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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その24

 
前書き
本編現状~子供の間辺りの一コマ。
お兄ちゃん認定件、トラウマ製造編です。
頼れるアニキは好きですよ。 

 
一般的に物心がつくとされる三才に、この度私はなりましたが、それでも私を取り巻く環境は微妙なままだ。

と、いうか、縁も縁もない孤児を、一片の個人的感情と、冷徹な里長というスタンスで、私の出生を秘匿したまま、ヒルゼンさんが私を庇いきれる訳がない。
何より、根出身の暗部の人々曰く、私の出生、つまり、私四代目火影の娘で九尾の器という立場的に、それ故根の意思を統括しているダンゾウの意に添わなくなる存在だから、私は常に殺害未遂を繰り返されているそうですよ。
けれどそうならない可能性も少しだけあるから、完全に殺さないんだそうです。
今は。

最初から破綻してるめっちゃ鼻で笑っちゃう理屈を垂れ流し、敵になるならいつでもこうして殺してやると嘲り笑う暗部の一人にとうとう耐えかねて、そいつの前で九喇嘛のチャクラを爆発させたのを切っ掛けに、暗部の人達の私への仕打ちは火影の知る所となり、ヒルゼンさん自身が執務室にベビーベッドを持ち込んで、自分の目の前で暗部の人達に私の世話をさせるようになった。

そうして、ようやく私は三つになった。

ヒルゼンさんが出勤する時、私も一緒にヒルゼンさん家を出て、ヒルゼンさんが家に帰る時は一緒に帰る。
そんな風に生活していたから、ヒルゼンさんの奥さんも、三年前に死んでいる事を知っていた。
そして、猿飛家の家人達は、私が誰の子供なのかを知ってました。
その上で、気持ち良いくらい無視されてます。
憎々しげに睨まれます。

まあ、気持ちは分からないでもない。
彼らはあの時何があったか詳細を知らなくても、お母さんの妊娠は知ってたし、お母さんが人柱力だって事も知っていた。
だから、出産の失敗でくらまが出てきてあの惨劇を引き起こし、四代目が責任とって自分の子に九尾を封じたとそう思ってる。
そう言う声を聞いてしまった。

そして、三つになったから、だから私は、最近ヒルゼンさんの家に置いて行かれる事が多くなった。
だから、聞こえてきた。
聞いてしまった。
知ってしまった事情でもある。

私のせいではないし、お父さんもお母さんも悪くはないのも知っているけど、ずっと使えていた奥様を失った猿飛家の人達や、ヒルゼンさんの気持ちも分からないでもなかったので、ヒルゼンさんに置いて行かれた時は、邪魔にならないように部屋の中でなるべく大人しくしてました。
反感持たれてるのは分かっていたし、嫌われてるのも分かっていたので。
好き好んで自分に嫌悪感感じている人達の目に止まるような事はしたくないですもんね。

でも、部屋の中にじっとしてるのにもそろそろ飽きて来た。

朝と夜。
ヒルゼンさんと一緒に食べるご飯以外、食べる物も渡される事も無いし。
お腹空かせたまま日がな一日じっとしてるのは結構な苦行だ。

ヒルゼンさん家の回りは山に囲まれてるし、もしかしたら何か食べれる物が見つかるかもしれないし、何か面白いものも有るかもしれない。
そう思いついてしまえば、じっとなんかしてられなかった。

こっそりと、静かに襖をあけて、裸足のまま庭に降りる。
生まれて初めての冒険に、胸がわくわくする。

何があるんだろう。
美味しいものが見つかればいいな。

小柄さを生かして、細々とした仕事をこなしている人達の目を掻い潜り、一路山を目指す。
誰にも見つからずに抜け出す事に成功しました。

なかなか上出来なんじゃないですか?
私、忍びの素質有るかもしれません。
ご機嫌になりながらどんどん山のなかに進んで行く。
見たこと無いものいっぱいあって、目移りしちゃいます。
始めて見る草とか、木とか、花とか動物とかとかとか。
道端に転がってる枯れ枝とか石ころだって私の興味を引き付けてなりません。

なんだこれ。
面白すぎる!
部屋に閉じこもりっきりになってただなんて、昨日までの私は馬鹿だったんじゃなかろうか!?

