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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica8-B邂逅~For her sake~

†††Sideイクスヴェリア†††

アインハルトとの邂逅より1週間。私も学院生活にすっかり慣れ、ヴィヴィオ達以外の友人にも恵まれています。そして今日は、ヴィヴィオ達がノーヴェさんから指導を受ける日。私もトレーニングウェアを用意して、体づくりのために一緒にランニングをし、その後にストライクアーツ練習場へ移動。ノーヴェさんの指示でヴィヴィオとリオ、フォルセティとコロナが組み手を始めた中・・・

「ノーヴェさん。少しお話があります」

「話? ああ、いいぞ」

ノーヴェさんにアインハルトの事を相談してみた。過去から受け継がれている聖王と覇王の因縁によるアインハルトの心労。このままでは彼女が何か大きな過ちを起こしそうで・・・。私と彼女はそう深い関係でないにしても、共に大国イリュリアを相手に戦った戦友。見捨てるわけにもいきません。

「――なるほどな。そのアインハルトって子は、スポーツとか好きそうか?」

「あーいえ。おそらく興味はないかと。最強を目指すと言って聞きませんし。聖王(ヴィヴィオ)やフォルセティ、もしくはルシルさんをも敵に回すという始末で・・・」

「うはぁ。軍神(ルシル)さんを敵に回すとか・・・。マジで言ってんのかよ。あの人に膝を突かせるなんて、局と教会騎士団合わせても10人いるかどうかだろ。もし本気だってんなら、さすがにやめさせねぇとな」

ノーヴェさんはグッと握り拳を作り、さらに「それに教え子(ヴィヴィオ)達を預かる身としちゃ、黙って見過ごせねぇ」と力強く頷きました。

「・・・なぁイクス。最強を目指すって話だが、あれか? ベルカ時代みたく殺し合いみたいなニュアンスか?」

「さすがにそれは無い、と思いますが・・・」

礼儀正しい子でしたし、纏う雰囲気も誠実そうでした。犯罪に手を染めるような真似だけはしないはず。ノーヴェさんは「うーむ」と腕を組んで深く考え込みました。やはり難しい相談だったのでしょうか。

「話を聞く限りじゃ、アインハルトはスポーツとしての格闘家の方が向いてると思うんだけどな。格闘家だって自分の実力で最強を目指してんだ。戦乱時代の殺し合いと現代のスポーツとじゃそりゃ違う事もあるだろうさ。でもどっちも勝つ事を目的としてる。アインハルトに、それを説く。もうこれっきゃないだろ」

「なるほどです。ではやはり一度、ヴィヴィオと顔合わせさせた方がいいでしょうか?」

「だな。ヴィヴィオの心は広く、思いやりもある。アイツの優しさを頼るしかない」

ノーヴェさんと強く頷き合い、「急ぎの方が良いですか?」と確認すると、「ソイツはすぐにでも動きそうか?」と聞き返されたので、「おそらく、すぐには動かないかと」と答える。

「その心は?」

「シャルから聞いた話ですけど、アインハルトはヴィヴィオとフォルセティが学院に入学した当初より2人を確認していたそうです。それでも手を出さないのは、迷いがあるからか・・・もしくは待っているか、です」

「待っている?」

「自分の実力が他の王と拮抗するか超越するか、ヴィヴィオ達が打倒するに相応しい実力を身に付けるか、です。あくまで私個人の意見ですので、正解かどうかは不明ですが」

「いや、お前の感想を信じるよ。・・・とりあえずアインハルトと話してみよう。次の練習日は2週間後だ。そん時に連れて来てもらえると助かる」

「判りました」

さて、どうやってアインハルトを連れて来ましょうか。今からその事だけを考える。彼女はもう私の話を聞かないでしょうし、無理やりというわけにもいかないでしょうし。ノーヴェの練習メニューをしっかり終えた後の一度目の休憩時、「ヴィヴィオ。ちょっといいですか?」と、タオルで汗を拭う彼女に声を掛ける。

