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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第143話「利根川の龍神と…」

 
前書き
久しぶりの優輝side。
流域面積日本一の川から生まれた龍神の強さは伊達じゃない…(ちょっと苦戦します)。
 

 






       =優輝side=







「っ……!」

 嵐のような霊力の奔流に、僕は翻弄される。
 何とか体勢を立て直した所へ、龍神の尻尾が叩き込まれた。

     ギィンッ!

「くっ…!」

 リヒトを添えるように構え、受け流しつつ間合いを離すように吹き飛ぶ。
 すぐさまリヒトを地面に突き刺し、僕は着地する。

「……パワーアップするなんて、聞いてないんだが」

〈先程までと比べ、霊力の出力が桁違いですね……〉

〈最低でも、3倍の出力になっています〉

 リヒトとシャルが、霊力を計測してそういう。
 
 ……そう。途中までは、利根龍神を順調に追い詰めていた。
 だが、途中でいきなり利根龍神の様子が変わったのだ。
 まるで、今までは目覚めたばかりで寝ぼけていたかのように。

「……軽く見積もって、霊魔相乗を使った方が消耗が軽く済みそうか」

〈…そうですね。ただ、負担が掛からない6割未満が条件です〉

「了解」

   ―――“霊魔相乗”

 両の掌で霊力と魔力を混ぜあわせ、身体強化を施す。
 羽のように軽くなった体で、利根龍神に目がけて駆ける。

「『我が洗礼を受けよ――』」

「っ……!」

   ―――“滅頂之災(めついただきのさい)

 その瞬間、利根龍神から途轍もない呪詛が発せられた。

「っ、術式五重!!」

   ―――“扇技・護法障壁”-五重展開-

 咄嗟に、事前に用意しておいた手札を切る。
 一枚一枚に障壁の術式が込められた御札を五枚、一気に投げる。
 さらに、その障壁を強化するために霊力を流し込む。

「ぐぅうううううううっ!?」

 ……何とか凌ぎきった。
 しかし、障壁は全て割れ、周囲の木々は枯れ果てていた。

「(……ここまで強力な呪詛だったか…)」

 まともに受けていればひとたまりもなかっただろう。

「せぁっ!!」

 次の手に移られる前に、こちらから攻める。
 現在、利根龍神は纏うように霊力の嵐を放出している。
 川を源に生まれた龍神だ。流域面積日本一の川となれば、この凄さも納得だ。

「くっ……!」

 何度も斬りつけるが、この程度ではびくともしない。
 ましてや、普通に斬りつけてもこの巨体じゃ意味がない。
 それどころか、体をうねらせる事で僕を空中へ投げ出し、爪を振るってきた。

     ギィイン!!

「っ……!!」

 即座に僕は魔法で自分の体重をゼロに等しい程まで軽くする。
 そうする事で、爪の一撃を受け流した際に、ダメージをほとんど追わずに済む。
 だが、体勢も崩れるので、受け流した直後に転移して体勢を立て直す。

「ゴァアアアアアアアア!!」

「唸れ!“爆炎”二連!!」

 次に牙で噛みつこうとしてきたので、御札を二つ投げ込んでおく。
 攻撃自体は転移魔法で躱しておく。

     ドォオオオオオオン!!

「ッ……!?」

「(…さすがに口内は効いたか。これで効かなかったら面倒だったが……)」

 この調子なら普通に競り勝てそうだ。
 ……まぁ、この程度で終わるはずがないんだよな。

「ォオオオオオオオオン!!」

「(……来るか)」

   ―――“雫が落ちる―”

 利根龍神の咆哮と共に、纏う霊力が集束して雫のようになって落ちる。
 ……撃ち落とす事は可能だ。だから……。

「させるか!!」

 念のため、防御に回す力をしっかりと残して置き、創造した剣を射出する。
 それは真っすぐに雫へと向かい、着弾と同時に爆発させる。

   ―――“一の雫”

 霊力の雫はそれで爆散したが、そのまま波紋のように霊力の波が広がった。

「っ……!“アイギス”!!」

     キィイイイイン!!……パキィン!!

