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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ Another

作者:月神
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第9話 「接触・忠告」

 この世界のはやてと出会って数日後。今日も何事もなく終わるのだろうかと思っている内に放課後を迎えた。
 いつ状況が動くのか。もしかしてこの世界ではフェイト側の状況が異なり、ジュエルシードを巡って戦うような事態にはならないのか。
 そんなことをふと考えてしまうくらい何とも言い難い緊張感が常にあるだけに精神的な疲れは日々蓄積されている。
 真っ直ぐ家に帰ってお菓子でも作るか。それとも図書館にでも寄ってはやてが居るか確認してみるか……。
 少しでも気分が変わりそうなことを考えていると、車に乗ろうとしているアリサとすずか、そのふたりを見送ろうとしているなのはの姿が見えた。お嬢様達は習い事があったりするだけに特別珍しい光景ではない。
 俺の記憶が正しければ、前回はこういう時にジュエルシードの発動してなのはがフェイトと遭遇した気がする。
 だが何度も似た光景をすでに見ているだけに、これがきっかけというわけではないようだ。なので緊張感が高まったりしない。

「じゃああたしとすずかは今日お稽古の日だから」
「行ってきます」
「うん、お稽古頑張って」

 今日も仲睦まじい3人である。
 俺の知っているような事態になれば、一時的に亀裂が入ってしまいそうだが、この世界の3人も俺の知る3人のように自力で関係を修復できるとは思う。そう素直に思えるほど、この3人の信頼は厚い。
 意識を3人の方に向けていたせいか、ふとすずかと視線が重なる。
 一見すずかはおっとりというか穏やかな性格の子に思えるが、運動神経は抜群に良く、また人よりも気配に敏感な節がある。それは前の世界でもこの世界でも変わらない。
 まあ……目が合ったところで深い意味はないだけにこのまま帰るだけなんだが。あっちとしても呼び止めてまで別れの挨拶をしようとは思わないだろうし。

「すずか、あんたどこ見て……はは~ん」
「ア、アリサちゃん、何でそんな反応するのかな!? べ、別にそういうんじゃないから。たまたま姿が見えて目が合っただけで」
「別にあたしは何も言ってないんだけど。というか、たまたま姿が見えたから目が合うって……あんた達って」
「違うから! 本当にたまたまで。もう意地悪しないでよ!」

 視線を外した直後に騒ぎ始めたが……もしかして俺のせいなのだろうか。
 アリサは面倒見が良いがいたずら好きというか人をからかう一面もあるし。主にその被害に遭うのはなのはやすずかなわけだが。
 今回のそのパターンだろうか。
 アリサやすずかとは、席や趣味的になのはよりも話す機会が多い。それだけに俺のせいですずかがからかわれている可能性もあるだけで。
 中身が肉体年齢に等しいならこんなこと考えなかったのだろうが……そこは言ったところで変わらない。つまり考えるだけ無駄なことだ。
 仕方がない。もしも仮に俺のせいですずかがからかわれているのならば、今度お菓子でも差し入れしよう。たまには作る相手を変えたくもなるし。
 というか……アリシアは今自由に動けないからあまり食べさせてると太りそうだからな。
 こんなに美味しいとつい食べ過ぎる。太ったらショウのせいだからね! とか文句言いながらよく食べてるし。じゃあ作らないってなると何で作らないんだって怒る。
 女心は変わりやすいって言うけど、あいつの場合は単純に食い気が強いだけだろうな。

「えっと……すずかちゃん、夜月くんと何かあったの?」
「何もないし大丈夫だから」
「何ならなのはに呼んできてもらえば? 少しは話す時間はあるわけだし。どうせあいつも暇でしょうから」
「アリサちゃん!」
「分かった、分かったわよ。これ以上は言わないから……それじゃなのは、また明日」
「なのはちゃん、また明日ね」
「うん、また明日」

 お嬢様達を乗せた車が発進し、俺の近くを通って行く。
 窓越しに俺に向かって手を振るふたりが見えたので、とりあえず軽く手を振っておいた。無視をすると後日アリサが絡んできそうだし、すずかがあれこれ考える可能性もあったからだ。
 これが理由で別の案件が発生することも考えられるが、それは仕方がないと割り切る。人の心なんてものは他人がどうこう出来るものではないのだから。