「わあ、なんだろこれ」

始めて目にするあれこれに次々に目移りしているうちに、私と同じくらいの高さの茂みに、艶々とした小指の先位の真っ赤な木の実を見つけました。

透き通るような赤い色が、小さいけれども美味しそうです。
思わず手に取り口に入れようとしたその時でした。

「おい!何しようとしてる!!」
「あ」

突然後ろに現れた男の人に腕を捻り上げられ、私が見つけた木の実は地面に落ちてしまいました。

そして、腕が痛いです。
腕どころか、肩の付け根も痛いです。
知らない人に怖い顔で睨まれ、思わず身が竦む。

私が怯えているのに気付いたのか、突然現れた成人間際だろう大柄な男の人は、私を睨みつける表情と拘束する力を緩めて、しゃがんでくれました。

「お前、今、何しようとしてた?」

しゃがんで、私と目を合わせて、掴んでいた腕の力は緩めて、優しく問いかけてくれたけど、私を掴んだ手を放してはくれそうにありません。
この人が私に何をしようとしてるのか、じっと見つめて観察します。
痛い事や嫌なことされるのは嫌なので。

でも、ヒルゼンさんの家から抜けて来ちゃったのは私の方なので、悪いのは私の方かもしれないですけど。
この人、一体誰なんでしょうか。
暗部の人じゃなさそうな、一般的な?普通の格好?してますけど。

……とりあえず、この人今は任務中じゃないんだろうな、って格好してるのは確かです。

だって、こんな格好してる人、初めて見ました。
首回りのふわふわが似合ってるようで似合ってません。
何だかとっても微妙です。
こういう恰好が里の流行りなのでしょうか。

「こいつは旨そうに見えるが、毒があるのを知らねえのか?」

思考に気をとられて、口を閉ざして答えない私に業を煮やしたのか、現れた男の人は憮然とした表情でそう言いました。

「え。どく」

男の人が発した思わぬ言葉に呆然とします。
じっと男の人を見つめると、なんだかその人は困ったように頭をかき混ぜて繰り返しました。

「そうだ。毒だ。こいつを食ったら、お前みたいなチビはそれで死んじまうかも知れねえんだぞ。知らねえのか?」

まじですか。
そんな事、今日初めてここに来た私が知るわけありません。
こくんと頷くと、然もあらんとばかりに男の人は頷きました。

「そもそもなんでお前みたいなチビが一人でこんな山の中彷徨いてんだ。一人で出歩くなって、父ちゃんや母ちゃんに言われなかったのか?」

男の人の追及に、思わず沈黙します。
何かしたいときは家の人に声をかけろとヒルゼンさんには言われてます。

私は今日、その言いつけを破りました。

でも、多分、私が声をかけたとしても、聞いてしもらえないと思うし、一度、殴られました。
ヒルゼンさんには言いませんでしたけど、それで十分です。
また声をかける選択は私には無い。

叱られているのは分かっていても、そんな事を私に言うのはヒルゼンさんだけなので、思わず視線を落として俯きます。
この人の言うことは正しいけれど、私にとっては余計な事でもある。
それでも次はせめて口に入れる前に一応九喇嘛に聞いてみよう。

俯きながらそう思った。
その時だった。

「もしかしてお前、親、居ねえのか?」

思い当たってしまったとばかりに、呆然と呟いた男の人に、私は素直に頷いた。
今のところ、この人は私に対する害意は無いし、何だか心配してくれているみたいだから。
きっとそれは、私が九喇嘛の人柱力と知るまでなんだろうけれど。

