FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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北の墓標
前書き
最近寒かったり暖かったり忙しいですね。
体調にだけは気を付けていきたいものです。
吹雪が吹き荒れる霊峰ゾニア。その麓では再度姿を現した剣咬の虎と青い天馬連合軍が防衛戦を張っていた。
「まるで虫が沸いているようだな」
「ありえねぇ大軍だよ、クソ」
進軍してくるアルバレス軍を見て思わずそんな言葉が漏れる。それでも彼らは決して引いたりはしない。
「それでも・・・ここから先に行かせるわけにはいかぬ!!」
「はい!!」
「もし突破されたらどうなるか・・・記憶にないね」
「俺たちで何としてでも食い止めるんだ!!」
気合いが入る剣咬の虎と青い天馬が立ち向かおうとした。その時、彼らはアルバレスの兵士たちが持っているあるものに気が付いた。
「え?」
「なんだあれ・・・」
最初は何を持っているのかわからなかった。しかし、近づいてくるに連れてその正体がはっきりしてくる。
木の棒にくくりつけられた4をモチーフにしたギルドマークを刻んだ男たち。いや・・・それを男と判別するのは一瞬難しかった。なぜなら、木に巻き付けられたそれは首から先がなく、兵士の中に切り離されたと思われる生首を持っているものたちが多くいたからだ。
「バッカスさん!!」
「バカな・・・」
「こんなことが・・・」
スティングが叫び、ローグは動揺し、ユキノは口を押さえる。他のものたちも信じられない状況に汗が吹き出す。
「バッカスですら・・・止められないのか?」
自分たちを救うために戦うことを申し出たバッカス率いる四つ首の番犬。しかし彼らは敵の強大すぎる戦力を前になす統べなく破れ、命を落としてしまった。
「リオン!!前線を押し上げるぞ!!」
「グレイ!!」
「一気に行きましょう!!」
「ジュビア!!」
絶望に暮れる北部とは対称的に南部ではフィオーレ軍が息を吹き替えしつつあった。理由は合流したグレイたちがアルバレス軍を押し始めたから。
「なんでお前たちがここに・・・」
ギルドで妖精の心臓を守っていると思っていた妖精たちの登場に驚きを隠せないリオン。それは他の者たちも同様でかなり困惑しているのが伺える。
「元々私たちの戦いだ!!自らよそのギルドの厄介ごとに首を突っ込むとは・・・感謝する!!」
「エルザ・・・」
最前線にいたカグラの隣に立つ緋色の女性。カグラは頼もしい存在の登場に思わず笑みを浮かべた。
「ついてこい」
「ああ」
俄然活気付く彼女たちは今までがウソのようにアルバレス軍を押していく。しかしそれでも数が違いすぎる。押しているようだがなかなかハルジオンの街にはたどり着くことができない。
「雷竜の・・・咆哮!!」
しかしそれを打破したのはこの男。放たれた圧倒的な雷の威力は凄まじく、地面が見えないほど人で溢れていたアルバレス軍の
間に、道が生まれていた。
「なんだこいつ!?」
「化けものじゃねぇか!?」
スプリガン16と対等に戦うことができるのではないかと思われるほどの魔力。それを放ったラクサスは一歩ずつ前に進んでいく。
「俺はお前たちを許さねぇ。お前たちのせいで、俺の仲間たちは傷つけられたんだ」
怒り満ちた青年の表情。それを見たアルバレス軍は顔を引き釣らせていた。
「大体レオンはいつも―――」
「だぁー!!わかったわかった!!」
前線を押し上げていくラクサスたちとは対照的にいまだに言い争っているチビっ子コンビ。そんな彼らを見据えている天海は、ようやく口を開いた。
「貴様ら、名は何と言う」
その声を聞いた瞬間二人は敵に全ての意識を向けた。しかし、思わずシリルは目を見開いた。
(なんだこの人の匂い・・・懐かしい・・・いや・・・違う・・・)
天海の匂いを感じた瞬間、シリルはある者が脳裏をよぎった。だが、それよりも違和感を覚えたのは、彼の魔力。
