FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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神に見捨てられた地
前書き
寒波もだいぶ落ち着いてきましたね。いいことです。
「ゼレフがいるのか!?」
「この大陸に・・・」
メストさんからの言葉を聞いて騒ぐ俺たち。マスターに説明を求めると、彼はうつむきながら回答した。
「ワシも知らんかった・・・皇帝スプリガンを名乗る男こそゼレフ本人じゃ!!」
予想だにしなかった事実に言葉を失う。マスターはそんな俺たちの顔を見て静かな口調で話し始めた。
「お前たちがここにいるということは・・・事の経緯はメストから聞いているということか」
「はい」
「全て聞きました」
「とにかく無事でよかったです」
1年前より老け込んではいるものの、マスターは元気そうだし、無事に助け出すことができて本当に良かった。だが、彼は下を向いたまま、震えている。
「ワシの考えが浅はかだった・・・奴等は初めから交渉に応じる気などなかったんじゃ・・・ギルドの歴史を汚してまで西方入りしたというのに、全てが無意味。こんなに悔しいことはない」
大粒の涙を溢し目的を果たせなかったことを悔しがるマスター。でも、彼の行動が無意味なわけがない。
「無意味なもんか。この1年があったからみんな成長した」
「あたしたちはまた集まることができたんだよ」
グレイさんとルーシィさんがそう言うが、マスターはまだ震えたままこちらを見ないでいる。
「無意味な人を想って起こした行動は必ず意味のあるものと信じています。それがあなたの教えだから」
エルザさんからそう言われようやく顔を上げたマスター。そんな彼に1人の男が手を差し出す。
「帰ろうじっちゃん!!妖精の尻尾へ!!」
「・・・ああ」
感動で言葉も出ない様子のマスターはなんとか声を絞り出した。
「つもる話しもあるけど、まずはこの場を離れましょう」
「危険だもんね~」
「そうだね」
シャルルとセシリー、ハッピーが早くこの場から逃れることを提案する。が、マスターは彼女たちが人間の姿になったのを初めて見たので、誰だ、といった感じの顔をしており何も言えないでいる。
「連続で瞬間移動をつかいすぎた。今の魔力じゃみんなを連れて移動できるのは1回。その1回はソラノの船?までの1回に使いてぇ。瞬間移動で船に行ける地点まで戻らねば・・・」
「せっかく仲良くなれたのに・・・帰っちまうのか、マカロフ」
「「「「「!!」」」」」
これからのことを話していた俺たちの背後から聞こえてくる男の声。そちらを振り向くとそこには目のイラストが入ったバンダナをした色黒の男が立っていた。
「土産は持ったかい?土の中へた意外とすぐに着いちまう」
「アジィール!!」
「バカな・・・!!どうやってここに・・・」
メストさんは瞬間移動を使ってここまでやって来た。後をつけるなんて芸当ができるはずもない。アジィールと呼ばれた男は手から砂を出し得意気に語る。
「砂。砂はいい!!全てを語ってくれる」
どうやらこの男は砂の魔法を使う魔導士のようで、この一帯にある砂の声を聞いてここまでやって来たらしい。
「すごい魔力・・・」
「マスターより大きいかも・・・」
先程グレイさんたちから聞いたが、カラコール島が無くなったのはアルバレスの16と呼ばれるスプリガンの盾の1人が魔法を使ったのが原因らしい。その女性の魔力も大きかったらしいが、この男の魔力も尋常じゃない大きさだ。
強敵であることは火を見るよりも明らか。それでも俺たちは意を決して戦うことを選ぶ。
「いいねぇ」
戦闘体勢の俺たちを見て楽しそうな顔をするアジィール。今にも動き出そうとしたその時、後ろからマスターに止められた。
