儚き想い、されど永遠の想い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
424部分:第三十二話 紅葉その十四
第三十二話 紅葉その十四
微笑みだ。こう述べたのだった。
「もう少しですね」
「召し上がられますね」
「はい、そうします」
こう答えてだった。そうしてだ。
真理はその果物達、特に柿を食べるのだった。そうしてだ。
切った果物を味わうのだった。そうしてだった。
植物園を後にして屋敷に戻ってだった。真理は言った。
「来月はですね」
「はい、待ちに待ったですね」
「紅葉ですね」
微笑みだ。真理は言うのだった。その屋敷の中でだ。
「遂にですね」
「そうですね。それにしても我が国は」
「日本は」
「幸せな国ですね。紅葉まで見られるのですから」
だからだ。幸せだというのだ。
「本当にそうですね」
「紅葉の美しさも見られるからですか」
「はい、だからです」
「紅葉を楽しむのは日本だけでしょうか」
「少なくともここまで深く楽しみ国はないと思います」
それは日本だけではないかと話す義正だった。
「秋の楽しみとして。それに秋は他にもです」
「他にも?」
「虫達がいますね」
義正はそのことも話に出した。
「夜の虫達ですが」
「あっ、鈴虫やキリギリスですか」
「そうです。それも如何でしょうか」
「そうですね。では鈴虫を」
「その声を聴きたいのですね」
「ですがそれは」
聴けないのではないかとだ。真理は言った。
「このお屋敷ではそうした虫がいる場所はありませんし」」
「いえ、貰えます」
「鈴虫達をですか」
「はい、ですから」
それでだと話す義正だった。
「聴けますが」
「そうですか。それでは」
「貰ってきていいですね」
「お願いします」
ここでも微笑みだ。真理は義正に答えたのだった。
「それでは是非」
「わかりました。では明日にでも」
「それにしても我が国は」
鈴虫のことまで聞いてだった。真理はだ。
遠い、尚且つ奇麗なものを見る目になってだ。そして言うのだった。
「花鳥風月に喜びが多いですね」
「そうですね。何かと」
「それも考えればですね」
「いい国ですね」
今度は義正が言った。
「四季に常に何か奇麗なものがありますから」
「そして今度は鈴虫ですか」
「花や海、食べものだけでなく」
「虫達までがその中にあるのですね」
そのだ。花鳥風月の中にだった。
「そうした国に生まれて楽しめるのは」
「喜ばしいことですね」
「一人だけでもそうですが」
そしてさらになのだった。
「三人で味わえるのは」
「ええ。最上の喜びですね」
「この子はまた感じるのですね」
真理は今は揺り篭ですやすやと寝ている我が子を見た。
義幸の揺り篭は義正と真理の席の丁度中間にある。その中で心地よく眠っている我が子を見ての言葉だった。真理の今の言葉は。
「三人で。心に残るものを見ることを」
「その通りですね。本当に」
「では」
「はい、それでは」
「鈴虫を見て。それに」
「紅葉も」
この二つは今一つになっていた。彼等の中では。
「三人で、ですね」
「そうしたものもまた」
秋を、三人のかけがえのない時間を過ごすというのだった。そうした話もしてだった。十月の蘭を親しんだのだった。その花鳥風月を。
第三十二話 完
2011・11・8
ページ上へ戻る