルトの去就如何によって、里対うちは一族の構図が明確になってしまうという域にまで来ていた。

ナルトの身柄をうちは一族に渡さねばクーデター。
ナルトの身柄をうちは一族に渡してもクーデターの懸念。
それに揺れる上層部が折れたのは、ナルトの血筋をうちはがその名の元に責任をもって保証し、その情報を里に流すと脅されたからだった。

そこを突かれては、最早黙るしかなかった。
その結果、ナルトの身柄はアカデミー卒業を待って、うちはに移され、それと同じくして暗部に所属させる事が決定された。
暗部に所属させることに嫌悪感をみせていたうちはだったが、ナルトを引き取れるという実に目を向け、その提案を飲んだ。

その一連の流れを、複雑な思いで、そして、どこか安堵を覚えながら眺めていたのは、もう、昔の事になってしまった。
その決定が下された直後、うちは一族は虐殺された。

そこまで思い馳せた時、もう一人、カカシが気にかける要素を持ったうちはの少年を思い出す。
ナルトが倒れ、仮死状態になった時に吐き出された、血を吐くような、悲痛な慟哭。
あの短い間に、サスケの写輪眼がどんな変化をしてしまったのか。
それを具に見てしまったカカシは、そちらこそを重く受け止めてしまっていた。

だからこそ、迷う。
ナルトとサスケの間柄は、随分と絡み合い、複雑に関係し始めている。
そしてそこに余人が入る隙は無いだろう。
おそらくは。

そして、里としても最早二人を切り離して考えるべきではない。
迂闊にナルトの処分に動けば、うちはの血が牙を剥くのだから。

「ナルトは大丈夫ですよ。サスケの奴がついてますからね」

正直、それに不満が無い訳では無いけれど。
未だにナルトに警戒されしまうカカシには、それ以上踏み込む事は出来ない。
ただ、ナルトがカカシの事を、恐る恐るでも慕ってくれているのも伝わってくる。
まさかそれが、ナルトが赤ん坊の頃の事を覚えていたせいだからだとは思いもしなかったが。

「ただ…」

三代目に報告の言葉を濁しながら、カカシは報告書には記載しなかった、詳しい状況を特殊な紙に記した文書を取りだし、ヒルゼンに差し出した。

証拠を残さない機密文書のやり取りに使用される文書様式に一瞬、ヒルゼンの顔に動揺が走る。
無言で手に取り、ヒルゼンはカカシからの本当の報告書に目を通す。
此方には、全てを詳細に書き記した。

ナルトが再不斬の手によって、一見、命を落としたと言える状況になった事。
その戦闘中に、サスケの写輪眼が完全に開眼していた事。
そして、直後のナルトの件によって、更に変化があった事。
偶々ナルトは仮死状態となり、命その物は助かった事。
恐らくサスケは写輪眼の変化には気付いて居らず、今のところ顕現したのはその時の一度きりである事。

その後、ナルトは偶然己の意思に寄らず九尾の分身体を権限させ、分身体を封印しようとするカカシに攻撃し、里への憎悪を剥き出しにした事。
そんなナルトを抑え、宥めたのはサスケだった事。
カカシに攻撃を加えた事に消沈したナルトと話した結果、恐らく、ナルトにとっての里とは、ダンゾウ率いる根の意思を汲む物であるという認識になっているのかもしれないとの印象を受けた、カカシの個人的な推測も添えた。

それ以上は、記さなかった。
志村ダンゾウは、猿飛ヒルゼンにとって、竹馬の友とでも言うべき相手で、共に初代と二代目の教えを受けた同士でもあるのだから。

愕然とした表情で絶句するヒルゼンの手の中で、役目を終えた文書が跡形もなく燃え上がって消えていく。
無言で硬直しているヒルゼンに、カカシは静かに報告する。

「うちの部下達は、それぞれを切り離して考えるには遅い時期に来ているようです。ダンゾウ様か。それともナルトとサスケか。それによって、里の未来は大きく変わるでしょう。ナルトと、サスケ自身の未来についても」

カカシの報告を吟味していたヒルゼンが、重苦しく自身の考えを述べ始めた。

「…サスケの協力をワシ達が得るには、三年前のうちはの事は避けては通れん。ナルトはどうやってかあの件に纏わる裏の事情を知っておった。事によると、ナルトはイタチと繋がっておったのやもしれん。とすると、ナルトが知っておる事は、当然、サスケも知っておると見てよかろう。まさか、こんな事になるとはの…」
「ナルトが、うちはイタチと…?」

