本当の強さ
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第五章
「小学五年の時に右足骨折しまして」
「それでどうなった」
「リハビリはしてないですが」
それでもというのだ。
「ギプス取れた時動かしにくなかったですね」
「そうだったな」
「はい、それで峯川さんは」
「一生そうかもと言われていたんだ」
「右足だけじゃなくて」
「全身だ」
右足どころかというのだ。
「そうした状況からだ」
「今みたいに普通にですか」
「動ける様になったんだ」
「あの、動けなかったんですよね」
春奈が怪訝な顔で先生に尋ねた。
「そうだったんですよね」
「ああ、そうだった」
「それをですか」
「まずは手や足の先を何とかだ」
「動ける様になって」
「そしてベッドからもだ」
寝ているそこからもというのだ。
「出られる様になってな」
「ベッドから」
「そこから歩く訓練をしたんだ、一日何時間もかけてだ」
そうしてというのだ。
「汗をかいて何度も何度も倒れてもな」
「そうしてもですか」
「必死にリハビリをして」
「そうして」
「さっき拳の話をしたがな」
先生はまたこの話をした。
「動かさないとだ」
「また動かす時にですか」
「しんどいいんですか」
「そうだ、しかもだ」
苦しいだけでなく、というのだ。
「痛いぞ」
「ああ、身体を動かすとですか」
「これまで動かしていなところだと」
「そうなるんですか」
「そうだ、それで全身痛かったがな」
そうした言うならば地獄のリハビリだったというのだ。
「こいつはそれでもだ」
「続けてですか」
「そうしてですね」
「今みたいにですね」
「動ける様になったんですね」
「そうだったんですね」
「そうだ、どれだけ辛くて痛くて苦しくてもな」
それでもというのだ。
「こいつはやり遂げたんだ、その話を聞いてもらうぞ」
「まあ大した話じゃないけれどね」
本人は明るく穏やかに笑っていた、そして先生が言うその辛い話を彼は何でもなく話した。だが倫子達は。
聞いてもその話を聞いてもよくわからなかった、それでだった。
帰る時にだ、倫子は凛達にこう言った。
「別にね」
「うん、特にね」
「凄いって思わなかったわね」
「そうだよな」
三人もこう言うのだった。
「別にな」
「強いとはね」
「思わなかったわね」
「リハビリとかね」
どうにもと言うばかりだった。
「普通よね」
「そうそう」
「峯川さんもそう言ってたしね」
「何でもない話だったな」
四人共こう言う、そしてだった。
倫子は家でも母にその話をした、そのうえで母にもこう言った。
「あの人そんなに凄かったのですか」
「いいお話聞いたわね」
だが母はその娘に笑顔でこう返した。
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