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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×とある提督の幻想殺し 編
  不幸な青年提督がやってくる?

 
前書き
今回はハーメルンで完結致しました榛猫さん執筆の『とある提督の幻想殺し』とのコラボストーリーとなります。

タイトルでお分かりかも知れませんが、『とある』シリーズの主人公・上條当麻君が提督となり、ドタバタな日常を引き起こすというお話となっております。あちらでも番外編として投稿されておりますので、興味を持たれた方は是非!( ´∀`)/ 

 
「あん?怪しい提督がいるから内偵しろだぁ?」

 とある日の昼下がり。昼飯も食って、さぁ午後の執務も頑張るかと気合いを入れ直したタイミングで、そのやる気を真っ二つにへし折る電話が掛かってきた。

『そうじゃ。どうにも儂等でもその経歴を追いきれんでな』

「隠居してからも海軍の仕事してんじゃねぇよジジィ。大人しく茶でも啜ってやがれ」

 電話の相手は前元帥……まぁ、いつものジジィだ。隠居してからも、というか隠居してからより一層、あちこちの厄介事に首を突っ込んでるらしい。毎度毎度厄介事の種を持ち込んで来やがるのはこのジジィなのだから、いい加減にしろと言ってやりたい。

『まぁそう邪険にしないでくれ、金城』

「教官……」

 ジジィのケータイを取り上げたのだろう、電話口に出たのは俺の教官でもあり、ジジィの嫁さんでもある元艦娘の三笠さんだった。ジジィはともかく、教官には偉く世話になっているから頭が上がらない。

『手間をかけさせるからな、それ相応の報酬は準備させてもらう。どうにか受けては貰えないか?』

「そう畏まらないで下さいや、教官にそこまで頼まれちゃあ断り切れんでしょうが」

『受けてくれるか、助かるよ』

『おい小僧!儂への態度と随分差があるのぅ!?』

「当たり前だ、恩人と疫病神を同列に扱えるか」

『にゃにゃにゃ、にゃにおぅ!?』

「いいからとっととデータ送って寄越せよ、じゃあな」

 そう言ってギャースカ喚くジジィを無視して電話を切る。それから数分と待たずに俺の仕事用のパソコンにメールが届く。メールを開くとそこには調査してほしい提督の氏名が書かれていた。

「上条……当麻?」

 それが調査対象の名前だった。




 ジジィからの憂鬱な電話を貰ってから1週間。その日、いつものごとく事前調査を押し付けられた青葉が、本土からブルネイに帰ってきた。帰ってきた時間も業務終了ギリギリの時間で、労いの意味も込めて提督は店に青葉を招き入れる。

「ま、まずは駆け付け一杯」

「おっ……とととと、遠慮なく頂きます!」

 ハイボールグラスに並々と注がれるのは『ティーチャーズ』と炭酸水、そこに少々のレモン汁。スモーキーな香りを引き立てるにはハイボールが一番だ。そして青葉の目の前には提督が手ずから作ったツマミが並ぶ。一仕事終えた密偵に酒を振る舞って労うなんて、どこの火付盗賊改方の長官ですか、と密かに時代劇好きの早霜は心の中でツッコミを入れる。が、そんな思いは顔には出さず、ポーカーフェイスでグラス磨きを続ける。親しき仲にも礼儀あり……不必要に相手の懐には飛び込まない。それが早霜のバーテンダーとしてのスタンスだ。提督は逆に酒の力を使って相手の胸襟を開かせて、その下の本音を聞き出そうとする。そのフレンドリーさや優しさ、時折魅せる男らしさにコロッとイカれてしまうのだが。自分もコロッとイってしまったクチだから、他のLOVE勢の皆さんに『チョロい』なんて口が裂けても言える事では無いんですが、と余計な事ばかり考えつつ、早霜は無表情でグラスを磨く。

「あ゛~……やっぱり司令の料理を食べると落ち着きますねぇ。こういうのを『おふくろの味』って言うんでしょうか?」

「俺はお前らのカーチャンかよ」

「いやぁ、司令は男性ですから父子家庭って奴じゃないですか?」

「おいおい、一応結婚してんぞ俺ぁ」

「って言っても、金剛さんも元は娘みたいなモンでしょ?娘と肉体関係持って、近親相姦の上にハーレム状態で娘と重婚までするとか……世界の性犯罪者もビックリですね!」

「そういう誤解を量産する言い方止めてくんない!?」

 部下と上司というには、あまりにも砕けすぎな会話を交わす提督と青葉。お互いに長い付き合いだし、青葉も提督は好ましいと思っている。が、他のLOVE勢のようにベタベタとくっつきたい訳ではなく、そのイチャラブを傍観して適度に弄る位の今のポジションが心地いいのだ。特に恋愛感情や結婚願望等は無いが、この居心地の良い空間を壊したくないという思いは本物だと自負している。

