儚き想い、されど永遠の想い
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14部分:第一話 舞踏会にてその十一
第一話 舞踏会にてその十一
「だからそうさせてもらうか」
「はい、それでは」
「酒はまさに百薬の長だよ」
古来からよく言われている言葉がここでも出た。
「それを飲んでそうしてね」
「心を楽しくされますね」
「美酒があっての人生だよ」
紳士の人生に対する哲学でもある言葉だ。
「ではね」
「はい、それでは」
こうしてだった。義正は二人で宴の場に戻りだ。そのうえで葡萄の美酒を味わった。しかし多少飲んだところでだ。あることに気付いたのだった。
「しまったな」
「どうしたんだい?」
「何かあったのかい?」
「ハンカチを落としてしまったんだ」
こう友人達に話すのだった。今は舞踏は休止中で彼等は休憩して酒と馳走を楽しんでいる。その時で彼は気付いて話したのだ。
うっかりしていたよ」
「ああ、ハンカチかい」
「何処に落としたんだい、それで」
「庭にね」
そこだと答える彼だった。
「あの場所を散策中にね」
「じゃあ庭に戻るのかい?今から」
「そうするのかい?」
「うん、そうさせてもらうよ」
その通りだと答える義正だった。
「今からね」
「わかったよ。それじゃあ」
「僕達はここにいるから」
「行って来るといいよ」
友人達は微笑んで彼に話した。
「そういうことでね」
「じゃあ。暫しの間のお別れとしよう」
少し芝居がかった言葉でだ。彼等は義正を送り出した。そうしてであった。
義正は庭に出た。そしてそこでハンカチを探す。しかし。
ハンカチは見つからない。どうしてもだ。幾ら見回してもそのハンカチらしきものはない。
彼はそれで困りだした。まずはこう考えた。
「風に飛ばされたか」
最初はそれであった。この日はいささかの風もある。今も額の、酔って赤くなってしまっているそこにだ。涼しい風を感じている。
「それとも誰かに拾われたか」
それならいいのだが、といささか希望を込めた考えであった。
「まだここにあって見つけていないか」
三番目はこれだった。
「どれなのかな」
「あの」
ここでだ。声がした。
「宜しいでしょうか」
「はい?」
「若しかしてですけれど」
声はだ。上の方からだった。
義正は丁度バルコニーの真下からだった。そこからの声だった。
そこを見上げるとだ。そこには。
白いドレス、絹のそれを着ていた。長い黒髪を上で束ねている。顔は細長く頬が少しふっくらとしているが顔も身体も全体的にすらりとしている。
唇は薄くそして広い。微笑んでいる顔だ。
睫毛は長くだ。目は黒く星の如き輝きを見せている。歳は義正と同じ程だ。
その美女がだ。彼に対して言ってきたのだ。
「ハンカチをお探しでしょうか」
「はい、そうですが」
義正は上を見上げて美女に答えた。
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