「夜月く~ん!」

 おっと……何やら全力全開で走って来たぞ。俺、何か話しかけられるようなことをしただろうか。
 まだ魔導師だってことは知られてない。それに関係性もクラスメイトくらいのもの。それらから推測すると深読みするだけ無駄な理由で話しかけられてるのだろうが、あれこれ考えてしまうのは中身が大人であるが故だろうか。

「何?」
「途中まで一緒に帰ろう」

 え、嫌なんだけど。
 なんて反射的に言いそうになってしまった。別になのはのことが嫌いなわけではないし、昔のように他人と関わりを持つのが怖いというわけでもない。単純にふたりで居るところを見られると周囲から何か言われそうだから嫌なのだ。
 前の世界でならこの頃の俺は周囲とそこまで親しくしてなかったから嫉妬とかもされてなかったけど、今は別に普通だしな。成績だけで見ればむしろクラスでも上位だし。
 でもこれは普段の訓練の賜物というか、大人が小学生の問題を理解出来ない方がおかしいわけで。
 まあ何が言いたいのかっていうと、今の俺は特別目立つ存在じゃないがそれなりに周囲から認められている。故になのは達のような可愛い女子と一緒に居たりすると嫉妬されるわけだ。

「まあ……別にいいけど」
「少し嫌そうに見えるのは私の気のせいかな?」
「気のせいかもしれないし、気のせいじゃないかもしれない」
「そこははっきり否定しようよ!?」

 はっきり否定しても疑いの眼差しを向けてきそうなのですが。
 そう考えてしまうのは前の世界でのやりとりに問題があるのだろうか。話すようになった頃はまだしも、どうにも俺は高町なのはという人間と一部相性が悪かったように思える。
 その証拠に意地悪だとよく言われていたし。こちらからすれば、全てを意地悪で言っていたわけではないのだが。確かに意地悪で言ったこともあるが、割と相手側の被害妄想がひどかっただけで。

「何ていうか……夜月くんって私に対してアリサちゃん達より素っ気ないというか意地悪じゃないかな?」

 異なる世界で異なる流れが存在しているとしても、根っこが同じならば発する言葉に同じなのかもしれない。

「……意地悪ね」
「え、いや、別に本気で言ってるわけじゃなくて! ただアリサちゃんとはこう本音で言い合ってるなって感じがするし、すずかちゃんと話す時は何というか優しい感じがするから。それを比べると私はどっちでもないと言いますか、扱いが雑なように思えるわけでして……!」

 慌てているせいかどんどん敬語になっているのですが。
 まあ俺のよく知るなのはにも似たようなところはあったし、世界は違えど同じような存在なのだから似た言動をするのはおかしくないのだろうが。ただ……俺の心がざわつくだけで。このざわつきが時間と共になくなることを祈りたい。この子はこの子、彼女は彼女なのだから。

「まあ別に一緒に帰ってもいいけど」
「え……本当?」
「そこで疑ってくるからあれこれ言いたくなるんだけど?」
「ううん、何でもない! 一緒に帰ろう」

 そうして一緒に歩き始めたわけだが、この時期に誰かとふたりで下校というのはあまり経験がないだけに少し新鮮に思える。中学時代だったならホームステイしていた彼女と一緒に帰ることも多かったが。
 冷静に考えてみると、なのはと一緒に帰るのはレアケースなのではなかろうか。前はフェイトやはやても一緒で集団での行動の方が多かったし。
 この世界ではこういう日が増えるのだろうか。

「……ッ!?」

 そんな他愛もないが平和な出来事を考えた矢先、何かが発動した気配を感じた。
 この気配はほぼ間違いなくジュエルシードのもの。気配のする方角を考えると、今日のジュエルシードは翼の生えた黒い虎の一件かもしれない。
 この予想が正しければ、なのはとフェイトが遭遇を果たす可能性が高い。

