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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第146話「彼の隣に立ちたくて」

 
前書き
司&奏side。
恋する乙女は強い(確信)。そんな感じの話です(違。
いつも無茶している優輝を支えたいって言う健気な想いがあるだけですけどね。
司視点は前回登場時からそのまま続いています。
 

 





       =司side=





「っ……!」

 振りかぶられる拳。唐突に復活して、力も増した海坊主による、不意打ち。
 本来なら、そのまま碌に防御も出来ずに喰らってしまうだろう。
 私の胸騒ぎは、こうして的中してしまったらしい。

「甘い!!」

 でも、それは以前までの私であればの話。
 今の私には、なんのしがらみもない。
 むしろ、今は心強い味方がいる。

「ジュエルシード!!」

 三つのジュエルシードが連なり、障壁を展開する。
 例えその障壁が魔力で出来ていようと、術者は天巫女である私だ。
 “祈り”の力を込めた障壁、いくら妖であろうと、易々と貫かれはしない!

     ギィイイイイン!!

「っ……!(なんて衝撃!さっきまでとは、訳が違う…!)」

 いくら防げるとはいえ、その衝撃の脅威は分かる。
 だからこそ、さっきまでとは段違いの強さになっているのを理解した。

「(それだけじゃない!津波で街ごと飲みこもうとしている!私だけが無事でも、それじゃあ意味がない!)」

 海坊主が腕を振るう度、大きな波が引き起こされる。
 幸い、今の所はただの波でしかないので、普通の障壁で防げてるけど……。

「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「(来る……!)」

 海坊主は拳を……私ではなく、海に叩きつける。
 その瞬間、霊力が込められた津波が発生し、私ごと街を呑み込もうとした。

「させない!!」

   ―――“バリエラ”

 もちろん、既に対策は出来ている。
 ジュエルシードの力を開放し、広範囲に祈りが込められた特殊な障壁を張る。
 天巫女として繰り出すこの魔法は、あのアンラ・マンユの攻撃も受け止める事が可能。……たかだか妖一体に破られる程、軟じゃない!

「穿て!」

「ッ………!?」

 街を守る障壁の維持を、十個のジュエルシードに任せ、私は海坊主の相手を続ける。
 祈りの力で魔力を圧縮。連続して撃ち出す。
 でも、その攻撃は腕でガードされてしまう。

「(……一応、並の力じゃ抵抗も出来ないまま押し切れるはずなんだけど…)」

 圧縮した魔力による攻撃は、それこそ生半可な防御じゃ防げない。
 あの優輝君も、防御魔法では防ぎ切れないと言う程だ。
 ……防げない代わりに“打ち破る”と言う手段で突破してきたけど。

「っ、“バリエラ”!」

     ギィイイン!!

 私の攻撃を耐え抜いた海坊主は、そのまま拳を叩きつけてくる。
 咄嗟に私は障壁を展開してそれを防ぐ。

「まったく、もう!!」

 負けはしないと分かったとはいえ、何度も攻撃をしてくるのは鬱陶しい。
 そんな思いと共に、魔力を放出。衝撃波となって海坊主を襲う。

「いつまでも、時間は掛けてられないんだよね……!」

 ジュエルシードを操作し、包囲するように展開する。
 私自身も、シュラインの穂先に魔力を込め……。

「刺し貫け!」

   ―――“Brochette(ブロシェット)

 放たれる鋭い針状の魔力で、串刺しにする。

「オオオオオオオオオオオオ!!?」

「ついで!」

 さらに追撃に砲撃魔法も叩き込んでおく。
 ……さて、どう出てくるかな……。

「っ―――!?」

     ドンッ!!

