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儚き想い、されど永遠の想い

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386部分:第三十話 運命の一年その六


第三十話 運命の一年その六

「美味しいですね」
「そうですね。文明の美味しさと言うべきでしょうか」
「そうした味ですね。これは」
「その通りです。では」
「はい、それでは」
 こう話してだ。二人でその紅茶を楽しんだ。冷やした紅茶を。その中で真理はだ。紅茶を飲み終えてからこんなことも言ったのだった。
「この冷やしたお茶は夏に飲めばですね」
「余計に美味しいですね」
「そう思えました」
 微笑んでだ。真理は話した。
「飲んでいてそう」
「確かに。夏に飲むと」
「さらに美味しく感じられますね」
「暑い時に冷たいものは最高の馳走です」
 義正も言う。このことを。
「逆もまた然りですが」
「寒い時には暑いものをですね」
「人はその時にないものを欲するものですから」
「それで夏には冷たいものを」
「それならです」
「それなら?」
「百貨店でもお話してみます」
 経営者の顔になってだ。義正は今述べた。
「夏に冷たいものを売ることを」
「そうされるのですか」
「きっと。売れます」
 夏にそういうものを売ればだ。そうなるとだ。
「必ず」
「だからそうされますか」
「考えています。では」
「ではですか」
「もう一杯どうでしょうか」
 こう言ってだ。真理を誘うのだった。
「紅茶をもう一杯」
「そうですね。それでは」
 真理は義正の言葉を素直に受けてだ。そのうえでだ。
 二人でもう一杯頼み楽しんだ。それが終わってからだ。
 真理は屋敷に戻り婆やにだ。こんな話をしたのだった。
「夏に氷を用意して」
「氷をですか」
「そこに紅茶を入れて飲みたいのですが」
「それはまた変わっておられますね」
「変わっているでしょうか」
「御言葉ですが」
 こう前置きしてからだ。婆やは答える。
「紅茶の中に氷ですか」
「そうして飲みたいのですが」
「そうした飲み方もあるのですか」
「やってみたいと思います」
 それでだとだ。真理は言うのだった。
「あくまで夏のことですが」
「夏ならですか」
「暑くなりますので」
 だからだと。真理はまた話す。
「そうした飲み方をしていたいのですが」
「確かに変わっていますね」
「はい、そうですね」
 真理自身もそのことは認める。だがそれでも言うのだった。
「ですがそれでも」
「新しい飲み方ですか」
「氷はありますね」
「氷室に」
 それはあると。婆やはすぐに答える。
「それに神戸は比較的涼しいので」
「氷を維持することもですか」
「容易なので」
 それで多いというのだ。その氷もだ。
「そしてそれをですね」
「はい、紅茶の中に入れて」
「紅茶は熱いものですが」
 婆やはこの常識から述べる。この頃はそれが常識だった。
 だがそれでもだ。真理は言うのだった。
 
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