ラピス、母よりも強く愛して
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14僕の学校も戦場だった
11 僕の学校も戦場だった
火星は流刑地になった。
以前の歴史のように、開拓民、遺跡調査スタッフとその家族、様々なスキルと知識を持った有能な人物の集団とは違い、犯罪者、ゴロツキ、刑務所に収容するには数が多すぎて入り切らなかった人物が、棄民として大量に送り込まれた。
遺跡からは何故か食料生産プラントが修復稼働させられ、棄民を養う合成食料が豊富に生産され、天候の変化で不作や飢饉が発生した地球とは違い、火星の土からだけ「石をパンに変える魔法」が有効になってしまった。
地球では奴隷狩りより酷い逮捕拘束監禁が行われ、遺跡宇宙船をコピーした船には冷凍冬眠装置があり、そこにブチ込まれた犯罪者、軽犯罪者、ルールを理解できない低能、ルールを守れない発達障害やADHDを持つ者も纏めて火星送りにされ、過去の奴隷船と同じように、航路途中で結構な数が病死、事故死し、重犯罪者は再起動させず、ただのデータとして記憶や経験を保存、遺伝子情報も廃棄されて、人類のDNAからも犯罪者や、ルールを守れない、理解できない発達障害が排除された。
空港周辺や各コロニーは、現在のフランス、ドイツと同じように難民のテントが大量に張られ、治安は最悪になり、夜間に出歩くと強盗、強姦が行われるので外出禁止。
戒厳令下で自動小銃やレーザーが搭載された殺戮機械が巡回し、犯罪者は直ちに射殺され、ユートピアコロニーも例外ではなくなっていった。
火星への入り口には「地獄へようこそ」、「ここに入る者は一切の希望を捨てよ」と書かれて、楽園を追い出されたモノたちは失楽園に入り、屋根が付いた施設には決して入れないクズが集まった難民キャンプでは、毎日のように暴動が起きて、血の雨が降った。
その頃、アキトの学校でも、どこかのパレスチナの子供達のように「イスラエル軍に投石しに行こうぜ!」と言う気軽さと同じで、「火星の政府軍に投石しに行こうぜ!」と誘われて子どもたちが遊びに行き、成功体験に思い上がった子供が、おもちゃの拳銃やライフルを持って行くと即座に射殺された。
実際に自爆攻撃も行われ、未亡人、自殺志願者、配給カードさえ貰えなかった食いつめ者は、英雄になるために爆弾を装備して自爆。
子供も手榴弾や対戦車地雷を持たされて突入、宗教的にも自爆攻撃が推奨され、出身地、肌の色で差別された者、スラムにも入れないゴミ、自分が何者なのかも分からず、名前も書けないような者は、食べ物と交換でどんどん自爆させられて、火星政府軍、地球軍の被害も甚大になって行った。
高価な自動兵器は真っ先に破壊され、こんな僻地に捨てられた棄民の中からも兵士が雇われ、どこかのスタンフォード監獄実験のように、看守側、制圧側に組み込まれた人物は、自分に無限の権限があると思い込んで、圧政と殺戮、略奪とレイプ、あらゆる暴力が許可された火星政府軍には規律など存在せず、争いだけが拡大していった。
反政府組織には、どこからか単発の使い捨て兵器、自爆用の爆薬、役に立たない簡単に壊れるライフルが供給され、火星政府軍を倒せない程度に大量に供給された。
当然地球軍、火星政府軍にも安くて簡単に持ち運びができて、いたずらに市民、棄民を射殺できる兵器が配布され、狩りをするように棄民を射殺して遊び、車や飛行機械から反政府組織と「思われる者」を落として遊ぶ娯楽が流行った。
「お~い、アキトッ、政府軍に投石しに行こうぜっ?」
クラスのスクールカースト上位の者は、今日の英雄になるために、投石数、兵士への加害の数を競い合い、参加もしない奴は臆病者、仲間じゃないと差別されていた。
「だめよアキト、あんなのと一緒に行っちゃだめ」
「うん、お兄ちゃんは危険な遊びに参加しちゃいけないわ」
