火吹消し婆
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章
「出るんじゃないかってね、この辺りはお寺が多いよね」
「はい、物凄く」
恭一は住職にすぐに答えた。
「もう慣れていないと何処にいるのかわからない位に」
「お寺ばかり集まっているね」
「豊臣秀吉さんが集めさせたんですね」
多くの寺を一つの場所に集めさせた方が寺に対する政を行いやすいからだ、上本町にも秀吉の影響が今も残っているのだ。
「そうでしたね」
「そうだよ、それでここにはお寺が集まっているけれど」
「お寺は火を扱うことも多いですね」
今度は絵梨花が住職に話した、三人は今は本堂の出入り口のところに落ち着いて腰掛けてそのうえで話をしている。
「そうでしたね」
「そう、だからね」
「火吹消し婆はですか」
「火を消して回っているんだよ」
「蝋燭や線香の火を」
「他の火の元も点けたままだとね」
そうしていたというのだ。
「お寺から火事になることは多かったから」
「あっ、そういえば」
「そうだね」
絵梨花も恭一もここで思い出したことがあった、その思い出したことは一体何かというと。
「東京の方もよね」
「何度かそれで大火事になってるね」
「沢山の人が死んだ」
「そんな大変なことにもなっていたね」
「今だって気をつけないといけないよ」
火の元にはというのだ。
「けれど昔はお水はあってもね」
「井戸のお水で」
「ホースで一気にじゃないですし」
「消火器もなければ消防隊もいなくて」
「しかも木造のお家ばかりで」
「火が点けばですね」
「大火事になりやすかったんだよ、大阪は東京程火事の話はないけれど」
それでもというのだ、東京はからっ風のせいで冬は空気が乾燥ししかも風が強いので大火事になりやすかったのだ。
「それでもね」
「火の元が怖くて」
「火吹消し婆みたいな妖怪もいたんですね」
「そう言われていてね、今拙僧もわかったよ」
先程というのだ。
「実際に見てね」
「火吹消し婆は実際にいる」
「そのことがわかったんですね」
「よくね、いやまさかと思っていたけれど」
それでもと言う住職だった。
「本当に見られてよかったよ」
「そうですか」
「そう思われてますか」
「そうだよ、今もこの辺りを火事から守ってくれているんだね」
昔からとだ、住職は火吹消し婆に感謝しつつ言うのだった。
二人は住職との話が一段落してから住職と別れを告げて寺を出た、寺を出てから絵梨花はこう恭一に話した。
「煙草の火もね」
「あそこからだよね」
「よく火事になるし」
「歩き煙草をする人なんか」
「普通にポイ捨てするから」
吸った煙草をだ。
「もうね」
「火事になりやすいから」
「だからよ」
「火吹消し婆もだね」
「消したのよ」
息をふっと吹いてだ。
ページ上へ戻る