その情報は意外といえば意外だが、確かにナルトはアカデミーに入学してから、うちは一族の長であったフガク一家、つまりサスケとサスケの兄であるイタチの家と家族ぐるみで懇意にしていた。
引き取られる先も、フガクの家だったのだから。

カカシもその縁で声をかけられた。
四代目の直弟子であり、今後、フガクの娘になるナルトに深い縁を持ち、更にはオビトから写輪眼を譲られ、うちはとの縁も深く、それでいて、里との繋がりも深く持つ持ち主という事で、大分親しく声をかけられ、うちは家でのナルトの様子を細やかに語られ、ナルトとn顔合わせを兼ねてフガクの家に遊びに来るようにと誘われる様になった。

その中で知った事だが、サスケの母親のうちはミコトに至っては、もう一人の母とでもいうかのようにナルトは慕っていた。
サスケに至っては言わずもがなだ。
ナルト自身はフガクに警戒していたようだが、フガクの方は絆されているように見えた。

考えてみれば、フガクもミコトもミナトやクシナの同期であり、気難しいうちは一族とはいえ、フガクとミナトはそれなりに友好的な関係を結んでいたし、度々差しで飲む事も有るような仲だった気がする。
今思えば、フガクはミナトの友人といってよかったのでは、と、今更ながらにカカシは思い至った。

そもそも、ナルトがうちはと誼を結ぶ下地は出来ていたのだ。
そしてうちはとイタチ自身とも、サスケや二人の母親のうちはミコトを通じて、縁ならば充分過ぎるほどに出来ている。
そも、うちはイタチとは、ナルトが自主的に里人の中で初めて自ら口を開いた相手ではなかったか。

「なるほど…」

確かに、イタチとナルトの間には、何がしか余人には分からない秘密の繋がりが存在していてもおかしくはない。
存在していると見て間違いはない状況だ。
ナルト自身の今後を思うなら、不完全な九尾の器として、里から警戒されているナルトにとっては、抜け忍であるイタチとの秘密の繋がりは、カカシからしてみれば、あまり、歓迎すべき繋がりではない。
そう、思わざるを得ない繋がりなのだが。

それでもナルト自身がサスケと距離を置く事を良しとしていない以上、サスケの兄であるイタチとの繋がりも、ナルトは手放そうとはしないだろう。

そして、サスケ以上にナルトの近くにある木の葉の人間は居はしない。
しかも、ナルトもサスケも、里に執着らしい執着を抱いてはいない。
いや、むしろ、忌避感や悪感情を抱いていてもおかしくはないし、事実ナルトは抱いている。
サスケの方も、普段の振る舞い方を見るに、あまり期待はできないだろう。
うちはに対する里の感情は、ナルトに対する物同様、あまり、良いものではないのだから。

先行きが不安な結論に、思わず内心盛大な溜息を吐く。

「……それはなんとも、厄介ですね」

里にとっても、自分達にとっても、ナルトや、サスケにとってもだ。
そんな様々な事に対する感想を、一言に込めてカカシは漏らした。
それを黙って聞いていたヒルゼンは、暫し瞳を閉じ、黙考し始めた。

そして、意を決したように顔つきを改め、口を開いてきた。

「カカシよ。これは、ナルトとサスケの双方を抱える担当上忍で有る事と、四代目火影の教えを受けたお前を見込んで打ち明ける極秘情報じゃ」

机の上に肘を付き、組んだ手で半ば顔を隠したヒルゼンの、重苦しい重厚な佇まいに、カカシも意を決する。
そして打ち明けられた情報は、到底信じがたいものだった。

「可能性の段階に過ぎんのだが、うちはマダラが生きておるのやもしれん」
「え」

ヒルゼンの言葉の余りの突拍子の無さに、カカシは思わず声を漏らした。
カカシの戸惑いを気にした風もなく、ヒルゼンは続けていく。

「十二年前の四代目の死と、九尾の襲来の影には、そのマダラを名乗る写輪眼を持つ者の影があるのだ」
「は!?」
「そして、ダンゾウは、実は初代様たちが未だ健在だったあの頃から、マダラの写輪眼によって支配されておったのかもしれん可能性が、今になって浮上して来たのじゃ」
「何ですって!?」

