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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第149話「向かう場所は」

 
前書き
前回のラストは時間で言えば九時前ぐらいです。
今回の冒頭は、そんな前回より若干時間を遡った所から始まります。
 

 






       =優輝side=





「状況としては、だいぶ持ち直している。既に人里近い門はほとんど閉じられ、力の強い妖も淘汰された。たった一晩でここまでやれたのは偏に君達の尽力あってこそだ。本当に感謝している」

 クロノが代表して皆にそういう。
 今この場には、椿と葵以外の夜中に戦闘していた全員が集まっている。
 椿と葵は式神と使い魔を使って索敵などをしてくれている。
 夜が明ける直前ぐらいに戻って、休息を取ってからそうしてくれている。
 ……聞けば、何人か死んでしまったようだが……。

「現在は警戒はしているものの、既に現地の組織だけで対処できる状態となっている。だが、もちろんの事、原因をどうにかしなければ解決にはならない」

 そう。今は何とか膠着状態に持ち込んだだけだ。
 時間が経てば経つ程こちらの戦力は消耗するだろう。

「そこで、だ。椿と葵以外の妖などに詳しい人物を優輝が連れてきてくれた。行動目的は合致しているので協力してくれるらしい」

「せ、瀬笈葉月です…!」

 皆の前に出てきた一人の少女が自己紹介する。
 僕が連れてきた瀬笈葉月だ。
 ちなみに、魅了に関しては戻ってきた司に頼んで対策済みだ。
 魅了に関しては精神干渉の対策に念を入れていると言って、伏せている。
 さすがに転生者(こちら)側の事情には巻き込めないしな。

「……あー、色々彼女について気になるだろうけど、それは今は後回しにしてくれ。それで……だ。どうやら、大門の守護者の大体の位置が判明したようだ」

「えっ……?」

 誰かが驚きの声を上げる。
 対し、瀬笈さんは気恥ずかしそうにしていた。
 物見の力で位置を割り出して、僕を通じてクロノに伝えていたからな。

「(それはそうと……だ)」

 具体的な位置をクロノが説明しているが、僕はもう知っているので聞き流す。
 ちなみに、位置としてはかつて武蔵国と呼ばれた辺りらしい。

「(帝が言うには……)」

 集まる前、帝に聞いた話だ。
 どうやら、僕らとは別に単独で動いている陰陽師がいるらしい。
 しかも、その人物は以前門が開いていた時代から転生してきたようだ。
 僕らとはあまり慣れ合う気はなかったらしく、転送装置を借りてそのままどこかへ行ってしまったようだが。

「(代わりに那美さんを預ける程度には信用してもらえてるらしいな)」

 そう。那美さんだ。
 ……どうでもいいけど、巻き込まれすぎじゃないか?
 まぁ、那美さんも一緒にいた久遠も霊力が多いから妖が寄ってきて仕方ないけどさ。

「(……ま、驚くよなぁ……)」

 一方で、瀬笈さんは蓮さんを見て驚いていた。
 まぁ、知ってる顔ぶれがあったら驚くよなぁ。
 一応、僕が幽世の門などに関して式姫から聞いた事は知っているから、そこまで強く驚きはしなかったようだけど。

「(他に何かあるとすれば……)」

 瀬笈さんと同行していた鞍馬という式姫だな。
 生死すらわからない状態で、捜索も困難だ。
 おまけに、式姫であるならば妖から逃れ続けるのも難しい。
 上手く、街の庇護下に入っていれば何とかなるが……。