 私の展開している障壁に、拳が叩きつけられる。
 ここまではさっきまでと同じ。……違ったのは、その威力。
 幸い、罅が少し入るだけに留まったけど……。

「っつ、つ……!」

 ……叩きつけた際の衝撃波は、私へと届いた。
 身体強化をしていたおかげで、何メートルか後退っただけだけど。

「(どうして……?確かに頭を貫いたはず。なのに、回復するどころか、攻撃力が増してる……?)」

 既に二回。普通の生物なら確実に死ぬような傷を負ったはず。
 それなのに、海坊主は復活し、さらにはこうして衝撃波を徹す程の攻撃力を持つようになっている。……明らかにおかしい。

「(貫く程度じゃダメ……?ううん、逆に考えないと。椿ちゃん達は、妖には特殊な性質を持つ者もいるって言っていた。海坊主も、多分その類…!)」

 その場から飛び退き、攻撃を動いて躱しながら考えを巡らせる。
 いくらジュエルシードで攻撃が防げても、これだと消耗の方が大きいからね。

「(頭を貫く程度じゃ倒せない。……いや、この場合は頭を潰すから復活して強さが増す…?分からないなぁ……。でも、何か条件はあるはず)」

 ジュエルシードから魔力弾や砲撃を飛ばす。
 もちろん、私も圧縮した魔力で牽制をして立ち回る。
 何をするにしても、海坊主の注意は私に引き付けないといけない。
 街に被害を……いや、四国を沈めないためにも!

「(海面から出しているのは主に頭を両腕。……“核”的なものが胴体にある?……どの道、このままでは倒せそうにないね…)」

 となれば、別の行動を起こすしかない。

「そうと決まれば!」

Activation(アクティベイション)

   ―――“Mine(ミーヌ)

 海中に潜らせておいたジュエルシードが、魔力を放出する。
 まるで魚雷や機雷が爆発したかのように水柱が起こり、海坊主を怯ませる。
 そして、それだけでは終わらない。現在、海坊主の周りを囲うように、ジュエルシードは設置されている。……つまり、さっきの魔力放出が次々と起こる訳だ。

「オオオオオオオオ!?」

「打ち上げる!」

 そして、最後に海坊主の真下辺りに仕掛けたジュエルシードで打ち上げる。
 それぞれがジュエルシード一個が放つ魔力なため、威力も相当だ。
 海坊主の巨体も、これで持ち上がって……。

「っ……!?」

   ―――“満ちる瘴気”
   ―――“大暴れ”

 その瞬間。“見た”。
 私の魔法によって体が欠けているはずの海坊主が、瞬時に再生するのを。
 ……そして、それを為した“瘴気”が、両腕から発生していたのを。

「ッ…!シュライン!ジュエルシード!!」

   ―――“バリエラ”

 即座に魔法を発動。ジュエルシードを用いた障壁を多重展開する。
 祈りの力が咄嗟の事なので落ちているけど、それを数で補う。
 結果、二枚割られ、三枚目に罅が入ったけど、何とか持ちこたえる。

「(さらに威力が……!でも……!)」

 ……これで、海坊主の不可解な回復も分かった。

「(勘違いしていた……!)」

 RPGなどのゲームでもよくある、“取り巻きは無限湧き”するというもの。
 それと同じように、私は海坊主の腕は再生するものだと思っていた。
 だから、本体……この場合は頭を潰せば早く終わると考えた。
 ……でも、それが間違いだった。

「(本体よりも先に……)」

 確かに、両腕は再生するだろう。妖だから、尚更だと思う。
 ……けど。

「(力の供給源を断つ!!)」

 それは、海坊主という妖に瘴気を送る事で再生させるという、一種の供給源だった。
 確かに、今までの戦闘では両腕を破壊していない。あっても傷つけた程度だった。
 そのせいで、両腕に溜め込まれた瘴気がそのままだったんだ…!

「でも、それに気づいたからには……!」

 もう、再生は許さない。

「煌け、二筋の閃光!」

   ―――“サクレ・クラルテ・ジュモー”

 私の祈りに呼応するように、二つのジュエルシードが輝く。
 そして展開された魔法陣から、極光が放たれる。
 その狙いは、海坊主の両腕。
 あれが再生の原因であれば、破壊しない道理はない!