「ん、なーに?」

「それとフォルセティ」

「どうしたの?」

この件にもっとも関わりのある(本人たちは知らないですが)2人に声を掛ける。2人だけが呼ばれたことでコロナとリオが顔を見合わせ、コロナが「じゃあまた後で・・・」とリオのトレーニングウェアの袖を引っ張りました。

「待ってください。コロナとリオも一緒に居てください。今後の私たちに関わってくる事なので」

「こ、今後・・・」

「なんか大事な話・・・?」

そう身構えなくてもいいのですが。ともかく「仲間が1人増えるかも、という話です」と伝えると、ヴィヴィオ達は「おお!」と歓声を上げました。

「ねぇねぇイクス、どんな人なの!?」

「わたし達の知ってる子!?」

「強い? 強い?」

ヴィヴィオ達からの質問攻めを受ける私を見てフォルセティが「待って待って、落ち着こう!」と助けてくれました。ノーヴェさんも「整列!」と指示を出し、「はいっ!」とヴィヴィオ達を整列させました。

「よし。じゃイクス。続きを」

「あ、はい。実は――」

ノーヴェさんに相談した事をヴィヴィオ達にも伝えた。すると「覇王イングヴァルト・・・」とヴィヴィオが呟きました。ヴィヴィオはオリヴィエのクローン。金色の髪、紅と翠の光彩異色、虹色の魔力光は受け継いでいますが記憶を継承していませんので、覇王イングヴァルトについては知識でしか知りえないでしょう。

「あの~。それでわたしは何をすればいいのかな?」

「アインハルト・ストラトスと闘ってくれませんか?」

「うえっ!? えっと、闘うってそれは試合ということでいいの?」

「はい。もちろんです」

ヴィヴィオとアインハルト。聖王女と覇王。良い方にも悪い方にも転がるかもしれませんが、丸投げすることなくそこは私たちみんなでフォローしましょう。すぐには判り合えずとも、必ずアインハルトを過去から連綿と続く悲劇の記憶から救ってあげたい。

「練習が終わったら図書館に行って、覇王イングヴァルトを調べてみようか・・・?」

「それ良いかも♪ 覇王流だっけ? それの対策も考えないと」

「コロナ、リオ、ナイスアイディア! ヴィヴィオ、僕たちも手伝うからアインハルト先輩攻略を考えよう!」

「「「先輩呼びなんだ・・・」」」

「おかしいかな・・・?」

アインハルトは初等部の最上学級の第5学年で、私たちは第3学年。先輩後輩の関係なのは間違いありませんけど。ここはやはり「敬称はさん付けでいいのでは?」とフォルセティに提案する。いきなり先輩呼びはかえって失礼な気がします。

「じゃあアインハルトさんで。じゃあこの後は、図書館へ直行っていうことで良いんだよね?」

「うん!」

そういうわけで、練習メニューをすべて終え、シャワールームで汗を流して着替えた後、「図書館にしゅっぱ~つ!」するのですけど・・・。

「悪ぃな。あたしはこれからバイトでさ」

ノーヴェさんはアルバイトや救助隊のお手伝いをしており、さらに私たちのコーチを引き受けてくれています。その忙しさは相当なものでしょうから、私たちは「ありがとうございました!」とお辞儀をして感謝を示す。

「おう! そんじゃまた2週間後な」

ノーヴェさんと手を振って別れた後、早速図書館へと向けて歩き出す。その最中に通信端末を取り出して、中央図書館に寄り道してきます、という旨のメールをルーツィアへと送信。するとすぐに、迎えの連絡はまたちょうだい♪と返事がきました。

「覇王流ってどんな技があるのかな~」

道すがらリオがそう漏らしました。イリュリア戦争時、私は前線本部で敵味方構わず死体をマリアージュ化させていたので、覇王流の詳細はよく判っていないですし・・・。とここで、「あ、イクス」とフォルセティに呼ばれました。

