相談役毒蛙の日常
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五日目
「なるほどな」
ほー、あのバカはそんな事をやってたのか…。
自らの軍勢が不利になるような話だが…やはりあの件か?
「ここ何ヵ月か、シグルドの態度に苛立ちめいた物があった。
合議制に拘っていた私の責任だな…」
「サクヤちゃんは人気だからねー…
辛いところだヨねー」
サクヤより長くケットシーを治めてるお前が言うか?
するとリーファはまだ分からないのかサクヤに尋ねた。
「苛立ち?何に対して?」
「多分…奴は許せなかったのだろうな。
勢力的にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況を。
シグルドはパワー志向のプレイヤーだ。
ステータスだけではなく権力をも求めていた。
奴にはサラマンダーが空を支配し己はそれを見上げるという状況は堪えられないのだろうな」
「なら!なんでサラマンダーのスパイなんて!
私達シルフが不利になるだけじゃない!」
サイト見てねぇのかよ…
「サクヤ、アリシャ、例の件は事実か?領主なら運営から何か聞いてるんじゃないのか?」
あの噂が本当ならばアップデートを一月後に控えた今、各領主には何らかの連絡があるはずだが…
「《アップデート5.0》か?何の音沙汰も無しだ」
「こっちもだヨ!」
ならばやはりデマなのか?4.5~4.9は全く関係のない超高難度ダンジョンだったし…
「ちょっと妖獣使い!何の話をしてるのよ!
分かるように説明して!」
「公式ホームページ見てないのか?《アップデート5.0》の件だ。
前回の大型アップデートの内容を踏まえると次はいよいよ『転生』が導入されるんじゃ無いかってデマがあんだよ」
「あ、じゃぁ…」
「多分あのヒキニートの口車に乗せられたんだろうよ」
「ああ、おそらく我々の首を差し出せば転生させてやるとでも言われたんだろう。
まぁどうせデマだがな」
「それにデマじゃなかったとしてもあの冷酷なモーティマーが履行するとも思えないしネ」
不意にキリトが呟いた。
「プレイヤーの欲を試す陰険なゲームだなALOって」
確かになー…
「それに関しては全面的に同意だ。
俺やサクヤ、アリシャみたいな各領主や最古参プレイヤーしか知らない事だが…
最初はNPCの領主が各種族同士でいがみ合うように政(まつりごと)やクエストの発行をを行っていた」
あの頃は酷かった…毎日のように各種族が中立域で小競り合いを続けていた。
領主がプレイヤーになってからだ。
ALOの空を楽しめるようになったのは…
「そんな!?」
とリーファが声を上げるがアリシャが答える。
「事実だヨ!執政部がプレイヤーに変わったとたんに他種族との交戦がぱったりと止んだんだヨ!」
「それって…」
「ああ、運営が用意した領主ユニットが偽の情報でプレイヤーを戦わせていたんだ」
「それはまた…」
とキリトが呆れたような顔をしている。
「まぁ、いがみ合いを止めようとしてたプレイヤーも居たがな」
「そうそう!そんなプレイヤーが居たんだよネ!」
ああ、雲行きが怪しくなってきた…
「おい!そんな事よりも先ずはシグルドをどうするかだ。
サクヤ、どうしたい?なんなら俺達で受け持ってもいい」
「いや、お前達の手は煩わせんよ。
ルー、闇魔法スキルあげてたな?」
おお?今回の一件は領主様もご立腹か?
「うん、上げてるヨ」
「ではシグルドに月光鏡を頼む」
「いいけど…夜じゃないからあんまり長くは持たないヨ?
