儚き想い、されど永遠の想い
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344部分:第二十六話 育っていくものその十
第二十六話 育っていくものその十
「幸せだな」
「幸福の福ですから」
「そして義か」
「義は八条家の文字なので」
「わかっている。だからだな」
「正しいこと。それは外せないからと」
それでだ。義という言葉は名前に必ず入れるというのだ」
「ですから」
「幸せと正しいものを併せ持つ娘か」
「女の子であっても」
「そうあるべきなのだ」
遠い目になりだ。父は真理に話した。
「人は」
「人はですか」
「男であっても女であってもだ」
「正しく幸せであるべきなのだ」
こうだ。娘を見てだった。
「必ずだ」
「そうですね。それは本当に」
「名前はそのまま人生を築いていく」
「だからこそ余計にですね」
「それでいい。ではその子供をだ」
どう育てていくべきか。このことはもう答えとして出ていた。
「二人で育てるのだ」
「正しく、幸せに」
「そうしてくれ。いいな」
「わかりました。それでは」
「では。産むのだ」
温かい目になっていた。まさに父の目だった。
「いいな。女としての正念場だが」
「産むということは」
「わしは男だ。男は子供を産むことはできない」
これは世の摂理だ。どうしてもできるものではない。
だからだ。それについてはどうかともいうのだ。
「果たせとしか言えぬ」
「その大仕事を」
「果たせ。いいな」
実際にだ。こう言ってみせたのだった。
「わかったな」
「はい、それでは」
こうした話もだ。父とした。そのうえでだ。
それから数日後、遂にだった。
真理は破水した。すぐに助産婦、それに医師が呼ばれ。
出産に入る。その為に寝室に入った。
義正はその隣の部屋にいてだ。佐藤と婆やにだ。こんなことを言った。
「僕ができることは」
「はい、それはですね」
「今はですね」
「こうして待つことだけだ」
そうするちかないとだ。わかったうえでの言葉だった。
その部屋にソファーに身体をかがめさせてだ。それで言うのだった。
「それだけだね」
「しかしの待つことがです」
「旦那様の今されることなのです」
「待つことも。妻がそれを果たすのを待つことも」
「そうだね。待つこともね」
義正は二人の言葉にだ。まずは頷いた。
それからだった。こう言うのだった。
「では今はね」
「はい、どうされますか」
「今は」
「珈琲、いやお茶がいいかな」
そちらの方がだというのだ。
「気持ちが落ち着くのは」
「はい、ではすぐに」
「お茶を」
「それにお菓子もあるかな」
お茶とくればそれもだ。義正はそれもあるかというのだ。
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