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悲劇で終わりの物語ではない - 凍結 -

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人理修復後 ージャンヌ・ダルクー

 
前書き
スカサハに続き今回はジャンヌのターンです。 

 
 真名・出生・出典・性別の全てが謎に包まれた存在。

 人類史上最も奇怪で特異な存在。


 その名を"名の無き英雄"

 超越者ないしは神を戒める者、星の最強主、第3魔法の体現者と呼ばれることもしばしば──


 件の()の英雄は世界各地のあらゆる時代の神話にてその姿を表している。数多くの時代の文献や遺跡、伝承にて()の英雄の存在が示唆されているのだ。

 時には男性として、時には女性として、時には天使として──

 時には神を戒める者として()の英雄の姿は描かれている。


 このように()の英雄の存在は依然として謎に包まれ、その真偽の程が今なお問われている。

 此処で焦点を当てるは()の"名の無き英雄"と後世にて聖女と名高いジャンヌ・ダルクとの関係性についてだ。





 ジャンヌ・ダルク。神の声の名の下にフランスを救済した英雄。

 彼女はフランスのドンレミの村にて生を受けた。

 彼女は17歳という若さで神の啓示を受け周囲の人々の反対の声を押し切りドンレミの村を出ていくことになる。

 これがジャンヌ・ダルクが聖女として第一歩を踏み締めた瞬間である。



 聖女、ジャンヌ・ダルクは後世にて聖女として称えられる程の聖人だが、彼女が武功でも優れた人物であることは有名な話だ。

 彼女は戦場にて時に後方で旗を振り仲間を鼓舞し、時に自身が先陣を切り敵陣に突入することで敵を圧倒したと言われている。

 彼女の突出したこの比類なき強さはやがてフランスへと勝利をもたらすことになった。

 その後ジャンヌはその優れた武勇が認められ勝利の女神として神聖視されることになる。

 ジャンヌが後世にてオルレアンの乙女・聖女ないしはオルレアンの戦乙女(ヴァルキリー)と呼ばれていることは有名な話だ。



 だが彼女の快進撃もやがて終わりを迎える。彼女は交戦の末に疲弊したところを囚われ捕虜になったのだ。後に魔女認定という火炙りの刑に処され、ジャンヌはまだ少女という年齢で命を散らすことになる。

 これが聖女ジャンヌ・ダルクの人生の終末。



 しかしこれでジャンヌに関わる一連の事件が終結したわけではない。

 ジャンヌを魔女認定したピエール・コーションの屋敷がジャンヌの死後無残にも崩壊したのだ。幸いにも屋敷の住人は全員無事であったが、屋敷の主人であるピエール・コーションは数日の間行方不明となった。

 数日後ピエール・コーションは見るも無残な状態で発見されることになる。幸いにも命に別状はなかったが顔は酷く肥大化し、体中血だらけの状態で街道に捨てられていた。衣類は何も纏っていなかったという。

 それだけに止まらずジャンヌを利用した異端審問官や甘い汁を吸った者たちは皆一様に何者かに連れ去られ、行方不明となった。屋敷は全壊し、皆一様にピエール・コーションと同じ状況で発見されることになる。

 犯人の姿を目撃した者は一人としておらず、被害者である者たちは不思議なことに全員が何も覚えてなどいなかった。

 このジャンヌ処刑後の一連の騒動を当時の人々は「魔女・ジャンヌの復活」だといい恐れたという。

 またイングランドに捕虜として捉えられていたジャンヌに何人も手を出すことができなかったという伝承も存在している。彼女の牢獄の周囲には神の御加護とも言うべく結界の如き力が働いていたのだという。未だにその真偽は謎に包まれている。

 このように聖女であるジャンヌには隠された何かがあったのでなないかという推測が行われている。


─ジャンヌの卓越した戦闘力─

─農家の一子女とは思えない程の教養の高さ─

─イングランドの牢獄にて起きた奇怪なる現象─


 以上のことから聖女ジャンヌ・ダルクは件の()の"名の無き英雄"と交流があったのではないかと言われている。






「───。」

 繊細な手付きで手に持つ本を閉じるジャンヌ。

 此処は食堂。日々の疲れを癒すべく皆が訪れる場所である。そんな中ジャンヌは食堂の角で悲し気に目を伏せていた。

 終局特異点にてマスターたちが帰還した後ジャンヌもスカサハたち同様に塞ぎ込んでいた。今はマスターである立香たちを心配させてはならないと無理して食堂を訪れているにすぎない。