それは聞き捨てならない情報だった。
もしもそれが本当なら、木の葉の暗部は長年敵によって支配されていたと同義にもなる。
すなわち、今の木の葉は敵に支配されているも同然と言える。
捨て置く訳にはいかない重大な疑惑だった。

カカシの背に冷たい汗が伝っていく。
里の崩壊を目の当たりにしているような気がした。

「強硬に事を進めるダンゾウの行動の裏には、里と忍界全体に不和を招いて戦を起こさんとするマダラの意志が存在しておったのかもしれんのじゃ。少なくとも、イタチはナルトの助言によってそう結論し、うちはマダラを名乗る写輪眼を持つ正体不明の敵を探るべく、単身奴等の組織に身をやつした。それがあの事件の真相じゃ。あの惨劇は、ダンゾウが出した条件を隠れ蓑に、イタチが里を離れ、里の為に敵の組織に潜入する為の物だったのじゃ」

悩み、疲れ果てた体で、ヒルゼンは老いた顔を伏せた。

「ワシはそうそう奴がマダラの支配下に置かれる筈がないと信じてはいる。だが、マダラはダンゾウが気付かぬうちに、ダンゾウを自身の幻術の支配下に置いていても可笑しくないと思うほどの技量の持ち主だった。何より、当時のワシらは子供で、そしてそれ故に未熟な忍だった。今のサスケやナルトのようにな…」

倦み疲れた疲労の色濃いヒルゼンの独白を、カカシは衝撃と共に硬直したまま、ひたすら耳を傾ける事しかできない。
口を挟めるような事が出来ようはずもなかった。
何故ならば、木の葉の闇を一手に引き受けていた根を統括している志村ダンゾウは、ヒルゼンの火影人生を支え続けた盟友とでもいうべき相手だったのだから。

「確かに疑いの目で以て精査すれば、今のダンゾウの振る舞いは、奴が師事しておった二代目様のものではなく、二代目様が敵としていた筈のマダラの挙動こそが当てはまってしまう。イタチの言によって、ワシはそれに気付いてしまった。気付いてしまってからはもうダメじゃ。何時からダンゾウの振る舞いは、初代様の教えや二代目様の教えから離れてしまったのかと考えても分からんのじゃ。なにも変わっておらんと思う。いや、そう思いたいだけなのかもしれん。何より、マダラの意志がダンゾウに巣くっていると指摘され、両者の成した事や振る舞いを比べてみると、驚く程に類似が有りすぎた。ワシは、老いた。それは重々承知しておる。だが、分からん。この問題にどの様に手を打つべきか」

ヒルゼンの苦悩は更に続く。

「ワシの命を待たず、イタチは一族を手に掛け、里を抜けてしもうた。重要な情報は時折ワシに送られて来ている。だが、イタチは決してワシの命を受けて動いている訳ではない。しかし、里の存続の為に、敵の罠の可能性をも飲んで、サスケを除いた一族全てに手をかけたイタチの決意を無駄にする訳にもいかん。イタチの献身が無駄にならぬよう、ワシの命を受けて里を抜けたように細工はしておいたが、一体、ワシはこの問題にどう向き合うべきか。ワシには未だに結論が出せん…」

火影らしくもなく、気弱に力なく呟くヒルゼンに、カカシは思わず無言になる。
まさか、ヒルゼンがこんな重大な悩みを抱えているとは思いもしなかった。
ついつい、カカシはヒルゼンに確認をとる。

「三代目、この事は、私の他に何方か?」
「…いや。ワシの胸一つに納めておいた。迂闊に漏らせば、里に動揺が走る。それに、砂の挙動に懸念がある現状、この問題の解決に割く手足が足りなすぎる」

嘆くような力無いヒルゼンの声に、カカシはやるせない気持ちを覚える。

ここに、四代目が居てくれたら。
そうしたら、あの人は明るくこの気鬱な空気をあっさりと晴らしてくれたに違いないのに。

そう思ったカカシは、ふと、思い付いて提案する事にした。
どちらにせよ、ヒルゼンは火影として問題に向き合わねばならないのだから。

「三代目。少し休暇をとられては如何ですか?そして、ナルトやサスケと話をしてみるのはどうでしょう。先生はもう居ませんが、先生が繋いだ里の未来はナルトに繋がっています。それに、ナルトを言葉で止められるのは、おそらく現状ではサスケだけのはず。サスケの離反を招くことがあれば、ナルトもきっと続くでしょう。そしてその逆も然りです。あの子達の現状は、報告通りですから。不甲斐ないこの身が嫌になることも多いですが、あの二人を見ていると、きっとあの子達は何があっても二人ならば大丈夫だと思えなくもないんです。ナルトはサスケの前だと子供らしく無邪気に笑ってますからね。サスケの方は素直じゃないので、内心どうだか分かりませんが」

