儚き想い、されど永遠の想い
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200部分:第十五話 婚礼その九
第十五話 婚礼その九
「しかしそれもまた」
「愛により結ばれましたね」
「それと同じですね」
「確かに。ロミオとジュリエットにはなりませんでした」
伊上もその雲と海を見ながら話す。雲のある空も青く海が辿り着く砂浜は白い。そこにも青と白がある。彼もまたそれを見ているのだ。
それを見つつだ。彼はさらに話す。
「悲劇にはです」
「幸せな結末になりますか」
「いえ、結末ではありません」
結末かどうかについてはだ。伊上は否定で述べた。
「結ばれて結末と言われるのですね」
「はい」
その通りだとだ。知人も答える。
「結ばれ。そして」
「結ばれることは事実ですがしかしです」
「結末ではないのですか」
「はじまりです」
むしろ逆でだ。そちらだというのだ。
「それははじまりになるのです」
「結ばれて終わりではなくはじまりですか」
「幸せが成就されます」
それからだとだ。伊上は話していく。
「そして次はその幸せをです」
「その幸せを」
「守っていくのです」
「守るのですか」
「そして育んでいくのです」
守るだけではなくだ。それもあるというのだ。
「そういうものなのです」
「そうなのですか」
「そうした考えには」
「至りませんでした」
そうだったとだ。知人は不覚を感じた様にして話す。
「それはとても」
「そうでしたか」
「しかし。そうなのですね」
不覚からだ。知った顔になってだ。伊上に言うのだった。
「結ばれて。そこからなのですね」
「何かを成し遂げて終わりならです」
それならばだとだ。伊上はこのことを引き合いに出した。
「明治維新もです」
「あれも。確かに」
「維新がなって終わりではなく」
「そこからでしたね」
「いや、大変でした」
彼等はどちらも維新に関わっている。とりわけ伊上は長州出身で山縣と親しかった。だからこそ余計にそのことを実感できるのだ。
実感したうえでだ。そのうえでだった。
「何度も倒れましたね」
「そうでしたね。先が見えませんでしたし」
「しかしです」
それでもだとだ。伊上は笑顔で話した。
「それでも今はです」
「日露戦争に勝ち先の戦争にも勝ち」
「何とか生きています」
日本がだ。そうなっているというのだ。
「そうなっていますから」
「今も続いていますね」
「そういうことです。維新で終わりではなく」
「戦争に勝っても終わりではなかった」
「あらゆることがそうです」
伊上はまだ海や空を見ている。そうしての言葉だった。
「終わりは。はじまりでもあるのです」
「一つのことが終わればそこからあらたなことがはじまる」
「そうです。そして彼等も」
「その八条家と白杜家の若いお二人も」
「幸せになりそうして」
「さらに幸せを目指す」
「そうなるのです。いいことだと思います」
伊上の言葉が微笑んでいた。その微笑む言葉と共にだ。
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