 霊力を用いて、防御魔法を使う。
 何とか凌ぎきったが、同時に障壁も割れてしまった。

「(途中で阻止して、これかっ……!?)」

 本来なら地面に落ちてから発動だったのだろう。
 それを、僕は阻止したはずだ。そのおかげか、龍神も少し怯んでいる。
 ……だが、それでこの威力だった。……おまけに……。

〈…マスター、霊魔相乗が切れています〉

「……ああ。霊力部分だけ打ち消されているな」

 まるでゲームのバフ消しのように、霊魔相乗が解けていた。
 幸い、魔力による身体強化は続いていたが…こちらも術式が破綻寸前だった。

「ちっ……!!」

 だけど、タダでやられるつもりはない。
 創造した武器を射出しつつ、再び霊魔相乗。
 カートリッジリボルバーを放ち、その上から砲撃魔法も放つ。
 さらにそれを目暗ましに間合いを詰め、頭上へ跳ぶ。

「はぁああっ!!」

〈“Schwer schlag(シュヴェアシュラーク)”〉

 創造するのは巨大な槌。ヴィータのあの魔法のように、一気に振り下ろす。

     ドンッ!!

「グ、ァアアアアアア!?」

 頭から地面に叩きつけられ、龍神は絶叫する。
 ……まぁ、これは痛いわな。

「っ……!?」

 …が、そこであるものが見えた。
 それは、先程凌いだ霊力の波紋が壁に跳ね返ったように、戻ってくる光景。
 さらに、再び落ちようとする霊力の雫。
 わかりやすく水色の霊力だったからこそ、気づけた事だった。

   ―――“波紋が広がる―”

「まずっ……!?」

   ―――“双水波紋(そうすいはもん)

 転移魔法を急いで使い、波紋が及ばない上空へ転移する。
 霊力による二つの波紋が、広がる。
 もし、転移で逃げていなかったらあの挟み撃ちを耐えなければならなかっただろう。

「ふぅ……ッ!もう、一発!!」

〈“Schwer schlag(シュヴェアシュラーク)”〉

 射程外に逃げた後、波紋が通り過ぎるのを見計らって足場の魔法陣を蹴る。
 落下スピードを加えたこの一撃、もう一度受け取れ……!!

     ドンッ!!

「ッッ……!!?」

「(手応えあり……!だが……!)」

   ―――“水が輝く―”

 再び地面に埋まるように頭を叩きつけられる龍神。
 だが、そんな龍神の状態に関係なく、波紋が消え、水のように広がった霊力が光り輝き始める。

「これ、は……!」

 感じるのは、ただ大技が来るという身の危険ではなく、別ベクトルの危険。
 攻撃してくるのとはまた別の、“嫌な予感”……!

   ―――“燦々輝水(さんさんてるみず)

「……は……?」

 ……龍神に与えたはずのダメージが、ほぼ全て消えた。
 あの二回叩きつけたダメージすら、何事もなかったようになっている。

「嘘、だろ……!?」

〈利根龍神、再活動開始…!間違いなく、先程の術で回復されました…!!〉

 ほぼ完治するとかチートかよ…!
 まさにそう思わざるを得ない程だ。……けど。

「なら、もう一度削ってやる……!」

 本来は、トドメのために取っておいた術式。
 霊魔相乗で接近している間に、転移魔法で各場所に魔力結晶を設置していた。

「五つの魔力結晶から作り出した五芒星の砲台に、同じく五つの魔力結晶による五芒星の増幅装置。……少し負担があるけど、戦闘に支障はなし。……行けるか」

 魔力結晶を三つ砕き、巨大な剣をいくつか創造。
 さらに霊力による拘束も加えて、時間稼ぎをする。
 その間に事前に仕掛けておいた魔法陣の上に転移する。

「受け取れ……!」

 まずは砲台の魔力結晶を使い、術式を発動させる。

「『大水に飲まれよ―』」

「っ……!!」

 だが、そこで利根龍神の念が伝心のように届く。
 ……何かするのは理解できた。問題は、その規模だった。

「(結界が、破られる……!)」

 結界内に入っている利根川の様子が変わっていた。
 まるで、今にも津波を起こすかのように波打っているのだ。
 それに加え、龍神から感じられる霊力の規模で確信できた。
 ……この技は、確実に僕の張っている結界を破られると。