「なんでしょう?」

「僕のオリジナルである魔神オーディン。その人はイクスや聖王女オリヴィエ、そして覇王クラウスと同じ時代に生きて、そして友人だった。だよね?」

「ええ、そうですよ。私は友人と呼べるかどうかは怪しいですが」

もう少し御三方と言葉を交わせれば良かったのですが、国がそれを許さず、私自身も積極性が無かったため、それは最後まで叶わなかった。唯一の救いは、オーディン様と僅かな時間ですが2人きりでお話できたこと。長い人生、それに比べて短い活動期間の中で、それは私の大切な思い出。

「残念ながら僕は引き継げなかったけど、セインテスト家の人間には複製ってスキルが代々引き継がれていくみたいなんだ。初代から当代のお父さんまでに複製されてきたスキルなどを全部扱えるってことでさ」

「なるほど! ルシルさんなら覇王流を複製してるかもしれないってことだね!」

「それなら早速、連絡をしてみようよ!」

「待ってリオ。フォルセティ君。ルシルさん、今日はお仕事?」

「え? あー、うん。今日はミッド地上本部で待機、だったかな・・・」

「それなら連絡入れても大丈夫なんじゃない?」

「うーん。じゃあ・・・」

特務零課や内務調査部の本部がある本局ではなく地上本部。何かお仕事をしていそうな気がしますが・・・。リオに言われるままにフォルセティがルシルさんへと通信を入れることに。モニターが展開され、コール音が数秒鳴った後、『どうした~、フォルセティ』とルシルさんがモニターに表示されました。

『あれ、なんだ、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、それにイクスも一緒か。そういや今日はノーヴェとのトレーニングで、フライハイト邸に泊まる日だったか。お疲れ様』

ルシルさんに名前を呼んでもらえるだけで胸の内が温かくなる。胸の前でキュッと両手を組んでいると、フォルセティが「ちょっと聞きたい事があって」と本題を切り出しました。そして私が、アインハルト・ストラトスの一件をどうにかしたいということを伝える。

『あぁ、その話か。俺もシャルからその話を聞かされているよ。前世の記憶に縛られて、大切な子供の時間や楽しい学生生活が送れないのは可哀想だと考えていたんだ』

ルシルさんの言葉に私は全面的に同意する。今の学生生活は本当に楽しくて、夢のような時間で。それを謳歌できないのは本当に悲しい事。そして話は本題の「覇王流、複製してない?」という質問へ。

『なるほど。アインハルトは覇王流も受け継いでいるらしいからな。その対策で俺を頼ってきたか。ふふ、うん、悪くない』

「その反応は! ルシルさん、複製してあるの!?」

「見せてほしい!って贅沢は言わないので、どういうものかだけ教えてください! 参考にしたいです!」

「お父さん、お願い!」

「あ、でもお暇な時に満たせてもらえると嬉しいです!」

リオ、ヴィヴィオ、フォルセティ、コロナに続いて私も「ルシルさん」とお願いする。

『・・・クラウスが覇王流を極めたのは、オーディンが戦死した後に勃発した聖王戦争、そのさらに後なんだ。イリュリア戦争時には確かに覇王流の兆しはあったが・・・。アインハルトの今現在扱える覇王流は、俺の知る不完全ではなく完成されたものかもしれない』

クラウスが覇王と呼ばれたのは確かに聖王戦争後から。覇王流も聖王戦争時辺りから完成していたものと思われますので、オーディン様は不完全な覇王流しか複製できていないのでしょう。

「あの、それでも教えてほしいです」

『判った。俺の知るクラウスの戦い方は、断空と呼ばれる技術を用いたものだ』

「「「「「断空・・・?」」」」」

『足先から練り上げた力を拳足に乗せて撃ち出す、というものだ。その破壊力は凄まじい』

そう言ってルシルさんは数歩ほど後退して、全身がモニターに映るようにしました。そして構えを取り、その断空という技術を私たちに見せてくれました。ポカンと口を開けている私たちに、ルシルさんは『今のが断空だ。が、この程度なら練習すれば誰でも出来ると』と言い、さらに『覇王流はさらに今のを極めたものだ』と続けました。

