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魔法科高校の劣等生 〜極炎の紅姫〜

作者:輝夜姫
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入学編
  一科生と二科生

「達也、深雪、おはよう」
入学式が行われた翌日の朝、深紅は第一高校最寄りの駅で司波兄妹と待ち合わせをしていた。
「おはよう深紅」
「早かったのね」
達也と深雪が先についていた深紅に挨拶をした。
「わたしも今来たところよ。行きましょうか」
高校に続く坂道を、他愛ない話をしながら歩いていく。
♦︎♢♦︎♢
E組に入り、深紅と達也の二人は自分の端末を探す。
「オハヨー」
するとそこに、相変わらず陽気な口調で声が掛けられた。
声の主はエリカだ。
「おはようございます」
そのすぐ後に、美月からも挨拶がされる。
エリカは美月の机に浅く腰掛けて、手を振っている。深紅と達也が来るまでおしゃべりを楽しんでいたのだろう。
「おはようエリカ、美月」
深紅が笑顔で挨拶を返しながら二人の方に足を進めた。そのすぐ後に達也も続く。
五十音が働いたのだろう、シバとシバタということで達也と美月が隣の席、美月のすぐ後ろがシラヌイである深紅の席だった。
「なんかあたしだけ仲間はずれだねー」
エリカはそう言って不満げに唇を尖らせるが、口調はからかっているような節がある。
「エリカを仲間ハズレにするのは難しそうね」
「ちょっと深紅、それはどーゆーことよー」
「社交性に富んでいる、ということよ。悪い意味じゃないわ」
じっとりとしたエリカの視線には目もくれず、可愛らしく笑みを浮かべる深紅。一方エリカは若干口惜しそうな表情を浮かべた。
「ねぇ深紅、実は性格悪いでしょ?」
「えぇ〜それは不本意。わたしより達也の方が性格は悪いよ?」
「ちょっと待て、なぜそこで俺の名前が出てくるんだ?」
「わかってる癖にー」
深紅が口に手を当ててわざとらしくそう言うと、エリカと美月が笑いを堪えるように肩を震わせた。
そんな二人を横目に、深紅と達也は自分の席に着き、自分の端末にIDカードをセットする。
高速でスクロールし学校の規則などを頭に叩き込み、キーボードオンリーの操作で受講登録を済ます。
ふと達也が顔を上げると、一人の男子生徒が目を丸くして手元を覗き込んでいた。
「……別に見られても困りはしないが?」
「あ、あぁすまん。珍しいもんでつい見入っちまった」
「珍しいか?」
「今時キーボードオンリーのやつなんて珍しいだろ」
「慣れればこっちの方が楽だぞ?視線ポインタも脳波アシストも、いまいち正確性に欠ける」
「それにしてもすげースピードだよな。それで十分食っていけるんじゃねえか?……後ろの女子も」
「えっ、何?わたし?」
いきなり声をかけられた深紅は驚いたような顔をする。
「キーボードオンリーでやってただろ?」
「うん。達也と同じ意見で、こっちの方が楽だから。それとこれぐらいのスピードじゃ、アルバイトがせいぜいだよ?」
「そぉかぁ?おっ、自己紹介がまだだったな。俺は西城 レオンハルトだ。親父がハーフ。お袋がクォーターなせいで名前は洋風だが顔は純日本風。得意魔法は収束系の硬化魔法。志望コースは体を動かす系。警察の機動隊とか山岳警備隊がいいな。レオでいいぜ」
「俺は司波達也だ。達也でいい」
「オーケー達也。で、得意魔法はなんだ?」
「技術系は苦手でな。魔工技師を目指してる」
「なーる。頭良さそうだしな、お前。で、そっちは?」
「わたしは不知火深紅。わたしのことも深紅でいいよ。得意魔法は振動系加速魔法。ってかそれ以外の魔法はほとんど使えないの。将来のことはまだ考えてないわ」
深紅は将来、正式に軍に入ることがほぼ決定しているのだが、あえてそこは言わなかった。
「よろしくな、深紅。振動系加速っつーと、加熱魔法か?」
「うん、そうだよ」
「深紅を怒らせない方がいいぞ、レオ。あたりの気温が一気に上昇する」
ニヤリと笑いながら達也が言う。