「(それと、シーサーさんだ)」

 結局、あの伝心の後音沙汰がない。
 危険な状況であれば連絡するだろうし、さすがに大門の守護者が沖縄をわざわざ襲撃するとは思えない。……可能性はゼロではないけど。

「(っと、噂をすればなんとやら、か?)」

 伝心用の御札に反応が。相手は当然シーサーさん。

「『クロノ、ちょっと連絡が入った。もしかしたら協力者が増えるかもしれないし、少し席を外すぞ』」

「『いきなりだな。だがまぁ、わかった』」

 クロノの許可ももらった所で、少し席を外して応答する。

「『シーサーさん?』」

『おう。そっちは無事か?』

「『まぁ、何とかですけどね。各地も大体は持ち直したようです』」

 とりあえず、現状を一言で伝える。

「『そちらは?』」

『ああ。こっちもだいぶ安全になった。軍の基地があったのもあるが、門の脅威が然程強くなかったからな』

「『そうですか』」

 ……と、言う事は、だ……。

「『こちらに来れるという事ですか?』」

『そう言う事だ。今行けるか?』

「『ちょっと待ってください』」

 連絡が入ったという事は来れるのだろうと思っていたけど、一応許可は必要だ。

「『クロノ、協力者をここに召喚していいか?』」

『今か?さすがに今魔法でそれをやられるのは……』

「『大丈夫だ。霊力での召喚だ』」

『いや、同じだからな?とりあえず、ちょっと待ってくれ』

 クロノに冷静に返さる。どうやら、今すぐは無理そうだ。

「『今すぐは無理なので、可能になったらこっちから連絡入れます』」

『わかった』

 そういう訳で、一旦伝心を切る。





「ところで、その協力者はどういった人物なんだ?」

「性格は典型的な姉御肌な感じだな。シーサーの式姫って言えばわかりやすいかもな」

「シーサーって……あのシーサー?」

 沖縄の置物とかのシーサーを連想したのか、なのはが聞いてくる。

「他のシーサーを知らんが、まぁ、そうだ。……言っておくが、なのはが想像しているようなライオンみたいな感じじゃないぞ」

「えっ!?どうして私が思っているのを!?」

「いや、顔に出てた」

 凄く分かりやすい顔をしてたからな。今のなのはは。

「そ、そうなの?」

「ええ。そうね」

「凄く分かりやすかったよ?」

「えぇー……」

 アリサ、すずかに肯定され、しょんぼりするなのは。

「よし、じゃあこっちに召喚するぞ」

 伝心でシーサーさんに合図を送り、召喚の術式を発動させる。

「……っと、ここがあんたたちの拠点か。……結構大所帯だな」

「わ、わわ……!?」

「……ん?」

 こっちに来たシーサーさんの姿を見て、何人かの女性陣が顔を赤くする。
 ……なんだ?

「も、もうちょっと露出度を下げなさいよー!?」

「……あー……」

 女性陣の気持ちを代表するように、アリサが吠えた。
 まぁ、確かにシーサーさんの今の恰好は露出度が高い。
 脚が毛皮に覆われているとはいえ、水着とかと同じぐらいの露出度だからな。

「そう言われてもなぁ……式姫としていた頃はこれが普通だったし……」

「そうですね。当時はあまり気にしてませんでした」

 シーサーさんが頬を掻きながら言った言葉に、蓮さんも同意する。
 ちなみに、蓮さんはシーサーさんと一度会っているため、協力者がシーサーさんだと知って納得していた。

「し、しかし、その恰好だと割と危ないのでは……?」

「クロノ君……?」

「え、エイミィ!?い、いや、これは防御の事でだな……」

 クロノがシーサーさんの恰好を見てそう尋ねる。
 直後にエイミィさんに詰め寄られて言い訳してるけどな……視線がそういう類のタイプだったんだよなぁ……。仕方ないのかもしれないけどさ。

「あぁ、オレは体が頑丈だからな。むしろ身軽で丁度いい感じだ。……まぁ、確かに防御面で厳しい所もあるけどな」

「確かに、限りなく服装を減らした分、早く動ける……。理に適っている……のかな?」

「……だからってあれ以上薄着にならないでよねフェイトちゃん……」

 一理あると頷いて天然発言しているフェイトになのはが突っ込む。

「(……助っ人を呼んだだけでどうしてこうなった?)」

 まぁ、大体シーサーさんの恰好が露出度高いからなんだけど。
 でも、式姫は普段の姿が一番戦いやすいそうだ。
 当時は防具や武器も別で製作していたらしいが、一番馴染み深かったのは召喚された時の恰好と武器だったと、椿や葵から聞いている。
 身の丈にあった武具が一番扱いやすいから、わからないでもない。