「ッ!!?」

「っ!?(最後の足掻き!?これは……!)」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 けど、両腕を消し飛ばされた海坊主は、最後の抵抗に打って出た。
 膨大な霊力を放出しながら、咆哮する。
 その瞬間、津波と共にそれが衝撃波となって襲い来る。

「(っ…!単純な威力だと、アインスさんのスターライトブレイカーを軽く上回る…!?)」

 広範囲且つ、高威力。
 魔法と霊力と言う相性を無視しても、その威力は計り知れない。
 しかも、その範囲がまずい。文字通り四国を沈めかねない……!

「ッ―――其れは遥か遠き理想郷。未来永劫干渉される事のない領域を、今一度ここに!!あらゆる干渉を防げ!!」

〈“Avalon(アヴァロン)”〉

 だから、私も対抗して、強力な防御魔法を使う。
 この魔法は、ジュエルシードなしの私でも、アインスさんのスターライトブレイカーを防ぐ事が出来た魔法。

「(つまり、天巫女としての私なら……!)」

 元より、単純な魔法の格としてはバリエラよりも上。
 だったら、同じ出力で使用すれば、その強度は上回る!

「防いで!!」

 まるで盾となるように、私は前に出て海坊主の攻撃を受け止める。
 さらに、街を守らせているジュエルシードの障壁も、さらに重ねるように展開。
 これで、防ぎきる!







「っ………はぁ……はぁ……!」

 波が引いて行く音が聞こえる。
 障壁は……健在。どうやら、防ぎきったらしい。

「オオ…オオオオ……!?」

「……ふ、ふふ……。これで、終わり!!」

   ―――“サクレ・リュエール・デ・ゼトワール”

 範囲が広かったからこそ、私は息切れしているけど、ジュエルシードはまだまだ魔力を残している。……つまり、即座に反撃が可能だった。
 狼狽える海坊主目がけて、極光が繰り出される。
 そのまま海坊主は極光に呑まれ……消えていった。

「……ふぅ……」

 倒した事を確認し、一息つく。
 息を少し整えた後、幽世の門を見つけ、閉じる。

「これで、完了……と」

 思わぬ強敵だった。
 ……椿ちゃんと葵ちゃんが、油断しないように念を押して言う訳だよ。
 ジュエルシードもふんだんに使うように言った理由が良く分かった。

「……多大なる妖気を感じたが……もう終わっとったか」

「っ……隠神刑部さん……」

「…お主も吾輩をさん付けか。まぁよい。もう慣れたわい」

 声が聞こえ、振り返るとそこには緑の和服を来た二足歩行の狸がいた。
 見た目こそ普通の狸程でしかないけど、彼こそが隠神刑部さんだ。

「ほう……あの海坊主を真正面から討ち滅ぼしたか。今の人間にしては、かなりの力量を持っているようじゃの」

「……そちらは、もういいんですか?」

 隠神刑部さんは、海坊主と戦う前に会った後、他の地を巡っていたはず。
 それなのにここに戻ってくるなんて……。

「今の人間どもは銃などと便利な武器を持っておる。それを用いればそこらの妖など対処出来るわい。吾輩はその裏で門だけを閉じてくればいいだけじゃ」

「なるほど……」

 見た目からは想像しづらいけど、隠神刑部さんは相当強い。
 と言っても、気配から察する程度なので、実際はどれほどか分からないけど。

「……では、私は行きます」

「そうか。では、お主の上司に伝えておけ。もう四国は大丈夫じゃとな」

「分かりました」

 そういって私は隠神刑部さんと別れ、別の場所へ向かう。
 ……と言っても、特に指定がないから普通の妖とかを出来る限り減らすだけだ。
 四国は隠神刑部さんが何とかしたみたいだし……中部地方でも行こうかな。