「へぇ〜、そりゃ危ないな。気をつけておくぜ」
それに応えるレオもニヤニヤと笑いながら言った。
「そんなに怖くないよー。わたしほとんど怒らないもん」
「何言ってるんだ?俺は今まで、何度か気温の急上昇を抑えた記憶があるんだが?」
達也がそう言った時、
「えっ?!深紅ってそんなに事象干渉力が高いの?」
突然、エリカが達也たちの会話に食い気味で割り込んできた。
事象干渉力は国際魔法基準の一つにも指定されている。二科生である深紅の干渉力が高いと言うのには不自然な言葉だったのだろう。
「深紅、こいつ、誰だ?」
しかしエリカの食いつき方に若干引いたのか、レオがわずかに身を引きながら深紅な尋ねる。
「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり?!しかも指差し?!失礼なヤツッ!失礼なヤツッ!失礼なヤツ!!これだからモテない男は」
「なっ?!失礼なのはテメーだろうがよ!ちょっとばかり顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ!」
「はぁ〜?ルックスは大事なのよ。それよりなーにぃ?その、時代を一世紀間違えたような古臭い格好は。今時そんなのはやらないわよ?」
「なっ、なっ、なっ……」
バカにしたような表情でさらりと暴言を吐くエリカに、絶句が今にも唸り声に変わりそうなレオ。
このまま放っておいたらどんどんヒートアップするのは目に見えていた。
「ちょっと、エリカちゃん。言い過ぎだよ……」
「レオももうやめとけ。お互い様だし口じゃ敵わないと思うぞ?」
「……美月がそう言うなら」
「……分かったぜ」
口ではそう言いながらも鋭い視線はぶつけ合ったままのエリカとレオ。
似たような気の強さと、負けず嫌い。
−−−この二人、実は気があうんじゃないかな?
本人たちが聞いたら全力で否定してきそうなことを、深紅は思っていた。
♦︎♢♦︎♢
予鈴がなり、教室中に散らばっていた生徒たちがそれぞれ自分の席に戻る。
すると、教室前面のスクリーンに文章が映し出された。
[五分後にオリエンテーションを開始しますので、自席で待機してください。IDカードを端末にセットしていない生徒は、速やかにセットしてください]
しかしこれは、既に受講登録まで終えてしまった深紅と達也にはなんの意味も持たないものだった。
さらにしばらくして、本鈴とともに一人の女性が教室に入ってきた。
制服ではなくスーツを着ているため、遅れてきた生徒ではない。
その女性は少しせり上がった教卓の前に立ち、教室を見渡した。
「はい、欠席者はいませんね?皆さんおはようございます」
にこやかな挨拶につられたように、何人かの生徒が頭を下げた。
しかし深紅と達也は女性の不可解な行動に首をかしげるばかりだった。
それもそのはず、生徒の出欠席は教卓の端末に表示されており、肉眼で確かめる必要などないからだ。
「わたしはこのクラスのカウンセラーを担当しています、小野遥です。皆さん困ったことがあったら、なんでも相談してくださいね」
遥はそう言って、生徒たちににっこりと微笑みかけた。
「これから皆さんには履修登録を行ってもらいます。既に履修登録を終えた方は退室しても構いませんが、ガイダンス開始後の退室は認められませんので、希望者は今のうちに退室してください。その際はIDカードを忘れないでくださいね?」
その言葉を待っていたかのように、一人の男子生徒が立ち上がった。
達也ではない。
どこか神経質そうな顔立ちのその少年は、まるで強がっているようにも見える傲然とした態度で教室を出て行った。
深紅も達也も履修登録を終えていたが、無駄に目立つことを避けて退室は諦めた。
さて何をして過ごそうか……と手元に視線を戻した時、達也は強い視線を感じ顔を上げた。
すると、教卓の前に立った遥と視線がぶつかった。
目があってもそらすことなどせず、にっこりと笑いかけてくる。
その時間中達也は、気づいたら遥に笑いかけられていた。他の生徒に不審がられないよう、控えめに。
−−−一体なんだったんだろうな?
