儚き想い、されど永遠の想い
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122部分:第十話 映画館の中でその十二
第十話 映画館の中でその十二
「満ち足りればそれでいいではないでしょうか」
「本当ですね。確かに」
そうした話もする彼等だった。そうしてであった。
彼等はマジックを後にした。そのうえでだ。
二人で共に帰りそのうえで別れだ。それぞれの屋敷に戻るのだった。
そしてその次の日だ。義正はだ。佐藤にこう話すのだった。
「今度だけれど」
「今度とは?」
「伊上先生に御会いしたいんだけれどね」
こう言うのであった。
「あの人とね」
「伊上克先生にですか」
「そう、あの人とね」
政界の実力者だ。長州出身であり陸軍や官界に大きな影響力を持っている。山縣有朋の腹心でありだ。今は隠居して関西に拠点を置いているのだ。
その彼にだ。義正は会いたいというのだ。
「いいかな」
「はい、それはです」
すぐに答える義正だった。
「先生に連絡をですね」
「そうしてもらえるかな」
「ではそれは私が」
「いや、やはり」
「やはり?」
「私が直接お話したい」
こう言うのだった。考える顔でだ。
「先生とはな」
「そうされますか」
「うん。考えたんだけれど」
「考えたとは?」
「あの方は信用できる方だ」
そのだ。伊上についてのことだ。
「人間的に確かな方だから」
「だからこそですね」
「私から直接お話したい」
「そうしてそのうえで」
「考えがあるんだ」
実際に考える顔で話す彼だった。
「僕にね。それに」
「それに?」
「僕達が一緒になれば」
ここからだ。読みがあった。それは企業の経営に加わっている、そして政治の世界も知っている、まさにそれが為の読みであった。
「そう、八条家と白杜家は結ばれるね」
「縁籍関係になりますね」
「いいことだよね、それは」
こうだ。佐藤に尋ねるのだ。
「そう思わないかい?」
「では、です」
佐藤は一呼吸置いた。それからだった。
義正に対してだ。こう言うのである。
「私の考えを述べさせてもらって宜しいでしょうか」
「むしろ聞きたいね」
義正はこう彼に返した。
「君のその考えをね」
「わかりました。それではです」
「うん、それで君の考えは?」
「両家の対立には何の意味もありません」
彼は言った。
「そのせいでお互いにかなり損をしています」
「そうだね。かなりね」
「競り合いで無意味な労力を使っています」
こう話すのである。
「それを憂いている方もおられます」
「そしてその方は多いね」
「はい、そしてそれはです」
「それは?」
「伊上先生もです」
そのだ。彼もだというのだ。
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