「よせ!!戦ってはいかん!!勝てる相手ではない!!逃げるんじゃ!!」
彼のその言葉に納得がいかずに思わずそちらを全員で振り向く。
「けど・・・」
「マスターが言うんだ!!引くぞ!!」
「くそーっ!!」
「全員引けー!!」
「ちっ!!」
武力では敵わないとされている相手から猛ダッシュで逃げる俺たち。
「こっちに魔導四輪を用意してあるわ!!」
「みんな急いで~!!」
あらかじめ用意しておいた魔導四輪目指してひた走る。エルザさんがわずかな時間を稼ぐために無数の剣を敵に放った。
「今のうちだ!!乗り込め!!」
「車・・・」
「私が運転する!!」
魔導四輪は当然乗り物であるため俺たちに取っては地獄だが、今はそんなことも言ってられない。渋々乗り込むと、エルザさんの運転で逃亡劇が開始された。
「うぷ」
「あぷ」
「うう」
窓から顔を出して吐き気と懸命に戦う俺たち。その間もエルザさんはSEプラグが変形するほどの速度で飛ばしている。
「飛ばせ!!エルザ!!」
「わかってる」
どんどん加速していく魔導四輪。これならもう追い付けないだろうと思っていたが、マスターの見解は違った。
「来るぞ」
「あ?」
彼が何を言おうとしているのかわからずにいると、外を眺めていたハッピーたちがその言葉の意味に真っ先に気付いた。
「何あれ」
「「・・・」」
超特急で進んでいる魔導四輪を影が覆う。その正体は、後ろから追い掛けてくる巨大なモンスター。
「砂!?」
「砂の怪物!!」
「おのれ・・・」
後ろから砂のモンスターが襲ってくるとあってエルザさんがそちらに気を配り、攻撃を交わしなから進んでいく。
「ダメだ!!追い付かれる!!」
しかし、敵の速度は異常と言えるほどに早い。このままでは捕まってしまうのは目に見えていた。
「ルーシィ!!迎撃するぞ!!」
「うん」
グレイさんとルーシィさんが魔導四輪の天井へと上る。その際ルーシィさんのお尻でナツさんが落ちそうになっていたけど、なんとか耐えた。
「よせ!!敵う相手じゃない!!」
「やってみなきゃわからねぇだろ!!」
マスターが止めるものの2人は黙ってやられるようなことは絶対にできないと戦うことを決意する。グレイさんは滅悪魔法の力を解放し、半身に黒い模様が浮かび上がっている。
「星霊衣サジタリウスフォーム」
一方のルーシィさんはエルザさんの換装魔法のように変身すると、その手にはサジタリウスさんが使うような弓矢が姿を見せた。
「アイスメイク・・・」
「へぇぇ、やるつもりかぁ?」
魔力を高める2人を見ても余裕綽々なアジィール。だが、次の瞬間にその顔は大きく変わることになる。
「銀世界」
その魔法が解放された途端、辺り一面が銀世界に変わった。それはまるでレオンの封印の氷地獄のようだ。
「な・・・」
「辺りが一瞬で氷漬けに」
「すごい」
「怪物を凍らせた~!!」
敵の魔法を凍らせた彼の力に驚くエクシードたち。アジィールも一緒に氷漬けにできたかと思ったが、そう甘くはなかった。
「やるぅ」
彼は乗っていた砂の怪物から飛び降りると、手を振るってこちらに新たな砂のモンスターを出現させる。
「砂が怪物になった!!」
「任せて!!」
幾多ものモンスターの登場にハッピーが焦っていたが、ルーシィさんはそれに負けじと一度に何本もの矢を構える。
「スターショット!!」
全てが見事に命中して砂のモンスターの一陣を退ける。その後もアジィールは何体もの砂のモンスターを繰り出すが、全て2人によって倒された。
「いいねぇ、いいねぇ」
それでも余裕を崩さない彼が突然視界から消える。
「消えた!!」
「下じゃ!!奴は砂と同化する!!」
「蟻地獄ゥ!!」
マスターがそう言った時にはすでに手遅れだった。魔導四輪を中心とした広範囲に出来上がった蟻地獄。それにより魔導四輪は前方に進むことも戻ることもできなくなった。