(魔力を一切感じないぞ?この人)
超魔導軍事帝国アルバレスの最高幹部・・・にも関わらず魔力を感じないのはおかしい・・・いや、もし仮に魔力を抑えているのだとしたら、レオンが彼に魔法を使わせることができないほどの実力差があるとも考えることができる。
「レオン・バスティアだ」
「シリル・アデナウアーと言います」
二人の名前を聞いた瞬間、天海は首を傾げた。しばし首を傾げていたかと思うと、彼はここで自らの名前を発する。
「俺の名は天海。ある目的を果たすためにここにやって来た」
「ある目的?」
「妖精の心臓を手に入れるためだろ?」
レオンたちもウォーレンからの連絡により全ての情報を入手している。彼らが妖精の心臓を奪い、それと同時にイシュガルを侵略しようとしていることも。
「残念だが、俺はそんなものは興味はない」
「「!?」」
彼の言葉を聞いて衝撃を受けた。アルバレス軍であるはずなのに彼はそれを求めているわけではない。それがどういうことかわからず二人は身構えてしまう。
「俺の目的は二つ。一つは強者との戦い。そしてもう一つは・・・」
そこまで言って男は駆け出した。素早い蹴り出しで飛び出した天海。彼は一瞬でシリルの前に立ち、無駄のない動きで蹴りを放つ。
「おわっ!!」
脅威的な速度ではあったが何とか反応することができたシリルはマトリックスばりの仰け反り方で回避すると、堪らず後方へと飛んで逃げる。
「・・・で?もう一つは?」
仲間が不意を突かれ襲われたことに対しレオンが拳を振るう。天海はそれに視線をくれることもせずに難なく受け止めた。
「安心しろ。もう達成されているようだ」
「「??」」
不思議な言い回しをする天海に困惑を隠すことができない少年二人。天海は掴んでいたレオンの手を払うように離すと、彼の腹部にアッパーパンチを叩き入れる。
「ガハッ!!」
「レオン!!」
思わず宙に浮いた少年の体。放物線を描いた氷の神は激しく地面へと落ちてしまう。
「あとは強者との戦いしか興味はない。さぁ、俺を楽しませてくれ」
戦うことでしか欲を満たすことができないその姿はまさしく狂戦士。危うい相手との戦いに、シリルとレオンは気を引き締めた。
激しくぶつかり合う男たちから離れたところ、そこでは裸体を隠している天神と地面に座り込んでいる剣士の間に、天空の巫女が立ち塞がっていた。
「なんて格好してんのよあんた。ハイこれ、ウェンディのだけど」
「ありがとうシャルル」
あられのない姿となっているシェリアにウェンディの服を着るように渡したシャルル。彼女はそれに袖を通したのは良かったのだが・・・
「あれ・・・きっつ・・・」
「・・・」
背丈の差もあったためかなりピチピチになってしまっていた。ウェンディはそれに悔しそうにしていたが、目の前の脅威が立ち上がったことでそちらに意識を向ける。
「おチビちゃんたち、ここがどこか知ってる?」
遊び程度にしか考えていなかった先程までの表情とは異なり目の色が変わっている女剣士。彼女を見て服を着替え終えたシェリアがウェンディの隣に立つ。
「気をつけて。あいつどんな魔法使ってるかわからない」
「うん」
いつの間にか服を切り裂かれたということ以外は何も情報がない。そのため如何なる攻撃が来るのか予想することができず、とてつもない緊張感が漂っていた。
「ここは戦場、子供の遊び場じゃないの」
「平和な街ハルジオンをそう変えたのはあなたたちです。私たちは絶対に街を取り戻してみせる」
ウソ偽りのない少女の決意。それにディマリアは面白くなさそうにしていた。
「私・・・子供にも容赦しないから。本当なら一瞬で殺せる。そう・・・本当に一瞬よ」
「来るわよ!!」
これまでとは比べ物にならないほど高まっていく魔力。シャルルはそれに対処するべく構えを取った。
「あなたたちに取ってはね」
カチカチと奥歯を鳴らしたディマリア。ここから彼女の猛攻が始まってしまうのか!?