そう言いつつも、いつぞやの任務中のアクシデントが思い起こされる。
動揺して赤く染まったサスケの顔と、今回の件。
サスケの中でどんな変化が起こるか、見物ではあった。

現に異変は現れている。
ナルトがサスケを頼ろうとすると、サスケは動揺してナルトを咄嗟に突き放そうとする。
そして、突き放しきれずに硬直して複雑な表情で黙り込む。
それがいつものサスケとナルトの距離だった。

なのに。

サスケの突き放しは、波の国で過ごしていた間に、いつの間にか口先だけの物に変わっていた。
それは今までのサスケには見られなかった反応だ。
そして、その変化にサクラは敏感に反応し、サクラとサスケの間には気まずい空気が流れている。

明らかなそんな変化に気付いてないのはナルト一人だ。
全く、どうなることやら。

「ふふ。あの子は自分が女だと言うことの自覚がどうも欠けておるからの。ワシの家にサスケを引き取った頃から、サスケはそれで苦労しておった。サスケには、ナルトに呼び出された自来也の奴が、サスケに対面直後に早々に口を滑らせおっての。だと言うのに、夜毎魘されるサスケを案じて様子を見に行くついでに、ナルトは誰かと共に寝る事の心地よさに味を占めてしまってな。毎夜毎夜サスケの布団に潜り込むようになってしまいおったんじゃ。それに気付いて目覚めたサスケがナルトに向かって喚きたてて、毎晩えらい騒ぎになったもんじゃ。全く。幾つになっても、あやつは録な事をせん…」

呆れたように溜め息を吐いたヒルゼンは、直ぐに自嘲に顔を曇らせた。

「最も、ナルトの自覚に欠けておるのは、ワシがあの子を表向き男としてしまったからだがの…。だが、里人のナルトへの扱いや態度を見るに、それは賢明な判断だったとワシは思っている。しかし、あそこまで徹底させるつもりはなかったんじゃ。だというのに、バカ息子が幼いナルトに要らんことを吹き込んでしまいよって。お陰でナルトの情操教育が中途半端なままになってしまっておる。うちはミコトの尽力で、予定と狂ったナルトの情操面に修正はされたが、まだまだ足りないと言わざるを得ん。まあ、しかし、そういった自覚に欠けるナルトの行動に振り回されたお陰で、サスケはこちらが見込んでいたよりも早い期間で立ち直りはしたがの。フフ。あの頃は夜毎毎晩、我が家で繰り広げられるナルトとサスケの攻防で、寝入り端を叩き起こされて、心底うんざりしたもんじゃが、こうして思い返してみると、なんとも微笑ましい思い出じゃの」
「そうですね」

慈愛に満ちた眼差しで思い出を語り、緩く目元を和ませる三代目に、カカシは同じように同意した。
脳裏に浮かぶのは、黒と赤の毛色の違う子供達の姿だ。

カルガモの雛が親に懐くように、ナルトは無邪気にサスケに心を許している。
屈託のないナルトの満面の笑顔は、ナルトの両親を思い起こさせる。
凍り付いた無表情の人形のようだったナルトの、そんな無邪気な子供らしい笑顔を見れるようになった事を、嬉しく思わない訳ではない。
それに、全身で自分に対する無垢な好意を表してくるナルトに、サスケがどんな気持ちを抱いているのか。
今となっては手に取るように思い描ける。

サスケはきっと、ナルトを手放すような事はしないだろう。
今回の件で、ナルトを失う事への恐怖を覚えた筈だ。
ナルトを守る力が欲しいとカカシに願ったサスケを思いだし、カカシは目許を緩ませる。
サスケのその気持ちが、八方塞がりのこの状況に良い風を与えてくれれば良いと思った。