 今の彼女は誰の目から見ても無理をしているのは一目瞭然であった。

 そんなジャンヌは過去へと想いを馳せる。





──うーっ、難解です──

──頑張って覚えるんだ、ジャンヌ。勉学は必ずジャンヌの人生にて役に立つはずだ(・・・・・・・・・・・)──

──はいっ!頑張ります!──





──目で相手の動きを捉えるな。相手の気配を感じ、身体が勝手に反応することができるように意識するんだ──

──っ!はい!──





──誰の許しを得てジャンヌに触れようとしている、下衆共が──





──よくここまで頑張ったな、ジャンヌ。後は俺に任せてくれ──





「───。」

─ウィス。あなたはもしかして……─

「…!…ヌさん!ジャンヌさん!」

「っ!は…はい!?」

 今更自分が声をかけられていることに気付くジャンヌ。

「あの…ジャンヌ、大丈夫?」

 健気にジャンヌのことを心配げに声をかけるは自身のマスターである立香。優しい少年だ。

「──はい。…大丈夫ですよ、マスター。」

 ジャンヌは儚げに笑みを浮かべる。だが無理をしているのは一目瞭然で、見ていられなかった。

「──ジャンヌさんにとってウィスさんはどんな人だったんですか?」

 そう尋ねるはマシュ。遠まわしに彼女を励ましたところで意味はない。ならば今のジャンヌが想うウィスについてマシュは直球で尋ねることにした。

「──そうですね。…私にとってウィスは兄のような人でした。私の武術と勉学の師でもあります。」

「そして私の──『   』です。」


 思えば彼らは似た者同士だったのだろう。

 周囲の反対を押し切り神の啓示の名の下祖国であるフランスを救うべく立ち上がったジャンヌ。最後に自身に降りかかる悲劇を理解しながらも彼女は自身の信念を貫き通した。

 無限とも言うべく悠久の時を生き続け最後の最後まで自身の信念を貫き通したウィス。最後は消滅という形で終わろうとも───


「ウィスが言っていました。



『─神とは碌なものじゃない。奴らは傲慢で自分勝手な連中だ。期待を裏切るようで悪いがジャンヌたち人間が思っている程神という存在は殊勝な存在じゃない。確かに神は人に道を指し示すが、決して人を救うことなどしない─』


『─何故なら神という存在は人々の信仰や自然現象が具現化した存在であり、生まれた瞬間から一種の完成された存在だからだ。完全故に不完全な存在である人間のことを理解し得ない。笑えないよな。人々の願いによって生まれた神が最初から人間と分かりえない存在だなんて─』


『─神を信じるのはジャンヌの自由だが神を盲目的に信仰するのは止めた方がいい。神の声に従い行動することは一種の思考放棄、傀儡と化すことと何ら変わらない。信仰とは理解から最も遠い感情だ─』


『─奴ら神々は遥か過去の時代に確かにこの地上に存在していた。だがもうこの世界の何処にも存在しない─』


『─それは何故か。それは人々が神々の思惑を越え、自らの足で歩き続けた結果に他ならない。"命ある限り前に進み続けること"、それが人が有する唯一無二の強さだ─』


『─信仰を止めろとは言わない──。俺の言葉を全て鵜吞みにしろとは言わない─』


『─だがいつだってジャンヌは一人の人間として自らの意志で行動し、生きていることを忘れないでほしい─』



───と。」

 ジャンヌは懐かし気に過去の記憶を回顧する。驚くことに彼女はウィスが当時自分に述べた言葉を余すことなく覚えていた。

「──私は主の存在を信じてはいますが、絶対視をしているわけではないんです。」

 ジャンヌは続け様に静かに独白する。当時の信仰者とは思えない発言だ。

「──確かに私は主の啓示のもと祖国であるフランスを救うべく立ち上がりました。ですが主の啓示は私にとってあくまできっかけにすぎません──」

「──祖国フランスを救いたいという思い。その思いは何者でもない私から生まれたものです。最後に決断し、行動に移したのは私、ジャンヌ・ダルクに他なりません。」

「──今思えばウィスは恐らく私が辿るであろう未来の軌跡を知っていたのだと思います──」



 確証なんて存在しない──

 これは直感にも似た推測だ──



 だがウィスが教授してくれたことは後の自分の人生にて無駄になるものなど一切なかった。


 ウィスが伝授してくれた武術は戦場で──

 ウィスが伝授してくれた勉学の知識は後の裁判にて──



「勝手ですよね。まだウィスには聞きたいことや、話したいことも沢山あったのに──」

「何も言い残すことなく消えてしまうなんて。私はウィスに受けた恩に対して何も返せていないのに──」







───此処はウィス亡き後のカルデア。後世にて聖女と称えられた一人の少女は過去を回顧し、一人の男性を求め続ける───

 
 

 
後書き
やっぱりウィスを慕う女性たちの内面描写が大事だと思うこの頃。
うーむ、これはアンケートのジャンヌの過去話になるんですかね?微妙です。
 
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