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前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話

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ばんゆう

豊饒の女主人から少し離れた路地裏。

ベルはそこにいた。

その手には、大鎌が握られていた。

「ヴォルドール」

次の瞬間、そこにベルの姿は無かった。

まるで、影に呑まれたかのように、ベルは消えた。








豊饒の女主人。

そこではロキファミリア幹部らによる私刑が繰り広げられていた。

受けるのは無論ベートであり、執行するのはリヴェリア、アイズだ。

一通り罰を与えた後、これからどうするかの話になった。

「ロキ、団員達はここで騒がせておけ。
私とアイズがベルを探してくる」

「ええんか?」

「お前やフィンが抜けるのは都合が悪い。
私達が適任だろう」

リヴェリアとアイズが席を立ち、酒場を後にした。









ダンジョン五階層

「僕は、英雄になるんだ…!
強く…なるんだ…!」

その手にエザンディスを握り締めベルは歩み始めた。

目に入った敵を、ひたすら切り刻む。

魔石は回収するどころか、進んで割っていた。

やがて、下へ下る階段を見つけた。

ベルは臆せず歩みを進める。


六階層

壁から生まれてきたのは、ゴブリンよりもシャープで、輪郭だけの存在。

ウォーシャドウ。

「死ね」

それすらも、大鎌の一撃で撃破。

長いリーチで相手の手の届かない所から攻撃する。

戦闘の基本である。

それから、ベルは大鎌を振り回し、現れるモンスターを尽く屠って行った。










「アイズ、取り敢えず周辺を探そう」

「ん」

ベルの足ではまだそう遠くに行っていない。

リヴェリアとアイズの考えは正しく、そして間違いであった。

確かにベルのアジリティは低い。

冒険者に…眷属になったばかりなのだから。

だが、ベルにはヴィラルトとヴェーダがある。

エザンディスのヴェーダ、ヴォルドール。

空間をねじ曲げ、跳躍する業。

ベルは、それを使い、五階層へ跳んだのだった。









「キラーアント…」

ベルの眼前に広がるは、大群。

ゴブリンより硬く、攻撃力も高い。

とは言え倒せない相手ではないのだ。

しかし、それが五体…十体…

そうなれば、捌ききれず、それは死へ繋がる。

「アリファール、ラヴィアス」

大鎌が影に溶け、風の剣と氷の槍を握る。

キラーアントの魔石の位置は胴と頭の間だ。

装甲の少ない間接部と言い換えてもいい。

そこを一突きすればいい。

迫り来る大群の一体一体を、魔石を一撃で砕く事で捌く。

キラーアントは一撃で倒さねば、仲間を呼ぶ。

「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

槍で薙ぎ、剣で突き、魔石を割る。

特に狙いもせず、振り回される竜具は、その性能を遺憾無く発揮し、キラーアントの魔石を装甲諸とも切り裂く。

「僕は!僕は英雄になるんだ!
僕は!強くなるんだ!」

それだけを、たったそれだけの願いを胸に、ベルは目の前の敵を斬る。

それだけの、子供じみた願いで。

しかし、遂に捌ききれなくなった。

「ヴェルニー!」

風を起こし、大きく跳躍した。

「レイ・アドモス!」










「アイズ、見つけたか?」

「だめ。居ない」

「……一度ホームを見に行こう」

その頃、アイズとリヴェリアは豊饒の女主人周辺を探し終えていた。

しかしベルが見つからず、焦りを覚えていた。

ベルの容姿は優れているし、男、女どちらとも取れる。

その辺りの知識がないアイズはともかく、リヴェリアはかなり深刻に考えていた。






七階層

「パープルモス…」

毒の鱗粉を撒き散らす蛾型モンスター。

その毒に即効性は無いが、何度も浴びると毒状態になってしまう。