「シーサーさん……ですか」

「ん?あんたは……」

「瀬笈葉月と言います。……貴女達式姫を、良く知る者でもあります」

「……そうか」

 シーサーさんにとって、瀬笈さんが何者かは分からないだろう。
 でも、目を見てどういった人柄の人物からはなんとなく理解したようだ。

「……あー、期待されている所悪いが、オレはあまり強くないぞ?むしろ、以前と比べて弱体化していると言っていい程だ」

「そ、そうなのか?」

「元々、大気中の霊力は昔の方が濃かったんだ。けど、霊術などの存在が表で信じられなくなるに連れ、その霊力も薄くなった結果、霊力を必要とする式姫の力は弱まっていった」

「……椿と葵から聞いてたのか」

「まぁね」

 シーサーさんが説明する前に、僕が先に説明する。

「もう一つ理由があるけど、それは……」

「……オレ達の主を、失ったからだな。主から供給される霊力がなくなれば、当然力も失う。燃費が悪い奴だと、そのまま幽世に還る奴もいた」

「こっちでの使い魔と同じようなものか……」

 言っていいのか迷ったが、今度はシーサーさんが率先して話してくれた。

「だから、供給を得るようになった椿や葵、蓮は強さをそれなりに取り戻している」

「……せっかくだから、シーサーさんも……」

「いや、オレはいい。霊術を扱えるのは、この場にいる数人だけだろう?見た感じ、これ以上の供給は戦闘時に支障を来す。それなら供給はなしでいい」

 ……確かに、シーサーさんの言う通りだ。
 僕も椿と葵でリソースはほとんど使っている。
 葵の場合は地力でも何とかなっているから負担は軽いが、それでも式姫二人は多い。
 忘れがちだが、椿は霊力保有量がずば抜けており、貯蓄してるからこその強さだ。
 アリサとすずかは単に経験不足と霊力量が問題だ。
 経験不足は霊力で何とか補っている状態なのに、それを崩す訳にはいかない。
 霊力が多いアリシアも、蓮さんでいっぱいいっぱいだ。

「あ……なら、私が……」

「瀬笈さんが?……いや、戦闘出来ないのなら適任か……」

「はい。どの道、このままでは足手纏いなので……。それなら、後方で待機して霊力を供給するだけでいいですし……」

「………」

 瀬笈さんの言い分にシーサーさんは少し考え込む。

「……分かった。供給だけを行う仮契約を頼む」

「分かりました。……と言っても、僕は仮契約の術式しか知らないので、本契約は出来ませんけどね」

 シーサーさんも、かつての主が忘れられないのだろう。
 本契約は避けるようだった。

「ちょっと別室で契約をしてくる」

「分かった。時間はあまりないから、急いでくれ」

「ああ」

 どうやら、シーサーさんは契約するための術式を覚えていないらしい。
 ……僕が覚えていてよかった。瀬笈さんも知らないらしいし。







「……よし」

「……さすがに違うな。これなら多少の強敵なら屠れる」

「お役に立ててよかったです」

 仮契約を完了させ、戻る。
 ちなみに、契約の際にこれからは以前の名である“山茶花”と名乗るそうだ。

「(そういえば、椿と葵が戻っていたな)」

 契約をしている間に、索敵などをしていた椿たちが戻ってきていた。
 念話と伝心で連絡があったから、今は皆といるはずだ。

「待たせたな」

 皆がいる場所に戻って、僕はそういう。
 戻ってきていた椿と葵が、僕の方に来る。

「っ……!?」

「っと、どうした葉月!?」

「あ、あ、貴女は……!」

 その時、瀬笈さんが慄くように警戒心を露わにする。
 シーサーさん改め、山茶花さんが驚く中、瀬笈さんが指さした方向は……。

「えっと……あたし?」

「葵……?」

 まさかの、葵だった。
 葵自身も戸惑っているし、どう言う事だ……?