「そうか…。じゃあ、お前、誰と暮らしてんだ?」
「おじーちゃん」
「そうか、じいさんと暮らしてんのか」

安心したように破顔した男の人に、私は何だか申し訳なくなった。
だから、思わず告げていた。

「おじーちゃんといっしょだけど、おじーちゃんはわたしのほんとうのおじーちゃんじゃないの。おじーちゃんはほかげさまだから、しょうがないからわたしをほごしてくれてるの。わたし、みんなにきらわれてるから。でも、わたしがしぬとみんながこまるから」
「何だと!?お前、まさか…」
「ほんとうは、おじーちゃんもわたしのこときらいなんだとおもうんだ。だって、おじーちゃんのおくさん、わたしのせいでしんじゃったんだって。わたしがうまれたから、ころされちゃったんだって」

まだ少し胸が痛い知ってしまったばかりの事実に、私は言葉を止める事は出来なかった。
この人が、何処の誰かも知らないのに。
私の素性を察したら、もしかしたら攻撃してくるかもしれないのに。
それでも止まる事は出来なかった。

「なのにわたし、おじーちゃんのところにいていいのかなあ……」

だけど、行く宛なんて、私には何処にもありません。
せめて、邪魔にはならないようにしたいけど、でも、空腹は辛いし、する事ないのは退屈だし、つまらないのも好きじゃない。
なら、私はどうしたらいいんだろう。
途方に暮れて、無言になったその時でした。

「別に構わねえよ。好きなだけ居りゃあいい」
「え」

力強く断言した目の前の人の言葉が凄く意外で、思わず目を丸くした。
何だか苦笑を浮かべたその人は、大きな手のひらで私の頭を力を込めてぐしゃぐしゃにかき回した。

「お袋がお前みてーなチビを恨むわきゃねえし、むしろ家から放り出したらそれこそ雷落ちてくらあ。気付いてるかどうか分からねえが、お前が居んのは俺の家だ」
「え!」

男の人の言葉に更に驚き、硬直する。
ヒルゼンさんのお家を自分の家って言うことは。
ヒルゼンさんと同じお家が自分の家なら、それなら目の前のこの人は。

「俺あ、いわゆる火影の息子ってやつでな」

ですよね!

「おじーちゃんのこども…」
「不本意ながらな」

思わず呟いてしまった私に、肩を竦めて肯定した人を、私は呆然として見上げ続けました。

見たところ、二十歳前後に見えなくないですが、高校生と言われたらギリギリそう見えなくもない微妙なお年頃にも見える逞しさをお持ちです。

そうですか。
ヒルゼンさんのお子さんでしたか。

え、つまり、この人、いわゆるあのアスマさんなの????
ヒルゼンさん家の人達が何時も話してる末の坊っちゃま???
坊っちゃまって感じじゃ全然無い、とってもがたいの良い大柄な人なんですけど、坊っちゃま詐欺なんじゃ無いんですか???

思わぬ事に思わずフリーズして訳の分からない疑問が怒濤の様に埋め尽くします。

「なあ、お前、名前は?ナルトでいいのか?」

尋ねてきたアスマさんらしき人の問いかけに、私は素直に頷きました。
にかっと人懐こい笑顔を浮かべた推定アスマさんは、ニヤニヤと面白そうにこう続けました。

「そっか。よし、じゃあ、ナルト。これから俺の事はアスマ兄ちゃんと呼べ。お前は俺ん家に住んでるから、特別に俺を兄ちゃんと呼ぶ事を許してやる。ほら、呼んでみ?アスマ兄ちゃんだ」

ああ、やっぱりアスマさんって言うんですね。
そして、何そのお兄ちゃん呼び推奨。

そう言えば、アスマさんって、末っ子何でしたっけ?
じゃあ、素直に言うこと聞いておいてあげた方が良いでしょうか。
ちょっと、どころか、めっちゃ恥ずかしいんですけど!!!!