キラーアントを殲滅し、奥へと進んだベルの前に現れたのはそんな厄介なモンスターだった。

「黒弓」

パープルモスが鱗粉を散布できるのは自らの近くだけ。

なら、近づかなければいい。

弓を構え、射る。

彼は故郷で大抵の武器は使えるよう鍛練した。

外とは違い、ダンジョンは無風だ。

この距離で当てるのは容易い。

パープルモスに『三本』の矢が命中した。

「これって、『オレ』の影響だったのかなぁ…」

翅を食い破られ、揚力を維持出来なくなったパープルモスが墜落する。

「ヴァリツァイフ」

闇となって霧散した弓の変わりに、今度は鞭が握られた。

パープルモスにはあまり近付きたくないのだ。

だが、ヴェーダは使わない。

遠距離攻撃ができるが、ヴェーダは消耗が激しいのだ。

やがて、パープルモスが灰と化す。

「もっと…もっと先へ…」











オラリオでは、夜が明けようとしていた。

ベートも含めた幹部総出でベルの捜索を行っていたが、未だに見つからない。

彼等は一通りの捜索を終え、オラリオ中央広場…バベルの前で集合していた。

「フィンよ」

「ガレス?」

最後に来たガレス・ランドロックも収穫は無かった。

「これはもう、下しかないであろう?」

「ダンジョンか…」

「ロキ、ウサギ君は死んでないんだよね?」

とティオナがロキに確認した。

「ああ、死んどらんわ。
せやったら絶対わかる」

ロキとベルの間のファルナを介した繋がり。

それが保たれていることだけが、彼等にとっての救いだった。

「じゃぁ、行こう。
彼はまだレベル1だ。
そう深い所までは行っていない筈だ」

そうして、彼等は、身の着のまま、最低限の装備で、ダンジョンへ向かうのだった。









十四階層

「バルグレン、お願い」

迫る炎へ、焔の双剣を向ける。

刹那。

眼前に迫る炎が収束し、双剣に吸い込まれた。

それだけではない。

ベルの体力が僅かながらに回復した。

ヘルハウンド。

炎を放つ犬型モンスターで、多くの冒険者が餌食となってきた。

だが、竜具を持つベルにとって、属性攻撃はカモでしかない。

対応する竜具でそれらを吸収すれば、攻撃の無効かどころか回復すら出来るのだから。

「疾ッ!」

ベルが跳躍する。

近付かれたヘルハウンドは、火炎を放つも無効化された。

そうして、ヘルハウンドの首が飛んだ。

「次!」










ロキファミリア幹部陣はダンジョンを駆けていた。

すれ違った冒険者は何事かと見ている。

何故か?

バベルに入る寸前、ダンジョンから出てきた冒険者の話を耳にしたからだ。

曰く、兎のような幼女が物凄い剣幕でモンスターを狩っていたと…

リヴェリアとアイズが問い詰めた所、その幼女が居たのは十階層。

「先行する」

「わかった。行けアイズ」

その集団から、アイズが突出する。

この中でもっとも敏捷が高いのはアイズなのだ。









十五階層

「うわわわっ!?」

ベルが一瞬前いた所に、クレーターが発生した。

寸でのところで避けたベルが姿勢を立て直す。

「はぁ…はぁ…」

彼の目の前には、巨大な銀。

シルバーバック。

「バルグレンは…無理だよね…」

ベルの両手から、双剣が焔となり消滅した。

「デュランダル!」

シルバーバックの爪が、ベルに迫る。

キィン!

「ぐ…ぅ…!」

辛うじて爪を大剣で防ぐ。

だが、体格で劣るベルでは、シルバーバックとの鍔迫り合いは不可能。

一瞬踏みとどまったものの…

「うわぁ!?」

吹き飛ばされてしまった。

「あっ…がはっ!」

壁に叩きつけられ、ベルの意識が朦朧とする。

シルバーバックが、その腕を振り上げる。

ベルを粉々にしようとした拳は…

「ベル、生きてる?」

剣姫の細剣によって、細切れにされた。

「あ…い…ず…さ…」

シルバーバックの返り血で赤く染まったベルの意識は、暗転した。 
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