「しまったぁ!!」
「「うぷっ」」
「くそっ!!」
「うあっ!!」
魔導四輪から投げ出され蟻地獄へと引きずり込まれる俺たち。アジィールはその様子を上から見下ろす。
「アーハッハッハ!!いいねぇれ!無様な姿が実にいいねぇ!!」
「車から出るんだ!!」
中に取り残されていたエルザさんたちが砂に侵攻される前にと魔導四輪から出てくる。
「くそ・・・魔導四輪が・・・」
「ハッピー!!しっかり!!」
「砂が口の中に」
だがこれで俺たちは移動手段を失った。しかし、それだけでは終わらない。
「何これ~!?」
「砂が」
「まとわりついて・・・」
「動けない!!」
蟻地獄の中心にどんどん吸い込まれていく俺たち。アジィールはその姿を腰に手を当て鑑賞していた。
「何人殺してきたかなぁ?いくつの街を飲み込んできたかなぁ?この蟻地獄は終わりの扉、逃れられた者はいねぇ。
いいかぁ!!死ぬ前に1つだけ覚えておけぇ!!お前ら程度の魔導士は掃いて捨てるほど始末してきた!!格が違うんだよ虫ケラどもぉ!!イシュガルの地は神に見捨てられた!!これよりアルバレスによって支配されるだろう!!悔しいだろ!?アハハハ!!」
高笑いする男の姿に思わず奥歯を噛む。彼はそれを見てさらに大声で笑い出した。
「いいねぇ!!いいねぇ!!その顔ぉぉぉぉ!!」
このまま俺たちが死ぬのを観察しようとしていたアジィールだったが、突如目の前が爆炎に包まれる。
「神に見捨てられた?上等」
ナツさんの炎で蟻地獄を脱出した俺たち。それと同時に、俺たちの体に刻まれていた化猫の宿のマークが妖精を模したものへと変化する。
「まだ妖精の尻尾がいるからよぉ」
これだけで力がみなぎってくる。照らされているギルドマークを見て、アジィールは驚愕の顔へと変化していた。
「砂を蒸発・・・」
驚く彼の顔面に間髪入れずに拳を叩き込むナツさん。まともに一撃を受けた彼は地面に転がりながら体勢を立て直す。
「ははっ、こんないいパンチをもらったのは何年ぶりかな?」
ナツさんの拳を受けてもなおも立ち上がってくるその姿に驚かされる。
「いいぞ!!もっと来い!!」
熱くなってきた彼は魔力を解放すると砂のつぶてが向かってくる。
「凍りつけ!!」
「乾け」
その砂をグレイさんが凍らせようとするが、アジィールの砂の方が強く一瞬で破られてしまう。
「何!?」
なおも勢いを増して迫ってくる砂。それがまた体にまとわりついて来るが、先程よりも力が強い。
「おのれぇぃ!!」
ピンチと察したマスターが拳を巨大化させてアジィールさんを襲撃する。彼はそれを後方へと飛んで回避するが、マスターはそのまま俺たち全員のことを捕まえると守るように抱え込んだ。
「ワシのガキどもは絶対にやらせんぞ!!」
せめて俺たちだけでもとマスターは行動に出るが、アジィールの顔に焦りはない。
「じっちゃんよせ!!俺たちは戦える!!」
「ナツ・・・叫ばないで」
一方抱え込まれている俺たちは狭い空間の中で押し潰されそう。とにかくここから出してもらった方がいいような気もするんですが・・・
「へぇ・・・それで全員を守れるとでも?わかってねぇなぁ、スプリガン16の力を」
姿は見えないがアジィールの声からまだ何かあることは容易に想像できた。それと共に遠くからこちらに向かってくる巨大な音。
「飲まれろ、死の砂に!!」
「な・・・」
マスターの手の隙間から見えたのは大きな砂の波。それは巨大化しているマスターを飲み込むこともできるほど巨大なものだった。
「メスト!!瞬間移動だ!!」
「どこにだよ!!」
メストさんの魔法で逃げようにも砂の波が大きすぎてどこにいけばいいのかわからない。そんな間にも砂の波はすぐ目と鼻の先!!
