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天体の観測者 - 凍結 -

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High School D×D

 
前書き

 

 
 固有結界『時間神殿ソロモン』が崩壊していく。
 全てが壊れ、終焉へと向かう。

 七十二の魔神柱が自壊し、光の粒子と共に霧散していく。
 存在感が希薄に、ゲーティアは消滅の道を辿る。

 人王ゲーティアから勝利を収めたカルデア最後のマスター、藤丸立香が必死にマシュを抱えながら奔走する。
 彼女はカルデアに帰還すべく、崩壊する神殿の瓦礫の上を走っていた。

 マシュは力尽きたように彼女の腕の中で眠っている。
 息も絶え絶えの状態で藤丸立香はマシュを抱え、レイシフトに備えていた。

 だが、突如として足元の瓦礫が崩壊し、彼女はマシュ諸共その身を宙に投げ出される。
 湧き上がるロマ二とカルデアの職員達の悲鳴

 彼女の手は虚しく宙を切り、その身は為す術なく放り出される。
 それでもマシュが目を覚ますことはない。

 宙を浮遊する術を持ち得ない彼女は落ちるしかない。
 当然、彼女の意志は死んでなどいなかった。

 必死に生きようと、カルデアに帰還しようと抗う。
 だが届かない。

 宙を浮遊する術を持ち得ずしてこの現状を打開することなど不可能であった。
 重力に引かれ、彼女とマシュは落下していく。
 
 止まらない。
 落下の速度が上昇し、誰もが彼女達の死を予見した。



 だが突如として彼女達の落下は止まる。



 2人は抱きかかえるように肩を抱かれ、救い上げられる。
 疲労困憊の身で意識が朦朧とする中、立香は見た。

 既に存在が希薄と化し、消滅の道を辿りながらも此方を見据えるウィスの姿を。
 光の粒子が霧散し、神秘的に光り輝いている。
 優し気な笑みを浮かべ、宙に浮遊している。

 次の瞬間、マシュ諸共天へと投げ飛ばされる。 

 必死に立香は手を伸ばし、ウィスの手を掴もうとするも彼女の手は虚しく宙を切った。
 否、ウィスの手までもが光の粒子と化し、消滅し、掴むことができなかったのだ。

 ウィスの下半身は既に消滅し、上半身にまで消滅は至っている。
 ウィスは微笑しながら、崩壊により時空が極めて不安定な神殿ソロモンの深奥へと落ちていった。

 同時にカルデアによるレイシフトが始まり、立香とマシュの姿が神殿から消えていく。
 ウィスの姿もこの時間神殿の消滅と共に時空の彼方に消えたのであった。



  



▲▼▲▼







 赤き鮮血が飛び散り、地面を紅く染め上がる。
 愛する娘を庇い、刃をその身に受けた女性、姫島朱璃は力なく崩れ落ちた。

 娘である朱乃は愛する母にその身が汚れるのも厭わず、涙ながらに泣きついた。
 出血は酷く、今なお止まることなく流れ続けている。

 聡明な朱乃は理解した、否、理解せざるを得なかった。
 母はもう助からないのだと。
 此度の襲撃は堕天使と人間の血を引くハーフである自分が原因であることを。

 だがこれは余りにも理不尽だ。
 母と自分が何をしたというのだ。

 許せなかった。
 下手人達の存在そのものも、何も出来ない不甲斐ない自分自身にも。


助けて……


誰でも良いから……


母を、愛する母を助けてください


もし神がいるのなら母を……


「ふん、愚かな。"汚れた血"を庇い、死に絶えたか」
「……!」
「何だ、その目は。だが、案ずることはない。貴様も直ぐに母の下へ送ってやる」


 私はどうなっても構わないから、"母"を助けてください……!


 遂に下手人の男が刀を振り下ろし、朱乃の命を刈り取ろうとした刹那──







 突如、眩いまでの極光がその場に迸った。

『……!?』

 瞬く間に黄金の輝きがドーム状に広がり、下手人達を吹き飛ばす。
 その光は神社を包み込み、日本全土に及ぶ。
 惑星を、世界そのものを震撼させ、極光は天へと立ち昇った。
 視認できる程のエネルギー、否、対面するだけで理解せざるを得ない生物としての圧倒的な差。
 