一方遥が達也に笑いかけていることに気づいていた深紅は……
−−−あの人は、生徒である達也をナンパでもしようとしているの???!
不機嫌な視線を遥に投げつけていた。
遥は気づいているのかいないのか(おそらく前者だが)深紅のそんな視線は完璧に無視をしていた。
そのことにさらに苛立ちを覚えた深紅は、その時間中ずっと不機嫌だったと言う。
♦︎♢♦︎♢
「お兄様、深紅……」
「謝ったりしないでよ、深雪」
「そうだ、一厘一毛たりともお前は悪くないからな」
「しかし……止めますか?」
「いや、それはやめておいたほうがいい」
「間違いなく逆効果だよ」
「はい……エリカはともかく、美月があんな性格だとは思いませんでした」
「同感だ」
「同感よ」
兄妹+深紅が一歩引いて見守る−−或いは眺める−−のは、校門の前で二手に分かれて一触即発モードの一年生たちだった。
片方は、深雪のクラスメートである一科生。
もう片方は言わずもがな、エリカ、レオ、美月の三人である。
第一幕は、昼食時の食堂まで遡る。
達也たちと一緒に昼食を取ろうとする深雪。
しかしそれに、深雪のクラスメートが納得するわけなかった。彼ら−−彼女ら−−は深雪と相席で昼食を食べ、あわよくば深雪とお近づきになろうと考えていたのだから。
あくまでも深雪は達也たちと昼食を食べたがる。
最初は、席が狭いから、邪魔しちゃ悪いから、とオブラートに包んだ発言していた一科生たちも段々とエスカレートしていき、最後には食べ終わっていたレオたちに席を譲れと言う始末。
エリカやレオも、流石に我慢の限界だった。
しかしその場は、達也が退くことで場を収めた。
第二幕は、午後の上級生実技見学の時だ。
遠隔射撃魔法実習室では、三年A組の実技が行われていた。生徒会長、七草真由美の所属するクラスだ。
二科生たちが一科生に遠慮する中で、堂々と最前列で見学する深紅たちは、当然のように悪目立ちした。
そして第三幕は現在進行中、美月が啖呵を切っている最中だった。
「いい加減に諦めたらどうですか!深雪さんはお兄さんと帰ると言っているじゃないですか?!」
「僕たちは彼女に相談したいことがあるんだ!」
「ハン!そんなのは自活中にやれよ」
「そうよ。それに本人の了解も得てないじゃない。高校生になって、そんなこともわからないの?」
一科生の身勝手な言動を、レオとエリカが正論であっさり叩きのめす。
「うるさい!僕たちブルームにウィードごときが口を出すな!」
この暴言に真正面から反応したのは、やはり美月だった。
「同じ新入生じゃないですか!今の時点で一体、あなたたちがどれほど優れていると言うのですか?!」
「……まずいことになったね」
「あぁ……」
「いいだろう。これがブルームの実力だ!」
そう言って一科の男子生徒が取り出したのは……
「特化型!」
とっさにレオが、男子生徒の方に手を伸ばす。
しかし、魔法は不発に終わった。
エリカが彼のCADを、持っていた警棒で吹き飛ばしたために。
「この間合いなら身体動かしたほうが速いのよね」
「……流石千葉の娘。見事な速さだわ」
思わず感嘆の吐息を漏らしたのは、深紅だ。
「それはいいがテメェ、俺の手まで一緒に吹っ飛ばそうとしただろ」
「あらぁ、そんなことないわよ〜」
こめかみをぴくぴくさせながら言うレオに、わざとらしい笑みを見せるエリカ。
その時、
「みんな、ダメ!」
一科生である一人の女子生徒が、何を思ったのかCADに手を伸ばした。
しかし又しても、魔法は不発に終わる。
「やめなさい!自衛目的以外の魔法の発動は校則違反である前に犯罪行為ですよ!」
皆が声の聞こえた方に視線を向けると、そこに立っていたのは七草真由美ともう一人、背の高い女子生徒だった。
「風紀委員長の渡辺摩利だ!皆事情を聞く。付いて来い!」
その言葉に、その場の全員が青褪める。
いや、正しくは深紅と達也を除いた全員、だが。
「申し訳ありません、悪ふざけが過ぎました」
