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儚き想い、されど永遠の想い

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434部分:第三十三話 鈴虫その十


第三十三話 鈴虫その十

「そしてこの林檎はまた特別でして」
「どういった林檎を使って作っているのでしょうか」
「どうも我が国の林檎は亜米利加のものに比べて甘いのですが」
「その林檎は違ってですか」
「はい、本来の甘酸っぱい林檎なのです」
「それをアップルパイやアップルティーに使って」
「こうした味になっています」
 そうだというのだ。
「アップルパイやアップルティーは。シェフに聞いたのですが」
「そうした林檎でないとですか」
「よくないそうです」
「ただ。甘い林檎を使えばいいというのではなく」
「はい、使っていい味を出せる林檎は決まっているとか」
「成程。勉強になりますね」
「林檎は身体にもいいのです」
 義正はこの話もした。林檎と健康の話だ。
「一日一個食べれば医師は必要ないとまで言われています」
「それ程健康にもいいのですか」
「独逸の話ですがそれで医者いらずとも言われています」
「ではその林檎を食べれば」
「はい、健康にもいいです」
「では林檎も食べて」
「春を迎えましょう」
 何としてもなのだった。今の義正達にとっては。
 そのことを話しアップルティーも飲むとだった。やはり甘さと何処か酸っぱさもあった。しかもそこには林檎独特のあの香りもあった。
 その香りも味わいつつだ。真理は楽しむのだった。
 それからだ。真理はよく林檎を食べるようになった。
 そのことについてだ。婆や尋ねた。
 今彼女は屋敷の中から窓越しに冬になろうとしている庭を見ていた。その彼女に尋ねたのである。
「あの、奥様は」
「どうしたのかしら」
「近頃林檎をよく召し上がられていますね」
 直接だ。尋ねたのである。
「それはどうしてでしょうか」
「そのことね」
「今もですし」
 見ればテーブルの上にオレンジの小さい切れ端がある。白い皿の上に幾つも置かれている。婆やはその切れ端についても述べた。
「それも林檎ですね」
「ええ、干し林檎よ」
「どうして林檎をそこまで召し上がられるのですか?」
「美味しいし。それに」
「それに?」
「身体にもいいから」
 だから食べているというのだ。今も。
「それでなのよ」
「御身体のことからでしたか」
「そうよ。それはどうかしら」
「非常にいいことです」
 婆やは微笑みそれをいいとした。
「御身体にいいものを召し上がられて」
「そうしてそのうえで」
「冬を越えましょう」
「そして」
「はい、桜を見ましょう」
「三人で見るわ」
 林檎を見つつだ。真理は答える。
「何があってもね」
「そうですね。その為には滋養です」
「林檎は。今の私には」
「とてもいいですね」
「味がよくて。しかも」
「はい、そのうえ」
「優しい味だわ」
 そうでもあるというのだ。
 
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