相談役毒蛙の日常
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二十八日目
七月某日
「やぁ、相談役。今少し時間を貰ってもいいかな?」
「何の用だクリスハイト」
イグシティの転移門前で俺を待ち構えていたウィンディーネ。
コイツの名はクリスハイト。
リアルでの名前は菊岡誠二郎。
総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課の職員…という事になっているらしい。
『らしい』というのは、コイツ絶対に官僚じゃないからだ。
多分自衛官。
それも左官クラスのエリート。
何故わかるかって?
そりゃ、父さんが自衛官で一等海佐やってるし、『自衛官』の雰囲気を知っている俺としては、菊岡が自衛官であるのは火を見るより明らかだ。
コイツと初めて会ったのが五月中旬。
和人に呼び出されて原宿のスイパラに行くと、和人と菊岡が居たのだ。
世界樹内部に突入した時の話を聞きたいという理由だった。
その隣で和人が申し訳なさそうにしていたのを覚えている。
「いやぁ、また少し話を聞きたくてね」
「またかよ…面倒くせぇな…」
前回はキリトの顔を立ててやったが、コイツに従う義理は無いのだ。
「そこをなんとか!」
んー…んー…あ。
「そうだなぁ…アンタの本職教えてくれたら、と言いたい所だが消されそうだから止めておこう」
「っはっはっはー…明日葉提督の御子息に手を出したら後が怖いからねー」
「提督?俺の父さんは艦長だぞ?」
「おや?知らないのかい?
明日葉一等海佐といえば海自唯一のコンバットプローブンと呼ばれる護衛艦【黄昏】の艦長だよ」
え?なにそれ知らない。
「え、え?コンバットプローブン?
【黄昏】が?そんなのしらないんだけど?」
するとクリスハイトは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「おいクリスハイトもしかして今のって」
外交問題で揉み消された事案じゃないのか?
「あー…トード君。いや灯俊君。
今の話は聞かなかった事にしてくれ。
冗談抜きで僕の首が『物理的』に跳びかねない」
「はいはい」
つー事はやっぱりコイツかなり高位の人間だ。
それも中央に勤める人間だろう。
二等か一等左官。下手すれば将補か?
「と、トード君。君が何を考えてるかはだいたい解るけど、それ、他の人には言わないでね」
「はいはい…」
「んで本題なんだけど今度和人君にまた話を聞くからSAO学校に来て欲しいんだ」
「まぁ…構わんが…」
「でも和人君には内緒だよ」
「Why?」
「びっくりさせたいからさ」
「あっそう。日時は?」
「追ってメールするよ」
「そうか。じゃぁな」
立ち去ろうとすると、クリスハイトが俺の手を掴んだ。
「んだよ?これからレベリングなんだが?」
先日のアップデートでレベルキャップが解放されたのだ。
「いや、その、僕のレベリング手伝ってくれないかい?
報酬は…リアルで」
「おいおい。いいのか?仮にも仮想課の人間が。
そりゃRMTにならないのか?」
「金銭じゃなければいいんだよ」
ならいいかな?
あ、でも少し気に入らないからな…
「俺のレベリングについてくるってんならいいぞ」
「交渉成立だね」
「この後どれくらい入っていられる?」
「ざっと五時間かなぁ」
side out
目撃者曰く、その時ウィンディーネをつれ回していた相談役の顔は、凶悪な笑みを浮かべていたという。
side in
「うっひぃぁ!?」
「おいおいどうしたクリスハイト?
そんなんじゃレベルは上がらないぜ?」
と話しかけつつモンスターをポリゴンの欠片にしていく。
「素人を上級ダンジョンに放り込んでよくもそんな事が言え…あっぶない!?」
「えー?お前が俺のレベリングについてくるって言ったんじゃん」
現在地、アルン北西上級ダンジョン。
のモンスターハウス。
「モンスターハウスでのスローティングはレベリングの基本だるぉ?」
「僕と君のレベル差が何れだけあるとおもってるんだ!?」
「ざっと…70…?」
「ななっ…!?」
「うんだから実はここら辺の敵らくしょうなんだわー」
「君にとってはね!」
「だいじょうぶだいじょうぶ。
お前でも頑張れば行けるってかっこぼうかっことじる」
実際クリスハイトも数体倒している。
「アインクラッド最前線に放り込まなかっただけ有難いと思って欲しいな、クリスハイト君」
「くそっ!僕は何故こんな鬼畜の後をついてきてしまったんだ…!」
「クリスハイト…こんな聖人君子を捕まえて鬼畜とは君の目はガラス玉なのかね?
低レベルの君のために『君がギリギリ死なないレベル』のダンジョンに案内してその上君が死なないよう監視してあげているというのに…
私は悲しいよ…クリスハイト君…」
「この中でそんな芝居がかった仕草ができりゃぁ余裕だろうよ!」
まぁ、事実いつも飄々としているコイツの必死な顔を見れて満足だ。
「おっと…」
クリスハイトの背後を取ったモンスターのウィークポイントに一撃入れて撃破。
振り抜き様に俺を包囲しようとするモンスターの首を跳ねる。
「ほらほらー、がんばれー。
あとごふーん」
「はぁ!?」
「その後五分インターバル取ってまた突入ね」
「そんなに持つわけ…!」
「嫌なら彼処のトレジャーボックス自分でこわしてね~」
四分十八秒後。
クリスハイトが振り下ろした槍が、トレジャーボックスを叩き割った。
「マジか。やりやがったコイツ」
そして、全てのモンスターが消失した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
トレジャーボックスの前で大の字になって倒れるクリスハイト。
「で、良いものは手に入ったか?」
「あー…?あー…なんか装備が…」
ALOではトラップハウスのトレジャーボックスでも、破壊すればそれなりの確率でアイテムや装備がドロップする。
まぁ、クリスハイトはそんな事構ってられないくらい疲労しているが…
「自衛隊の訓練よりマシだろうに」
「自衛隊では…武器を持ったモンスターに立ち向かう術はおしえない…」
「そか。なら…もう少しやろう」
「は?」
「あと14セットね」
「え?ちょ?」
数分後
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ダンジョンにあるウィンディーネの叫び声が響くのだった。
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