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儚き想い、されど永遠の想い

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439部分:第三十四話 冬の花その三


第三十四話 冬の花その三

「お話は聞いていましたが」
「そうですね、ここまでとは」
 義正の声は恍惚となっていた。そしてだ。
 その菊達、まさに百花繚乱の花達を見てだった。
 真理にだ。こう言うのだった。
「思いませんでした」
「私は」
 そしてだ。真理の言うことは。
「菊はこれまで何度も見てきましたけれど」
「それでもですね」
「今まで見た中で一番奇麗です」
 今見ている菊達がだ。そうだというのだ。
「何か。寒さの中に」
「菊があってですね」
「不思議なまでに奇麗に感じます」
「主人が好きなのです」
 三人の隣にいるだ。婦人が話してきた。
「菊を。それでなのです」
「こうして飾られているのですか」
「主人と私でそうしています」
 菊達を飾って手入れをしている。そうしているというのだ。
「そしてです」
「そして?」
「そしてといいますと」
「この花達は私達にとっては子供達と同じ位掛け替えのないものです」
 そこまでのものだというのだ。今咲き誇っている菊達は。
「辛い時も悲しい時も一緒にいましたから」
「その一生の中で、ですか」
「はい、そうです」
 今もだというのだ。それはだ。
「ですから。こうしてです」
「咲いていることを見るのは」
「幸せを感じます」
 それ自体にだというのだ。
「この菊達を見ていると」
「だからなのですね」
 ここでだ。義正はだ。
 母が何故この場を紹介してくれたのがわかった。そこにそうしたものがあることをだ。
 それでだ。彼は言うのだった。
「母は私達に菊達を」
「そうなのですね」
 真理はこの話は聞いただけだった。しかしだ。
 そのことを実感してだ。それで彼女も言った。
「このお庭の菊達には多くのものがあるのですね」
「主人は。今は仕事で神戸にはいませんが」
 それでもだというのだ。
「お屋敷にいる時はです」
「その時はいつもですね」
「子供達。もう子供達も皆家から出ていますが」
 婦人はこのことは寂しい笑みになって話した。
「ですがそれでもです」
「お子様達と同じだけですか」
「娘が三人いました」
 それが婦人とご夫君の間の子供達だったというのだ。
「三人共です。もう嫁いで孫も大勢います」
「そうなのですか」
「もうあの方々は」
「はい、いません」
 そうだというのだ。
「もうです。ただ」
「ただですね」
「今も娘達です」
 微笑んでそれはだというのだ。
「そのことは変わりません」
「そうなのですか」
「あの娘達もです」
 婦人の話は続く。
「菊達の手入れをしてくれています」
「今もですか」
「そうです。今もです」
 幸せは過去のものではなかった。
 
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