「鞍馬さんは、鞍馬さんはどうしたんですか!?」

「え、鞍馬って……あの?」

 瀬笈さんの驚き方は、“なぜここにいる”と言った感じだ。
 そして、同行していた鞍馬という式姫の所在を問い詰めている。
 ……あぁ、なるほど……。

「二人を襲った式姫の姿をした存在……それが葵、つまり薔薇姫という式姫の姿をしていた訳なんだな?」

「……そう、です……」

「あー、そう言う事、かぁ……」

 葵を警戒しながらも、僕の言葉に瀬笈さんは頷く。
 葵も、今ので警戒される理由に納得したようだ。

「うーん、疑いを晴らすためには……あ、そうだ。椿、マスター権限」

「え?あ、記録を見せるのね。葵もいいかしら?」

「プライベートは晒さないでよ?」

 今ここで言葉だけで説明しても、完全に信じれるとは限らない。
 だけど、葵の場合は、葵だからこそできる事がある。
 それは、デバイスとしての記録。

「マスター権限。えっと……どの時間帯がいいかしら?」

「瀬笈さんが襲われたのは大体深夜だから……0時から今までがいいんじゃないか?」

「そうね。0時から今までの情報展開」

「……Yes,Master」

 デバイスとしての受け答えを葵は行い、勾玉の姿になって映像を投影する。

「一応、記録を見る限りは葵は関係ないが……」

「あの、ここまでしなくても……。今のやり取りで十分です」

「そうか?」

 瀬笈さんがあっさり納得してくれたので、葵は元に戻る。
 記録映像、ほんの少し見せて終わっちまったな。

「……私が襲われたのは、こちらの薔薇姫さんとは別の薔薇姫だと思います」

「そう考えるのが妥当ね」

「でも、そうだとしたらなんであたしなんだろう?」

 葵の疑問は尤もだ。なぜ、葵の……薔薇姫の姿をしていたのだろうか。

「出会ったのが葵なだけで、実は他にもいたり?」

「ありえるわね……」

「そうかなぁ……。なーんとなく、違う気がするんだよねぇ……」

 僕の言葉に、椿はともかく葵は疑問を持っているようだ。
 何か引っかかりがあるようだが……。

「……遭遇する可能性は考えておくべきだな」

「そうね。守護者との戦いで襲われたら面倒極まりないわ」

「とりあえず、クロノ。聞いていたな?式姫の姿をした妖のような存在がいるかもしれん。……と言っても、式姫の姿はここにいる面子以外は知らないから、襲われても人型の妖だと思うか」

「分かった。警戒はしておくように呼び掛けよう」

 少なくとも薔薇姫の姿はあると分かっている。
 偽物にはジュエルシードを集める時に嫌でも脅威を思い知らされている。
 警戒度も十分高いだろう。

「さて、大門の守護者がいるのは東京らしいが……どうする?」

「向かわせる戦力の事だな?……参考なまでに椿、葵」

 僕もクロノも、大門の守護者の力量は分からない。
 少数精鋭で行くのは確定だがな。
 物量で攻めても犠牲の方が大きい。

「……今の私達個々の力では、全く敵わないわ」

「そうだね。あたし達はまだ全盛期の力を取り戻していない。でも、その全盛期の力を以っても、あたし達は守護者の前に立つ事は許されなかった」

 その手前で大怪我を負ったから……だったな。
 となると、戦線に送り出すのは……。

「……やはり、神降しか」

「そうなるわね」

「問題は、それで倒しきれるか。なんだよな」

 もしかすれば、神降しでも敵わない相手かもしれない。
 その場合は、少しでも実力が高い者が同行すべきだ。
 それに、先程言っていた式姫の偽物にも注意しないといけない。

「個々の能力が強いのは……司」

「わ、私!?」

 司の名前を呼ぶ。
 そう。神降しを除けば、一番戦力になるのは司だ。
 それこそ、霊魔相乗の僕以上に強くなれるはずだ。

「……司、いざと言う場合は、限界以上の身体強化をする必要がある。でも、もし使うべきだと思ったら、躊躇なく使ってくれ」

「わ、わかったけど……」

 例え身体能力は上がっても、思考がついて行くとは限らない。
 その点を考えると、司はいざと言う時のための僕の代役としているべきだろう。

「……偽物はあたしが担当するね」

「葵か。まぁ、妥当と言えば妥当だが……」

「……このままだと、一対一になるわね」

 椿の言う通り、神降しした僕と肩を並べて戦える者がいない。
 司はいざと言う時のために温存すべきだし、司以外に神降しの僕の動きについてこれる者がいない。……いや、ついて行けたとしても、連携が取れない。