「ッ、転移!!」

 即座に魔力結晶を追加で使用。()()()()()転移する。
 その先は、少しばかり離れているものの、利根龍神の対面だ。

「リヒト、威力計算から、貫けるか?」

〈……分かりません。この規模となると、私とシャルラッハロートでは計算が間に合いません。……ですが、負けるつもりはないのでしょう?〉

「……まぁな」

 転移した魔法陣の方向を調節する。
 ……そして、龍神の術式が発動した。

   ―――“(つい)水激(すいげき)

「(来る……!)」

 まず、利根川から津波のように水が襲い掛かってきた。
 その水にはきっちりと霊力が込められており、生半可な結界や防御では即座に破られる事が容易にわかる程だった。

 ……よって、こちら側も手札を切る。

Verstärkung(増幅)Komprimierung(圧縮)Fokussierung(集束)Multiplikation(相乗)Stabilität(安定)……!!」

 砲台の魔力結晶による魔力が集束する中、増幅装置の五芒星の頂点に込められた術式が、魔力結晶の魔力によって順に光っていく。
 増幅し、それを圧縮し、さらに集束。その効果を相乗させ、それらを安定させる。
 確実且つ、効果の高い増幅装置。かつて古代ベルカにて、大規模な殲滅魔法を用いる際に使われた装置の、その再現だ……!!

「行くぞ……!」

〈Explosion〉

「“Twilight Spark(トワイライトスパーク)”!!」

 さらにカートリッジを三発ロードする。
 強化された僕の魔力による、破壊力においてトップクラスの魔法が放たれる。





「っ、ふぅ、ふぅ、ッ……!」

 霊力と水による激流は魔法によって撃ち抜かれ、無効化される。
 龍神の術を撃ち貫いた魔法はそのまま龍神に直撃し、大きなダメージを与えた。
 辺りには術の影響による川の水が散乱しているが……こればかりはしょうがない。

「これで……終わりだ!!」

 息切れを整える間もなく、龍神の頭上に転移する。
 相殺した衝撃で、龍神はこちらに気づいていない。

「ぉおおおおおおおおおおっ!!!」

 魔力結晶を一つ砕き、巨大な剣を創造する。
 さらにもう一つ砕き、その剣に加速の術式を込め、発動させる。
 ……そして、それを撃ち出した。

     ド……ズンッ……!!