「(……優輝君達、大丈夫かな……?)」

 私はジュエルシードに守ってもらっているから大丈夫だったけど、他の皆は違う。
 椿ちゃん、葵ちゃん、優輝君、奏ちゃんは単独行動だ。
 この状況下では何が起こるか分からない。
 ……ましてや、蓮さんを短時間で瀕死に追いやる存在がどこかにいるのだから。

「(いつも優輝君は無茶をしている。……少しぐらいは、私達で負担しないとね)」

 四国から中部へと飛びながら、私はそんな事を考えた。
 ……うん。でも、きっと大丈夫。優輝君だもん。
 私の大親友で、大好きな人は、どんな苦境でも乗り越えるんだから。











       =奏side=







     ギィイイイイン!!

「っ……!」

「ゥォオオオッ!!」

     ギィイイン!!

 大きな剣と、二刀となったエンジェルハートがぶつかり合う。
 けど、それはほんの一瞬で、次の瞬間には私は大きく弾き飛ばされている。
 体格と、力が私を大きく上回っているからだ。

「ふっ……!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 振り下ろされた剣を、若干弾かれるように受け流し、魔法を行使。
 背後に回り込み、二刀の内片方を振り下ろす。

     ギャリィイ……!

「っ……!」

 刀は軽々と受け止められる。
 そのまま、宙を蹴り、刀で滑るようにさらに間合いを詰める。
 ……が、そこで眼前に両面宿儺の振り返りざまの貫手が迫る。

「くっ!」

「ふん!」

 顔を逸らし、何とか掠るに留める。……その代わり、体勢を崩す。
 そこへ手刀が迫る。

「ッ!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 魔法を行使すると同時に、身を捻る。
 瞬間、ふわりと体が上昇するように移動し、手刀を躱す。
 そのまま後ろへと飛び退きつつ体勢を立て直す。

「ふぅ……ふぅ……」

「……………」

 ゆっくりと呼吸をして、息を整える。
 それを、両面宿儺はその場から動かずに眺める。
 ……そう。両面宿儺は未だに戦闘開始からほとんど動いていない。

「(……近接攻撃は、ほぼ通用しない……)」

 驚く他なかった。……まさか、近接攻撃が悉く無効化されるなんて。
 体格と武器からして、小回りの利く私は捉えづらいはず。
 それなのに、背後に回り込むような攻撃すらも、悉く防がれ、受け流される。
 顔が二つあり、腕が四つあるとは言え、“意識外”と言う死角はあるはず。
 だが、両面宿儺は戦闘技術が高く、決して私を“意識外”へと見失わなかった。

「(折角優輝さん達に鍛えてもらった戦闘技術も、上回られている…!)」

 霊術を習うにあたって、私は優輝さん達に武器の手解きを受けた。
 自主練も怠らずにやっていたし、並以上の技術はあると自他共に認めていた。
 ……それを、この両面宿儺はあっさりと凌駕していた。

「……軽いな」

「っ……!」

 両面宿儺に、見下されるようにそう言われる。
 “攻撃が軽い”。それは、以前から優輝さん達に指摘されている事だ。
 私は機動力と連撃を生かした戦法を得意としている。
 ディレイを連発して戦うのもそれが理由だ。
 素早く攻撃する。……だからこそ、必然的に攻撃が軽くなってしまう。
 つまり、堅実な戦い方をする相手には滅法弱いのだ。

「(近接戦は圧倒的に不利。でも、手を出し尽くした訳じゃないし、遠距離や搦め手もある。……勝機が薄い訳じゃ、ない)」

 私の戦い方には、もう一つ特徴がある。
 本来、二刀で戦う場合は、遠距離の術が使えない。
 けど、私の場合は手に刀を持たずとも、武器が……ハンドソニックが扱える。
 優輝さん達の特訓で得た、遠近両立の戦い方、見せてあげるわ……!