「ぁ……!」

 なのはも気配を感じたようで、立ち止まって振り返った。

「えっと、あの、夜月くんごめん! ちょっと急用思い出したから先に帰るね!」
「ああ」
「また学校で!」

 そう言い切るとなのはは全力疾走でジュエルシードの気配がする方角へ向かって行く。
 なのははあまり運動神経が良い方ではない印象ではあるが、こういうときの動きは実に俊敏だ。まあ大人になれば近接戦闘もある程度こなせていただけに根っこの部分は悪くないのだろう。この時期はまだそっちを訓練していないから鈍いところがあるだけで。

『マイマスター、このあとどうなさいますか?』
『ジュエルシードの方に向かってる魔力反応は?』
『高町なのは以外に複数確認できます。ひとつはユーノ・スクライア、他は……』
『それ以上は言わなくていい……』

 状況からしてなのはの後を追いかける他にないだろう。
 だが……フェイト達と顔を合わせるのは一種の賭けだ。前の世界とは異なり、この世界では一度顔を合わせてしまっている。それ故に今日顔を合わせれば確実に敵として認定されるだろう。
 そうなれば俺の知る流れとは異なる状況になる可能性も高くなる。
 しかし、ジュエルシード事件で俺が達成すべきことはプレシアを生存させること。それにはなのは側、つまり管理局側で動くことになる。遅かれ早かれ敵の立場になるのだ。なら覚悟を決めるしかない。

「……レイ、行くぞ」

 ★

 ジュエルシードの反応があった地点に到着すると、ジュエルシードの影響で変異した黒い獣が子猫達に飛び掛かるところだった。
 私は子猫の前に出て防御魔法を展開し、襲い掛かってきた黒獣を受け止め、右手に持っていたデバイスにを掛ける。

「バルディッシュ……!」

 起動した相棒を振りかざしながら魔力を集める。
 保持している魔力変換資質によって集束していた魔力は電気へと変わり、バルディッシュを振り下ろすのと同時に雷撃として放たれる。
 雷撃が直撃した黒獣は後方へと吹き飛ぶ。その隙に私はバルディッシュを掲げ、魔導師の戦闘服であるバリアジャケットを展開。

「グオォォォ……!」

 こちらを敵として認識した黒獣が突進してくる。
 おそらくこの世界の原生生物がジュエルシードに触れて暴走しているだけ。あまり傷つけたくはない。可能な限り魔法の威力は抑えないと……

「……バルディッシュ」

 相棒の名前を呼びながらデバイスの先端を黒獣に向けると、雷撃と化した魔力弾が放たれる。
 しかし、ジュエルシードによって身体だけではなく身体能力も強化されているらしく簡単には命中しない。

「なら……」

 速射性を高めて連続で放つ。
 最初の数発は回避されるが追って放たれた魔力弾は見事に命中。雷撃を柱を立てながら周囲に砂塵を巻き上げた。
 最初の雷撃にも直撃したし、今のもまとも当たった。魔力を用いた防御を張っているようにも思えない。
 雷撃への耐性が高いのか、それとも私が手加減をしているだけなのか。どちらにせよ、この後の動き次第で行動を変えなければならない。
 バルディッシュの先端を砂塵の方に向けながら観察していると、一直線に黒獣が向かってきた。
 しかし、黒獣は途中で空へと向かって跳躍。漆黒の翼を生やして逃亡を始めた。獣のとしての本能が私には勝てないと悟ったのかもしれない。

「でも……」

 私の目的はジュエルシードを手に入れること。出来るなら誰かを傷つけるような真似はしたくないけど、必要とあれば容赦はしない。
 高速移動魔法を用いて逃亡する黒獣の背後へ回り、黒獣の左翼に向けてバルディッシュを一閃。紫色の鮮血が舞い散り、バランスを崩した黒獣は回転しながら高度を下げていく。
 だが再生能力が高いらしく、失った左翼を復活させて体勢を立て直したようだ。
 一度着地した私は追撃しようとした瞬間、背後に落ちた切断した左翼が目のない蛇のように変異し襲い掛かってきた。
 冷静に前方に跳びながら回避し、体勢を立て直す。バルディッシュを構えながら雷撃を放ち、異形の生物を粉砕した。