それにシグルドの居場所も知らないヨ」
「シグルドの事だ今頃私の椅子でふんぞり返ってることだろう」
「分かったヨ」
アリシャがスペルワードを唱えようとし…俺が止める。
「なんだヨ?トード」
そこで俺はウィンドウを操作し…
「いやぁ、一応証拠品として映像をと…」
「ふむ、いいアイデアだ、私達も一応やっておこう。ルー」
「はいはい、サクヤちゃん」
そして俺と領主二人がスクリーンムービーをオンにした後、ルーがスペルワードを唱えた。
辺りが暗くなり、どこからともなく淡い光が生まれる、やがてその光は一枚の鏡となった。
鏡が揺らぎ、写し出されたのは翡翠の机と、机に両足を投げ出し、目を閉じてワイングラスを傾ける男の姿。
「シグルド」
「なっ!さっさっさ!サクヤぁ!?」
サクヤの威厳ある声に同様したシグルドはバランスを崩し、自分の顔にワインをかけながらひっくり返った。
あ~あ、そんな姿勢してるから…
起き上がり机に手をかけ立ち上がったシグルドにサクヤは。
「ああ、私だ、生憎とまだ死んではいないぞ」
「な、何故、い、いや、会談はどうなったんだ?」
「思わぬ客が来たが進んでいるよ。
調印はこれからだがな」
「き、客…だと?」
「ああ、ユージーン将軍が君に宜しくと」
「な、な!?」
するとシグルドは辺りを見回し、リーファとキリトを向いた。
俺はいまあちらからは見えない位地にいる。
「リー…くっ、無能なトカゲどもめ…
で、俺をどうする気だ?懲罰金か?それとも追い出すか?」
そこで一度区切り、自信満々に続けた。
「だがな、軍務を預かる俺が居なければ貴様の政権も維持できまい」
その言葉は自分は絶対に安全だと信じきっている言葉だ。
しかしシルフ領主は既に決断を下していた。
「いやいや、君が事を起こしたのはシルフであることに堪えられなかったからだろう?
どうやら《アップデート5.0》の話はデマのようだからね。
モーティマーではなく私直々にその願いを叶えてあげよう」
サクヤが右手の人差し指中指薬指の三指を揃えた。
それを降ると同時にウィンドウが現れる。
テルキスや俺が右の人差し指中指を合わせて出すギルド管理ウィンドウよりも一際大きいウィンドウ…
領内管理ウィンドウだ
サクヤが領主のみに与えられたそのウィンドウを操作する。
それと同時に鏡の中のシグルドの眼前に一枚のウィンドウが開いた。
「貴様!正気か!この俺を!」
「ああ、シルフでいるのが嫌なのだろう?
レネゲイドとして中立域をさ迷うといい。
いずれ新たな楽しみが見つかる事を祈っているよ」
「う、訴えるぞ!領主権限のGMに訴えるからな!」
と、子供のように喚くシグルドの前に、鏡の前に進む。
「よう、シグルド、久しいな。いつぶりだ?」
「きっ、貴様!傭兵風情が何の用だ!」
「そうそう、一応分かってると思うけどお前はただのレネゲイドじゃない、領主から直々に追い出されたんだ。
俺達の町にはシステム的に入れないから!」
このALOでは各領主やGMが設定したプレイヤーはアルンを含む一部大型都市に入ることが出来ない。
入ろうとすれば障壁に遮られ衛兵NPCが押し寄せてくる
「あ、そうだった、最後に…ザマァ!」
更に喚こうとしたシグルドだったが、サクヤがウィンドウを操作し、どこかへ転送された。
それと同時にマナが切れたのか鏡は光となり溶けていった。
「サクヤ…」
無言で佇むサクヤにリーファが心配そうに声をかけるがサクヤは毅然とした態度でこう返した。
「私の判断が正しかったかは次回の領主選定会議で明らかになるだろう。
礼を言うよリーファ。執政部への参加を頑なに拒否していた君が現れたのは驚いたが、同時にとても嬉しかった」
「わ、私はそんな…」
「それと、ルー。今回はシルフの内紛で危険に去らした…すまない!」
45度の最敬礼で謝るサクヤだったが直ぐにアリシャに止められた。
「や、やめてよサクヤちゃん!生きてたんだから別にいいヨ!」
ま、そんな所だろう…
「キリトにも礼を言っとけ」
「そうだ…そう言えば君はいったい…」
「ねぇねぇ、スプリガンとウィンディーネの大使って本当?」
な訳ねーだろ。
「勿論大嘘だ、ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」
「ふ、ハハハハ!あの状況でそんな嘘をつくとは…無茶な男だ」
「手札がショボい時はとりあえず掛け金をレイズする主義でね」
俺は権利が無いのに勝手に掛けたけどな…テルキスになんて言い訳しよう…
「大嘘付き君にしては君、ずいぶん強いね。
知ってる?さっきのユージーン将軍ってALO最強って噂されてるんだヨ!
