楽園の御業を使う者
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CAST1
「おい、『相棒』いけるんだよな?」
「………当たり前だ、貴様こそ用意はいいのか?」
俺の隣の少年は『相棒』呼びが気に入らないのか、元々なのか、ぶっきらぼうに答えた。
「ああ、せっかくの家族旅行を台無しにしてくれたクソ共をぶっ殺す用意ならな」
俺と隣の少年は、ヘルメット付きのコンバットスーツを纏い、軍人達と共に銃弾飛び交う戦場へ踊り出た。
「一緒に行くか?別れるか?」
「足手まといだ、一人で行かせてもらう」
「へーへー…」
ったく、さっきからずっとこの調子だ。
まぁ、それは好都合だ。
俺だって一人の方が殺り易い…
"海と山を繋ぐ程度の能力"
一瞬にして、景色が入れ替わる。
ダダダダダダ!
突然現れた俺に対し、機関銃が放たれた。
歩を止める。
臆した?まさか!
「実戦テストは初めてだな…」
俺は目を瞑り…
"なんでもひっくり返す程度の能力"
俺の周りに領域が展開され、その領域に入った銃弾のベクトルが…
ひっくり返った
そして次の瞬間、俺に対して放たれた凶弾は、その方向を変え、放った者達に降り注いだ。
敵の悲鳴が聞こえる。
きっと何故自分が撃たれたか理解できないのだろう。
"千里先まで見通す程度の能力"
視界が広がり、認識が広がる。
広がった認識の中に敵を見つける。
「成る程成る程…そこか」
自分の周りにいる敵兵の位置はわかった…
「多いな…ありとあらゆる物を破壊する程度の能力だと壊してる間に殺られるか…使えそうなのは…」
記憶をたどり、今の状況を好転させる手段を考える。
「ああ!そうだ!アレを使おう」
思いついたのは…
"死を操る程度の能力"
体の奥底から、冷たい物が溢れ出る。
「あぁ…久しぶりに使うな…」
『死』を操る力…
保険を掛けて有るとはいえ、下手をすれば自分をも飲み込む可能性がある。
「早めに済ますか…」
ひらり…ひらり…ひらり…
蝶…黒く輝く蝶…死を運ぶ蝶…
それが俺の周囲を漂う。
その半分程を…
「さぁ…行け!」
ひらりひらりと、ゆっくりとだが確実に敵に向かう。
銃弾をすり抜け、壁をすり抜け、敵に向かう。
蝶に触れた物は崩れ、蝶に触れた者は息絶えた。
そして、銃撃がパタリと止んだ。
「死んだか…」
さて…次は…
"距離を操る程度の能力"
一歩踏み出し…数百メートルを駆けた。
「さて………ここら辺にはもう居ないのか…」
千里先を見通す程度の能力で索敵するが、ここら辺にはもう誰も居ない。
「この後は…」
島の外に目を向ける。
「おー、来てる来てる…アレが大亜連合艦隊か…」
その視線の先、海洋上に佇むのは鋼鉄の船。
「ふぅむ…」
と、元来た方向を見る。
そこでは少年が取り押さえられていた。
何があった?と思って周りを見ると敵兵が白旗を振っていた。
「ああ、そういう事か」
"海と山を繋ぐ程度の能力"
一瞬にして周囲の景色が変わった。
「よう『相棒』、さっきぶりだな。
白旗上げてる敵を撃つのはどうかと思うぜ」
「チッ…」
へぇ…コイツも舌打ちするのか…
その後敵兵の武装解除の途中…
「指令部より入電!敵艦隊が海洋を侵攻中!
あと20分で射程圏内です!」
「クソっ!やられた!上陸部隊は囮か!」
あぁ、成る程、だからこのタイミングで投降したのか。
「総員撤退!」
と風間さんが号令をかける…が
「大尉、敵の位置はわかりますか?」
「それはわかるが…真田」
「レーダーリンク…司波特尉のバイザーに転送しますか?」
「その前に…先日の射程伸張術式組込型武装デバイスはありますか?」
「ここにはありませんがヘリに積んだままにしてありますから五分もあれば」
「至急持ってきていただけませんか?」
と、首から有線通信ケーブルを差し出した
そこからの会話は有線していない俺にはわからなかったが、大方敵艦隊をマテリアル・バーストで吹っ飛ばすって話だろう。
「千葉特尉、君も逃げたまえ」
ん?逃げろって?
「今から艦隊を殺るんでしょ?援護しますよ」
「邪魔だ、失せろ」
はぁ?
「お前がどんな魔法をぶっぱなすか解らんが艦隊を潰す程の魔法ならその間無防備だろうが。
風間さん、俺も残ります。いいですね?」
「あ、ああ。構わない」
コレで変わるならいいが…
敵の砲撃が始まった。
「風間さん、砲撃は俺が防ぎますよ」
"距離を操る程度の能力"
艦隊からこの島に対する一方向の距離を、数百倍にする。
これで艦砲は届かない。
そして、『相棒』が銃を構えた。
「届くのかい?」
「やってみるしかありません」
そして引き金が引かれた。
再び距離を操り、弾丸を届かせる。
「さぁ、お膳立てはしてやったぞ『相棒』……
ぶちかませ」
俺の言葉に『相棒』はうなずき…
戦略級魔法を発動させた。
閃光が瞬き、轟音が鳴り響いた。
「津波が来るな…」
「千葉特尉!逃げるぞ!」
と焦る風間中尉。
「なぁに…心配には及びませんよ…」
"氷を操る程度の能力" "寒気を操る程度の能力"
あぁ…やっぱり二つ同時はキツイなぁ…
「ニブルヘイム」
二つの力で強化された高難度魔法。
ガラスにヒビが入るような音と共に、海が白く染まる。
やがて白は、遥か沖合いの大波すらも飲み込んだ。
「と…とまった…?」
風間さんも真田さんも『相棒』も目を見開いている。
「逃げる必要なかったでしょ?」
そして二つの能力を解除。
"ありとあらゆる物を破壊する程度の能力"
凍り付いた海に手をかざす。
「きゅっとして…」
『凍り付いた海』の目を握りしめ…
「ドカーン」
バキャ!
一瞬で氷は粉雪のようになり、やがて海に溶けて行った。
「さぁ…帰りましょう」
基地に戻った俺を待っていたのは、家族だった。
「白夜!」
駆け寄ってきた姉に抱き付かれる。
「ただいま」
「大丈夫!?ケガは無い!?」
「うん、大丈夫」
すると彼女は少し離れて、俺に顔を近付けた。
「本当に?」
「うん」
彼女は安堵した表情を浮かべ…
「おかえりなさい、白夜」
「ただいま、エリカ」
俺は千葉白夜。
千葉エリカの双子の弟で…
転生者だ。
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