「それに、他の妖の脅威がなくなったとは思えない」

「そうだね。霊力に惹かれてきた妖をどうにかする必要がある」

 幸い、日本全体は今の所ピンチを脱した所だ。
 警戒するのは戦闘になる地域だけでいいだろう。

「……それなら、司を含めた魔導師組は後方待機。いつでも出れるようにして、式姫の二人は戦闘の影響で現れる妖の相手……まぁ、露払いだな。で、葵は葵の偽物が現れたら相手を。それ以外は式姫の皆と同じで」

「……結局、一人で戦うのか?」

「そうなるな。いや、椿もいるから実質二人だけど」

 神降し中は一人だからあながち間違っていないか。

「司なら、優輝の動きについて行けると思うが……」

「……そうだな。二対一なら……」

 ジュエルシードをフル活用した身体強化を僕と司に使い、二対一で戦えば勝てる確率は最も高いだろう。……だが。

「……そうはいかないようね」

「何?」

「あたし特製のサーチャーなんだけど、見てみなよ」

 葵が見せてきたその映像の存在により、その案は却下される。

「これ、は……!?」

「かつて、封印されていた名もなき龍。でも、その強さは尋常じゃないよ」

 映像に映っているのは、黄土色の体に白い鬣の、利根龍神などと同じ系統の龍だ。
 まだ眠っているらしく、動きは見られないが……。

「以前は、厳重に封印されていたんだけど、今はその封印がない状態よ」

「少なくとも、あたしやかやちゃんじゃ絶対勝てないね」

「葵がそういう程の強さか……」

 今は眠っているから被害はないものの、その出現位置が問題だった。
 そこは、瀬笈さんが示した大門の守護者がいる位置。
 このまま戦えば、確実に余波で目覚める。

「司は、こっちに宛てるべきね。暴れ出したら、被害が途轍もない事になるわ」

「そうか……」

 クロノは渋ったような顔をするが、それが妥当だ。
 何せ……。

「……一体、何を相手にしているか分からないけど、こっちも時間の問題よ」

「……そうだな」

 次に見せられた映像は、東京辺りの映像だった。
 そこには、四体の妖が何者かを相手にしている映像だった。

「これらの妖は四神を模したものよ。その強さは他の妖に対して一線を画した強さよ。……そんな存在が一遍に相手しているのよ」

「これの恐ろしい所は、この四神たちは人の味方をしている事だね。そして、倒されるのも時間の問題」

「なっ……!?どういうことだ!?」

 僕らが仮契約の儀式を済ませている間に、四神の存在は観測していたらしい。
 だが、四神が人の味方をしているのはクロノは知らなかったようだ。

「考えてもみなさい。四神の相手は、濃密な瘴気を纏っている。サーチャーが壊れない距離からだと、姿がわからない程よ?そんな存在、限られてるわ」

「……大門の守護者ですね」

 瀬笈さんが、確信を持ってそう言った。
 そして、それを椿と葵は肯定した。

「元々、四神の妖は以前も決定的な人の敵ではなかったわ。だから、人の味方をしていてもおかしくはない」

「問題は、四神がやられるのも時間の問題って訳。それに加えて、こっちの龍だよ」

「っ……悩んでいる時間もないのか……!」

 四神の戦闘の余波で、龍が目覚める可能性も高い。
 何せ、いる場所はどちらも東京だ。
 ……今頃、東京で避難している人達は阿鼻叫喚の状態だろう。

「司以外は先程僕が言っていた配置で行こう。司は椿の言った通り、龍の方に行ってくれ!……目覚めなければ封印を、目覚めたら……」

「何とか、してみるよ」

「頼む」

 眠っている状態なら、龍ごと封印すれば門も閉じれるだろう。
 守護者としてそこにいるのならともかく、ただ眠っているだけなら、そのまま門の向こう側に押し込んでしまえば封印できるらしいからな。