「な、なるほどです・・・」

『ヴィヴィオ。俺が一度スパーリングの相手をしてみようか? 不完全ながら断空の威力を体験してみると良いと思うが・・・。どうだろう?』

「良いんですか! ぜひ! ぜひぜひ!」

モニターに顔を近付けてルシルさんからのお誘いをOKしましたヴィヴィオ。そしてルシルさんは、明日の日曜日と来週の土日なら空いているとのことで、その日に私たちはフォルセティの家でもある八神邸にお呼ばれさせてもらうことになりました。

†††Sideイクスヴェリア⇒アリサ†††

「アンタね~。物に八つ当たりするなんて、らしくないし見っともないからやめなさいよ」

会議室で怒鳴りまくってたルシルを心配したあたしは、アイツの様子を展望ロビーにまで見に来ていた。ロビーに来てみれば1人だけだったルシルは、何を思ったのか妙な技を使った上での正拳突きをして、拳から強烈な衝撃波を放った。その影響で近くにあったソファのいくつかを吹っ飛んだ。

「違う。そんな子供っぽい真似をするか」

「ふーん。ま、別にいいわ。ほら、ソファを直すわよ」

「ああ、すまん」

ルシルと一緒に転がってるソファを元の位置で立てる中、「で? 何やってたのよ。誰かと通信してたみたいだけど」って聞くと、アイツは「見てたんじゃないか」って苦笑した。ルシルの前にはモニターが展開されていたしね。誰と通信していたのかは見えなかったけど。

「ヴィヴィオ達からちょっとした相談をな」

「なるほど。だから機嫌が治ってるわけね~」

ついさっきまでルシルは調査官としてある案件を担当してた。ミッド地上本部の財務部所属の局員による横領事件。本来は地上本部の監査が調査するべきなんだろうけど、財務課担当の監査官がグルだったこともあって、とうとう本局の調査部からルシルが派遣されてきたのよね。

・―・―・回想よ・―・―・

地上本部の会議室の1室を借り切っての調査会。あたしは首都防衛隊第4隊・バニングス隊の隊長として、地上本部に所属する局員として、傍聴席として用意されている後部の席に座る。隣には第3隊・グランガイツ隊の隊長のゼストさん。

「――ギャンブル? 否定はしないさ。それを趣味にしている者もいれば仕事にしている者もいる。借金? すればいいさ。金を借りるほどに落ちぶれたのは自業自得、自己責任だ。だが何故そこで横領なんていう話が出てくる?」

件の横領局員にはそう言い放ち・・・

「秩序と正義を司る管理局、その内部を取り締まる調査部の一員が、金銭に目が眩んで悪事に手を貸した?」

監査官にはそう言い放った。2人ともルシルよりずっと歳のいった局員で、思いっきり歯を噛んで大声を上げるのを耐えてるわね。どうせ、若造風情が、とか思ってんじゃないの。

「お2人はそれなりの地位と役職に就いている。局より頂いている給金も並の局員より高い。人生を棒に振ったな。で、マッカン会計官。あなたは横領した金で借金の返済をするどころか、さらにギャンブルに手を出しているな。随分と馬鹿な真似をしているものだ」

そう言ってルシルが複数枚と展開したモニターには、借用書やらカジノで豪遊している会計官やらが表示された。すると会計官が「プライバシー侵害だ!」って怒鳴って、ルシルを指差した。

「プライバシー侵害? はぁーッ! プライバシー侵害だと? 捜査官が犯罪の調査をしたらプライバシー侵害か? ふざけた事を抜かすのもいい加減にしろよ貴様・・・! しかもこのうちの何枚かは貴様が年甲斐もなくやっているブログに乗せられている物だ! プライバシー侵害などと怒鳴るならブログなどするな!」