「ッ!」

「む…!」

   ―――“Delay(ディレイ)

 まずは踏み込み、間合いに入る。
 エンジェルハートは待機状態に戻し、ハンドソニックを展開しておく。
 反撃に繰り出される刀の一撃を、ディレイで躱し、突きを放つ。

     ギィイン!

「っ、切り裂け……!」

   ―――“風車”

 放った突きは、手刀であっさりと逸らされる。
 その際、体勢が崩れるけど……逆にそれを利用して薙ぎ払うように霊術を放つ。

「ふん」

「ッ……!」

 けど、その霊術は両面宿儺が一息の下放たれた霊力の“圧”に防がれる。
 それを見て、すぐにディレイを使って間合いを取る。

「今のは……!」

〈おそらく、霊力を纏う事による一種の“鎧”です。生半可な攻撃は通じないかと……〉

 まるで、闘気で攻撃を弾くような、漫画みたいなもの……。
 ……でも、大丈夫。

「(戦法自体は、通じる……!)」

 既にそれなりの時間、戦い続けている。
 未だに両面宿儺をその場からあまり動かせていないけど……。

「決めに、掛かる……!」

   ―――“エンジェルフェザー”

 手始めに、魔法陣を展開して羽型の魔力弾を両面宿儺に降らせる。
 次々と炸裂する羽で、視界が遮られる。

「(今まで温存していたけど……もう躊躇しない……!)」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 加速魔法で一気に間合いを詰める。

「見えているぞ」

「知っているわ……!」

 だけど、両面宿儺は的確に私を見つけ、攻撃してきた。
 振るわれる刀。けど私は身を捻ってそれを躱し……。

「はっ……!」

   ―――“刀技・十字斬り”

 その勢いのまま、十字の斬撃を放つ。
 ……が、それは霊力の鎧に防がれ……。

〈―――“Delay(ディレイ)”〉

「シッ……!」

「ぬ、ぅ……!?」

 肩辺りを、私の刃によって切り裂かれた。

「(浅い……!)」

 思った通りだった。霊力の鎧が強力とはいえ、攻撃を防いでいる間は、()()()()()()()()は比較的防御が弱い。
 それを狙って、私はディレイを使って回り込み、一撃を入れた。
 顔や首を狙わなかったのは、視界に入る事で霊力の鎧が強化されるのを防ぐためだ。

〈“Delay(ディレイ)”〉

「“フォルティッシモ”!!」

 間髪入れずに加速魔法で距離を取り、同時に砲撃魔法を放つ。
 さっきの風車とは比べ物にならない程、集束させる事で強力にした魔法。
 これなら、さすがの両面宿儺も防御の態勢に入る。

「ガードスキル……!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 優輝さんに貰った魔力結晶を取り出し、その魔力を取り込む。
 そして、攻撃に出る。

「ふっ……!」

「甘い」

 加速魔法で背後に回り込む。そして、刃を振るう。
 だが、それはいとも容易く刀に防がれ……。

〈“Delay(ディレイ)”〉

「二度は引っかからぬわ!」

「っ!」

 フェイントすらも防いで見せた。
 ……でも、無駄。

「っ、ぐぅ…!?」

 両面宿儺が背後から背中を斬られる。
 斬ったのは、私。でも、正面にも私はいる。

「分身か……!」

「………」

 そう。砲撃魔法を放った直後に、使っていたのだ。
 分身するガードスキル“Harmonics(ハーモニクス)”を。

   ―――“Delay(ディレイ)
   ―――“Delay(ディレイ)

「シッ!」

「はっ!」

「だが、その程度で……!?」

 私は分身と同時に斬りかかる。
 けど、それすらも対応してみせる両面宿儺は、やはり戦闘技術が高い。
 でも、上空から連続で降り注ぐ砲撃魔法と射撃魔法に怯む。

「何……!?」

「誰が、分身は一体だけだと言ったかしら?」

 そう。分身は一つだけじゃない。
 それどころか、さらに増え続ける。それがHarmonics(ハーモニクス)なのだから。
 分身体がさらにスキルを使い、分身は増え続ける。
 その分だけ消費魔力量も増えていくけど……そこは魔力結晶でカバー。
 ……よって。