「アスマ、おにいちゃん…?」
「アスマ兄ちゃんだ」
「アスマおにいちゃん」
「アスマ兄ちゃんだ!」
「アスマおにいちゃん!!」

頑なに兄ちゃん呼びを強制しようとしてくるアスマさんが何だか可笑しくて、お兄ちゃん呼びするのが楽しくなってきちゃいました。

「アスマにいちゃんアスマにいちゃんアスマにいちゃん!!!!」

ニコニコニコニコと笑いながら、いっぱい連呼してあげました。

「お、良く言えたな!えらいぞ、ナルト!」

その途端、ぐしゃぐしゃぐしゃ、と遠慮なく頭をかき混ぜられましたが、それすらも何だか楽しくて、私は思いっきり笑い声をあげました。

「なあ、ナルト。お前はまだチビだから、きっとまだ良く分かっちゃ居ねえんだろうけどよ。お前の親父さんはすげえ奴だったんだぜ。何せ、木の葉の里の英雄だ。だからな、誰に何言われても俯いたりすんな。しゃんと前を向いて顔をあげろ。今の木の葉があるのは、お前の父ちゃんが頑張ったからだ。お前のせいなんかじゃちっともねえよ。分かったか?」
「うん!」

そう言ってくれたアスマさんの言葉が嬉しくて、私は素直に頷きました。

「よーし、良い子だ」

ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜてくれる大きな手が嬉しくて、私は思わず笑い転げる。

「ああ、そうだ」

そんな私に構ってくれていたアスマさんが、ふと思い付いたように声をあげました。

「お前、ガキの頃の俺の服着てるってことは男だろ?だったら自分の事わたしって呼ぶのは変だ。俺か僕と呼べ。いいな?」

え。

思わぬ要求にまじまじとアスマさんを見つめてしまう。
というか、私が着てるのって、アスマさんのお下がりだったんですか。
知らなかった。

というか、アスマさん、私が女だって気付いて無い?
まあ、別にそんなのどうだっていいっちゃ、どうだっていいんですけど。

「分かったか?兄ちゃんとの約束だ」
「うん!分かった!わたし、じゃない、ぼく、お兄ちゃんと約束する!」

生まれて初めてのヒルゼンさん以外の人との約束につられて、私は笑顔で承諾しました。
それくらい、別に安いもんです。

「よーし、じゃあ、ナルト。家に帰るぞ」
「え!?わ、わあっ!」

言うが早いかアスマさんはひょいっと私を担ぎ上げて、肩車して歩き出しました。
初めてみる高い所からの視点に、めちゃくちゃ感動してめちゃくちゃ興奮します。
その時でした。

ぐう~、きゅるきゅるきゅるきゅきゅ~。

空っぽのお腹が盛大に空腹を訴えてくれました。

「ナルト。お前、腹減ってんのか?」
「うん」
「わっはっはっは!!そうか、腹減ってたのか!だったらあれは旨そうに見えただろうな!残念だったな、ナルト」
「うん。おいしそうだった」
「はっはっはっは!」

酷く上機嫌で私を肩車してぷち家出から連れて帰られたのが切っ掛けで、アスマさんはそれから私を何かと気にかけて、色んな事の基礎の基礎を教えてくれました。

例えば、投擲の基本姿勢。
チャクラを使った身体強化法。
あるいは、山に生える山菜や果物。
食べれる物と食べれない物。
毒を持つ生き物や植物等々。
火影の息子という立場だからこそ知り得た、本来なら口にしてはならない筈の様々な機密云々。
私を可愛がってくれながら、アスマさんはいろんな事を教えてくれました。

最後に、里の人間に心を開けば、いつか必ず私は裏切られるという教訓までも。

ある日突然、アスマさんの姿が里から見えなくなる半年後まで、私は大好きなお兄ちゃんとして、私に構って可愛がってくれたアスマさんに、全力で懐いていました。 
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