「グ……ァ……ァア……ァ………」

「………ふぅ……」

〈対象沈黙。……おそらく、討伐しました〉

 剣は龍神の頭に刺さり、一気に地面まで貫く。
 例え龍神であろうと、頭を貫かれたら生きてはいられないだろう。

「……よし、祠を封印するか…」

〈はい〉

 予想以上に体力を消耗してしまった。
 今はまだ夜だし、これ以上強力な妖との戦闘は避けたいが……。

「(……いや、そんな事は言ってられないな。時間が経てば経つ程、被害は増していく。それに、消耗はしたけど戦えない訳じゃない)」

 封印を施しつつ、まだアースラには帰還しないと決める。
 ……とりあえず、連絡は入れておくか。

「『クロノ、こっちの祠の封印は完了した』」

『了解した。……戻って来ないのか?』

「『もう少し探索をしてみる。出来るだけ妖も減らしておきたいしな』」

『わかった。無理はするなよ』

 クロノに軽く連絡を入れて置き、探索を続行する。
 ……と、その前に龍神がパワーアップした原因を聞いておくか。

「『葵、今いいか?』」

『優ちゃん?どうしたの?』

 葵に念話を掛ける。椿でもいいけど念話だと葵の方が安定するしな。

「『一応、利根龍神は倒したんだが……途中でいきなり強くなったぞ?それこそ二人が言ってたのよりも圧倒的に』」

『えっ?……あー、何か川に普段とは違う様子はない?』

「『川か……』」

 利根川を少し見てみる。何か影響があるとしたら、普段よりも流れとかが……。

「『……あー、昨日辺り、雨でも降ったんだろうな。増水している』」

『それだよ。多分、川の影響で龍神が超化……力を付けたんだと思う』

「『なるほどな…。納得した。ありがとう葵』」

『これぐらいお安い御用だよー』

 利根龍神の謎のパワーアップにも納得がいった所で、探索を再開しよう。







「……これで三つ目……」

 西に向けて探索を続行して二時間程。
 龍神の祠を合わせて三つ目の門を閉じ終わった。

「近い上に弱くて助かったな……」

 見つけた門は僕が探索してる際の進行先にあり、さらには守護者が龍神(パワーアップ前)よりも全然弱かったため、あっさりと閉じる事が出来た。

「……さて…」

 さすがに疲労も溜まってきた。ある程度妖を減らしたら戻るか。



「……ん……?」

 周囲に満ちている霊力を利用した探知術を使っていると、ある反応を捉えた。
 一つのそれなりに大きい反応と、それを追いかける複数の反応。
 ……これは…。

「(追いかけられている?善悪は……ちょっと遠くて判別できないか)」

 “仕方ない”。そう思って反応の方へ足を向ける。

「(霊力の感じだと、追いかけている方は妖か。じゃあ、追いかけられているのは……霊力を持つだけの一般人?いや、霊術も使っている。陰陽師の類か?)」

 向かう途中、霊力の気配から大体の情報を掴む。
 妖に追いかけられているのであれば、このまま助けないとな。

「っ……!ぁっ…!?」

「(間一髪……!!)」

 辿り着いた時、逃げていた人……少女は、追いかけてきていた妖に向けて霊術を放とうとして、地面にあった木の根で躓いてしまっていた。
 もう少し遅ければ、危なかっただろう。

     ギィイイン!!

「っ、せいっ!!」

     ドンッ!!

 襲い来る妖の攻撃を代わりに受け、霊力を空気法のように撃ち出して吹き飛ばす。

「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!あ、貴方は……」

「説明は後!今はこいつらを……!」

〈Explosion〉

「一掃する!」

   ―――“Durchbohren Beschießung(ドルヒボーレンベシースング)

 かなり走ったのだろう。息を切らしながら少女は僕が何者か聞いてくる。
 だけど、それに答えるためにも、まず妖を一掃する。
 カートリッジを使った砲撃魔法を使う事で、直線上の妖は一掃した。

