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儚き想い、されど永遠の想い

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404部分:第三十一話 夏の黄金その八


第三十一話 夏の黄金その八

「夏もですね」
「夏もとは」
「素麺は夏に食べるものですが」
 涼しさ、そしてあっさりとしたものを求めてだ。人は素麺を夏に食べる。そのことについてだ。彼は真理に話すのだった。今度はそうしたのである。
「ですがその夏もです」
「引き立ててくれていますね」
「はい、食べものはただ食べるだけでなく」
「季節のものでもあるからこそ」
「季節自体を引き立ててくれます」
「お素麺もまた」
「そうです。夏をです」
 引き立てるというのだ。そしてその引き立てるものをだ。二人は実際に食べてだ。最後の夏、三人にとっておそらく最後になるだろうその夏を味わい楽しんだのだった。義幸も入れてそのうえで。
 秋にはだ。義正は真理にこう話した。
「何時かは山に行きたいですね」
「山にですか」
「はい、山にです」
 微笑みだ。真理に話したのだった。
「六甲に。何故かというと」
「秋の山といいますと」
 義正の言葉を受けてだ。真理は考えた。そのうえでこう義正に述べた。
「紅葉でしょうか」
「はい、それです」
「そうですね。秋といえば」
「紅葉です。あれはいいものです」
「緑から紅になる山」
「それを楽しんできた先達達は素晴らしいです」
 義正の頭の中には平安、いやそれ以前から紅葉を楽しんできた彼等への敬意があった。
 そしてそのことについてだ。こう言うのだった。
「そして今は私達がです」
「その紅葉をですね」
「楽しみます」
「山にはお花だけでなく紅葉もあり」
「その他の素晴しいものもあります」
 紅葉だけではないというのだ。山の富は。
「そういったものも楽しみましょう」
「それではその様に」
「秋もまた楽しみが多いです」
 最後の秋についてだ。義正は優しく話していく。
「そこにあるのは絵画です」
「自然のものですね」
「自然の絵画は人の創り出せない美です」
「書き残し描くことはできても」
「はい、創り出せるものではありません」
 そうだと話す義正だった。
「人にはとてもです」
「それだけに。何かが違いますね」
「それを見ましょう。そして今はです」
「今は」
「山とは違う別の場所に行きましょう」
 こう言うのだった。今はそうだというのだ。
「今から」
「何処にでしょうか」
「車で行きます」
 まずは移動手段からだった。
「私が運転しますので」
「そうしてですね」
「そこに行き秋のはじまりを見ましょう」
「秋の。この秋の」
「はい、それをです」
 こう言って真理を誘うのだった。
「それで如何でしょうか」
「では、この子も」
「勿論です」
 揺り篭を見た真理にだ。義正は笑顔で答えた。
 
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