その時だった。
ふと、かつての四代目の雄叫びをもう一度思い出す。
先生にとっては、災難ともいえるかもしれないが。

「フフ。今頃はミナトの奴、草葉の陰で自分は許さんと血涙流して吠えたてておる頃じゃろうな。このままあの子達に何事もなければ、ナルトの嫁ぎ先は、サスケの所になるのかのう…。となると、うちは出身の火影の誕生も夢では無くなりそうじゃ」

そんなカカシの内心を見透かしたように、しんみりとした声で寂しげに呟いたヒルゼンに、カカシは一瞬言葉に詰まってしまった。
そしてむくむくとちょっとした反発心が浮かび上がる。

まだまだナルトは子供といっていい年だし、サスケだって未熟な子供にすぎない。
嫁だのなんだのを話題にするには、少し早すぎるだろう。
ナルト自身に、そういう自覚がある訳ではないようなのだし。

それに、サスケが火影になろうとするかどうかも未知数だ。
今のところ、木の葉の人柱力は、先々代のうずまきミト、先代のうずまきクシナと、続けざまに火影の妻となってはいるが、だからといってナルトがその流れを踏襲する必要はない。

する必要はないのだが、三代揃って女の人柱力という事で、ナルトにもそれを強要される未来は容易く描けるが。
そしてそんな未来を、サスケが黙って見ているともカカシには思えなくなってしまったのだが。

だがしかし、才能や将来性については認めざるを得ないが、二人とも、現時点ではまだまだ忍びになりきれていない、下忍に成り立ての子供なのだ。
多少、早熟で才走った所が大いにあるけれど。

「…それはちょっと気が早いのでは」
「だが、ナルトはサスケの家に通って、炊事や家事を肩代わりしてやっているそうではないか」
「肩代わりしてやってるだけのようですよ。一人分作るより、二人分作った方が経済的だからとナルトが言ってました。家事に至っては、修行や術開発のついでと言い張っています。サスケがどう考えているかは分かりませんけどね」
「そうか。なら、もう暫くは見守るとするか」
「今後はどうか知りませんがね。今回、サスケはナルトを失いかけました。結果として未遂ではありましたが、失っていてもおかしくない状況に立たされた。嫌でも自分にとってのナルトの存在を意識したに違いないですから」

何気なくそう溢した瞬間だった。

「そうか。そうじゃったな。そうか、そうか。では、何れサスケにはワシ直々に稽古をつけてやらねばならんかもしれんな。滅多な男にナルトを嫁がせる事になっては、四代目に顔向けができんからの。サスケの返答次第では扱いてやらねばならんな。ちょうどいい。カカシ、その時はお前も手伝うとよい」

にっこりと好々爺な笑みを浮かべたヒルゼンの背後には、めらめらと燃え盛る修羅のような気迫が漂っていた。
しまった、と失言を後悔しつつ、カカシはにっこりとヒルゼンに向かって笑顔を向けた。

「勿論喜んで。サスケの奴は、ナルトを守れる力が欲しいそうですから。きっとアイツも喜んで、三代目の慈悲に感謝すると思いますよ」

ナルトが懐いているサスケに感謝しない所が無いわけでもない。
本当に、ナルトはサスケの隣だと、年相応の無邪気な顔を幾つも見せてくれるから。

だが、それはそれとして、ナルトが懐く、生意気なサスケが気に入らないと個人的に思う気持ちが無いわけでもない。
何せ、サスケの振る舞いは、昔の思い上がっていた自分自身を見ているようで、どうにも座りが悪いのだ。
生意気なのは、勿論ナルトもそうなのだけど。

何故にあの二人はああも好戦的で喧嘩っ早いのか。
うちはの教育なのだろうか。
イタチは落ち着いた振る舞いの礼儀正しい男だったと思うのだが…。

まあ、何はともあれ、今の所二人の息はピッタリだし、阿吽の呼吸で行動していて任務に貢献していなくもないので悪いばかりでもないのだが、距離の近さ故に一抹の不安が込み上げるのは否めない。

それでも確かにヒルゼンの言う通り、生なかな相手に恩師の忘れ形見をくれてやる訳にはいかない。
サスケがそれを望むと言うなら、遠慮なく徹底的に痛めつけてやろうと思う。
良い機会でもあるし。

「ほほう。そうかそうか。それなら近い内に時間を都合するかの」
「そうですね」

にっこりと笑い合ったヒルゼンとは、きっと同じ事を考えているのだろうとカカシは思った。 
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