「物理でも魔法でも霊術でも押しきれないのなら、物量で押し切る……!」

「面妖な……!」

(貴方)がそれを言うのかしら……!」

 怒涛の近接攻撃だけでなく、遠距離からの魔法や霊術も加わる。
 そして、その量は増え続ける。

「ぐ、ぬぅうう……!」

「っ……!」

 これは、一種の根競べ。
 私の魔力と魔力結晶が尽きるのが先か、両面宿儺が力尽きるのが先か。
 ……さぁ、耐えて見れるものなら、耐えてみて……!







「ぐ……ぬぅ……!」

「これで、終わりよ……!」

〈“Forzando(フォルツァンド)”〉

 ボロボロになった両面宿儺を、分身が数人掛かりで押さえこむ。
 直接押さえていない分身も、バインドなどで協力する。
 そして、そこへトドメの魔法を本体()が撃ち込んだ。

「ご………ぉ……み、見事……!」

「……………」

 胸を穿たれ、倒れ伏す両面宿儺を、黙って見続ける。
 ……反応は、なし。完全に沈黙したわね……。

「門は……」

〈そのまま真っすぐですね〉

「ええ」

 完全に倒した事を確認し、私は門を閉じに向かう。
 閉じた後、周囲に妖などが残っていないか探知する。

〈……大丈夫です。周囲に敵はいません〉

「そう。……ガードスキル“Absorb(アブソーブ)”」

 エンジェルハートの返答に、私は安心してガードスキルを発動させる。

「っ、ぅ、くっ………!」

 独立した意識を生み出すハーモニクス。一見便利なスキルだけど、欠点がある。
 それは、分身を戻す際、つまりアブソーブを使った時、本体である私に分身の記憶や疲労などの、全ての経験が集約すると言う事。
 ……言い換えれば、分身がそれぞれ負った少しの疲労も、元に戻ると……。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 こうして、私には大きな疲労として襲ってくる事になる。
 他にも、今回は大丈夫だったとはいえ、分身が一人でも大怪我を負った状態で同化すれば、その痛みも感じる事になる。そして、それは怪我を負った分身が多い程大きくなる。
 幸い、傷そのものは私自身が負ったものしか残らないけど。

「……やっぱり、あまり使うべきではないわね…」

 なぜ今までこれを使わなかったのか。その理由がこの疲労感だ。
 確かに、この分身を使えばごり押しも可能だ。
 でも、分身を使えばその分だけ、私は負担を強いられる。
 ましてや、今回のような状況では……。

「(大門の守護者のような相手だと、絶対に使用できないわね……)」

 痛みなども感じるとなれば、格上には絶対に使えない。
 同化する際の痛みは、“死ぬこと”さえ例外じゃない。
 もし、分身を何人も出したとして、それが殺されでもしたら……。
 殺されたのが分身一体だけならまだ耐えられる。でも、複数であれば……。

「(ショック死を、免れない……)」

 痛みも引き受けるという事はそう言う事だ。
 例え死なずに済んだとしても、後遺症は確実に残る。

「(でも、優輝さんなら、或いは……)」

 ふと、それでも優輝さんなら、大丈夫かもしれないと思った。
 今まで、代償が必要な事を、無事に成し遂げてきた優輝さんなら。

「………」

 そこまで考えて、頬を軽く叩く。
 今、優輝さんは関係ない。これは私の問題だ。

「疲労感、良し……」

〈もういいのですか?〉

「ええ。悠長にはしていられないし、これぐらいなら大丈夫」

 今回は確かに分身も多くて、疲労感もあった。
 でも、傷は一つも負っていない。だから大丈夫だ。

「(何より、優輝さんも頑張っているのに、じっとなんてしていられないわ…!)」

 そう。休憩を切り上げた本当の理由がこれだ。
 優輝さんが……と言うより、他の皆が頑張っている。
 そして、今も民間人の人達は助けを求めている。
 正義の味方ぶる訳ではないけど、私にはそれに応える力がある。
 なら、その力で助けない訳にはいかない。