「グオォォォオオ!」

 自分から意識が逸れていたことを好機と思ったのか、黒獣がこちらへ向かって勢い良く降下してくる。
 あの獣の再生能力からしてさっきみたいに加減してたら埒が明かない。それにあまり長引かせるのも良いとは言えない。ここは一気に仕留めよう……

「……ッ」
「でぇぇぇい!」

 気合の声と共に桃色の光が黒獣へと飛来し、一気に地面へと叩き落とした。
 今のは……魔力反応があることからしても私以外の魔導師があそこに居る。ジュエルシードを狙っているのかまでは分からないけど、あの魔導師が何かする前に黒獣のジュエルシードを回収しないと。
 空へと上がって移動していると、下半身が骨のようになった黒獣が空へと昇ってきた。先ほどの一撃が効いているのか再生する様子はない。
 バルディッシュをサイズフォームへと切り替えながら接近し、魔力を高めながら一気に振り下ろす。

「ジュエルシード……封印!」

 雷鳴に等しい一撃によって黒獣は爆ぜる。
 これでジュエルシードは問題ない。そこに居る魔導師がどう出るか……

「……っ」

 視界に映ったのは白いバリアジャケットを纏った少女だった。
 見たところ私とあまり年代は変わらず、こちらに敵意があるようには思えない。あちらももうひとりの魔導師が子供だったことに戸惑っているだけなのかもしれないが。
 いや、そんなことはどうでもいい。長居は無用、早くジュエルシードを回収して戻らないと……

「あ……あの、待って!」

 少女は私がジュエルシードに近づくと慌てて声を掛けてきた。
 どうやらこの子の狙いもジュエルシードのようだ。どういう理由なのかは不明だが、それでもこれだけは言える。ジュエルシードを奪おうとするなら私の敵だ。
 とはいえ、可能ならば荒事に発展させたくはない。必要のない戦闘を行って負傷すれば今後の活動に響くのだから。
 そのため私は威嚇かつ牽制でバルディッシュを向けながら魔力弾を生成した。
 それに少女は一瞬怯んだ様子を見せたが、飛行魔法を発動させて私の傍まで高度を上げてくる。

「あの……あなたもそれ、ジュエルシードを探してるの?」
「それ以上近づかないで」
「いや、あの…………お話ししたいだけなの。あなたも魔法使いなの? とか、何でジュエルシードを? とか……」

 魔導師になって日が浅そうな雰囲気だ。
 でも……だからといって慣れ合う理由にはならない。この子もおそらくジュエルシードを集めてる。この周辺に被害が出ないようにするため。そんな善意でやっているのかもしれないけど……
 忠告を無視して近づいてきた少女に向かって魔力弾を連続で放つ。彼女は慌てて回避するが、実戦経験は少ないのだろう。あっさりと背後を取ることが出来た。
 バルディッシュを再度サイズフォームに切り替えながら少女へと斬りかかる。

「っ……!?」

 紙一重のところで回避され、斬れたのはバリアジャケットの一部だけ。
 今後関わろうと思わないように多少痛い目に遭ってもらう。
 上空へと逃げた少女を追って移動し、最上段からバルディッシュを振り下ろす。だがそれはデバイスによって防がれた。簡単にやられるつもりはないと言いたいのか、少女の目には明確な意思のようなものが感じられる。

「ま、待って! 私、戦うつもりなんてない!」
「だったら……私とジュエルシードに関わらないで」
「だから……そのジュエルシードはユーノくんが!」

 敵の事情なんて聞く理由はない!
 半ば強引に少女を吹き飛ばし、バルディッシュを身体の後ろまで引きながら構える。一際魔力を込めながら大きく振り抜くと、サイズフォームの先端に発生していた光刃が回転しながら少女へと飛んでいく。
 魔力斬撃用の圧縮魔力の光刃を発射する魔法《アークセイバー》。
 少女は防御魔法を展開するがそれはこの魔法には悪手だ。
 この魔法は弾速は速くはないが、バリアを噛む性質があり、軌道も変則的なので攻撃される側にとっては防御・回避しにくい。加えて「セイバー・エクスプロード」というトリガーコードによって光刃を爆破できる。
 よってバリアに噛んだ瞬間に爆破させれば敵に有効打を与えることが可能だ。
 光刃の爆破によって負傷した少女は地面へと落ちていく。格の違いはこの1戦で感じてはくれただろうが、今後関わらせないためにも明確な経験が必要だ。
 だから私は……落下する少女に向けて雷撃を纏った魔力弾を撃ち込むことにした。