「討ち漏らしの数は!?」

〈12体です!〉

「よし!」

 残った妖を、創造した剣で刺し貫く。……これで完了だ。

「す、凄い……」

「……っ、はぁ……強い妖じゃなくて助かった」

 一掃してから襲ってきた疲労感に、思わずそう呟く。
 ……さて…。

「『クロノ、成り行きで一人保護したんだが……』」

『……説明を省くな。いきなりすぎる』

「『悪い。簡単に言えば偶然遭遇して、助けたんだが、アースラに連れて行ってもいいか?』」

 ここは安全とは言えない。そのため、アースラに連れていけたいいんだが…。

『そんな犬猫みたいな言い方……。ああいや、さすがにアースラは厳しい』

「『…そうか』」

 いくら魔法などの秘匿が手遅れになったとはいえ、無闇にアースラに連れていくのは厳しいか…。霊術はともかく、魔法は知らない人だからな…。

「『仕方ない。それならこっちで……』」

『その代わりだが、先程すずか経由で連絡があった。バニングス邸と月村邸を避難場所に使ってもいいとの事だ。海鳴市はだいぶ安全になったからな』

「『っ、そうか。わかった』」

 都合がいい。二人の家なら相当な広さだし、もし大人数でも何とかなる。
 ……と言っても、海鳴市の人もそこに避難しているんだったな。

「……あの…?」

「悪い、ちょっと移動するぞ。掴まっていてくれ」

「え、え?あの…一体……」

「転移!」

 次の妖が寄ってくる前に、僕は転移魔法を使って少女と共に移動した。
 移動先は月村邸。妖関連ならそっちの方が話しやすそうだ。







「……っと」

「……いきなりやってきたわね」

 転移すると、忍さんが出迎えてくれた。
 まぁ、転移がわかるように先に魔法陣が出現するからな。
 ちなみに、短距離なら魔法陣なしで出来たりする。

「こっちの状況はどうなってますか?」

「他の県と比べて穏やかよ。門が閉じられ、恭也達が警察と協力してるから、妖もあまり見かけないわ」

「……通りでピリピリした空気がない訳だ」

 転移先は月村邸の一室。多分、避難してきた人達は大広間や個室に入っているんだろうけど、周囲から感じる気配は、割と安心している気配が多い。

「それで、優輝君はどうしてこっちに……それも、女の子を連れて。駆け落ち?」

「えっ、えっ?」

「変な事言わないでください。情報を交換するためにも安全な場所が必要だからですよ。ここなのはあっちはダメだと言われたので」

「なるほどね。……夜も遅いのだし、ゆっくり……はしないわよね。すずかも頑張ってるみたいだし」

「時間がもったいないですしね」

 とりあえず、場所を提供してもらったので落ち着いて話し合えるだろう。
 ……まずは、彼女が落ち着いてからだな。





「…落ち着いたか?」

「……はい。すみません、取り乱していました。……転移も扱えるんですね」

「まぁ、使えるものは使うからな」

 落ち着いたようなので、話を聞いて行こう。

「まずは自己紹介からだな。僕は志導優輝、現在起きている事件を解決している一人だ」

「……瀬笈葉月です」

 そう名乗った彼女は、花と葉っぱの髪飾りで黒髪をツーサイドアップで短く纏めた、幼さの残る容姿をしていた。
 見た所僕と同い年ぐらいだが……椿たちみたいに年齢不相応な容姿じゃないよな?

「助けた時の様子を見る限り、霊術を扱えるみたいだが……」

「…はい。一応、自衛できる程度の霊術は知っています。ですが、体が慣れなくて……」

 ……ん?“知っている”?“体が慣れない”?
 どう言う事だろうか?

「あ、あの、私以外にももう一人、霊術を使っている人を見ませんでしたか!?」

「……いや、あの周辺には君以外は見ていない」

 あの辺りの気配は一応探ってはいたが、妖以外はいなかった。

「……そう、ですか…」

「…あそこにいた経緯を聞いていいか?」

「……はい」





「―――と言う感じです。後は、志導さんの知っている通りです」

 彼女の話した内容としては、同行していた人物と共に東の方へ向かっており、休憩のために仮眠を取っていた所を襲撃され、その同行者が囮となってはぐれたらしい。
 その際に一度気絶してしまい、目を覚ました後はずっと追いかけられていた…と。

「経緯は分かった……が、隠している事があるだろう?」

「っ……分かるんですか」

「これでも観察眼はある方でね」

 そう。彼女が話したのは飽くまで“経緯”のみ。
 詳しい事情は一切話していなかった。

「同行していた人物についてや、東に向かっていた理由。そして、君が霊術を扱える訳。パッと思いつくだけでもこれだけある」

「………」

「まぁ、秘匿しておくべき事情があるのだろう。でも、それは僕の方も同じだ。……だから、ここからは等価交換だ。こちら側の事情や状況を話すから、そっちも話してくれないか?」