一歩前に出て、達也がそう告げる。
「悪ふざけ、だと?」
「はい。森崎一門のクィックドロウは有名ですから、後学のためにぜひ見せてもらおうと思ったんですが、あまりに真に迫っていたのでつい手が出てしまいました」
「……ではそこの女子生徒が攻撃性のある魔法を発動しようとしたのはなぜだ?」
摩利に見られて、先ほど真由美に魔法を吹き飛ばされた女子生徒がびくりと震えた。
「驚いたんでしょう」
その女子生徒を守るように、今度は深紅が前に出て口を挟んだ。
「条件反射だけで魔法式を構築できるなんて、流石は一科生ですね」
しかしそのセリフは、どこか白々しさを含んでいる。
「君の友人は魔法で攻撃されそうになっていた。それでも悪ふざけだったと言い張るのか?」
「あれはただの閃光魔法です」
摩利の質問に、再び達也が答える。
「それも目眩し程度で、視覚障害を起こしたり失明したりするほどの威力はありませんでした」
達也のこの言葉に、摩利はかすかに驚いたような顔をする。
「ほお……君はどうやら展開中の起動式を読み取れるらしいな」
「彼女も読み取ることができますよ」
達也の指差した先にいるのは、どこか余裕のある表情を浮かべた深紅。
「わたしも彼も、実技は苦手ですが分析は得意です」
「誤魔化すのも得意なようだな」
超高度な技術を“分析”の一言でまとめた深紅に、摩利は薄い笑みを浮かべた。
すると、兄を庇うように深雪がするりと前に出る。
「兄たちの言う通り、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
それでもまだ少し難しい顔をする摩利に、今度は真由美が口を開いた。
「もういいじゃない摩利。達也くん、深紅ちゃん、本当にただの教えあいだったのよね?」
いつの間にか“ちゃん付け”、“名前呼び”になっていることに疑問を覚えた深紅と達也だったが、せっかくの真由美の好意を無碍にすることなどしない。はい、と頷いておく。
「……会長がこうおっしゃってることだし、今日のことは不問とする。以後気をつけるように」
深々とお辞儀をする一年生たちには目もくれず、摩利が踵を返した。
しかし何を思ってから、途中で足を止めて振り返る。
「君たち二人の名前を聞いておく」
「一年E組、司波達也です」
「同じく一年E組、不知火深紅です」
「……覚えておこう」
いっそ、結構ですと言いたかったが、そこは心の中だけにとどめておく。
「……借りだなんて思わないからな」
摩利と真由美の姿が完全に見えなくなってから、森崎が達也と深紅の方を向いた。
「貸しだなんて思ってないから安心しろ」
その冷めた言い方が癪についたのか、森崎がキッと達也を睨む。
「俺はお前を認めないぞ司波達也、不知火深紅。司波さんは僕たちと一緒に居るべきなんだ!」
「やれやれ。本当に器が小さいのね」
呆れを混ぜた言い方で、深紅が森崎の方を見つめた。
「なんだと……!」
さらに視線を鋭くして、森崎が深紅を睨む。
「高校生なんだから、もう少し精神面で成長したら?深雪が誰と居るべきか、なんて、深雪が決めることであってあなたが決めることではないでしょう?」
あたりの気温がさっきよりも暑く感じるのは、気の所為ではないだろう。
深紅は、達也や友達を馬鹿にされたことに対して、激しい憤りを感じていた。
深紅の鋭く、怒りの熱を孕んだ視線に怯えたのか、森崎は逃げるようにその場を立ち去った。
「深紅。もう落ち着け。暑い」
達也がそう言って少し手を挙げると、あたりの気温が通常に戻る。
「あ、ごめんね達也。ありがとう」
深紅が達也の方を見上げ、にっこりとお礼を言う。
「別に大したことじゃない。いつものことだからな」
「何か一言多くない?」
「あ、あの!」
その時、割り込むように一人の女子生徒が達也に話しかけてきた。
先程閃光魔法を発動しようとした女子だ。
「わたし、光井 ほのかです」
