相談役毒蛙の日常
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七日目
「………」ウツラウツラ
「お、おい、リー…」
「少しは寝かせてやれ、三時間以内に起こせばいい」
「わかった」
辺りを包む宵闇、見上げる彼方には煌めく光。
しかしその光は星々ではない、煌めくは氷、覆う天蓋は陽光も月光も遮る。
妖精達の羽を封じる闇に包まれたこの場所は…
ヨトゥンヘイム。
「う~ん………」
おっと…キリトも落ちたかな?
ポスン…
「………………」
「すぅすぅ…」
ただいま俺、キリト、リーファの並びで玉藻に寄っ掛かってる。
今の状況?キリトが俺の膝に落ちてきたんだよ。
さて…拳を振り上げてっと…
ヴォグシッ!
「にゅぎゃ!?」
「な、何!?敵!?」
変な声を上げて飛び起きたキリトとそれに驚き起こされたリーファ。
「いいか、キリト。俺の膝で寝ていいのは俺の幼馴染だけだ。
リーファ、起こして悪かったな」
「い、いや、あたしの方こそ寝ちゃっててごめん」
「いいっていいって」
「ふぐぉぉぉ…頭が…」
「ペインアブソーバ有るんだから問題ねぇだろ」
「うぐぉぉぉ…って!オイ!こらトード!HPが三割程削れてるんだが!?」
「そらお前、ウィークポイントにクリーンヒットだったしな。
俺の筋力考えれば素手でも…五割行くと思ったんだが…」
「余計に質悪いだろ!」
「て言うか騒ぐな、邪神が来たらどうする?」
「っむぐ!」
いや、今更口抑えてもおせぇよ。
「すぅすぅ…」
っむ?リーファの奴また寝てるし…長時間ダイブに慣れてないようだったし学生か?いや、まぁ俺も学生だが…
キリトは…起きてるな、さて…ここで色々と聞いてみるか…
「なぁ、キリトよ」
「どうしたんだ?」
「おまえ…何者だ?」
「は?何者って…スプリガンだろ」
「はぁ…言い方を変えよう」
核心を衝く。
「キリト、お前は…SAOサバイバーなのか?」
「な、何故それを!?」
「やっぱりか…」
キリトは今のでかなり狼狽していた。
「最初におかしいと思ったのは装備とあんたの技能の差だだ」
「装備?」
「お前さんのその大剣、たしか…ブラックプレートだったか?
それはどこの領にも売ってある剣だ」
俺も最初の頃に世話になったしな。
「更にそのコート、防御力そこまで高くないだろう?」
「あ、ああ」
「そう、あんたの装備はまるで…ベテランに仕立ててもらったニュービー…とでも言えばいいかな」
「………」
「そんな装備のあんただが飛翔速度が不自然なほど速い」
「そうか?」
「ああ、普通そんな装備の奴が速い訳がない。
そこであんたがVR慣れしていると踏んだ」
「へぇ…」
「しかしさっきも言ったようにあんたの装備はニュービーの物…
ALOプレイヤー以外でそこまでVR慣れしているのは昨年解決したSAO事件の被害者のみ。
更にあんたの戦闘の才能…
あそこまでの腕があれば噂の一つくらいは入る」
特にアルンにはそういった情報が入りやすい。
「それが無いという事、装備の質、そこから割り出せるのはあんたがSAOで戦って来たという事だ」
「なるほど、バレバレだったのか…」
「そうでもない」
「どういう事だ?」
「俺はあんたがSAOサバイバーだと確信が持てなかった」
「何故だ?」
「あんたの胸ポケットに居るプライベートピクシーさ」
「?」
「それが配布されたのはALOのβテスターだけだ。
だからあんたはSAOサバイバーではないと一度は思った。
しかしあんたはこのALO黎明期の事を知らなかった」
結論として。
「まぁ、そんな訳であんた…キリトはSAOサバイバーだと思ったのさ」
「そうか…うん、俺はSAOサバイバーさ」
「一つ聞きたい」
「なんだ?」
「何故、またこの世界に来たんだ?
このバイナリの世界に。また閉じ込められるとは思わなかったのか?」
「少しは、思ったよ。でも、忘れられなくてさ。
仮想世界は俺達にとっては既にもう一つの現実なんだ」
「そうか…」
「それに会いたい人が居るんだ」
「ああ、言ってたな」
「今でも300人が目覚めていないのは知っているか?」
「ああ」
「その中に俺の…恋人が居るんだ」
「恋人?」
「ああ、共にあの城を駆け抜けた…愛する人が…」
「リア充死ね爆発しろ」
「おい!ここはシリアスだろ!」
「シリアス?ハッ!犬にでも食わせとけ。
つーかノロケかよ」
「いや…それは…その…」
「で、それとあんたがALOやってる事に何の関係が?」
「ああ、俺の恋人らしき人が写ったスクショを見つけてな、ALOに来たんだ」
「ALO…スクショ…世界樹…恋人…目覚めない300人…」
と、なればやはりコイツの会いたい人ってのは…
「鳥籠の姫君…」
と、なれば以前俺が提唱した例の件も…
「知ってるのか!?」
「知ってるも何も…アレ撮ったの俺達だし」
俺のマナが切れるまで足場を作ってジャンプして…ってやったな。
「!?」
「でもアレ以上の情報は無い。
三十分で運営が障壁張りやがったからな」
「クッ…そうか…」
「まぁ、あんたが世界樹に行きたい理由はわかったよ」
「協力してくれるか?」
「ああ、あんたのお陰でこのゲームの事が分かるかもしれない」
「?」
「いや、なんでもない。
それに…そういう訳なら少し急ぐとしようか…」
ゆさゆさゆさゆさ…
「おい、リーファ、起きてくれ」
「う~ん」
「起きろー」
「あと五分…」
ニヤリ…
「おい、キリト」
「ん?」
「よく見とけ」
俺はストレージから氷を取り出す。
それもただの氷ではなく、ノーム領で取れる"万年氷鉱"だ。
それを…
ストン…
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!?」
リーファの背中に落とした。
ズドン!
「ごふぁ!?」
案の定リーファに殴られた。
「ま、前が見えねぇ…」
いや、冗談抜きで’前が見えねぇ’状態なんだが。
「自業自得よ!なに!ハラスメントコードでバンされたいわけ!?」
「叫ぶな叫ぶな、邪神が寄ってくる…」
「アンタのせいよ!」
さて…リーファも起きた事だし…
「二人とも」
「ん?」
「何よ?」
「脱出するぞ」
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