それを正面から破るなんて…
ひょっとしてスプリガンの秘密兵器だったりするのかな?」
俺じゃぁ正面からは絶対に勝てないしな…
「まさか、しがない流しの用心棒さ」
「ニャハハハハハハハハ!フリーならケットシー領で傭兵やらない?
三食おやつに昼寝付きだヨ!」
俺を勧誘した時は菓子じゃなくて酒だったなぁ…ああ、あの酒が呑みたい…
「おい、ルー、抜け駆けするな。
もともと彼はシルフの救援に来てるんだ。
優先交渉権はこちらにある。
どうだ?この後スイルベーンで酒でも…」
「えー!サクヤちゃんズルいヨー!色仕掛け禁止!」
「お前が言えた義理か!?」
な~んて言ってるけどアイツ等の視線がリーファにいってんだよなぁ~
あと、スクリーンムービーもまだオンのままだし…照れるキリトを後でムービー見せながらからかおう。
「ダメ!キリト君はアタシの…ええと…アタシの…」
おぉ…?もしかしてもしかするのか?
「ええっと、お気持ちは嬉しいんですが俺は彼女に央都まで案内して貰うので…」
「アルンへか?リーファ、物見遊山か?それとも…」
「領地を出るつもり…だったんだけど…」
「フフっ、いつでも戻って来るといい…歓迎する」
「フリーリアにも寄ってネ!」
「サクヤ、アリシャさん、今回の同盟は世界樹攻略のためなんだよね?」
「ああ、究極的にはな、共に世界樹を攻略しあわよくばどちらも転生。
ダメなら第二次グランドクエストも協力するという内容だ」
「その攻略にアタシ達も参加させて欲しいの」
「それは構わない、むしろこちらから頼みたい程だが…何故だ?」
サクヤはキリトをちらりと見た、その目に浮かぶのは…警戒と疑念?
「俺がこの世界に来たのは世界樹に登りある人に会う為だ」
世界樹の上…となると…
「オベイロンか?」
と聞いてみた。
「いや、ちがう、リアルで連絡が取れないんだ」
は?オベイロン以外にあそこに居るPCは…
「スタッフか?」
「たぶん違う…が世界樹に居るはずだ」
なら例の鳥籠の姫君か?
「しかし攻略隊の装備を揃えるには金がない」
サクヤ…よく分かるぞ…作戦の度に経理にどつかれるからな…
「そうか…ならコレを足しにしてくれ。俺にはもう要らない物だ」
とキリトが差し出したのは袋だ、ジャラジャラ言ってるからたぶん金だろう。
「さ、サクヤちゃん!コレ!」
おお!?
「十万ユルドミスリル貨がこんなに!?
いいのか?央都一等地に城が建つぞ?」
今のギルドホーム買うのに前メンバーで三ヶ月かかったなぁ…
「もう引退したプレイヤーに餞別としてもらってね、使わないのは失礼だからな」
引退したプレイヤーねぇ…あれほど稼げる奴は限られる…だが最近トップランカーが引退したなんてのは聞かないな…
「こ、これだけあれば目標金額にかなり近づくヨ!」
「いや…むしろ釣が来るな…大至急装備を揃える、揃え次第連絡する」
「頼む」
さてと…先ずはスクリーンムービーを切って…
「あー、サクヤさん?アリシャさん?」
「なんだ?急に他人行儀になって。
テルキスへの言い訳なら自分で考えろ」
「そうだネ、私達関係無いしネ」
「いやいや!大有りだろ!
MPポーションいくらでもやるからテルキスに月光鏡たのんます!」
「え~月光鏡って疲れるし~」
う、ウゼェ…
「頼む!一緒にテルキスを説得してくれ!
アイツならきっと攻略に参加してくれる筈だ!」
「はぁ…勝手に相談役を名乗ったのは自分で謝れ。
だが攻略参加の説得に関してはいいだろう…ルー!」
「はぁ…サクヤちゃんが言うならしょうがないな…」
ほっ…これでなんとかなりそうだ…戻ったら絶対になんか言われるだろうけど…
「じゃぁ…いくヨ?」
「ああ」
俺が応えるとアリシャは再びスペルワードを唱えた。
やがて光が集まり虚空に鏡が現れる。
鏡が揺らいだ後、映ったのは眼帯を着けた男。
彼の名はテルキス。
ALO黎明期、各種族の人材を集め、初の異種族混合ギルドを設立した男だ。
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