いきなりの自己紹介に、深紅たちがかすかに驚きの表情を浮かべながら首をかしげる。
「わたしは北山 雫です……」
続いて、ほのかの隣にいた、少し表情の乏しい生徒が名前を告げた。
「さっきは庇っていただいてありがとうございました。森崎君はあぁ言っていたけど、今回大事にならなかったのはお兄さんのおかげです」
そして、ほのかが少し熱を孕んだ口調でこう言った。
「いや、実際説得したのは深雪だよ?それと、お兄さんはやめてくれないか。一応同い年なんだし」
「じゃあなんとお呼びすれば?」
「別に、達也でいい」
「わかりました。それで……あの……」
今まで饒舌だったのが、急に口ごもり出す。
再び全員が首を傾げ……
「帰り、ご一緒してもよろしいですか?!」
これには、全員の顔に、はっきり驚きと戸惑いの表情が浮かんだ。
♦︎♢♦︎♢
「では、司波さんのCADを調整しているのは達也さんなんですか?」
帰り道、達也の左隣を独占して居るのは何故か、先程知り合ったばかりのほのかだった。
そして張り合うように、右隣には深紅がいる。
「えぇ、お兄様にお任せするのが一番安心するのよ」
それを後ろから、微笑ましそうに眺めながら深雪が答える。
「少しアレンジしてるだけだけどね」
達也の方は苦笑を浮かべている。
「それだって、デバイスのOSを理解できるだけの知識がないとできませんよね」
「あと、CADの基礎システムにアクセスできるスキルもないとな。大したもんだぜ」
「ふ〜ん。あっ、じゃあ達也君、あたしのホウキも見てくれない?」
「無理。あんな特殊な形状のCADを弄れる自身はないよ」
エリカの提案をあっさりと断る達也。
その割に、エリカは嬉しそうな−−と言うよりは面白そうな−−笑みを浮かべた。
「やっぱりすごいねー達也君は」
「……何がすごいんだ?」
「あの警棒がCADだとわかったことがすごい、と言ってるんじゃない?」
「あっ、深紅も気づいてたんだ」
エリカが嬉しそうに笑いながら、柄の長さに縮めた警棒のストラップを持ってくるくる回す。
「えっ、その警棒デバイスなの?」
美月が驚いたような声をあげると、エリカは満足げにウンウンと頷いた。
「普通の反応ありがと美月。これで全員気づいてたら滑っちゃうとこだったわ」
「でもよ、どこにシステムを組み込んでるんだ?さっきの感じじゃ全部空洞ってわけじゃないよな……?」
レオが訝しげにエリカに問う。
「ブーッ!柄以外は全部空洞よ。刻印型の術式で強度を上げてるの。硬化魔法は得意分野なんでしょ?」
「……術式を幾何学文様化して感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動させるっていう、あれか?
そんなもん使ってたら、並みの想子量じゃ済まないぜ?よくガス欠にならねぇな。刻印型の術式自体、燃費が悪すぎってんで今はあんまり使われてないはずだぜ?」
レオの的確な指摘に、エリカは驚き半分、感心半分の顔をした。
「流石得意分野。でも残念、もう一歩ね。強度が必要になるのは、降り出した打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捕まえて想子を流せばそんなに消耗しないわ。兜割の原理と同じよ……って、みんなどうしたの?」
みんなから、驚いたような呆れたような視線を向けられ、エリカが首を傾げた。
「兜割ってそれこそ、秘伝とか奥義に分類される技術だよ」
「単純に想子の量が多いより、よっぽどすごいと思うのだけど」
全員の気持ちを代弁したのは深紅と深雪。
二人の指摘にエリカが、しまった!というような顔をする。
「魔法科高校では一般人の方が珍しいのかな?」
「魔法科高校に一般人はいないと思う……」
美月の若干天然ボケな発言に雫が突っ込み、その日は微妙な雰囲気で終わった。
 
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