儚き想い、されど永遠の想い
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252部分:第十九話 喀血その四
第十九話 喀血その四
「そうなのです」
「そうだったのですか」
「意外でしょうか」
「いえ、意外には思いませんが」
しかしだと。こう言ってだった。
「そうしたこともできられるのだと」
「そのことがですね」
「はい、知りませんでした」
意外には思っておらずだ。知ったというのだ。
「そうだったのですか」
「そうでした。それではですね」
「私が運転してですね」
「そうされるのですね」
「そのつもりです」
そのだ。彼の運転でだというのだ。
「行きましょう」
「何か。車に乗って行くというのも」
「いいものですね」
「鉄道に乗るのもいいですが」
それとは別にだというのだ。車は、
「これもいいものですね」
「そうでしょう。車には車のいいものがあります」
「鉄道には鉄道の」
「それぞれいいものがあります」
そうだというのだ。義正は。
その話をしてだ。それでだった。
二人は屋敷を出て義正が動かす車に乗ろうとする。しかしだった。
その二人に佐藤と婆やがだ。一緒に声をかけてきた。
「待って下さい、どちらに」
「行かれるのですか?」
「少し車で二人でね」
「散策をと思いまして」
「ドライブですか」
二人の話を聞いてだ。こう言った佐藤だった。
「それをされにですか」
「ああ、ドライブだったね」
義正は彼のその言葉を聞いてだった。思い出したように応えたのだった。
「英吉利とかでは車でそうして旅をするのを」
「そう言います」
「うん、それだよ」
そのドライブという言葉にだ。応えてまた言うのだった。
「それに行くんだよ」
「それでしたらです」
佐藤は自分から名乗り出て話した。
「私がです。運転を」
「いや、いいよ」
「旦那様がですか?」
「二人で行きたいんだ」
だからだというのだ。
「今はね」
「しかしそれは」
「まあたまには」
いいだろうと。義正は言った。
だが、だ。その彼にだ。
婆やがだ。咎める顔で反論してきた。
「それは無謀です」
「車を運転することがかい?私が」
「そうです。車は危険なものです」
こう言うのである。
「義正様はいつも運転されてはいませんね」
「そう言われると」
「そうした方が安易に運転されると」
「事故の元だというんだね」
「その通りです」
まさにそうだというのだ。
「ですから。それはです」
「慎むべきだと」
「その通りです。お止め下さい」
またこう言う婆やだった。
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