 膨大な光の本流が集束し、人の形を創り出す。
 浮かび上がるは首元にリングを下げ、珍妙な杖を持つ長身の男性のシルエット

 冷や汗を流し、此方を睨み付ける下手人達とは対照的に朱乃は終始冷静であった。
 何時しか身体の震えは止まり、万能感にも似た絶対的な安心感を感じていたのだから。

 やがて極光の中から一人の男性が現れる。
 髪は黒、瞳の色は真紅

 その佇まいは洗練され、今なお光の粒子をその身から放出している。
 彼は宙に浮遊し、周囲を見渡していた。 
 
 だがそんなことは朱乃には関係なかった。
 母を、愛する母をただ助けて欲しかった。

「お願いします……!母を、母を助けてください……!」

「私はどうなっても構いませんから母を、母を助けてください……!」

 涙を流し、朱乃は頭を必死に下げる。
 既に母は事切れている。

 先程から母は死人のようにピクリとも動かない。
 出血は止まり、地面を壮大に紅く染め上げているのだ。
 これで生きている方が奇跡だ。

「どうか……!母を……!」

 朱乃の魂の懇願に対して目の前の男性は微笑みながら、その手に有する杖を回転させた。
 奇抜な装飾が施された杖に取り付けられた球体が淡く発光する。
 
 そしてその杖を母である朱璃に振りかざした。
 

 
 
 
 
 
 途端、母の身体を光が包み込む。
 
 光は瞬く間に消え、その姿を虚空へと消失させる。
 途端、母から感じる生命の躍動
  
「うう……朱乃……?」
「……!母様!?」
「どうして、私は確かに死んだはず……」

 朦朧とする意識の中、彼女は疑問の声を上げる。

「あの方が母様を助けてくれたの!」
「彼が……」

 朱璃は此方に背を向け、下手人達を対面する男性、ウィスを見据えた。
 その何処までも頼もしい背中を
 
「貴様、やってくれたな……!」
「貴方がもう話す必要はありませんよ。どうせくだらない理由で彼女達を狙ったことは目に見えてますから」


「ですが安心しました」


「貴方達に恨みはありませんが、これで心おきなく貴方達を消すことができます」

 ウィスの言葉を皮切りに下手人達の体が砂と化し、崩壊していく。
 反応することも、言葉を発することも出来ずに下手人達は消滅するのであった。

 この瞬間、全次元、平行世界に存在する姫島親子を狙った下手人達の姿が突如消失した。
 何の前触れもなく、下手人達の身が砂と化し、その存在を破壊されたのだ。

 朱乃と朱璃の2人は生涯この光景を忘れることはないだろう。





 その後、愛する家族が襲撃を受けた知らせを聞きつけたバラキエルがその場に駆け付けた。
 酷く焦った様子で肩を上下させ、愛する家族の無事に涙を流しながら。
 既にウィスの姿は朱乃達の前から消えていた。 

 彼は自身の願望が生み出した幻だったのか。
 否、幻なわけがない。

 死の淵から母を救い出し、命を助けてくれた彼が幻であってたまるものか。
 少女は恩人との再会の想いを胸に秘め、恩人の存在を胸に刻み込む。
 その場に残された黄金のネックレスを握り締めながら。

 そして少女は成長し女性となり、十数年の時が経過した。







▲▼▲▼







「朱乃はいつもそのネックレスを首にかけているけど、それは何なの?」

 オカルト研究部の部長であるリアス・グレモリーが朱乃に尋ねる。

「ふふ、これはある人からの贈り物です。再会の証として肌身離さず持ち歩いているのですわ」
「朱乃先輩が幼い頃に助けてもらった殿方のことですか?」

 菓子を口に運ぶ小猫が尋ねる。

「ええ、そうですわ。あの方は私がまだ幼い時に颯爽と現れて私と母を助けてくれたんです」

 懐かし気に、とても優し気な表情で朱乃は過去を回顧する。
 母と自分を狙った下手人達が一掃された後、気付けば彼の姿は何処にも存在しなかった。

 既にあの出来事から十数年の時が経過している。
 だが朱乃は彼との再会を諦めることなく、再会することを望み続けていた。

 見れば彼女の頬はうっすらと紅く染まっている。
 その姿は普段のお姉さまの姿からはかけ離れ、その男性に特別な想いを抱いていることを感じさせた。

「ん─、何か一人の世界に入っちゃたわね」

 感慨深げにリアスは自身の女王である朱乃を見据えるのであった。

 





 その頃、当人であるウィスは……

「お前、何?」

 世界最強の龍神と相見えていた。
 
 

 
後書き
はい、姫島一家生還です
High School D×Dの本編にて悲劇を辿ったキャラをジャンジャン救済していきます 
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