あそこまでルシルがキレるのってなかなか無いわよね。会議室に居る他の局員も、ルシルの放つ怒気に気圧されているのか息を呑んでる。

「我々は管理局員だ! 正義と秩序を胸に次元世界の平穏を守る守護者だ! それを自ら破ってどうする! 自覚を持てよ! 今の局に対する世論を聞いたことがあるか!? 不正続きで信用できない、だ! それを加速させるような真似を、勤続何十年というあなた達が起こしてどうする! その所為で我々調査部も無能扱い! 俺が世話になった先輩は心を病んで辞めたよ! お前たちのような自覚の足りない連中の所為でな! あぁ、これは俺個人の恨み辛みだ! どうぞ聞き流してもらって結構! だが忘れるな! 少数の不正でも、多数の人間に迷惑を掛けているということを! 以上!」

・―・―・終わりよ~・―・―・

って、散々怒鳴りまくったルシルは、仕事が終わると同時に真っ先に会議室を出て、あたしは後を追って来たんだけど・・・。ヴィヴィオ達との通信で機嫌が治ってるっぽいから良かったわ。ソファを全部直し終えた後、「よう、坊主、アリサ嬢ちゃん」って野太い声が掛けられた。

「「ナカジマ三佐、クイントさん。お疲れ様です」」

展望ロビーの出入り口に居たのは、以前あたしがお世話になっていた陸士108部隊の隊長、ゲンヤ・ナカジマ三佐と、その奥さんのクイント・ナカジマ二尉。クイントさんは「ルシル君。凄い啖呵切りだったわね~♪」って笑いながら、ルシルに向けて親指を立てた。

「いえ。お恥ずかしいところをお見せしまって・・・」

「んなことねぇよ、坊主。スカッとしたぜ、お前さんの啖呵」

「うんうん♪ あ、そうだ。ルシル君、今夜空いてる? 良かったらウチ来ない? アリサちゃんも夕食に誘ってるんだけど、どう?」

「・・・そうですね。はやて達も今日は居ないので。・・・はい、ありがとうございます。お誘いお受けします」

というわけで、ルシルも一緒にナカジマ家の夕食会にお呼ばれすることに。それからあたし達は、クイントさんの運転する車に乗り、一路ナカジマ邸へ。そうしてナカジマ邸の駐車スペースにバックで入ってるところに、「おかえりなさいっス~、パパりん、ママりん♪」って出迎えの挨拶が聞こえてきた。

「ルシルさんとアリサもいらっしゃいっス~♪」

なんでかルシル(やなのは達)にはさん付けで、あたしは呼び捨てなのよね。まぁ元108所属っていう間柄だし、たびたびナカジマ家にお呼ばれしてるから、なのは達以上に親しくなるのは当たり前なんだけど・・・。

「ただいま、ウェンディ。あの子はもう来てる?」

「っス! 今はチンク姉とスバルから勉強を教わってるっスよ!」

「オーケー♪ ささ、アリサちゃん、ルシル君、上がって上がって」

三佐とクイントさんの後に続いて家の中へ。最後にウェンディがドアを閉めて、あたし達はリビングに上がったんだけど。そこにはスバルとチンク、それに見覚えの無い男の子がテーブルを囲んで座っていた。

「おう、ただいま!」

「ただいま~!」

三佐とクイントさんが挨拶するとスバル達も「おかえりなさい!」って返した後、あたしとルシルを見て「いらっしゃーい!」って言ってくれた。

「お邪魔するわね」

「ご相伴に与るよ」

あたしとルシルの目が男の子に向けられる。ナカジマ家は三佐以外みんな女子だから、そこに子供とは言え男が混じっていると不自然というかなんというか、ね。

「あ、紹介します! この子はトーマ、トーマ・アヴェニール。以前あたしが保護した子で、普段は保護施設で過ごしているんですけど、時々こうやってウチに招くんです。トーマ。こちらはルシリオン・セインテストさん。あたしやギン姉にとってはお兄ちゃんのような人なんだ。こちらアリサ・バニングスさん。以前はお父さんの隊に居て、ギン姉の先輩だった人なんだ」