「(優輝さんなら、どう答えるかな……)」

 私の憧れであり、恩人であり、そして、好きな人。
 あの人はお人好しだけど、別に“正義の味方”と言う訳ではない。
 何せ、かつては“導王”と言う王様だったんだから、当然のように大のために小を犠牲にしたりしただろう。……緋雪……(シュネーさん)を優先したらしいけど。

「(……お人好しだし、見捨てる事はないかな…)」

 なんやかんやで、きっと助けるだろう。
 助ける相手が、余程の人でなしでない限りは。
 優輝さんは、そういう人だから。

「(だから、いつも無茶をする)」

 誰も彼も助けると言うのは、大抵が“無茶”だ。
 でも、優輝さんはそれでも助けようとする。そして、実際に助ける。
 それはまるで性分のようで、私達だとどうにもならなかった。

「(……だから、私達が支える)」

 私が……ううん、私達が優輝さん達の下、特訓をするには、理由がある。
 一つは力不足を感じたから。元より、私の場合は椿さんに鍛えなければ勿体ないポテンシャルを秘めていると言われたしね。
 ……そして、何よりも。

「(優輝さんの、力になりたい)」

 それが、私達が力を欲する理由。
 いつも無茶をする優輝さんの助けに、支えになりたいという想いだ。

「(まだ、隣に立つには不十分)」

 椿さん達や、司さんなら力量的には充分だ。
 でも、私はまだ足りない。だから、強くなる。
 優輝さんなら、“そんな必要ない”って笑うだろうけど……。

























   ―――それでも、恩人の貴方には何か報いたい。



















 
 

 
後書き
Brochette(ブロシェット)…串刺しのフランス語。術者がジュエルシードと共に包囲するように展開し、鋭く圧縮した魔力で貫く。回避をしない相手に有効。

Mine(ミーヌ)…地雷・機雷のフランス語。名前の通りジュエルシードを地雷や機雷のように設置し、魔力放出による爆発を起こして攻撃する。

満ちる瘴気…ゲームでは、一度も腕を倒さずに本体のHPを削ると発動。HP全快する。本編では、同じく腕が健在であれば、瘴気が満ち、それによって回復する。

大暴れ…全体高威力攻撃。しかも連発してくる。上記の技の後に放つようになり、実質ムリゲーとなっている。ただの拳による乱打だが、その威力は計り知れない。

サクレ・クラルテ・ジュモー…サクレ・クラルテを二発同時に放つ。ジュモーは双子のフランス語。

刀技・十字斬り…斬・聖属性の単体二回攻撃。文字通りに十字に斬る。

Harmonics(ハーモニクス)…Angel Beats!参照。独立した意識を持つ分身を生み出す。なお、元ネタでは未完成で、自動的に消えないなどの欠点があったが、修正済みである。

Absorb(アブソーブ)…Angel Beats!参照。ハーモニクスの分身を元に戻すスキル。なお、分身を戻す(同化する)際、分身の記憶や疲労なども同化するため、ハーモニクス共々多用は出来ない。


基本的に、司が天巫女としての戦闘(ジュエルシードを用いるなど)をしている時は、魔法名や起動ワードがフランス語になっています。ミッド式が英語、ベルカ式がドイツ語に似ているとの事なので、天巫女の魔法(プリエール式)はフランス語になっています(今更)。

度々参考として出てくる導王時代の事についてですが、優輝の前々世について知っているのは、今の所108話で優輝が地の文で言っていた面子+司、奏、ジェイルです。近いうちに霊術特訓メンバー(アリシア達)にも教えるかも……? 
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