「聞いていたな!これより、各員は後方待機!いつでも出れるようにしておくように!式姫の二人は大門の守護者との戦闘に妨害が入らないように警戒を!……じゃあ、優輝、椿、葵、司。頼んだぞ」

「……任せてくれ」

 時間がない。急がないと。……でも、その前に。

「クロノ、一つ頼みたい事が」

「なんだ?」













「……準備、完了……」

「……頑張ってください」

「任せて」

 神降しを事前に済ませ、()は転送ポートに立つ。
 隣には、葵と司が来る。

「あの戦闘区域に直接転送する事は出来ない。……どうやら、座標が狂わされるようだからな」

「問題ないよ。すぐに駆け付ければいいんだから」

「……健闘を祈る」

 クロノのその言葉と共に、私達は転送された。







「……あっちね」

「じゃあ、優輝君。私は……」

「任せた」

 神降しの影響で、椿の口調が出そうになる。
 まぁ、一人称が変わるんだし、今更だけどね。

「(反動も大きいだろうけど……仕方ないか)」

 相手は大門の守護者。
 椿と葵が、“絶対に敵わない”と思ってしまう程の相手。
 そんな相手に、神降しの反動を気にしてなんかいられない。

「……行こう」

「偽物は、任せて」

 司と別れ、葵と共に一気に駆ける。
 向かう先は東京。“武蔵国”と呼ばれていた地域……!











       =out side=





「………」

「ォオオ……オオ……」

 大きな体が、その場に崩れ落ちる。

「……そん、な……」

 それを遠くから双眼鏡で見ていた男は信じられないように呟く。

「あれほどの相手を、たった一人で……」

 倒れ伏す四体の四神。
 それらを倒したのは、たった一人の少女だ。
 見た目だけの問題なら、あり得ないと思うだろう。

「くそっ……!」

 避難してきた人達を守る彼らは、四神が相手をしている間に守りを固めようとした。
 だが、そんなのは無意味だと、四神の戦いを見て理解したのだ。
 さらには、別方向の場所に、正体不明の龍が現れていた。
 そちらの警戒も怠れないため、どうしようもなかったのだ。
 ……その上で、四神があっさりと倒されてしまったのだ。

「あ……ぁ……」

 悪態をつく者もいれば、怯えて声が出せなくなる者もいた。
 何せ、自分たちではあれに勝てない事も、次は自分たちがやられる番だとも、理解できてしまったからだ。

「っ………!」

 一歩、少女は彼らに向かって歩く。
 双眼鏡越しにそれがわかり、つい体が跳ねるように強張る。

「……!」

 だが、それ以上少女は歩を進めなかった。

「あれ、は……」

 恐怖に足を竦めながらも、状況を見ていた男が呟く。
 少女の少し離れた前方に現れたのは、二人の少女。
 片や、銀髪に黒い外套を纏った少女。
 片や、狐の耳と尻尾を生やし、茶髪で十二単のような着物に身を包んだ少女。

 ……葵と、神降しをした優輝だ。

「まさか……」

 様子を見ていた男は期待するように呟いた。
 対峙しているという事は、その二人も味方をしてくれるのではないかと。
 ……果たして、その予感は合っていたのだった。















   ―――現世と幽世を巻き込んだ戦いが、今始まる……















 
 

 
後書き
封印されし龍…HP100万と言うレイドボスもびっくりなHPの龍。所謂スキルの威力チェックのサンドバック的な立ち位置の妖だが、HP半分から徐々に強さが増す。本来なら厳重な封印が施されているが、今回は封印なしで現れた。


描写していませんが、蓮と交流があった時期(115話でちょろっと説明した)に、司による魅了防止の加護を受けているのでシーサーは魅了を受け付けません。
封印されし龍に関してですが、妖としての正体が不明なのでただの足止めにしかなりません。と、言うより、書いていて大門の守護者と一対一にならないと気づいたので、急遽登場させた感じです。よって、絡新婦のように戦闘シーンはカットされます(予定)。予めご了承ください。 
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