「グレイ!!」
「オウ!!」
息のあったコンビネーションで次から次に敵を蹴散らしていく氷の造形魔導士たち。彼らに続くように、他のものもアルバレス軍を撃破していく。
「水流斬破!!」
水を操り二人の青年と共に戦っていたジュビア。その背後から、アルバレスの兵士が飛び掛かってくる。
「ジュビア!!後ろだ!!」
「!!」
、
目の前の敵に気を取られていたジュビアは背後からの攻撃に気が付かなかった。やられる・・・そう思ったその時、アルバレスの兵士を撃ち抜く見覚えのある魔法。
「ふぅ・・・久しぶりね」
呆気に取られていたジュビアたちにそう声をかけたのは、黒いマントに身を包んでいる桃色の髪の女性。
「メルディ!!」
天狼島での一件でメルディと仲良くなったジュビアはその女性の登場に嬉しそうに笑顔を見せた。
「お前・・・なんでここに・・・」
「魔女の罪参戦」
ジュビアと出会った時からは想像できないほど柔らかな笑みを浮かべられるようになったメルディ。それにジュビアはまた感動していたのだが・・・
「か・・・かわいい・・・」
一人戦場にあるまじき感情を抱いているものもいた。
「雷竜方天戟!!」
こちらでは一人で敵を次々に凪ぎ払っている大男。アルバレス軍はそんな彼に魔導砲を向ける。
「これでも喰らいやがれ!!」
ドンッと重厚感のある音から放たれた攻撃をラクサスは避けることができない。相手は魔導砲を船から大量に下ろしてきたらしく、それを地面に膝をついた青年に向ける。
「砲撃!!」
「しまっ・・・」
一斉射撃で雷の男を殺しにかかる。彼は最初のダメージが大きすぎたこともあり動くことができない。
「波動波!!」
砲撃が当たろうかとしたその時、青年の前に降り立った一つの希望。彼は手のひらを向けると、一瞬で全ての砲撃を跳ね返した。
「「「「「どわああああ!!」」」」」
結果的にカウンターの形になったことでアルバレス軍は大慌て。ラクサスは現れた青年を見て、思わず笑みを浮かべる。
「ったく、余計なことしやがって」
「よく言うぜ。無様に座ってたくせに」
メルディと同じマントを着こんだ赤い髪をした男、カミューニ・フィゾー。かつて聖十の称号を得たこの男も、アルバレスに立ち向かう。
「ハッ!!」
「ヤァッ!!」
エルザとカグラが最前線で仲間たちが進むための道を作っていく。二人の剣捌きの前にアルバレス軍は次々と凪ぎ払われていた。
「このまま街まで一気に行くぞ!!」
仲間たちを鼓舞するエルザ。それに全員が拳を突き上げると、カグラが目の前に現れた二人の男に気が付く。
「我らナインハルト隊四紋騎士」
「隊長を返してもらうぞ!!」
それは前日レオンに破れ捕虜にされていたナインハルトの部下たち。しかし、彼はもうこの世にいない。それを知っているカグラは申し訳なさそうな顔をしているが・・・
「悪いがここで止まるわけには行かないんだ!!」
何も知らない緋色の女性は目の前の二人をあっさりと蹴散らした。
「本当にケガ人か?」
「この程度、大したことはない」
全身包帯だらけなのに全くそれを感じさせない動きに感心せざるを得ない。そのままどんどん進もうかとした時、二人の影が被さったのがわかった。
「バカめ!!四紋騎士は四人いる!!」
「油断したな!!」
先程倒したのが全てではなかった。完全に油断していたエルザとカグラに飛びかかる四紋騎士。しかし、彼らの攻撃が届くよりも先に、青い髪をした青年がそれを遮り、吹き飛ばしてしまった。
「お前・・・」
「遅れてすまない」
二人の女性の前に降り立ったのはジェラール。彼の登場にカグラはひどく動揺していた。
「顔を隠せ」
「もう逃げるのはやめたんだ。ゼレフを倒すために、俺はここに来た」
強い意志が見てとれるジェラールだが、エルザが心配しているのはそう言うことではない。以前楽園の塔での事件の際、彼の手によってカグラの兄であるシモンが殺されてしまった。そのことを考えると、今この場で彼を見てしまったカグラが襲い掛かるのでは懸念していたからだ。
「ジェラール・・・」