「何があってもお前たちだけは守る!!」
「じっちゃん!!」
「必ず!!」
全てを賭けてでも俺たちのことを助けようとするマスター。アジィールはそれを滑稽そうに見ていた。
「終わりだ、この砂嵐は触れた者全ての水分を消滅させる。妖精のミイラ誕生だな」
身を小さくしてできるだけ隙間を無くそうとするマスター。
「マスター!!」
「じっちゃん!!」
「じーさん!!」
「逃げてぇ!!」
砂の波にマスターが飲み込まれようとした次の瞬間、上空から雷が落ちてきた。それは狙ったかのようにマスターの前の砂を打ち破り、アジィールはそちらを見上げる。
「ラクサス!!」
そこにいたのはクリスティーナに乗っているラクサスさん。
「あの砂嵐を一撃で消し去ったのか!?」
「ひぇー」
「相変わらずハデだな」
「すげー!!」
アジィールの魔力もけた外れなのにそれを打ち消した彼の魔力も相当なものだ。彼は地上を見ながら、実の祖父であるマスターを見る。
「老けたな、ジジィ」
そうはいうもののその顔はどこか嬉しそうなようにも見える。
「一旦退くぞ!!」
「ここは敵地だしな」
「船に乗って!!」
「あ・・・あの・・・私たちの船なのだが・・・」
「皆さんはしゃぎすぎです」
続けてクリスティーナから聞こえてくるのはガジルさんたちの声。でも、そこで俺たちはある疑問を抱く。
「ガジル?レビィとリリーも」
「つーかあれ船だろ!!なんでガジルもラクサスも平気なんだ!?」
ガジルさんもラクサスさんも俺たちと同じように乗り物に弱いはずなのに、今の2人は平然としている。それを答えようとマイクが動いた音がしたが、そこからは様々な声が聞こえてきた。
「グレイ様~!!ジュビアもいま~す!!」
「お・・・俺にもしゃべらせろ」
「エルフ兄ちゃんやめなよ」
「これは滅竜魔導士用にカスタムされた船なのよ」
あまりの緊張感のなさに押し黙るしかない。これが妖精の尻尾らしさでもあるけど・・・
「あれ?シリルにウェンディ、少し大きくなったか?」
「少女から大人へ・・・だな」
「みんな1年で成長したのよ」
「少女じゃねぇし!!」
「あの・・・あまり変わってないのですが・・・」
雷神衆の皆さんもいるらしくスピーカーからそんなことを言われる。それを聞いて俺とウェンディはショックを受けたのは言うまでもない。
「メスト!!いるんだろ!?瞬間移動だ!!この船に!!」
「了解!!」
カナさんの声を聞き俺たち全員を連れて瞬間移動を使うメストさん。
「逃がすかぁ!!」
侵入者である俺たちを逃がすまいと砂の魔法を繰り出すアジィール。
「逃げる?家に帰るだけさ」
しかしそれはラクサスさんの雷によって遮られ・・・
「夕食に遅れちまう」
そのまま大地を裂くほどの落雷がアジィールを襲った。
どどどど
「ぐふ!!」
「メストてめぇ・・・」
「ぐぁ!!」
「きゃう!!」
西の大陸から脱出を試みた俺たちは船へと瞬間移動してきた。でも、メストさんの魔法が雑だったこともあり全員積み木状態になっていたけど・・・
「みんな無事かよー!!」
「みんなさすがね」
「マスター救出成功!!」
「マスターもグレイ様もよくご無事で!!」
マスターを連れてきた俺たちを温かく出迎えてくれるエルフマンさんたち。そんな中ジュビアさんに抱きつかれていたグレイさんが俺たちが思っている疑問を投げ掛ける。
「なんでお前たちがここに!?」
「マスターを助けるためにこっちも手を打っていたの」
「その一つがラクサスよ」
「抜け駆けしやがって」
「隠密作戦だったんだ」
俺たちがマスター救出に動いたことを盗み聞きしていたガジルさんの案によりラクサスさんと雷神衆がいた青い天馬に乗り込んでいたらしい。
「すげぇなこの船れ!全然酔わねぇ!!つーか勝負しようぜ!!ラクサス!!」
「うぜぇ」
助かったと同時にテンションが高くなるナツさんに心底嫌そうな顔をしているラクサスさん。お気持ち察しします。
「みな・・・」
目に涙を溜めているマスターはこの場にいる妖精の尻尾のメンバーを見回す。
「最高の家族じゃ、妖精の尻尾!!」
涙を流しながら嬉しそうに笑みを溢したマスター。それに俺たちも釣られて笑顔になる。
「私はよそ者だがね」
「なんでしょう、このアウェイ感」
本拠地であるはずなのに場違い感が否めない一夜さんとタクトさんがそう呟くが、俺たちは一切気にしない。マスター救出の任務を果たした俺たちはクリスティーナでそのままマグノリアへと向かったのであった。
後書き
いかがだったでしょうか。
ちょっとアレンジしようかとも思っていたが完全に原作通りになってしまいました。次は妖精の心臓についてですが、これは弄りようがないのでかなり端折ります。気になる方はぜひ単行本53巻を!!
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