自分を慕う二人に止められ、自分を養っているラピス母にも迷惑を掛けないよう、投石には参加しないアキト。
「ああ、ゴメン、せっかく誘ってくれたのに、俺は行けない」
「なんでえっ? ママのオッパイが恋しいのか? 女どもに押さえ付けられて恥ずかしくないのかっ? 裏切り者っ! 地球人っ!」
「何だとっ!」
この頃には「地球人」と言うのは十分差別用語で、こう呼ばれて殴りかからず、ニヤけているような男はスクールカースト最低のナード決定、毎日イジメられ、小突き回されて過ごすのを甘んじて受けなければならない。
「だめよ、今夜の行動に支障を来すわ」
「ええ、今日は空港に自動機械が到着する日よ」
悪魔の笑顔を見せる二人に捕まえられ、中学生になったかと思われるアキトは、冷静さを取り戻し、クラスメイトを送り出した。
「ああ、そうだったな。おい、お前らも今日は早く帰れよ、空港には近寄るな、絶対だぞ」
「何いってやがるっ、臆病者っ、男女っ、マザコン野郎っ!」
クラスの男子数人は、子供らしい勇敢さと潔癖さ、冒険心と下らない見栄に動かされて下校して、通学路にいる政府軍に投石しに行った。
ラピスの家には中古のアーマードトルーパーが3機あった。過去にバトリングだとか、建設機械、農業機械として使われたボロに見えるそれは、ウェザリングされているだけで、タクティカルアーマーやコンバットアーマーより強力で、初心者用に行動時間無制限、残弾数を気にしないで射撃できるイージーモードに設定されていた。
昼に遊び終わってラピスやアイちゃんと「寝た」後に、夜に起き出して夜遊びをする。
どこかの豆腐屋の息子より低学年から、ラセーヌの星とか怪傑ゾロだとか、ロビンフッドのような活動をしているアキト。
そんな危険な行いをラピスも母も一切禁止せず、アキトが思った通り、欲しいものは全て与え、欲しい知識は全て叩き込んだ。
軍の無線の盗聴、行動予定の傍受、反政府軍との連動。ラピス、アイちゃんを連れてのチームとして、1小隊3機のATを運用して破壊活動を行う計画性と指揮能力、補給、補充、味方を見付ける能力、増やす能力、反政府組織を運営する細胞を作り、別の細胞を潰されないよう、情報が漏洩しても組織全てが崩壊しないよう、あらゆる知識をラピスの母から教えられ、アイと共に砂漠が水を吸い込むように吸収していった。
過去の失策や失敗により、アイとアキトは数十回死亡しているはずで、政府軍に包囲されて殲滅されていたはずだが「何故か」無能な指揮官や政府軍の失敗によって助かり、経験値を積んでやり直し、ラピス、ラピスの母にも救われ、反政府組織側の損耗を全く気にしない運用によって、毎回危機を乗り越えて生き残っていた。
この頃、アイちゃん専用アキト、アキトフレサンジュはテンカワ家にアイと一緒に住み、アイも「ラピス、貴方の父親はアキトくんと同じ…(以下略)」の小芝居を見せられてから、今も将来もアキトの伴侶となる女は自分だと信じ切っていた。
オリジナルのアキトはラピスと暮らし、女とオカズには何不自由無い生活をして「親子丼」「4P」なども楽しめる身分だったが、食糧配給が減ったという「設定」の中で生きているので、高級食材とは無縁の生活をして、マズい合成食料をどうすれば美味しく食べられるのかも研究していた。
「はい、アキト、あ~~ん」
「あ… あ~ん」
四人揃っての楽しい?食事、アイには料理の才能は一切無く、普通に食える合成食料まで食べられない物に変える「パンを石に変える魔法」を覚えてしまったので調理担当からは外された。
「お兄ちゃん、あ~ん?」
「あ…… あ~ん」
左右両側からナイフやフォークを突きつけられ、毎日修羅場を潜らされて、ヤンデレーな目で睨まれながら食事をする。
もちろん自分の手で食事するような自由は存在しなかった。
ここでもアイの記憶だけは弄られ、テンカワ家で夜に一緒に寝るのは自分。
もしラピスの家で誰かと同衾しているアキトを見ても、認識できないように規制が加えられていた。
