儚き想い、されど永遠の想い
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457部分:第三十五話 椿と水仙その八
第三十五話 椿と水仙その八
「水仙の香りも」
「楽しまれますか」
「水仙もただそこにあるだけじゃない」
「花だけでなく香りもですね」
「ある。あの香りも楽しみたい」
「わかりました。それでは是非共」
こうしてだった。義正は佐藤が教えてくれたその神社の水仙を観に行くことになった。だがその前にだ。彼は屋敷のシェフ達に話したのである。
「冬で冷えますので」
「冷えるからですね」
「温かいものをですね」
「はい、それをお願いします」
食事だ。そのことを話したのである。
「温かいものを」
「ではすき焼きはどうでしょうか」
シェフの一人が言ってきた。
「それはどうでしょうか」
「すき焼きですか」
「あれは温まります」
それ故にだというのだ。
「ですからどうでしょうか」
「いいですね。それにです」
すき焼きと聞いてだ。義正はだ。
少し微笑みだ。こんなことを言った。
「あれは我が国、今の我が国にとって印象的な料理ですね」
「牛肉ですね」
「それがあるからですね」
「はい、あれはいいものです」
その微笑んだ顔での言葉だった。
「しゃぶしゃぶもいいですがすき焼きもです」
「文明開化ですね」
「そうです。では明治を食べましょう」
明治のだ。文明開化をだというのである。
「また花を行く前に」
「それでは」
こうしてだ。その水仙が咲き誇る神社に行く前にだった。義正は真理にシェフが作ってくれたすき焼きを出した。それを二人で食べながらだ。
彼はだ。すき焼きの肉を取りつつだ。彼女に言ったのである。
「このすき焼きもです」
「身体にいいのですね」
「肉だけではありません」
その肉以外のものも取りながらの言葉だった。
「葱や豆腐もあります」
「麩に糸こんにゃくもですね」
「色々と入っています」
肉だけではないのだ。すき焼きはだ。
それを研いだ卵の中に入れつつだ。彼は食べつつ真理に話す。
「ですからこのすき焼きもまたです」
「身体にいいのですね」
「それにです」
「それにですか」
「文明開化です」
真理にもだ。すき焼きにあるこれを話すのだった。
「それもありますから」
「すき焼きは明治維新と共にでしたね」
「こうして広まりました」
「新しい食べものですか」
「そう聞いています」
こう話すのだった。真理に対して。
「残念ですがすき焼きの詳しい由来はわかりませんが」
「それでもですか」
「新しい料理です」
それは事実だというのだ。
「そう聞いています」
「そうですね。牛肉ですし」
「西洋の食べ方ですが」
肉を食べること自体はそうだった。
しかしその多量の砂糖と醤油を使ったすき焼き自体はどうなのか。義正が今話すのはそのことだった。
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