ひどく汗をかいているカグラ。それを見てエルザはどうすればいいかわからず立ち尽くしていた。
すると、彼女はフラフラと青年の方へと歩み寄っていく。
「待て!!カグラ!!」
それを制止しようとしたエルザ。だが、カグラはジェラールの脇を何事もなかったかのようにすり抜けると、後ろから迫ってきていたアルバレスの兵隊を斬り倒す。
「ジェラール・・・私は貴様を許すことはできない。だが・・・」
振り向いた彼女の顔は先程までの動揺していたのがウソのようにスッキリしていた。
「私はもう、過去を背負い込むのはやめたんだ」
昨日のレオンの言葉で完全に吹っ切れたカグラ。彼女はジェラールとの遺恨のことは忘れ、戦いへと戻っていった。
カチッ
奥歯を噛んだディマリア。その瞬間、周囲にいたものたちの動きが一斉に止まった。
「今・・・世界には私一人。私だけの世界。誰もが一度は願ったことがあるでしょ?もしも時間を止められたらって」
石像のように微動だにしない三人の少女。他にも激しくぶつかり合っていたはずの魔導士たちが、常識ではありえないような状態で固まっていた。
ディマリアはゆっくりとした足取りで、ウェンディに顔を近付ける。
「時を封じる魔法“アージュ・シール”。わかる?絶対に負けない最強の魔法。だってこの世界じゃあなたたち何もできないのよ?」
クスリと笑ってウェンディの頬をいじるディマリア。彼女はそのまま、少女の服へと手を伸ばす。
「この子の服もビリビリにしてやろうかしら?いや、それはもういいか」
反応を楽しむのもいいがそれでは今の彼女の怒りは納まらない。ディマリアは自らの剣に手をかける。
「全員まとめて殺すは簡単。だけどそれじゃ面白くない。時が戻った時なぜか仲間の一人が死んでる・・・うん・・・それがいいわね」
頬を赤くして楽しそうに笑みを浮かべるその姿は幾人もを手にかけたまさしく戦場を駆け巡ったもののそれだった。女神とはほど遠い悪魔のような笑みを浮かべ、彼女は三人の顔を見つめる。
「誰にしようかしら」
誰を殺して反応を楽しむかを悩んでいると、彼女の視線は藍色の髪をした少女の前で止まる。
「やっぱり私の顔を蹴ってくれたこの子よね」
顔をぺしぺしと叩き剣を構える。
「さよなら」
首を刈り取ろうと一直線に剣を振る下ろしたディマリア。それはウェンディの首にかかろうとした瞬間・・・
シャッ
動けないはずのウェンディが高くジャンプして回避してしまった。
「え?」
確実に仕留めることができるはずだったのに、なぜか目の前の少女は動いている。
「シェリア!!」
「ウェンディ!!」
しかもそれはウェンディだけではない。その隣に立っていたシェリアも普通に動いているではないか。
(なぜ?なぜ私の世界で動けるの?)
何が起きているのかわからないディマリア。混乱して動けなくなっている彼女に向かって、ウェンディとシェリアはジャンプして蹴りを放つ。
「天空甲矢!!」
「天空乙矢!!」
見事に顔面にヒットしたコンビネーション攻撃。ディマリアはそれに持ちこたえるのがやっと。
「今・・・頭の中で声が・・・」
「あたしも・・・」
咄嗟に攻撃には出たもののウェンディとシェリアもイマイチ状況が掴みきれていない。そこに、歩いてくる水晶を抱えた女性。
「時に歪みが生じている。ここは時空の狭間の世界。この世界にいるのはあなた一人?いいえ・・・ここは私の世界でもある」
「あんた・・・」
シャルルはやって来た人物に思わず目を見開いた。黒ストレートヘアの全身レオタードのような服に身を包んだ女性・・・
「ここは時の牢獄。魔女の罪があなまの罪に鉄槌を下すわ」
悪魔の心臓の七眷属の長にして魔女の罪の創設時のメンバーであるウルティア。
時の番人がスプリガン16に牙を向く!!
後書き
いかがだったでしょうか?
次でvsディマリアは決着してしまうかもしれません。
思いのほかテンポが早くて少し驚いている作者だったりします(笑)
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