「アキト、今日は誰と「寝る」の? ラピス? アイ? それともわ・た・し?」
オネショタからマザコンプレイまで可能な相手に擦り寄られ、アイのヤンデレーな瞳に怒りの炎が宿るのを確認した。
日常の呼び方がママなので、その時も必ず「ママーーッ!」になるので結構マザーファァッカーな野郎になったアキト。
自分と血縁は無い年齢違いの同一人物、同一存在と結ばれているので、遺伝的、戸籍的には問題が無いはずだが、一名だけ保護者であるはずの女が、養育している「児童」に対してわいせつ行為をしているので、法的には問題があった。
しかし、この世界の支配者が認めているので、逮捕拘束できる人物は存在せず、法律より上の人物なので、誰にも処罰は出来ない。
アイの記憶の中だけはゴム製品の着用が義務付けられていたが、現実では毎月の排卵で必ず受精し、全員の受精卵が冷凍、保存される手はずになっていた。
隣のSSの「秋子ちゃん牧場計画」「教皇きさらぎによる、人類の種の保存計画」と似たような計画も発動され、正しい遺伝子を持ったアキトと、出会った女は全員、それがアクアであろうがユリカであろうが、交尾して受精すれば受精卵を保存。
子供を育てられる年齢になれば、保育装置を駆使してアキトの子供が生産され、人類抹殺後もアキトの子供だけは生存を許可される。
その後、アイがアキトを連れ帰り「寝て」から数時間、ラピスも母も十分に「寝て」、休養を済ませてから夜中に目覚める一同。
「今夜のターゲットは空港に搬入された自動機械です。燃料弾薬を搭載されて、人工知能を起動されれば恐ろしい存在ですが、起動前ならただのガラクタ。空港西側から反政府組織が突入、陽動している間に反対側から突入。爆破、破壊できればミッションコンプリートです」
実際の戦闘では、そんな簡単に作戦が成功するはずもなく、人間如きが操作する戦闘兵器が、自動で動く機械や訓練された兵士に敵うはずもないが、ビデオゲーム程度のブリーフィングで、補給や整備、コストも度外視した作戦が行われ、女子供が操作する兵器で無謀な破壊工作が実行された。
「アルファ2、アルファ3、ゴー!」
旧式の金網を破り、三機のATが侵攻する。
戦闘や運動に適正が無いアイにも操作できる、ほぼオートマティックのコンバットドール、その機動力、破壊力は地球正規軍の戦闘兵器の性能を遥かに上回り、間違ってアイが味方を撃ったとしても破壊されない防御力を持って、ガス欠しない無限エネルギーによって駆動されていた。
「ハリー、ハリー、ハリー」
無線封鎖すら行われず、相手に探査もされない通信技術、ラピスにとってはただの体感FPSゲームで4Dゲームマシンだが、機体の外で行われる破壊は現実である。
今時の「逆刃刀で不殺」「ガンマンなのに誰も殺さず」「モビルスーツだけ破壊」のような夕方五時の制限は行われず、深夜帯でも無理な殺戮を中学生が行い、それに対して倫理的苦痛を一切味合わない教育と「慣れ」がアキトとアイにまで叩き込まれた。
「地球人め、思い知らせてやるっ」
最初は嘔吐して戦闘不能になったアイも、何度も戦闘を生き残り「この私を撃ったのはどいつだ?」という怒りに駆り立てられ、ノルアドレナリンによって反撃をして、殺戮機械として活動できるよう教育、洗脳された。
その思考回路はボスニアやユーゴ、ルワンダの少女と同じで「敵対している部族を皆殺しにしてやるのが私の夢です」という願望に満たされていた。
ラピスにとっては、アキト以外のゴミを潰すだけの行為。アキトにとっても、憎みべき地球人から火星を守る行為、もう三人には倫理的苦痛は存在しない。
「ゴー、ゴー、ゴー!」
エステバリスより素早く、パワードスーツより低く遠くジャンプし、視線でロックオンした物体に対して、肩から飛び出した爆薬が襲い掛かって爆破する。
