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儚き想い、されど永遠の想い

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376部分:第二十九話 限られた時その七


第二十九話 限られた時その七

「こうした洒落は毒がありますが」
「はい、それでもですね」
「面白いです」
「毒のある洒落、ですか」
 真理は微笑んで述べた。
「そうした洒落もあるのですね」
「落語か。何処からか出て来たかわかりませんが」
「何か一度聞いたら忘れられないものを感じます」
「そうした洒落を頭に入れて河豚を食べると」
「面白いですね」
「これもまた河豚の楽しみだと思います」
 毒があることを逆手に取った、そうした深い楽しみだった。
 そのことも頭に入れてだ。さらに河豚を食べる。無論一緒にある野菜もだ。
 その野菜の味もだった。
「野菜も柔らかくなっていて」
「美味しくなってますね」
「とても」
 その野菜の柔らかさを感じてだ。義正はまた言う。
「鍋のいいところです」
「そうですね。野菜も柔らかく食べられて」
「しかも身体にもいいです」
「悪いところがないですね」
「鍋は素晴らしい和食です」
 こうまで言う義正だった。
「ですから冬の間はです」
「その鍋を食べてですね」
「楽しまれて下さい」
 こう言うのだった。
「そして春を迎える体力を備えましょう」
「春の為にも」
「鍋は身体にいいですから」
 何につけてもそこからだった。義正は味だけを考えているのではなかった。
 それでだ。真理にこんなことも話した。
「医食同源ですから」
「支那のそれですね」
「はい、食べることはそれ自体が薬を飲むことと同じです」
 まさにそうだというのである。
「ですから全てをです」
「食べて」
「そうしていきましょう」
 こう話してだった。まずは鍋の中にあるものを二人で全て食べた。それから鍋の中に御飯を入れてそこにといだ卵、そこに刻んだ葱を入れてだ。雑炊の出来上がりだった。
 その雑炊を食べるとだ。その味は。
「最後の最後で何か」
「鍋といえば最後はですね」
「はい、雑炊です」
 そうだとだ。義正は雑炊についても微笑んで述べる。
「鍋といえばです」
「そうですね。何か身体がとても温かくなって」
「いい感じですね」
「とても」
 微笑んでだ。また話す真理だった。
「何か。頑張れそうです」
「身体にいいものを召し上がられてですね」
「それに加えて?」
「それに?」
「義正さんの、そして皆さんの」
 屋敷にいるだ。他の人達もだというのである。
「御心を受けました」
「だからですか」
「まずはこの冬を乗り切ります」
 まずはそこからだというのだ。
「そしてそのうえで」
「春を迎えましょう」
「そうしましょう」
 こうした話をしてだった。二人は雑炊まで食べ終えたのだった。
 真理はその冬をまず楽しんだ。雪に鍋、そして人の温かさ、春を迎える前の寒さも。
 その冬がようやく終わろうとしたその時だった。
 神戸の町にもだ。その花が出て来たのだった。梅が。
 紅や白のその花達、冬の終わりに咲いた梅達を見てだ。真理は恍惚として言うのだった。
「もうすぐですね」
「はい、春ですね」
「もうすぐ春なのですね」
 梅が咲いたのを見てだ。それを実感しているのだ。
 そのうえで義正と話してだ。また言うのだった。
「春、最初の春ですね」
「まずはその春を無事に迎えられました」
 そのことをよしとしてだ。義正は真理に述べた。
「そしてです」
「それからですね」
「そうです。また梅を見ましょう」
 今の春の終わりだけではなくだ。次の梅もだというのだ。
「そうしましょう」
「そのつもりです」
 少しだけ勇気を込めてだ。真理は言った。
 
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