「……そう、ですね…。今は、どんな情報もあった方がいいですから…」

 そういって、彼女は僕を見た。
 ……いや、違う。彼女が見ているのは、僕であって僕じゃない…?
 まるで、実体がない“モノ”を見ているかのような…。

「……式姫との、“縁”……」

「っ……」

「……いえ、志導さんが話すのは後でいいです。私から話します」

 何も話していないのに、椿たちとの関係を見抜かれた。
 ……なるほど。さっき“視て”いたのはコレか。

「まず私の事から説明します。……私には“物見の力”と言う、“縁”を探る事ができる能力があります」

「“縁”を……なるほど。さっき呟いたのはそれで…」

 合点がいった。しかし、それでも式姫を知っている理由にはならない。

「……その能力と、霊術を知っているのに“慣れていない”と言う事に関係は?」

「……!…いえ、直接は関係ありません」

 彼女は、さっきの言葉だけで推測されていた事に少し驚いた。

「……私には、前世の記憶があります。…今で言う、江戸時代を生きていた時の記憶が」

「江戸……そうか、幽世の大門が開いていた時…!」

「知っていたのですね。…いえ、式姫と知り合いならおかしくはありませんね」

「(なるほど…だから式姫とかも知っていたのか)」

 これで納得がいった。
 霊術を知っているのに“慣れていない”のも、今の体が付いていけていないからだろう。

「……けど、大門を知っていたのならどうして東へ?大門自体は京都にあるはずだけど…」

「……大門は既に見てきました。そこから見えた“縁”を辿って東へ…」

「……東に何かがいる……って事か。それこそ、大門の守護者が…」

 相当重要な情報だ。後でクロノに知らせておかないと。

「次に……同行していた人物についてなんだが…」

「……式姫です。名は鞍馬。……鞍馬天狗と言えばわかると思います」

「有名どころだな。現代まで生き延びていたのか…」

「そのようです。京都で暮らしていたようで、偶然会いました」

 そこから協力する事にしたって事だろう。

「最後に、襲撃されてはぐれたという事についてなんだが……同行者が式姫と言う事なら、そこらの妖に負けるとは思えないが……」

「……相手は、妖ではありません」

 そう答えた彼女は、未だに信じられないような面持ちでそう口にした。
 妖ではない…且つ、存在する事、または襲撃してくる事が信じられない相手……。

「……まさか、式姫…?」

「……厳密には違うようですが…よく、わかりましたね…」

「そんなに信じ難いと言った表情をされちゃ…ね」

 さて、“厳密には違う”と来たか。どう言う事なのやら……。

「本物ではない、と言いたいのか?」

「…そう思いたいです。少なくとも、応戦した鞍馬さんは何かが違う事に気づいていました」

「誰かに操られているか、中身が違うかって所か……?」

 まさかとは思うが、自分の意志でなんて……。

「多分、そのどちらかだと思います。式姫は、所謂妖を反転させたような存在。元はどちらも同じ幽世の者です。そこから現世を乱すのが妖、それを防ぐのが式姫なのですから……自分の意志で襲ってくる事などは、あり得ないはずです」

「……そうだったのか」

 椿たちに根幹は同じと言うのは聞いていたが…そこまで詳しくは知らなかった。
 となると、先に言った二つ以外に考えられるとしたら……。

「(……瀬笈さん自身に式姫が襲う“何か”があるか……って、それはさすがにないか)」

 彼女に対して、嫌な雰囲気も予感も感じられない。それはないだろう。
 しかも、飽くまでこれは襲ってきた式姫が“自分の意志で”の場合だ。

「……なるほど。うん、君の今までの経緯は理解できた。次は僕の番だな」

 とりあえず、幽世の大門が開いた原因や、時空管理局と魔法。
 他には僕が式姫や霊術などを知っている訳や素性を簡単に説明する。
 さすがに細かい事……椿たちの事みたいな人間関係などは省いている。



「魔法……異世界……そんなものが…」

「まぁ、今はそこまで重要じゃない。戦力として数える程度の認識でいいさ」

 そう。今は時空管理局がどうとか気にしていても仕方がない。
 まずは目の前の事を……その後で、どうせ嫌でも時空管理局と日本は関わり合う事になってしまうだろうしな。

「……君は、これからどうしたい?」

「私は……」

 普通なら、はぐれた仲間を探したい所だろう。
 だけど、式姫なら無事の可能性もある。
 それだけじゃない。利用するような言い方になるが、彼女の能力は重要な情報を齎してくれる。ましてや、“大門からの縁”なんて、無視できるはずがない。

