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儚き想い、されど永遠の想い

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307部分:第二十三話 告白その八


第二十三話 告白その八

「ですから今もです」
「こうして梅とお茶を口に入れて」
「養生しましょう。後は」
「後は?」
「空気もいいそうです」
 今度話すのはこのことだった。
「奇麗で澄んだ空気の中にいれば」
「それもまた養生になるのですか」
「そう聞いています。ですから」
「これからは。今まで以上に」
「幸い神戸は海と山に囲まれています」
 神戸の特徴だ。その為空気もいいのだ。
 そのことを頭に入れてだ。彼は今話すのだった。
「ですから。その中にいて」
「心からもですね」
「そうですね。心もですね」
 このことはだ。真理に言われて気付いた義正だった。
 そしてl気付いてからだ。また述べたのだった。
「そうなりますね」
「では。この町で」
「養生されますか」
「そうさせてもらいます」
 微笑みながら話した真理だった。そうしてだ。
 お茶漬けをだ。義正と共に楽しむのだった。この日は。
 幸せなまま過ごせた。そうして一月程過ごした。しかしだ。
 やがて真理はだ。義正にこう話したのだった。
「今は私の病のことは」
「知っているのは」
「あのお医者様の他は」
 そのだ。真理を診察した医師だ。彼は知っていて当然だ。
 だがそれ以外にだ。このことを知っているのは。
「私達だけですね」
「はい」
 その通りだとだ。義正も答えたのだった。
「そうです」
「そうですか」
「はい、そうです」
 こう答えるのだった。
「知っているのは私達だけです」
「それでいいのでしょうか」
 真理はだ。目を伏せて考える顔になってだ。
 そのうえでだ。こう義正に言った。
「果たして何時までも」
「何時までも、ですか」
「この病はやがては倒れてしまうものです」
 治りはしない。重くなることはあっても。
 だからだ。真理は考えてだ。そして言ったのだった。
「そうして倒れればその時は」
「その時は」
「誰もが知ってしまいます」
 労咳、彼女の病のことをだというのだ。
 それを話してだった。彼女は。
 あらためてだ。義正に話したのだった。
「ですから」
「だからですか」
「このことをお話すべきではないでしょうか」
「私だけでなくですか」
「はい、八条家と白杜家」
 義正の家、そして真理の家だ。
「その両家において」
「それは」
 義正にしては珍しくだった。
 顔を曇らせてだ。こう返したのだった。
「あまり仰らない方が」
「黙っておくべきだというのですか」
「労咳はよく思われていません」
 伝染する、そのことからだ。そして死に至るからだ。
 それでよく思う者なぞいない。それこそ罹ればだ。
 座敷牢に押し込められ一生出られずだ。咳と喀血の中で苦しみ抜き弱って死んでいく。孤独の中で。それが労咳に罹った者の運命だった。
 
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