「ルシリオンだ。これからも長い付き合いになると思うから、ルシル、と呼んでくれ」

「アリサよ。あたしもこうやって時々お呼ばれするから、その時はまたよろしくね」

「あの、はいっ、よろしくお願いします!」

トーマは礼儀正しい子なんだけど、どこか陰りのある子でもあった。その勘のようなものの正体はすぐに判った。

「えー、いいじゃん。一緒にお風呂に入ろうよ~♪」

「無理だから! 俺、男子だから!」

「恥ずかしがる事ないっスよ~♪ 頭を洗ってあげっるスよ~♪」

「1人で洗えるから~!」

「あ、じゃあ私も一緒に入ろうっかな~♪」

「お前ら・・・。純情な男子をからかうんじゃねぇよ・・・」

スバルやウェンディ、さらにはクイントさんからも一緒にお風呂に入ろうって誘われてるトーマ。クイントさん達がわいわい騒いでる中、あたしとルシル、それにギンガとチンクは、庭のガゼボ(日本でいうあずまや)のベンチに座ってる。

「トーマが生まれたのはヴァイゼンの遺跡鉱山のある町だ。その遺跡鉱山が崩落、町全体も連鎖崩壊するという事故が新歴74年に起きた。トーマはそのたった1人の生き残りなのだ」

「管理局は公式に事故として処理したのですが、トーマの話によれば、崩落直後に男女2人組を現場で目撃したとのことで・・・」

「その2人が崩落を招いた犯人ということかしら・・・?」

「・・・トーマの目撃証言から追加調査が実施されることになりましたが、未だに確固とした情報は上がって来ていません」

あたしの問いにギンガがそう答えてくれた。その会話中、ルシルは局のデータベースにアクセスして、件の調査報告を引っ張り出してた。モニターに表示されてる報告書をあたし達も一緒に閲覧していると・・・

「助けて~! ギン姉~、チンク姉~!」

「トーマ! 別に気にすることはないだろう~!」

「チンク姉!?」

「母さんやスバル達も、トーマが久しぶりに泊まるのが嬉しいのよ~!」

「ギン姉!?」

真面目なギンガとチンクからのまさかの裏切りに、トーマの表情が絶望一色に染まったのが遠目でも判った。すると「ルシルさ~ん! 割とマジでお願いします!」ってルシルに助けを求めた。まぁ同じ男子だし、そのチョイスは悪くは無いと思うわ。

「やれやれ。・・・ギンガ、チンク。フッケバインで調べてみてくれ」

それだけを言い残してルシルは家の中へ戻って行った。クイントさん達とトーマの間に割って入って、説得を始めてみたい。で、あたし達はルシルの言ったフッケバインっていう単語を調べてみた。

「トーマの言ってた特徴通りだ・・・!」

「銃剣、本、藍色の翼の刺青・・・!」

そいつらは凶鳥フッケバインと名乗る、管理外世界で強盗殺人を繰り返す犯罪集団だった。

「トーマ。まぁなんだ。女性と一緒に風呂に入れるのは今の内くらいだし、一緒に入ってやってくれ」

「ぎゃー! まさかのルシルさんからも裏切りぃ~~~~~!」

トーマはトーマで酷い事になっちゃってるし。でもギンガは「ありがとうございます」ってルシルへの感謝を述べ、チンクは「私の方でも調査してみよう」ってモニターを見つめた。
 
 

 
後書き
とりあえず未来トーマではなく現代トーマを登場させ、フッケバインという単語も二度目の登場。とは言え休載中のままなForce編は、以前にもお伝えした通りほぼカット予定になってしまったので、トーマなどをここで出す意味は無いとお思いでしょうが、闇の欠片事件でトーマとリリィを出してしまった以上は、完全スルーするわけにもいかないわけで・・・さぁ大変。 
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