「……ごめんね」

 放たれた魔力弾は見事に命中し、勢い良く地面に叩きつけられる……はずだった。
 少女が地面にぶつかる瞬間、黒い風が駆け抜け彼女を受け止めた。現れたのは黒いコートを纏った黒髪の少年。その少年の顔に私は見覚えがあった。

「君は……」

 先日街中で顔を合わせた少年だ。それほど会話したわけではないが、アルフが絡んでしまっただけによく覚えている。

「夜……夜月くん?」
「悪い……もう少し早く来るべきだった」
「な、何で夜月くんが……」
「そのへんはあとで話す……今はあっちだ」

 少年の目がこちらを向く。
 敵意のようなものは感じない。ただ何かしらの感情はあるように思える。
 見たところあの少女とは知り合いのようだ。なら傷つけた相手……それが先日顔を合わせた人間なら何か思うところがあるのはおかしいことじゃない。
 問題になるのは……彼が少女と知り合いであるということ。それは必然的に私にとって敵ということを意味する。
 あの落ち着き用……多分あの子と違って魔法に慣れてる。
 少女と知り合いということはこの街に住んでいる可能性がある。なら普通なら魔法に慣れているのはおかしい。この世界は魔法文化のない管理外世界なのだから。
 でも稀に管理外世界の人間が魔法世界を訪れることはある。
 なら逆に魔法世界から管理外世界に移り住んだ人間が居てもおかしくはない。彼の家がそういう家系なら魔法に関する知識を有しているのも納得がいく。故に……彼は現状私にとって最大の敵だ。

「……あなたもジュエルシードを狙ってるの?」
「否定の返事をしたら君は信じてくれるのか?」

 答えはノーだ。
 私は彼と少ししか話したことがない。言葉を鵜呑みに出来るような信頼関係があるはずがない。
 だけど……彼が嘘を言っているようにも思えない。彼の目は痛いほど真っ直ぐ私を見据えていて……それでいてどこか寂しく悲しげだ。
 どうしてあんな目で私を見るのか。
 そんなことを考え始めた矢先、少年が少し動いた。足を半歩前に出す。ただそれくらいのことだったが、私は反射的に魔力弾を放ってしまう。
 彼の傍には先ほど被弾した少女も居るだけに思わず声を漏らしそうになる。だが……

「ッ……!」

 黒い閃光が走ったかと思うと、私の放った魔力弾は跡形もなく消えた。
 魔力を破壊……いや斬り裂いたのは少年だ。彼の右手には煌くように黒く輝いている長剣が握られている。
 おそらくあの剣はデバイスだろうが、子供が使うにはあの大振りだ。
 しかも魔力刃ではなくそのままの使用を想定して作られているのか、装甲もバルディッシュに比べると厚いように見える。
 普通ならまともに触れなさそうだけど……あの子は軽々と扱ってみせた。
 それも眉ひとつ動かすことなく冷静に。今のだけで戦闘力を計ることは出来ないが、少なくとも先ほどの少女よりも格段に上だ。もしかすると私よりも……

「それが君の答えか? 現状俺は君に手出しするつもりはないんだが」

 その言葉のとおり、少年がその場から動く様子はない。
 少女のことを考えての行動かもしれないが、これ以上この場に留まる理由がない私からすれば何にせよありがたいことだ。
 バルディッシュにジュエルシードを収納した私は、最後に少年に向けて告げる。

「…………私とジュエルシードには関わらないで。もしもこれ以上関わろうとするなら……次は容赦しない」


 
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