「……解決に、協力させてください」

「…それはありがたいけど……鞍馬さんはいいのか?」

「あの人なら、私がいない方が生き延びられます。ですから、探さなくても大丈夫です。東に向かえばいいのは分かっていますし」

「そうか……」

 そういう彼女の目は、覚悟が決まっていた。
 まるで、元から解決に向かおうとしていたかのように。

「……一体、何が君をそこまで駆り立てるんだ?」

「その言葉、鞍馬さんにも言われましたよ…」

 僕の言葉に、彼女は苦笑いする。

「幽世の問題は、私も解決に赴きたいんです。私にとって、幽世は深い縁がありますから」

「………」

 それは、並々ならぬ事情があるように思えた。
 ただ前世が幽世の大門が開いていた時期と一致していただけで、ここまでになるはずがない。……確実に、もっと深い“訳”があるように思えた。

「……前世からの、因縁か?」

「似たようなものですね。……ここまで来たからには、話しましょう。ですが、あまり無闇に話さないでくださいね?」

「それぐらいは弁えてるさ」

 こうして、彼女は前世の話を語り始めた。











 
 

 
後書き
超利根龍神…利根龍神が格段にパワーアップした存在。元の利根龍神とは比べ物にならない強さを持っている。本編では、“超化”しただけで名前はそのままな扱い。

超化…簡単に言えばさらなるパワーアップ。もしくは覚醒。式姫シリーズでは一部の式姫ができる。本編では妖(龍神系)もできる設定。

滅頂之災…溜め攻撃。直前にあった詠唱の後、放ってくる。頭割り(味方の数が多い程ダメージ軽減)全体攻撃。スタン、沈黙、悪臭、リキャスト延長など、厄介な状態異常もついてくる。本編では、力を開放した際の霊力を負のエネルギーとして放つ。読みは適当。

爆炎…魔力と霊力を混ぜ込んだ術式。不安定な術式を逆手に取り、爆発させる事でダメージを与える。お手軽且つ割と強力。

一の雫…直前の詠唱後の溜め攻撃。前列後列各固定ダメージ+バフ消し。さらに滅頂之災と同じ状態異常付与。雫が落ちた事による霊力の波紋で、攻撃する。イメージとしてはスマブラXのOFF波動みたいな感じ。ただし、今回は途中で妨害したため、威力が落ちて暴発した。

Schwer schlag(シュヴェアシュラーク)…“重い一撃”。巨大な槌を創造し、思いっきり振り下ろす。ヴィータのギガントシュラークの下位互換。

双水波紋…直前の詠唱後の溜め攻撃。効果などは一の雫と同じ。一の雫で広がった波紋が戻ってきて、さらにそこへ新たな波紋で挟み撃ちにする。……が、転移魔法で射程外に躱された。

燦々輝水…直前の詠唱後発動。HPを回復する。回復量は中々凶悪(HP23万8400なのに、20万回復)。本編でも優輝から受けたダメージをほとんど治してしまった。

終の水激…直前の詠唱後、全体高威力の技。この技以前に放っていた三つの技の、締めとなる技。津波のような波が襲い、嵐のように相手を苦しめる。文字通りの“終の水撃”となる。

増幅装置…基本的に五芒星を用意する(六芒星でも可)。それぞれ頂点に付属効果となる術式を込めて、魔法を通す事によって装置が機能する。基本的に“安定”の術式を入れないと暴発する。

Durchbohren Beschießung(ドルヒボーレンベシースング)…第19話でも使われた砲撃魔法。“貫通する砲撃”の意を持つ。優輝にとって、なのはで言うディバインバスター的存在の魔法。


なんだか5章においてのヒロイン的な存在になってる葉月。正直、恋愛に関する知識が皆無な子なので、今はサブヒロインですらないんですけどね…。
かくりよの門に続いてうつしよの帳のキャラも出していきます。……サービス終了してからずっと活躍させたいと思っていましたしね。 
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