儚き想い、されど永遠の想い
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250部分:第十九話 喀血その二
第十九話 喀血その二
「とても無理です」
「その通りですね」
「今はです」
だが、だ。義正はだ。
今の時点ではと限定してみせた。そうしてさらに話すのだった。
「ですがこれからはです」
「違いますか」
「維新の頃。ここまでなると誰も想像しなかったでしょう」
「そのことは聞いています」
その頃のことを知る人からだ。
「とても。露西亜に勝つことも」
「しかし。それをできました」
「では。何時の日かですね」
「そうなる可能性は零ではありません」
義正はその声に熱いものを宿らせて話す。
「すぐにはできなくともです」
「やろうと思い努力をしていけば」
「必ずできます」
「これまでの様にですね」
「そうです。必ずできます」
また話す義正だった。
「ですから。父の考えは否定しません」
「むしろ肯定されますね」
「はい」
その通りだとだ。義正ははっきりと答えた。
「そうしています」
「そうですか。鉄道だけでなく」
「車もです」
「今我が国は船も作っていますが」
大々的にだ。それもできるようになっていたのだ。
しかもだ。さらにだった。
「近頃では空についても言われていますが」
「飛行機ですね」
「我が国も空を飛べるのでしょうか」
「軍でそれを懸命に学んでいるところです」
「懸命にですね」
「そうです。空も必ずです」
飛べるようになる。そうなるというのだ。
「我が国は空でも大きくなれるかも知れません」
「夢の様ですね」
自然とだ。笑みになってだ。真理はこの言葉を出したのだった。
「何か。車に空にと」
「夢です。しかし夢は」
「その夢は」
「実現できるものです」
義正は確信していた。このことを。
「私達が今こうしていられるようになったのと同じで」
「それと同じですね」
「文化も技術も」
「どちらにおいても」
「果たせます。必ず」
「文化もですね」
「そうです。西洋に追いつくのです」
ずっと目指していることだった。維新からだ。
「残念ですがまだ追いついていませんが」
「それでも。目指せば」
「なれますから。少なくとも近付いてはいるでしょう」
主観的に見ているがだ。そうだというのだ。
「次第に」
「次第にですね」
「そうなっていますから」
「音楽も絵画も」
「建築も」
「我が国は。彼等に追いついていっていますか」
真理にとってはこのことも夢の様だった。彼女が幼い頃に聞いた欧州はまさに夢そのものだったからだ。その夢に追いつこうとしていること、それ自体が夢だった。
その夢を感じながら。それでなのだった。
半ば恍惚としてだ。今の日本を想うのだった。
その想う言葉はだ。自然として出てきた。
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