| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

儚き想い、されど永遠の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

388部分:第三十話 運命の一年その八


第三十話 運命の一年その八

「田んぼも。水がなければ」
「はい、稲が育ちません」
「水のない田んぼは非常に寂しいものです」
 田に水があるということからだ。真理は言うのだった。
「ですから」
「雨もまたですか」
「いとおしくなってきました。いえ」
「いえ?」
「あらゆるものが」
 雨に限らずだ。全てのものがだというのだ。
「いとおしくなってきました」
「そうですか」
「ですから雨も」
 真理はいとおしむ、まさにその目になって話す。
「そう思えてきました」
「それなら梅雨も」
「楽しみにしています」
 こう婆やに答えた。
「来るその時を」
「では。梅雨の花ですが」
「紫陽花ですね」
「それが間も無く咲きます」
 そうなるとだ。真理に話すのだった。
「楽しみにしておいて下さい」
「紫陽花も不思議な花ですね」
 真理は梅雨のだ。その紫陽花についてこう述べた。
「色が次々に変わっていって」
「それぞれ色が違う花はあっても」
「色が変わる花は少ないと思います」
 まだ姿を現していない紫陽花を脳裏に浮かべながらだ。真理は話すのだった。
「本当に」
「そうはない。奇麗さがありますね」
「紫陽花の奇麗さは一つではないですね」
「はい、幾つもあります」
 まさにだ。それが紫陽花だった。
「だからいいのですね」
「そうですね。紫陽花は」
「その紫陽花達を梅雨の中に見たいです」
 真理は微笑んで述べた。
「是非共」
「では今は皐を楽しまれて下さい」
「そうして紫陽花をですね」
「待てばいいのです」
 そうすればいいというのだった。
「花は一つだけでもないですし」
「皐だけでも。紫陽花だけでも」
「どちらもあるのですから」
 同時には楽しめないがだ。次から次にはというのだ。
「花は愛される為にあるのですから」
「愛される為ですか」
「はい、その為に咲くのです」
 婆やもだ。その目に、今いる真理と共に花を見ながら話していく。
「ですから」
「愛される為に」
「人も同じですね」
 ここでだ。婆やは真理に対してこんなことも言った。
「人もまた」
「人もですか」
「人もまた愛される為に生きていますね」
「そうですね。それは」
「ですから同じです」
 同じ愛される為にいるからだというのだ。
「人も花も」
「では婆やも」
「勿論奥様もです」
「私もですか」
「そして旦那様も」
 二人もそうだというのだ。
「御互いに」
「私達もですか」
「花は人でもあります」
 婆やは言った。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