それを監視しているラピス達は、テロリストであるアキトの再誕に歓喜し、自らもユーチャリスに搭乗してグラビティブラストを叩き込みたいと願ったが、まだまだ入門用のミッションに、戦闘艦を投入するのは早すぎると自粛した。
『三時方向より航空兵力、対ATミサイル多数接近』
AT搭載の簡単な戦闘AIでは無く、戦場の全てを把握しているオモイカネ型人口知能からのインフォメーションに対応して、スモークディスチャージャーを展開して、光学、熱誘導弾を撹乱する。
こんな小型の使い捨て陸上兵器に搭載されているはずの無い、アンチミサイル、対空レーザーが自動で起動、アキトとラピスの主要兵器が飛行兵器を撃ち落とし破壊して行く。
『輸送中の自動機械を確認、距離300、200、100、タッチダウン。直ちに撤収を推奨します』
輸送用のコンテナも爆破し、勝利条件を満たしたので撤収を推奨するAI。しかし廃ゲーマーになってしまい、この程度で満足できない一同の為に、今夜もプレゼントが用意された。
『罠です、包囲されました。空港全周に機動兵器多数、隠蔽配置されていました。即時撤退を推奨します!』
テレビゲームの進行と同じく、勝利条件を満たすと突然現れる兵器群。一夜でこれだけの損害を出せば、どんな国家でも破綻して、植民地経営を諦めるほどの自動兵器が投入されていた。
「すげえっ!」
戦闘中の高揚感で、どんな麻薬よりも興奮し、自分の脳から麻薬物質を放出するアキト。
まだ悲惨な敗北など経験していないので、今までの大変な撤退戦、エナルギーや弾丸を無くして、撃墜されるのでは無いかと思えた恐怖心、その時と同じような高揚感が身を包み、戦闘マニアのような体になり果てた。
「私やお兄ちゃんを殺そうとしてるのはどいつだっ!」
既に恐怖よりも、自己防衛の思考と、地球人への憎しみが勝ったアイも、絶望的な包囲殲滅戦に立ち向かい、撤退推奨方向に向かって誘導弾をロックオンした。
「ファアーーックッ! ロックンロール!」
恐怖から血糖値もエンドルフィンも下がり、ガタガタと震える手で操縦桿を握って発射ボタンを押したアイ。
何やらあらぬ事を叫びながらミサイルを送り出し、大小便をオムツに漏らしながらエンドルフィンの欠乏状態を脱して、アドレナリンとノルアドレナリン過多で瞬きすらしないでモニターを見つめ、破壊の跡を確認した。
「ヤフーーーーッ! ファッキン! ガッチャ!」
下品な叫び声を上げ、爆炎の中に突入するアキトとアイ、残存した敵をラピスとアキトで破壊し、戦闘中に照準など合わせられないアイは、重武装の誘導弾を撃ち尽くした後、ランチャーを捨てて身軽になって、小型の携帯武器を乱射しながら包囲を抜けた。
「あははははははっ! うひひひっ! ヒーーーーヒッヒッヒッ!」
既に人間として壊れているアイだが、翌朝には修復されて正気に戻される。
通常、ここまでの興奮状態に陥ると、戦争や大きな災害、事故を経験した人間のように、同じ状況にならなければ、同じアドレナリン量にならなければ、無気力な生活を送り、薬物にでも頼らなければ起き上がることすら出来ない廃人が誕生するが、人類の生命科学を極めているラピス達には修復も容易い行為だった。
『包囲を突破しました、離脱中、敵兵力、追尾を断念、ミッションコンプリート』
「「やったあああああああっ!」」
まだ獣のように暴れ、興奮状態を制御できない二人。この程度の勝利では、ドーパミンやアドレナリンが出ない程、冷静な人格と体を作らなければならない。
レースなどでも、普通の人間なら独走しただけでプレッシャーに負けてクラッシュしたり、転倒してしまう。
それが例え、巨大なゲキガンガーを操作しても、自分の肩に人類存亡の危機が伸し掛かっても、平然と普段の行動が行えるように訓練しなければならない。
まだまだ熟練が必要なアキトと、そんな適正が無いアイには改造が必要になった。
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