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儚き想い、されど永遠の想い

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150部分:第十二話 公の場でその八


第十二話 公の場でその八

「思えば私も主人と正式に結婚してからです」
「そこから変わったのですね」
「はい、変わりました」
 まさにそうだというのだ。
「そのことがわかりました」
「そうですね。恋愛、そして結婚は」
「人を新しくさせます」
 こう真理に話す。
「お嬢様もそうなられたいのですね」
「できれば。それでなのですが」
「それで?」
「婆やは。その武者小路実篤の小説にある様な」
 その彼の小説にあるようなだというのだ。
「ああした恋愛についてはどう思われるでしょうか」
「二人の人が一人の異性を愛しそのうえで動く小説でしょうか」
「いえ、そういったものではなく」
「ではどういう小説ですか?」
「例えばです」
 また前置きしてだ。真理は婆やに話した。
「カップルがです」
「カップルがですか」
「御互いに敵対する関係にある両家のです」
 その二つの家のだというのだ。
「男女が互いに愛し合う様になって」
「それは武者小路というよりは」
 それよりもだというのだ。
「シェークスピアですね」
「あの作家になりますか」
「私は英吉利や仏蘭西の本には疎いですが」
 それでもだとだ。婆やは話すのだ。
「それで聞いたことはありますので」
「シェークスピアになりますか」
「そう思いますが」
「そうですね」
 婆やに言われてだ。真理もそう考えた。
 そのうえでだ。こう返すのだった。
「そうなりますね」
「そうですよね。確かに」
「はい、確かに」
 二人で言い合う。
「お互いにですね」
「そうなりますね」
 こんな話をした。そしてだ。
 真理は婆やの話を受けてからだ。こう言うのだった。
「ではです。あらためて」
「そのシェークスピアですね」
「はい、その互いに対立する両家の者同士の恋愛は」
「それもまたいいと思います」
「いいのね」
「はい」
 婆やはにこりと笑って真理の言葉に頷いてみせた。
「私はそう」
「思います」
「そうなのですね。婆やも」
「はい、そうしたことで不幸になることなぞ間違っています」
 実際にこう話す婆やだった。
「あの。ロミオとジュリエットですね」
「そうです。ロミオとジュリエットです」
 それだった。その話は。
「それは」
「あのお話は私も知っていますが」
「どう考えているの?」
「間違っています」
 ぴしゃりとしてだ。婆やは言った。
 そしてそのうえでだ。この話を出すのであった。
「歌舞伎ですが」
「歌舞伎の?」
「本朝廿考です」
 歌舞伎の名作の一つだ。主人公の八重垣姫で人気の題目だ。
「あの作品では二人は結ばれますね」
「そうですね。そうなりますね」
「あれが正しいのです」
 婆やは真理に対して言い切った。そうしてみせたのだ。
「ロミオとジュリエットは間違っています」
「幸せになるべきですか」
「二人が愛し合うのなら」
 それならばだ。どうかというのだ。
 
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