「はぁ……まぁいい。ホレ、とっとと資料出しやがれ」

「あぁ、そういえば渡してませんでしたね」

 よっこらしょ、と青葉の隣に腰掛け、手酌で自分の分のハイボールを拵える提督。グビリと飲み込んで喉を潤し、青葉が差し出した資料に目を通していく。

「名前は上条当麻、所属は……呉第37鎮守府?ここって確か」

「えぇ、三笠お姉さまにクビ(物理)にされた提督のいた鎮守府……所謂ブラック鎮守府って奴でふね」

 食べる手を止める気は一切無いのか、唐揚げを頬張ってモッキュモッキュしながら提督の疑問符に青葉が応じる。未だに艦娘の人権を認めず、道具のように扱うブラック鎮守府は後を絶たない。元帥の座を退いて(形だけの)隠居したジジィと三笠は、そんな鎮守府を秘密裏に潰して回っているらしい。そのやり方はシンプルで、事前に調査してクロだと出た鎮守府に真夜中忍び込み、提督の首を飛ばすのだ。政治的な比喩表現ではなく、物理的にである。そして警備から逃げおおせるという、どこの仕事人かと尋ねたくなるような事を旅行の片手間のつもりでやらかすから質が悪い。余談ではあるが、三笠の敬称は『お姉様』で統一されている。人外の化け物では?と本気で疑われている提督を一人で制圧しうるガチの化け物に、

『教官では無くなるのだ、そうだな……おば様というのは嫌だしお姉様とでも呼んでくれ』

 と言われたら、返事は『YES』か『はい』しか出来ないだろう。

 閑話休題。


「しかし、ブラック鎮守府の建て直しを任されるとは……羨ましいねぇ。本土は優秀な若手が多くて」

 ブラック鎮守府の建て直しは、鎮守府の経営の健全化だけでは済まない。むしろ帳簿の上では健全そのもの、下手をすると数字だけ見れば優秀な部類に入る場合が多い。……が、艦娘の尊い犠牲の名の下にその成績は成り立っている。心の死んだ艦娘達を立ち直らせ、尚且つ戦績を上げるには提督の運営能力だけでなく、人格的にも優れた人物である必要がある。資料によると上条当麻なる提督は、まだ20代前半の……金城提督からすれば小僧と呼んでも差し支えない位の歳で大佐の地位に就いている。

「そんな事言って。まだ隠居する気なんて全くないじゃないですか、司令は」

「バカ言え、俺ぁとっとと隠居して店でもやりながら嫁とイチャコラしながら暮らしたいと思ってるぞ?」

 これもまた、提督の偽らざる本心だったりする。引退して隠居出来るならとっとと隠居して、嫁艦達を引き取り、ホテルかレストランでもやりながらのんびり楽しくやるのも良いなぁと常日頃から思ってはいるのだ。しかし、今の海軍の現状を鑑みると自分が抜ける訳にも行かないと思っているのもまた事実。ブルネイは『玄関口』であり『中継地』でもあり、『楔』でもあるのだ。

 本土を出発して南方海域・西方海域・南西諸島海域に向かう時には必ず通るし、そこを往き来する船団の休息地にもなっている。そして、南方に棲まう強力な深海棲艦を押し留める防波堤でもある。これだけの重責を一手にこなせる後進がおらず、金城提督に押し付ける形になってしまっている。まぁ、本人は

『代わりがいないなら、俺がいる内にケリを着けるしかねぇだろ?』

 と、大して深刻には考えていないのだが。





「出身地は……不明?オイオイ、手抜きかこりゃあ」

「違いますよぅ。幾ら調べても出てこなかったんです」

「……改竄の痕跡もか?」

「えぇ、綺麗なモンです。まるで、元々この世界に居なかった存在みたいに」

 人が存在する、というのは何かしらの痕跡が残る物だ。在学していた学校、住んでいた街、入院生活が長かったのなら入院していた病院、孤児だとしても、預けられていた孤児院などにその痕跡が残る……例え、巧妙に消されていたとしてもだ。しかしこの上条当麻なる青年の過去は、提督として鎮守府に任官する以前の物が存在しないという。

「そいつぁ……クサいな」

「でしょう?」

 傍迷惑なパパラッチではあるが、諜報員としての青葉の実力を提督は高く買っている。その青葉が手を尽くしてこの上条なる青年の過去を洗っても何も出てこなかったという事は、巧妙に過去を抹消されたか、あるいは荒唐無稽な話だが本当に過去が存在しないのか。

「まぁ、どちらにしろだ。直接会って見定めるのが一番確実だろうよ」

 提督はそう言うと、煙草を咥えて火を点けた。 
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